戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
二課の仮設本部内の一室に、複数の人間が集まっていた。
立花響、風鳴翼、雪音クリスの装者三名、そして小日向未来とナナシが部屋の壁際に待機している。
そして部屋の中央では…フィーネと、天羽奏が対峙していた。
先日の話し合いの後、六人は弦十郎にフィーネとの面会を希望した。
その要望を聞くことに、弦十郎は最初消極的だった。装者三名とナナシならある程度問題ない。しかし民間人協力者扱いの奏と未来が一緒に部屋に入り、実際に会話するのは奏だと言う。万が一の場合、彼女らの身辺に危険が及ぶ可能性があった。以前のナナシとフィーネの面会の場合、奏は本来部屋の前で待機するはずが勝手に入室してきたのだ。
今回はナナシが装者三名と自分で二人の安全を保障することで説得。そして奏本人が弦十郎に直接面会の場を用意してくれるよう必死に頼み込んだ。その意志は固く、止めにナナシが「協力してくれないなら強行する」と脅したため、弦十郎は仕方なく了承した。
弦十郎はナナシ達の部屋を監視できる一番近い部屋の中にいた。予備戦力として別室に待機、ということになっていた。
弦十郎はフィーネ…了子が、今更何か行動を起こすなど考えていない。諸々の措置は組織として、大人として行わなければならない最低限の義務だ。
弦十郎が面会の場に同室しないのは、奏から「最後までこの面会を見守っていて欲しい」とお願いされたからだ。その真剣な様子に、弦十郎は奏達の要望に最大限応えることを決意し、事の成り行きを最後まで見守ることにした。
フィーネと奏が対峙してから数分が経過した。両者は無言のまま視線を逸らすことはなく見つめ合い、高まる緊張感に同室の者達は心配そうに二人の様子を見守っていた。
重い沈黙を破り、遂に奏が口を開いた。
「了子」
「…フィーネだ」
フィーネの訂正に奏は特に答えることはなく、フィーネの方に歩いて近づくと…奏はフィーネの胸倉を掴んで顔を引き寄せた。
「「「「っ!?」」」」
驚く少女達。ナナシだけがその様子を静かに見ていた。
「了子、あたしは…あたしはお前を許さない!!父さんを、母さんを、妹を、あたしの大切な家族を奪ったお前を、あたしは一生許しはしない!!!」
「…そうか」
フィーネの顔に驚きはない。奏の言葉は予想出来ていた。奏から全てを奪った自分は許されることはないと、理解していた。
「だから…」
奏はそう言うと、フィーネの胸倉を掴んだままバッとナナシの方に顔を向けて叫んだ。
「ナナシ!!!」
「ん!?な、何?」
何故ここで俺!?と驚くナナシの様子を無視して、奏は言葉を続けた。
「あんたは了子に協力して、バラルの呪詛の真相を確かめるんだよな!?」
「あ、ああ、そうだな」
「ッ!?」
フィーネの顔色が初めて変わった。奏がナナシに、フィーネへの協力を取りやめるよう懇願するのではないかと考えたからだ。
しかしフィーネの予想と、奏の口から出た言葉は全く異なるものだった。
「ナナシ!あんたは了子の目的に、全力で協力してやってくれ!!!」
「「「「「ッ!?」」」」」
奏の言葉に、ナナシを除くこの場の全員が驚愕する。ナナシは、視線で奏に話を続けるよう促した。
「見返りは、あたしの歌だ!!あたしはこれからもずっと歌い続ける!!翼と一緒に、あたしの全力で歌い続ける!!!昨日より今日、今日より明日、明日より未来のあたしは、あたしの限界を超え続けて最高の歌を歌ってやる!!!あんたには特等席でその歌を聴かせ続けてやるよ!!!だから、あんたはあんたのできる全力でこいつの願いを叶えてやってくれ!!!」
「分かった」
ナナシは何の迷いもなく奏の願いを了承した。議論の余地はない。たった今、フィーネへの協力は、ナナシにとって興味本位ではなく、果たすべき義務になった。
「了子!!!」
「ッ!?」
奏が再度フィーネに向き直る。その気迫にフィーネはたじろぐが、胸倉を掴んだ奏の手が距離を取ることを許さない。
「あたしはお前を許さない!!だから…お前がバラルの呪詛の真相を突き止めた後は、その結果がどんなものだったかに関係なく、お前が奪ってきた命に対してできる償いを、お前の全てを掛けて、お前の残り全ての時間を使って償え!!!分かったか!!?」
奏はフィーネに対する復讐心を忘れたわけではなかった。忘れられるわけがない。この激情は抑えられるものじゃない。
それでも奏が生き残ったフィーネに対して復讐心をぶつけることをしなかったのは、フィーネ…了子が生きてくれていることに喜びを感じる人達がいたからだ。
翼が、響が、クリスが、弦十郎が、二課の皆が、そしてナナシが、了子が生きていることを望んでいた。そのため、奏は自分の復讐を果たすことで全員との関係が壊れることを恐れた。
復讐のために、血反吐に塗れながらギアの纏っていた頃の奏なら、何の躊躇いもなく復讐を実行していただろう。だが、自分の歌が誰かの力になることを知り、戦うこと以外のために歌えるようになった奏には、周りの人間との関係を壊すことに躊躇いを持った。
いつか、この感情が風化してくれる。皆との絆の方が大切だと思える時が来る。そう自分を騙して、誤魔化して、押さえつけてきた。
だが、奏は先日の話し合いを切っ掛けに考えを改めた。
ナナシが言った通り、あのまま自分達の関係を続けていれば、何時かは破綻したかもしれない。
翼と奏が響達との関係をより深くした時に響の過去を知っていたら、ツヴァイウィングは飛び続けられなかったかもしれない。
未来があのまま自分の想いを押し殺していたら、その心は壊れて、陽だまりを失った響はもう立ち上がれなかったかもしれない。
全ては可能性の話。あの話し合いで回避できた未来の可能性。しかし奏は、そこに自分の行く末の片鱗を感じ取った。
想いを伝えることは大切だ、そう言ったナナシはあの話し合いで奏の復讐心について触れなかった。だが、ナナシは最後に奏にこう言ったのだ。
『胸の歌を信じろよ』
『胸の歌を、信じなさい』
戦いの最後に、了子が響にかけた言葉。
ナナシはこの時気絶していて、直接この言葉を聞いてはいなかったはずだ。
どうやってナナシがこの言葉を知ったのかは分からない。多分、目が覚めた後ナナシなりに気絶している間のことを調べたのだろう。
あの話し合いの最後、たった一言のこの言葉には、ありったけの想いが詰め込まれているのを奏は感じた。奏の現状を知った上で、ナナシは追及しないと、する必要がないと判断したのだ。
『奏なら出来るだろ?』
…まるで、そんな風に言われているように、奏は感じていた。
(“紛い物”を自称するあいつは、いつも人の心の中にズカズカ入り込んで、引っ搔き回して、一番大切な想いをさらけ出していく…ああ、もう!腹立たしい!全部あいつの掌の上だ!)
だから奏は、あの話し合いの日から面会の日までの間に、押さえつけてきた復讐心と向き合った。考えて、考えて考えて、あの“紛い物”でさえ考えつかないような最良の未来を掴む可能性を模索した。
許しはない。その結末だけはあり得ない。だけど、奏は自分が納得できる復讐を見つけ出すことができた。
奏は言葉を待つ。強い意思を宿した目で、しっかりと相手を見据える。
その瞳を見ながら、フィーネは…了子は震える声で言葉を紡いだ。
「…分かった、わ」
それを聞いた奏は手を離し、了子に背を向けて自分の仲間達に近づいて行った。
『少しずつ重さを抜いていって、最後には『あの時は大変だったなぁ』ってお前が思い出して笑えるようになることを目指して欲しい』
奏は、ナナシが響に対して言った言葉を思い出していた。自分にはまだ無理だ。そんな簡単に、自分の過去に笑顔は向けられない。でも、それでも、いつかそんな未来を迎えられると信じて、せめて自分の仲間達に、精一杯の努力を示そう。
瞳からは涙が溢れて、顔はぐちゃぐちゃ、それでも、奏は顔を引きつらせながら全力で笑顔を形作る。
「…終わったよ」
…今、凄惨な人生を歩んできた彼女の復讐に、一つの結末が訪れた。
軽く流すことも考えました。
ただ、今後も主人公がシンフォギアキャラ達を茶化して笑っていく話を書く上で、重たい問題をスルーしていては楽しく執筆ができないため、これくらいのことがあればキャラクター達は今後も笑顔で過ごせるかな?って作者自身が納得できる話を書いてみました。ただシンフォギアキャラクターのポンコツな描写をもっと見たくて、自分で考えた話を読者の皆さんと共有出来たら楽しいかな?っと思ったのが執筆の切っ掛けなのに、どうしてこうなったのか…
もう少しだけ後日談が続きますが、よろしければお付き合いください。よろしくお願いします。