戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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後半、若干のホラー要素が含まれます。大した表現ではありませんが、苦手な方はご注意ください。


第44話

「……」

 

「未来、どうしたの?ボーっとして」

 

「響…」

 

部屋でボーっと座っていた私に、響が声をかけてきた。

 

「ここ数日色んな事があって、少し疲れちゃった」

 

「あー…泣いたり笑ったり大変だったね?わたし達」

 

そう言って苦笑を浮かべる響に、私も小さく笑みを返す。そして私はここ数日の出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 

了子さんと面会した翌日、私達は二課の人達に今回の経緯を説明に行った。

 

説明に、と言ってもナナシさんが“投影”を使って今までの話を全部流していただけなのだけれど。

 

二課の人達は皆、私達に謝ってきた。何も出来なくてごめん、守ってあげられなくてごめん、ってずっと頭を下げていた。

友里さんが泣きながら私と響を抱きしめた時は、思わず二人とも泣いてしまった。

 

奏さんと翼さんも、今まで情報を隠していたこと、伝えられなかったことを謝られていた。

二人はそんな大人達に、守ってくれてありがとうと笑顔でお礼を言っていた。

 

…ナナシさんは部屋の隅で機密情報の漏洩についてお説教されながら正座させられていた。

 

 

 

響とはあれからたまにケンカをするようになった。

お互いの想いを伝える様になった結果だと思う。

まあ、ケンカと言っても、クリスから「そういうことは家でやれ!」って言われちゃうような些細なものだけど。

だって響が「未来がわたしを大好きっていう気持ちより、わたしが未来のこと大好きって気持ちの方が大きい!!」って言って聞かないんだもん。それはこっちも譲れない。

クリスが怒鳴ってきたら、響は「クリスちゃんも大好きだよ~」って言ってクリスに抱き着いていた。私もそれに続いてクリスを抱きしめたらクリスは顔を真っ赤にしてワタワタしていた。

 

…それを遠目で見ていたナナシさんが“投影”を使ってその光景を見ながら奏さん達と話しているところを見つかって、クリスに殴られていた。

 

 

 

響以外の人達との距離も近くなった気がする。

翼さんとも学校であった時なんかにお互い声をかけて他愛無い会話をするようになった。

私は響やクリスについて、翼さんは奏さんやナナシさんについての話が主な内容である。

 

…ナナシさんの話の九割が愚痴に近い話だけど、普段のイメージとは違う翼さんのことについて知ることができたので、これも距離が近くなったということでいいと思う。

 

 

 

奏さんとは先日二課の施設で訓練に付き合ってもらった。

訓練と言っても簡単な体力づくりと護身術がメインで、私が戦場に出られるなんて全く思ってはいないけど、私にできるのは『待つ』こと。それをするためにまずは私が無事であり続けることが大切だと奏さんは教えてくれた。

 

サンドバックがあったため興味本位で一回だけ使わせてもらった。結果はサンドバックを揺らすことも出来なくて、手が少し痛かった。これよりずっと重たくて固いものを響はその拳にぶつけているんだと思うと、色々考えてしまうことがある。

 

…その後、弦十郎さんとナナシさんのトレーニングを見て奏さんは「あれに比べたらあたしもあんたも誤差みたいなものだね」って引きつった笑みを浮かべていた。私もその意見に同意するしかなかった。響の目標があの人達だと思うと複雑な想いがある。

 

 

 

こうして見ると、ナナシさんは色んなところで色んな人と関わっているのが分かった。私もあの人みたいに、皆の色んなところに気が付くようになればもっと役に立てるかと思って、ナナシさんに弟子入りをしようとしたけど、それはナナシさんに断られた。

 

「俺のやり方は未来には無理だ。経験したから分かると思うけど、俺のやり方は相手の本質を引き出すのに相手を煽って怒らせて嫌われるのが前提なんだ。その過程を俺はある程度楽しんでやっているけど、未来みたいな優しい子がやると相手よりまず自分の心が先に折れるぞ?未来の長所は響が言うところの『陽だまり』、誰にでも隔たり無く包み込むような暖かさを感じさせるところだ。そんなことは“紛い物”の俺には無理だから役割分担といこう。まあ、響と一緒にクリスをからかったり、最近はSAKIMORIとも距離が近づいているみたいだからこの二人をからかう方法なら特別に教えても…」

 

…そう話すナナシさんの背後に、訓練用の木刀を持って近づく翼さんとクリスがいて、私の目線で気が付いたナナシさんが二人と追っかけっこを始めたのでこの話はお終いとなった。

 

 

 

 

 

私がここ数日の出来事を思い出しながらまたボーっとしていると、響が隣に座って肩にもたれかかってきた。

 

「響?」

 

「未来…大丈夫?」

 

「…響達が戦いに行くのは、やっぱり怖い」

 

この気持ちを抑えることはもうしない。私の不安を、響にしっかり伝える。

 

「うん。心配してくれてありがとう…帰ってくるよ。みんな元気で。未来のところに」

 

そう言って響は私の顔を覗き込み、しっかり私の目を見て、満面の笑みを浮かべる。

 

「へいき、へっちゃら」

 

そこに自分を押し殺す気持ちは見られない。その言葉は、何があっても絶対無事に帰ってみせると自分を鼓舞する、正しく『祝福』の言葉だった。

 

 

 

 

 

「クソッ!クソッ!!クソッ!!!何で俺がこんな目に!!」

 

日が沈み、欠けた月が輝く夜、酷く苛立たしい様子の男がマンションの部屋に入ると、大声でそんな悪態をついた。

男…葛野はあの日偶々遠出をして友人と遊ぶ予定であったが、ドタキャンされて暇を持て余している時に偶然あの二人を見つけたのである。

 

「何であいつらごときのために俺の携帯が壊されなきゃならねえんだよクソがっ!こうなったらネットであいつらの情報拡散してあっちでも中学の時みたいな生活させてやる!ゴミはゴミにふさわしい目にあわせてやる!!」

 

もはや倫理観の欠片も見当たらない。葛野がパソコンの電源を入れようと近づこうとした時…

 

ピンポーン

 

葛野の部屋のインターホンが鳴り響いた。

 

「チッ!誰だ、こんな時に」

 

葛野のマンションは古く、モニターが存在しない。そのため玄関まで足を運び、のぞき窓から外の様子を確認すると…

 

 

 

眼球が黒い影に覆われた青白い肌の人物が静かに佇んでいた。

 

 

 

「ひぃっ!!?」

 

葛野は思わず小さく悲鳴を上げる。完全に見えてはいけないものを見てしまったと思い、玄関から距離を離す…が

 

ズルリッ

 

先ほど見た『何か』が玄関のドアをすり抜けて(・・・・・)侵入してきた。そして『それ』は玄関だけではなく、壁から、床から、天井から次々と這い出して来る。

 

「ひ、ひぃぃぃぃっ!!!?!?」

 

恐怖の余りパニックに陥る葛野。そんな葛野を取り囲む『何か』の一体が突然口を開いた。

 

「何で?」

 

「ッ!?」

 

『何か』が声を発したことに驚く葛野。『何か』はそんな葛野の様子などお構いなしに言葉を続けた。

 

「何で私達があんな目に合わなきゃならなかったの?」

 

「???」

 

発している言葉の意味を理解できない葛野。そんな葛野に、『何か』達は次々言葉を発していった。

 

「何で?」

「生き残ったのに」

「生きたかった」

「どうして?」

「壊された」

「酷いことされた」

「いじめられた」

「お前らのせいだ」

「お前のせいだ」

 

「な、なんだよ!?なんなんだよ!!?」

 

一方的に言葉をかけられる葛野は、パニックの中で『何か』達の中に見覚えのある顔を見つけた。

その人物に直接の面識はない。葛野が覚えていたのも偶々だ。葛野が世論に便乗して響を糾弾する際、予備知識をつけるためネットで調べている際に見かけた写真…

 

 

二年前のライブを生き残ったことで周囲のパッシングを受け自殺した人間の顔だった

 

 

葛野は察した。ここにいるのは二年前のライブを生存し、その後の糾弾が原因で死んでいった者達であると。

 

「死んだ」

「殺された」

「お前らのせいだ」

「お前らのせいで」

「お前のせいで」

 

「ひぃっ!?違う!俺じゃない!俺は関係ない!!!」

 

葛野は部屋の隅に逃げるが遂に追い詰められ、とうとう被害者達の手が葛野に触れると…

 

スルッ

 

…葛野の体を被害者達の手が素通りした。

 

「何で?」

「触れない?」

「どうして?」

「生きているから?」

「死んでないから?」

「死んで」

「殺す」

「死ね」

「死ね」

「死ね」

 

「ひぃぃっ!!?来るな!?来るなぁ!!?」

 

被害者達は次々葛野に触ろうとする。だが、その手が葛野の体に触れることはない。ただただ腕が葛野の体を次々すり抜けていく。

 

「死ね死ね死ね殺す死ね殺すしねころすしねしねしねしねころすころすシネシネコロスシネコロスコロスコロス!」

 

「ひぃぃぃっ!!!?!?」

 

 

 

 

 

「はっ!!?」

 

葛野は自身の部屋の中心で目を覚ました。

 

「ゆ、夢?」

 

辺りを見回し、葛野は心底安堵した様子で体の力を抜くと、再び苛立たし気な表情を浮かべた。

 

「クソッ!何て夢だ!さっさとあいつらのことをネットに拡散して…」

 

(死ね)

 

「ッ!?」

 

バッと葛野が背後を振り返るが、そこには何もない。

 

「き、気のせいか。まったく…」

 

だが、葛野はもうパソコンに近づく気になれない。自分の布団に潜り込み顔を隠すように毛布を被る。

 

(も、もし俺が死んだら、死んだ俺に対してあいつらは…)

 

ただの夢、ただの気のせい。そう思い込みながら葛野は眠れぬ夜を過ごした…

 

 

 

 

 

(…こんなものか。余計な行動をされたくないが、自殺されて万が一響達の耳に入ると面倒だからな)

 

葛野の様子を窓越しに遠くから見ていたナナシは移動を開始する。

 

(さて、二課のデータベースにあった権力があって面倒な奴らと、逆にしょぼすぎて相手してられない奴らのリストは覚えたし対処しておくか。こういう時、休息が必要ないご都合主義の体は便利だ)

 

先ほどの葛野が見た夢はナナシの能力によるものだ。

“明晰夢”…眠っている相手にリアルな夢を見せる能力。元々は徹夜続きの二課の面々が仮眠時に寝苦しそうにしていたため、色々試していた時に取得した能力だ。それを今回、ナナシは相手の心に楔を打ち込むために使用した。

 

(不安の芽は早めに摘んでおこう)

 

ナナシは笑みを浮かべ、欠けた月に照らされる街を駆けて行った。

 




これにて無印後日談は終了となります。お付き合い頂きありがとうございました。本日同時投稿している主人公の能力一覧も興味がある方はご覧ください。

本日から投稿頻度を三日に一度に戻し、次回は6月9日よりG編を開始いたします。楽しみにして頂けたら幸いです。
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