戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
翌日
ナナシはメディカルチェックを終わらせ、二課の施設内で一晩を過ごした後、再び昨日のメンバーに呼び出された。
「それでは、昨日のメディカルチェックの結果発表~♪」
そう言って了子が話を開始する前に、翼が了子の話を遮った。
「櫻井女史、その…先に奏の状態について伺ってもいいでしょうか?」
「奏ちゃんのお話はナナシちゃんのお話が終わった後でゆっくりしましょう。安心して。命に別状は見られなかったわ」
「…そうですか」
了子の言葉を聞いて、翼は安堵の表情を浮かべた。
「了子さん、ナナシさんのことで何か分かりましたか?」
「それがね……さーっぱり♪」
了子の言葉に全員が拍子抜けする…いや、ナナシだけが自身のことであるにも関わらず特に反応を示さなかった。
「正確には、分からないことが分かったと言えばいいかしら?これを見て」
そう言って、了子はナナシの体についての情報をモニターに表示する。
「ナナシちゃんの体の構造は通常の人間と全く一緒だったわ。心臓に肺に消化器官…脳の構造も特別私達と差異が見られる場所は見当たらなかったわね」
ただし、と了子は続ける。
「消化器官は存在するけど使用されてないみたい。今朝ご飯を食べたナナシちゃんを少し拝借したけど、食べたものが体内のどこにも確認出来なかったわ。飲み込むのは確認しているから、胃に入った瞬間にエネルギーに変換でもされているのかしら?体重が変化してないから質量保存の法則を無視しているわね…いくら食べても体重が増えないなんて羨ましいわね、翼ちゃん?」
「細胞の老化も起こっていないみたい。常に肉体が万全の状態で保たれているとでも言えばいいのかしら?ナナシちゃんに協力してもらってほんのちょっぴり指先に傷をつけさせてもらったけど、血が数滴流れる間に傷が完全に塞がっちゃったわ。それに睡眠もいらないみたいで、昨日は一晩中部屋の中を動き回っていたってナナシちゃんを監視していた職員が言っていたわ。夜更かししてもずっと若い肌のままでいられるなんて羨ましいわ~」
「遺伝子情報も調べてみたけど、これも普通の人間とほとんど同じ、誤差で片づけられるレベルの違いしかなかったわ。恐らく交配によって子孫を残すことも可能…やったわね、翼ちゃん!」
「いちいち茶化さないでください!!」
「そんなわけだからナナシちゃんの体の作りは普通の人間と変わらないわ。ただご飯を食べてもトイレに行く必要がなくて、年を取らなくて、怪我が直ぐに治って、休まず動き続けられて、ノイズを素手で倒すことができて、シンフォギア装者と同等以上の身体能力を持ってるだけの、普通の男の子ね♪」
「…普通の意味が分からなくなる話だな」
「身体能力については弦十郎君には言う資格はないと思うわよ?」
一通りナナシの体について説明を終えた了子は、先程までとは打って変わって真面目な表情をして語り始めた。
「さて、ナナシちゃんの体のことについて色々分かることと分からないことが分かったことだし、今度は彼の今後のことについてお話するとしましょうか」
「彼の今後…ですか?」
了子はナナシの前まで近づくと、ナナシの頭に手を置き、撫でる。
「この子には、ノイズと戦うことができる力があるわ」
「っ!!?彼を戦場に連れ出すつもりですか!?確かに彼は戦う力を持ってはいますが、その精神は幼子と変わらないんですよ!?」
「だとしても、力を持っている以上それを利用しないという選択肢を私達は取れないわ。ノイズの脅威に対抗する戦力が、私達には全く足りていないのよ?」
「しかし!!」
了子と翼の会話を黙って聞いていた弦十郎が、ナナシの前に近づいていき、その目を真っ直ぐ見つめながら話し始める。
「ナナシ君、我々のために協力してはもらえないか?」
「叔父様!?」
(…協力?)
弦十郎の言葉に、ナナシが例の“念話”で返した。
(ああ…色々分からないこともあると思うが、我々の現状について説明させてもらおう)
そうして弦十郎はナナシに自分達の役割について説明していった。
ノイズについて
聖遺物について
シンフォギアについて
装者について
そうした情報を弦十郎から聞いたナナシは…
(?)
首を傾げていた。
「やはり理解できないか…」
「仕方がありませんね」
「いきなりは難し過ぎちゃいましたね…だとしたら、聖遺物からシンフォギアを作り出す技術、櫻井理論の提唱者が私であることだけは、覚えてくださいね♪」
ナナシが自分の説明を理解できないことに弦十郎は特に疑問を持つことは無かった。
だが…
(…弦十郎達は特異災害対策機動部二課で、二課はノイズの被害から人を守るのが役割で、ノイズを倒せるのは聖遺物から作ったシンフォギアだけで、シンフォギアを使えるのは翼と奏だけで、櫻井理論の提唱者は了子…)
「「「っ!?」」」
「あらあら♪ナナシちゃんは本当に賢いわね♪私のこともしっかり覚えてくれるなんて偉いわ~♪」
ナナシは弦十郎の説明を理解していた。理解できてないのは…
(ではナナシ君、君は何について疑問に感じたんだね?)
(…何で守るの?)
ナナシの問いかけに、誰もが虚を突かれた。その様子に、質問が正しく伝わらなかったと考えたナナシは、再度質問を投げかける。
(…何で弦十郎達は、ノイズに襲われる人間を守るの?)
その問いに対し、弦十郎は表情を引き締め、ナナシの目を真っ直ぐ見て答えた。
(俺は、俺達は、人々の命を、日常を、そこにある笑顔をかけがえのない大切なものだと思っている。だから俺達は、それを脅かすノイズから、人々を守るために戦っている)
(…そう)
ナナシは弦十郎の言葉に、様々な感情が籠められているのを感じていた。希望、信念、覚悟、未来に向けた様々な想いと…未練、後悔、懺悔、過去に守れなかった人達への想い。ナナシはその全てを理解したわけではない。だが、弦十郎達には人々を守るだけの理由があることだけは納得できた。
弦十郎の答えを聞いて黙り込んだナナシに対して、弦十郎は言葉を続けた。
(俺達の想いを、今すぐ君に共有してもらえるとは思っていない。だからさっきの協力の申し出について今すぐ答えを求めることはしない。ただ、叶うのなら、君自身の意思でいつか俺達と一緒に戦ってくれることを願っている)
弦十郎はそう伝え終わると、その大きな手でナナシの頭を撫でた。
「『いつか』ね…そのいつかを待ち続けられるほど、私達の状況に余裕はないのだけどね…」
「櫻井女史?」
了子の呟きに対して翼が疑問の声を上げる。了子はそれに取り合うことは無く、全員に向けて話をし始める。
「ナナシちゃんの答えについては保留にするとして、次は約束の奏ちゃんについてのお話を始めましょうか」
「奏ちゃんの命に別状がないのは本当よ。でも、奏ちゃんはもう二度とシンフォギアを纏えない。戦士としての奏ちゃんは、あのライブ会場で死んだわ」