戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
「「……」」
マリア達から話を聞いたナナシと了子は、頭を抱えていた。
「「私(俺)のせいか…」」
月の一部破壊による公転軌道のズレ、それによって引き起こされる地球への月の落下、それに気づいた特権階級の人間によって真相は秘匿され、フィーネが月破壊後に備えて準備していた計画を利用し、古代遺跡『フロンティア』を新天地として地球外脱出を試み、人類を存続させる…『フロンティア計画』の概要を聞いた二課の面々は事の大きさに眩暈を覚えていた。特に、月破壊の実行犯と月破壊の完全阻止をできなかった二人の落ち込みようは凄かった。
「…良かったな、了子?お前の想い人がまだ月に居るなら、月ごと会いに来るみたいだぞ?お前の愛が引き寄せたこれも一つの奇跡か?」
「茶化さないで…とりあえず対策を考えましょう」
「実際、F.I.S.の計画と言うのはどれぐらい現実味があるんだ?」
「元々フロンティアは月の破壊に伴う重力バランスの崩壊への対応策で利用する予定だったから、起動さえできれば可能よ。月の落下を人類の力で食い止めるよりは、よっぽど望みがあるわ」
「月の落下を止める方法はないのか?」
「…月は、あのお方が人類から相互理解を奪うために監視装置として改造した衛星。月の軌道がズレていると言うことは、月遺跡が機能不全を起こしていることが考えられるわ。だから、その機能不全を解消できれば、軌道を修正することは恐らく可能よ。必要なものは二つ。月遺跡を再起動するための膨大なエネルギー。それと、エネルギーを送信するための装置…可能性があるのは、それこそフロンティアを使う他ないわね」
「で、そのフロンティアを起動するのに必要な聖遺物、『神獣鏡』と『ネフィリム』は、ソロモンの杖と一緒に未だ場所が分からない、と…因果応報とはよく言ったものだ」
「本当ね…切り替えましょう。いずれにせよ、月の落下を阻止するためにはナスターシャ達と接触するしかないわ。何とかコンタクトを取れれば良いけど、装者達を全員こちらで捉えている以上、何か策が浮かぶまでは潜伏するはずよ。探し出すには時間が掛かるでしょうね」
「こいつらが捕まった以上、元々潜伏していたアジトを聞き出しても、もういないだろうからな…何とか早い段階で見つかれば良いが…とりあえず、当面の動きはF.I.S.の捜索と米国への根回しだな。月の軌道を二課の方で計算してNASAの情報と比較、そこからマリア達の話の裏付けをしていこう。過労死する人間が出ないようにちゃんと管理しないと…悪い、弦十郎」
「謝る必要はない。問題を早期発見できたんだ。君はもっと自信を持つべきだ」
落ち込んでいた二人は、切り替えると早々に今後の計画を立てていった。とんとん拍子に話が進むその様子を、マリア達三人はどこかポカンとした様子で見ていた。そんな三人に、ナナシは声を掛ける。
「さて、とりあえず三人の今後についてだけど、しばらくはこの二課の仮設本部内で生活してもらう。良く言えば保護、悪く言えば監視だな。可能なら他の装者と交流を持って、仲良くなれればいいな」
「…それは、面と向かって言うことなの?」
「捻じ曲がって伝わるよりはずっと良いからな。ただ、最後にお前達に、と言うより、アイドル大統領に確認しなきゃいけないことがある」
「仲良くしたいならその呼び方をやめなさい!!」
「そっちも俺を『悪夢』って呼んでいたし、お互い渾名で呼ぶくらい仲良くなったってことで…それで、聞きたいことだけど、これの原因について心当たりはある?」
ナナシは“投影”を使って、過去の映像を映し出す。そこには、マリアの攻撃によってナナシの右腕が消し飛ぶ場面が映し出されていた。
「…知らないわ。単純に、私の攻撃に、あなたの腕が耐えられなかっただけではないの?むしろ、何故腕が元通りになっているのかの方が疑問だわ」
「…そうか。まあ、俺のことは今後ゆっくり説明する。ただ、原因が分からないままにすることはできないから、仲良くなるって言っておいて悪いけど…ちょっと『見せてもらう』」
そう言って、ナナシはマリアに“解析”を使う。
「…?見せてもらうって、一体どういう…」
「…マリア・カデンツァヴナ・イヴ、身長は170センチ、AB型、そして気になる体重とスリーサイズは…」
「わああああああああぁぁ!!?」
ナナシの言葉にマリアは顔を赤くして叫び、ナナシの言葉を遮る。
「悪い、流石に冗談だ。ちゃんと“解析”が使えた段階ですぐにやめたからそこまで見えてないよ」
「な、ななな、何よ“解析”って!?」
「俺の持っている、見たり触ったりしたものの情報が分かる力だ…お前がガングニールを纏った時に、本物か気になって“解析”したら、何も見えなかった」
「ナナシちゃん、それ本当?」
ナナシの言葉に、了子が興味を示す。ナナシは頷きながら、ポケットからマリアから取り上げたガングニールのギアペンダントを取り出す。
「だから、俺の腕が消し飛んで、その後修復できない原因はマリア本人か、ガングニールだと考えた。それで調べた結果、マリア本人には“解析”が有効で、このガングニールと、奏の持っているガングニール、そして響が纏ったガングニールが“解析”できなかったことから、原因はガングニールの可能性が高い。ただ…」
そう言ってナナシは、今度は“収納”から…罅割れたギアペンダントを取り出す。
「ッ!?それは!?」
それを見たマリアが、ガングニールより過剰に反応を示す。
「『アガートラーム』…了子が作っていたギアペンダントの一つらしいな?奏のガングニールと一緒で、コンバーターが壊れているみたいだけど…こっちも“解析”が効かなかった。元々聖遺物の“解析”は途方もない時間が掛かるけど、能力自体は有効だった。それで今回の件を元に、一度も見たことなかったイチイバル、ネフシュタンなんかも見たけど、ちゃんと見ることができた。没収する時の反応で、大切なものみたいだから、ガングニールが原因と確定できれば、壊れているし返却しても良いんだけどな。そこで…響、ガングニールを纏ってくれ」
「え…?えっと、はい」
響は、ナナシに言われるままに聖詠を唱えてガングニールを纏った。
「これで俺と響が拳を合わせて俺の腕が弾けたらガングニールが原因ってことで」
「ええええ!!?いや、それだと兄弟子の腕が!?」
「千切れば治るし問題ない!」
「大ありですよ!?」
「あの、“解析”が効かなかったんですよね?なら、“障壁”を響さんに攻撃して貰ってはどうですか?」
「あ、そっか。慎次ナイス!じゃあ響、よろしくお願いします!」
「は、はい」
ナナシが展開した“障壁”に、響が正拳突きを叩き込む。すると…“障壁”はガラスが割れるように粉々に砕けて消えてしまった。
「弦十郎の攻撃でも壊れなかったのに…まあ、これでガングニールが原因でまず間違いないな。という訳で…ほら、返すぞ、アイドル大統領」
そう言って、ナナシはアガートラームのギアペンダントをマリアに投げて渡した。
「ッ!?…本当に良いの?それに、わざわざ私達の前で自分の弱点になるような情報まで開示して…」
「今後一緒に戦うことを考えるなら、事故防止のために情報共有しておかないと」
「……」
マリアは、ナナシの言葉に黙り込んでしまった。
「さて、何でガングニールに俺特効みたいな力があるかはこれから調べるとしよう…ある意味運が良かったな?知らないうちにギアを纏った響と組手でもしていたら、俺の体が爆散するところだった…」
「よ、良かったです。本当に…」
「ナナシちゃんの体は本当に不思議でいっぱいね?研究者として、じっくり解き明かしたいところだわ…ところで、アガートラームは本当に良いの?ガングニールと同じ効果があるかもしれないわよ?」
「取り上げる時のマリアの様子を見て、最終的な判断を俺に委ねてくれただろ?俺は別に良いよ。籠っている感情で、アイドル大統領が大切にしているのが伝わってきた。それに“解析”は無理でも、“収納”には入れることができたし…あと、これは妄想だけど、何となく“解析”が効かない理由が違う気がする。何というか…ガングニールは、データのダウンロードに失敗する感じで、アガートラームは、そもそも規格が違う?VHSの機械で、ディスクを再生しようとしている感じ」
「そ、そう。何となく分かったわ。VHSなんてよく知ってるわね?ナナシちゃん」
「昔の漫画に出てきたから調べた」
了子とそんな会話をした後、ナナシは弦十郎達に向かって話し出した。
「さて、とりあえず今日はこんなところで良いだろ。急いで今後の予定を立てなくちゃいけないし、皆撤収しよう。三人共、これからよろしくお願いします!」
「窮屈な思いをさせて済まない。すぐに何とかできるよう努力する」
「何かあったら、気軽に声を掛けてください」
「それじゃ~ね~」
「また来るから!今度は手を繋いでくれると嬉しいな!」
「…このバカ共はしつこいから、早めに諦めた方がいいぞ」
「流石、経験者はためになること言うね?クリス。じゃあな!またいつか、一緒に歌えるといいな!」
「…いずれ、戦場で背中を預けられる日が来ると信じている」
全員が思い思いにマリア達に声を掛ける。掛けられる言葉に三人が困惑している間に、一人、また一人と部屋を出ていき、ナナシが最後に部屋を出ようとした時…
「待ちなさい」
…背後から、マリアが声を掛けてきた。
「どうした?アイドル大統領」
「……」
ナナシの呼び方に、マリアが微妙な表情を浮かべた後…溜息を吐いて、ナナシに声を掛けた。
「…アガートラームのこと、ありがとう」
「どういたしまして。それじゃ、また様子を見に来る」
そう言って、今度こそナナシは部屋を出て行った。
「響」
「…?はい、どうしました、兄弟子?」
マリア達と話をした後、廊下を歩く響にナナシは声を掛けた。他の面々は先に進んでいる。
「…“解析”を使わせてもらっていいか?」
「えっ!?」
「肉体の一部とガングニールが融合している響からなら、“解析”で見られることがあるかと思って…一部でも見えるようなら速攻で能力使うのをやめて、今後の検証の参考にしたいんだ。もちろん、嫌なら断ってくれて構わない」
「えっと…わ、分かりました。どうぞ…」
そう言って、僅かに顔を赤くする響に、ナナシが“解析”を使用する。十秒程時間が経過した後、ナナシが響に声を掛けた。
「…何にも見えなかった。響のことも含めて」
「そ、そうですか!」
少しほっとした顔で響がそう言った。
「悪かったな。今度またご飯奢るから許して」
「えへへ、ちょっとドキドキしたのでお言葉に甘えます。約束ですよ、兄弟子!」
「ああ」
そう言って、響は小走りで廊下を進んでいった。
「……」