戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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調視点です。


第53話

ここに来てから三日が経った。

 

この三日間、ここの人達が仮設本部と言っている潜水艦から出られないこと以外は、特に不自由の無い生活を送っていた。マリアと切ちゃんと一緒に温かいご飯が食べられて、フカフカの布団の中で眠ることができる。施設にいた時と違って、戦闘訓練をする必要もない。今までの生活と違い過ぎて、何処か夢を見ているようで、とても…居心地が悪かった。

 

こんな、ぬるま湯のような温かさで生きてきたあの人達のことを、どうしても認めることができない。私達が苦しい訓練を受けて、人類の存続なんて重たいものを背負わされているのを知らずに、こんな日々を過ごしてきた人達のことなんて…

 

あれから、あの偽善者…立花響は、毎日のようにここを訪れて、他愛無い話をしながら、必ず手を伸ばしてくる。私は、ずっとそれを無視して、彼女がここを離れるのを待つ。どれだけ怒鳴っても、否定しても、困ったような笑顔を浮かべるだけで全然懲りた様子が無いので、もう相手をするのも疲れた。

 

他の人達も、何回か様子を見に来た。大人達は少しこちらの様子を確認すると、すぐに忙しそうに部屋を出ていく。それなのに、必ず日に一回は部屋を訪れて、一言二言声を掛けてくる。

 

マリアと一緒にステージで歌っていた、ツヴァイウィングの二人も部屋を訪れて、マリアと歌ったことについて話していた。赤髪の明るい人…天羽奏が色々と話しかけて、青髪の凛とした感じの人…風鳴翼がぎこちない感じで話をしようとしていた。マリアも、似たようなぎこちない感じで返事をしていた。

 

あの銀髪の無愛想な人…雪音クリスも、部屋を訪れて、凄く時間を掛けてポツリ、ポツリと声をかけてきた。私達は気が付いていたけど、部屋に入るのにも時間をかけて覚悟を決めているみたいだから、話をすることに不慣れなのがよく分かる。それでもわざわざ訪れて、部屋を出る時、私と切ちゃんの頭にポンと手を置いて出て行った。とても不器用な人。

 

どの人達も、私達と関わるために会いに来るけど、私達は心を開くことは無い。ここの人達が私達と距離を近づけるのは、私達がシンフォギア装者だから、力が必要だからだ。マリア達の話から、私と切ちゃんはそう判断した。

 

 

 

だから、目の前でお菓子を食べながら漫画を読んでいるこの男にも、私達が心を開くことは無い。

 

 

 

「「……」」

 

私と切ちゃんが警戒の眼差しを向けても、特に気にする様子もなく、目の前の男は片手に持った漫画から視線を外さなかった。

 

ナナシと名乗る、F.I.S.で『悪夢』と呼ばれて恐れられていたこの男が私達の元に訪れたのは、最初の日以来だ。マリアに用があったのか、部屋に入ってきて私と切ちゃんを確認すると、数秒立ち止まった後、無言で椅子に座って何処からか漫画と、楕円形のカラフルな粒チョコを出してくつろぎ始めた。

 

マリアは今、部屋を出てメディカルチェックを受けている。三人共ここに来た日に簡単に行っていたが、今日は詳細なデータを取るために一人一人時間を掛けてチェックを受けていた。LiNKERを使う私達には必要なことなので、特に抵抗することは無かった。

 

…この人についてはよく分からない。色々と変なことができて、マムやマリアから警戒するように言われていたが、あの日話を聞いた感じだと、噂程怖いイメージは持てなかった…血を動かしたりベッドを出し入れしたり空中に映像を映したり、おかしな人なのは間違いないが…

 

…あっ、切ちゃんが机の上のお菓子に興味を持っている。ジーッとお菓子に視線を向ける切ちゃんを窘めようと考えていると、視線に気づいたのか男が顔をこちらに向けた後、漫画を持っていない方の手にお菓子を乗せてこちらに差し出してきた。私が止める間もなく、切ちゃんが嬉しそうに手を伸ばして…切ちゃんがお菓子に触れる直前に、男が手を閉じてしまった。

 

ガーンと音が聞こえてきそうな、落胆の表情をする切ちゃんを見て、私はムッとして文句を言おうとすると、いつの間にか男は漫画を手放していて、もう一つの手も閉じた状態でこちらに差し出していた。そして男が両手を開くと、さっきお菓子を乗せていた手にはお菓子が無く、反対の手の中にお菓子があった。

 

「ッ!?」

 

「デス!?」

 

男が何度か両手を開け閉めする。その度に、お菓子が男の手を移動する。そして男が手を閉じた状態で停止した後…

 

「選んだ手にあるチョコをやろう」

 

と言ってきた。切ちゃんはそれを聞いてウーンとうなった後…

 

「こっちデス!」

 

男の右手…先程までお菓子を持っていた方の手を指さした。男が数秒停止し、切ちゃんが緊張でゴクリと喉を鳴らすと、男がゆっくり右手を開いて…その手の中には、粒チョコが一粒納まっていた。

 

「やったデス!」

 

笑顔を浮かべて切ちゃんが粒チョコを手に取る。その直後、男が左手を開くと…

 

 

ボロボロボロボロッ…

 

 

…男の左手から、手の上に収まりきらない程の粒チョコが出てきて、机の上に落下した。

 

「ッ!!?」

 

「ナンデストー!!?」

 

それを見た切ちゃんは、先程の笑顔が嘘であったように悲しそうに手にした粒チョコを見ていた。

 

「…なら、私はこっち」

 

私はそう言って男の左手を指さす。この人は「選んだ手にあるチョコをやろう」と言っただけで、選ぶ人も、選ぶタイミングも指定しなかった。

 

私の言葉を聞いた男は、数秒動きを止めた後…無言で左手の粒チョコを私の前に持ってきて机の上に置いた。私はその半分を切ちゃんの方に移動させる。これは私が貰ったものだから、どうしようと私の自由だ。

 

「調、ありがとデス!!」

 

男が何も言わないのを確認して、切ちゃんが笑顔でそう言ってきた。笑顔の切ちゃんがチョコを食べるのを見て、私も微笑みながら自分のチョコを口に運んだ。

 

…あ、食べちゃった…最初は切ちゃんを止めるつもりだったのに…い、いや!これは私がこの男の裏をかいた、いわば戦利品だ!断じて馴れ合ったつもりは無い!!

 

そう考えて、私が男の方をキッと睨むと、男は再び漫画を片手に持って読みながら、机の上の粒チョコを一列に高く積み上げていた。

 

「ッ!!?」

 

思わず私は動きを止めてしまう。男は漫画から視線を離すことなく、一定の速度で淀みなく粒チョコを積んでいた。

 

「デッ!!?」

 

あ、切ちゃんも気づいて固まった。私達が、もう少しで男の目線と同じ高さに届きそうな粒チョコタワーの様子を眺めていると…

 

ガラッ

 

「…!?あなた、私がいない間に二人に何を!!」

 

ガラガラガラッ!!

 

「「あっ」」

 

「……」

 

…マリアが戻ってきて、こっちに歩いてくる振動で、粒チョコタワーが崩れ落ちた。男は粒チョコを天辺に置こうとした状態で停止している。

 

「…えっと…」

 

それを見たマリアが、遅れて状況を察して気まずそうにしていた。

 

い、いや、マリアは何も悪くない。私も切ちゃんも「あっ」って思わず言っちゃったけど、そもそも食べ物で遊んでいたこの男が悪い訳で…

 

私がそんなことを考えながら、動きを止めた男の方を見ると…

 

 

 

何もない空中に、男がそのまま粒チョコを積み上げていった(極小&極薄の“障壁”を展開)

 

 

 

「えっ!!?」

 

「「おお~!!」」

 

パチパチパチパチ

 

マリアは驚き、私と切ちゃんは思わず拍手をしてしまう。驚きから復帰したマリアが、男に怒鳴った。

 

「あなた!一体何のために…」

 

「こいつら面白いな。良い息抜きになった。ありがとう」

 

男はそう言って、机の上の粒チョコを一か所に集めて手で包み込むように両手を合わせる。その後、男が両手を開くと、色々なお菓子が詰まった袋が三つ出現した。それを机に残したまま、男は私と切ちゃんの頭をワシワシ撫でて、部屋を出て行ってしまった。

 

「調!切歌!あの男に何か変なことされなかった!?」

 

「マリア!マリア!あの人、魔法使いデス!お菓子を出したり消したり浮かべたり!凄いデス!!」

 

マリアが私達のことを心配するが、切ちゃんは無邪気に笑いながらマリアにさっき見たことを報告していた。

 

…結局、あの人は何のために来たんだろう?

 

 

 

 

 

(…息抜きついでに、駄目元でアイドル大統領達と話をするために来たけど、あの二人があまりに良い反応をするから、ついついからかってしまった。特に切歌の方は、気づいたら一日中からかえてしまいそうだ…色々問題が解決したら、ゆっくり相手をしたいな)

 




主人公が調と切歌にどんな風に接していくかという話でした。隙あらば思いついたネタを入れてしまうため話がなかなか進まないw

調の響達の呼称に違和感がありますが、敵対関係なのにさん付けもおかしいかな?っと思ってフルネーム呼び捨てにしています。キャラ視点は難しいですね…
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