戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
「『
マリアは、そんなことを呟きながら二課の仮設本部内を歩いていた。
ナナシがマリア達の部屋を訪れた翌日、三人には本部内を出歩く許可が出された。元々動力部や重要物資の保管庫などは一部の人間にしか出入りはできないことと、潜水艦の中からの脱出は、ギアを持たない三人には不可能なため、「部屋に籠りっぱなしだと気が晴れないだろう?」とナナシが手を回して、二課の施設を利用できるようにしていた。
「私達のことなんて、警戒する必要も無いということ?それとも、本気で私達と…ん?」
考え事をしながら歩くマリアの前に、探索してくると言って飛び出していった調と切歌の姿があった。二人は何やら一つの部屋の前で立ち止まり、扉に耳を押し当てて何かを聞き取ろうとしているようだった。マリアは、二人が何か情報を集めようとしていると思い、静かに二人に近づいて、小さな声で話しかける。
「二人共、何をしているの?」
「「!!?」」
ビックリして声を上げそうになる調と切歌だが、素早くマリアが二人の口を塞ぐ。
「私よ、落ち着いて。何かこの部屋で重要な話でもしているの?」
「マ、マママ、マリア!?えっと、これはデスね、あの、その…」
「じゅ、重要なような、そうでないような…?」
二人は、声を掛けてきたのがマリアだと分かった後も、落ち着く様子は無く…むしろ、マリアだと分かったが故に何処か慌てた様子で、顔を赤く染めながら、マリアの質問に口ごもっていた。
「…?一体何だというの?」
二人の様子がおかしいことに疑問を感じたマリアが、部屋から聞こえてくる声に意識を集中すると…部屋の中から、奏とナナシの声が聞こえてきた。
『今更躊躇ってないでさっさと触りな。もう何回同じことしてると思ってるんだ?いい加減慣れなよ』
『普通、慣れて良い様な事じゃないと思うぞ?全く…また成長したみたいだな?その年でまだ大きくなるのか?』
『そりゃ、あんたが毎日あたしの体の世話をしてくれているからね。ほら…自分でしっかり確認しな?』
「!!?!?」
何処か艶のある奏とナナシの声を盗み聞きしたマリアは、顔を真っ赤にして扉から距離を取り、調達の方に向き直って小声で器用に怒鳴る。
「あなた達!何をコッソリ盗み聞きしているの!?」
「や、やっぱり聞いてはいけないことだったデスか!?よく分からないデスけど、何だか怪しい雰囲気だったので…」
「で、でも、何か重要な話をしているんじゃないかって、気になって…」
「と、とにかく!ここから離れるわよ!!」
「でも…何をしているか調べなくて良いの?マリアとマムが警戒していたあの男の人のことが分かるかもしれないよ?それとも、マリアにはあの二人が何をしているか分かるの?」
「そ、それは…わ、分かったわ。後は私があの二人の会話を聞くから、二人は下がってなさい!」
そう言って、マリアが調達を下がらせる。
(こ、これは調査!あの二人が…その…そういう関係だとしたら、あの『悪夢』にとって天羽奏の存在は明確な弱点となる!だから…ちゃ、ちゃんと確認しないと…)
内心でそんな言い訳をしながら、マリアは顔を更に真っ赤に染め、恐る恐る扉に耳を当てて…
「そこまでにしておけ」
…そんなセリフと共に、扉がスライドして開き、翼が姿を現す。調と切歌は驚きで固まり、マリアは耳を傾けた状態からギギギギッと音がしそうなぎこちない動作で翼の方へ顔を向ける。そんなマリア達に、若干頬を赤く染めた翼は同情を含んだ視線を向けた後、背後に向かって声を掛けた。
「奏もナナシも、マリア達をからかい過ぎだ」
部屋の中では、椅子に座った奏の頭に、ナナシが手を置いていた。
「奏、からかうって何のことだ?俺は奏の身長が伸びたって話をしていただけなんだけど?」
「さあ?あたしもナナシが毎日健康的な食事を作ってくれて世話になっているって話してただけだからね。翼、からかうってどういう意味だい?」
「っ!?こちらにまで矛先を向けるんじゃない!!」
顔を赤くして叫ぶ翼を、奏とナナシは悪い笑顔を浮かべながら眺める。マリアはそんな二人に悪魔の角と尻尾が生えている幻視をしつつ、怒鳴りながら問いかけた。
「い、一体あなた達は何をやっているの!?」
「あたしの体をナナシの“解析”で見て貰ってた」
「ッ!?な、何故そんなことを!?」
マリアは先日自分が“解析”されたことを思い出して、思わず奏に問いかけた。
「ほら奏、普通はこういう反応になるだろう?中身はともかく、外見は近い年齢の異性に対して、自分の体の情報を知られるってかなり抵抗があるんじゃないか?体重、体のサイズ、それに体内の状態から、その日トイレに行ったかどうかも丸わかりなんだぞ?確かに昔、俺が頼んだことではあるけど、本当は無理していないか?」
「あんたにはあたしが嫌がっているかなんて簡単に分かるだろ?わざわざ時間を掛けてメディカルチェックをするよりずっと早くて楽だし、それに、あたしのお願いで…LiNKERで滅茶苦茶になった体を治すために動いて貰っているんだ。なら、これぐらいどうってことないさ」
「ッ!?体を治すって…あなたは確か…」
マリアはF.I.S.が調べた装者の情報で、奏は過去の事件が切っ掛けで装者では無くなったこと知っていた。
「やっぱり変化は無いな…肉体の損傷は治っている。だけど、あの日肉体に受けたダメージのせいで、体内に残ったLiNKERの毒素が体のより深い部分に浸透して残り続けている。幸い、今は小康状態を保ってくれているけど、もし、この状態でまたLiNKERを投与したら、体内に残った毒素と反応して、奏の体を一気に蝕んでいく…クソッ…」
「焦るなよ。あんたはこの二年でできることはやってきた。無理にあたしの体の治療を再開するくらいなら、また翼達のためにできることを増やしてくれ。あたしは気長に待つからさ」
「…分かっているよ。でも、絶対に諦めるつもりは無い」
「ああ、期待している」
「「「……」」」
LiNKERの過剰投与のよる後遺症。自分達にとっても決して無関係とは言えない奏の症状に、マリア達三人は押し黙ってしまう。
「それでだ…三人に確認したいことがあるから、ちょっと話を聞かせて貰っていい?」
そう言って、ナナシはマリア達に部屋に入るよう促す。最初は戸惑ったマリア達だが、ナナシの真剣な表情を見て、言われるままに室内に入り、ナナシが用意した椅子に座った。それを確認したナナシは、三人にあることを問いかけた。
「先日の三人のメディカルチェックの結果で、三人が使っているLiNKERが、奏が使っていたものよりずっと安全性が高いことが分かった。完全に毒素が無い訳じゃないから、奏が使用できないことには変わらないが、奏の治療法を見つける切っ掛けになるかもしれない…LiNKERについて、知っていることがあるなら、教えて貰えないか?…頼む…よろしくお願いします…」
そう言って、ナナシはマリア達に頭を下げた。マリア達は、そんなナナシを静かに見つめていた。
「…あなた達には、あのフィーネがいるでしょう?わざわざ私達から聞き出さなくても、彼女なら作れるんじゃないの?」
「了子は薬学や生化学が専門という訳では無い。現物が手元に無いなら再現はできないし、あったとしても再現には長い時間が掛かると言っていた」
頭を下げたまま、ナナシはマリアの問いに答えた。
「マ、マリア…」
「……」
切歌はどうすれば良いのか分からずにマリアの名を呼ぶ。調は無言ではあるが、マリアの袖をそっと掴んでいた。
「…なら、代わりに『悪夢』の…あなたについての情報を聞かせて貰っていいかしら?詳細が不明の聖遺物の適合者という情報以外、私達は把握できなかった。聖詠でシンフォギアを纏うことなく、不可解な能力を行使する、唯一の男性装者の情報を…LiNKERの製法を私達は知らないから、こちらが提供するのはLiNKERを作った人物についての情報よ」
マリアの提案を聞いて頭を上げたナナシの顔には、逡巡が表れていた。駄目元で提案していたマリアは内心では納得していたが、情報獲得のために強気で交渉を続ける。
「あら?あなたは自身の保身のために仲間を、天羽奏を助ける可能性を放棄するのかしら?あなたの覚悟はその程度のものなの?」
「貴様!!」
マリアの挑発に、翼が怒りを露わにする。だが、当のナナシは特に気にすることは無く、少し困ったような顔でマリア達に言葉を掛けた。
「いや、元々俺のことは話す予定だったから、そこは全く問題ないんだけどな?」
「「「!!?」」」
驚くマリア達三人に、ナナシは呆れながら言葉を続ける。
「前に言っただろ?『俺のことは今後ゆっくり説明する』って。面倒事が色々片付いたら俺達の仲間として活動して貰いたいから、ちゃんと説明するさ」
「…あくまで本気で私達を仲間として扱うと言うのね…なら、私の提案に躊躇する理由は何だと言うの?」
「お前達に仲間を裏切るようなことをさせる程の情報を提供できないんだよ。俺自身、分からないことが多いから」
「あんな人、仲間なんかじゃ…」
「アタシも、あの男は嫌いデス…」
ナナシの『仲間』という言葉に反応した調と切歌が、それぞれ呟く。二人の反応を怪訝に思いつつ、ナナシはマリア達に告げた。
「まあそんな訳だから、俺についての情報は今から可能な限り話すから、それを聞いた後で三人が話していいと思ったら、そのLiNKERの製作者について教えるってことでよろしくお願いします。ダメなら別の条件を考えるから」
そう言って、ナナシは自身のことについて三人に話し始めた。
ナナシの話を聞いた三人は、唯々困惑していた。
「えっと…」
「つまり…どういうことなんデス?」
「要するに、俺は違う世界の施設で沢山の人間を殺して作られた化け物ってことだ。あくまで可能性の話だけど」
「…騙るにしても、もう少し…」
「それならもっと分かりやすい話にするよ。これで俺に関する一部の謎については分かっただろう?そもそも装者じゃないから歌わないし、ギアペンダントすら持っていないこととか」
「あの融合症例第一号、立花響と同じという可能性も…」
「心臓抜き出して渡せばいいか?それとも他の部位がご希望?レバーでもヒモでもマメでも好きな部位を提供するぞ?」
「いや、そんな焼肉を注文するみたいな軽さで内臓を引きずり出そうとするんじゃない。そこのちっさい二人のトラウマになるよ…」
「ああ、なるほど。確かに配慮が足りなかったな。アイドル大統領やツヴァイウィングと違って人体の一部を贈られるなんて経験、普通無いものな?」
「私にそんな経験は無い!!」
「本当に?やったな、二人共!二人には世界の歌姫より熱狂的なファンがいるってことだ!」
「「嬉しくない!!」」
「それじゃあ、俺がアイドル大統領の熱狂的なファン第一号になるとするか。ほら、プレゼント」
そう言ってナナシは、マリア達三人に“血晶”を投げ渡した。
「これは…もしかしてさっきの話にも出た、あなたの血液で作ったという…」
(これを持っている者同士は、こんな感じに声を出さずに内緒話ができる。さっきみたいなバレバレのヒソヒソ話をしなくて済むぞ)
ナナシが“念話”で三人に説明する。それを聞いた調と切歌は、好奇心を押さえきれずにお互いに“念話”を使用してみた。
(…聞こえる?切ちゃん)
(おー!!聞こえるデス!!本当に口を閉じたまま調とお話ができるデス!!)
二人は向かい合って両手を繋ぎ、口を閉じたまま嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねていた。
(…だけど、これはあなたなら私達の会話を盗み聞くことも可能ではないの?)
「捻てるな~。まあ、気になるなら“念話”は使わずにお守りとして持っておけ。“認識阻害”は流石にダメだけど、“障壁”は一緒に付与してあるから、いざという時にお前達を守ってくれるはずだ。それで、LiNKERの製作者については教えて貰えるのかな?それとも他に何か質問はある?」
「……」
ナナシの問いかけに、考え込むように沈黙したマリアは、少し間を置いてナナシに質問をした。
「あなた達が私達に拘る理由は何?」
「拘る理由?」
「何故私達から情報を聞き出すために非道な手段を取らないの?確かにシンフォギア装者は貴重な戦力よ。でも、わざわざ仲間として信頼関係を築かなくても、利用する方法はいくらでもあるわ。生殺与奪の権利を握られている以上、私達はあなた達に逆らうことはできないし、もし裏切りを警戒すると言うのなら…私達の内、誰か一人を人質として隔離すれば容易に動けなくなることくらい、簡単に分かることでしょう?それに、あくまで私達はLiNKERを使った時限式の装者。欠陥品の私達に、行動の自由と情報を提供してまで仲間として勧誘するなんて、何か別の思惑があるとしか思えない」
「Exactly!!」
「何故そこで英語!?」
「この力が入る響きが好きなんだ。質問の答えだけど、もちろん他にも思惑はある。むしろお前達が装者なのはオマケだ。二課の皆は、お前達に幸せになって欲しいんだ」
「は?」
ナナシが口にした予想外の答えに、マリアはつい疑問の声を出してしまう。
「二課の大人達が活動する理由は、人の命を守るためだ。何気ない日常を、そこで暮らす人々の生活を、そこにある笑顔を守るためだとあいつらは言っていた。翼や奏、ここにはいない響やクリスも、同じような理由をそれぞれ持っている」
「「「……」」」
「元々二課の大人達は、装者達だけが戦うことを快く思っていない。自分達にノイズと戦う力があればなんて愚痴は、ずっと聞いてきた。それでもノイズへの対抗手段は今の所シンフォギアしかないから、せめて装者達の帰る場所を守るために、情報操作なんかのサポートで装者達を支えている」
「…帰る場所」
ナナシの言葉に、切歌が反応して小さく呟いた。
「本当はお前達のことも、他のレセプターチルドレンと同じで保護した後に普通の生活を送らせたい。でも、国の組織である以上シンフォギア装者のお前達をただ保護するという選択はできない。普通の生活を送らせることはできない」
「「「……」」」
「なら、普通でない生活の中で、精一杯幸せになって貰おうと決めた。そのためには、まずお前達がただの戦力なんかじゃなくて、一緒に戦う仲間だと信じて貰わないと話にならない。例え世界の危機だったとしても、道理を反するようなことをしないのはそう言う訳だ。たった三人の人間を救えないなら、世界なんて救えるわけがない。それが、子供を戦場に向かわせなければならない大人達の、せめてもの意地だ」
「…そんなのは偽善…そんな甘い言葉を、信じることなんて…」
俯きながら、調がナナシにそう答える。だがナナシは、そんな調に笑いながら言葉を返す。
「あははは!そりゃすぐには無理なのは分かっているさ。シンフォギア装者が面倒な奴らばかりだっていうのは、嫌ほど理解しているからな!!」
「…おい、それはどういう意味だ?」
「そのままの意味だ。二年間周りの話を一切聞こうとしなかった面倒な奴一号」
「なっ!?」
「あはははは!言われてるぞ、翼!」
「他人事みたいに笑っているなよ。内心では自分が戦えないことに負い目や無力さを感じているのに、碌に表情に出さないで笑って全部抱え込んでいる面倒な奴二号」
「うぐっ!?」
「この二年でやっと二人が少し『柔らかく』なったのに、今度は三人か…今度は何年かかるかな?」
「まるで自分は関係ないみたいに話を進めるな!いつもコソコソ何かを企てた挙句、失敗すると頭を抱えて落ち込む貴様も充分面倒な輩であろう!?」
「俺は割とすぐに切り替えて失敗を元に対策を考えて行動している!過去の俺の努力、もといSAKIMORIの痴態を今ここで披露してやろうか?」
「それは貴様が楽しんでいただけであろう!?」
ケラケラ笑いながら自分の言葉に平然と答え、仲間と言い合いをするナナシを、調は複雑そうな顔で見ていた。
「まあ、いつか分かって貰える日が来る。ここにいるのは、欠陥品どころか人ですらない“紛い物”の俺が作った飯を食べながら、一緒に笑って話ができるようなお人好しばかりだ。そのうち嫌でも理解できるさ」
そんな調に、ナナシは優しく笑いながらそう言った。
「それに俺個人としては、お前達にはノイズと戦うことなんかよりもずっと期待していることがある!」
「ッ!?それは、一体…?」
「歌だ!!」
「う、歌、デスか?」
「そう!!俺は歌を聴くのが大好きだ!!俺がノイズの戦うのは、装者達の歌を聴くためだ!!」
力一杯叫ぶナナシにマリア達は困惑し、奏達は「やれやれ」と呆れていた。
「アイドル大統領の歌は確かに素晴らしかった!流石は世界の歌姫と言ったところだ。だからこそもったいないと思った!!」
「もったいない、ですって?」
「Exactly!! 籠める感情のほとんどが『使命感』だけで歌っていることが、物凄くもったいない!!」
「!!?」
「だからこそ期待が持てる!いつかアイドル大統領が何の迷いものなく、ただ楽しんで歌うことができたなら!そしてそれが再びツヴァイウィングとのコラボだったなら!!そんな未来を実現するためなら、世界の一つや二つ簡単に救ってみせようじゃないか!!」
熱く断言するナナシに、マリア達は呆気に取られていた。世界の危機を、ただ歌を聴くために回避してみせると言うナナシ。だがその顔に浮かぶ満面の笑みを見たマリア達は、その言葉が嘘だとは思えなかった。
「二課の皆はお前達の幸せのために、そして俺はお前達の歌のために、お前達に仲間になって欲しい。これがお前の質問に対する答えだ。信じてもらえないかもしれないけど、これが嘘偽りのない俺達の思惑だ…やっぱり、こんな答えじゃ仲間の情報は渡せないかな?」
「「「……」」」
「…そっか、残念だ。まあ、とりあえずは月の落下の阻止と、レセプターチルドレンの解放と保護、この二つの問題を何とかしてお前達の信頼を勝ち取ってみせるさ。奏、翼、そろそろ行こうか。二人はこの後CDのジャケット撮影があるから、ここで失礼させてもらう。しばらく大きな仕事はできないだろうから、この仕事が終われば二人も久しぶりにゆっくりできるだろう」
「いや、世界の危機が迫っているこの状況で、休息など…」
「そんな固いこと言ってると、またナナシにからかわれるよ?」
「親しくなるためには、相手のことをよく知らないとな。やっぱりここはSAKIMORIの恥ずかしいエピソードをまとめた映像を見てもらうか…」
「やめろ!!」
言い争いをしながら、マリア達を残してナナシ達が部屋から出ようとする。すると、背後からマリアがナナシ達に向かって声を掛けた。
「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス」
「ん?」
「…あなた達が知りたがっていた、新型のLiNKERを作り出した人物の名前よ」
「「「!!?」」」
マリアの言葉に、ナナシ達は一斉に振り返った。
「…一方的に情報を出させるなんて、フェアじゃないと思っただけ。この男は、F.I.S.に所属していた生化学者で、唯一LiNKERを作成できる人物…私達が武装組織『フィーネ』として行動するためには、どうしてもこの男の協力が必要だった。ドクターの協力を得るために、我々が異端技術の先端を所有していることを示す必要があった。だから私は、新生フィーネを演じることを決めた」
そう言って俯くマリアを、調と切歌が心配そうに見つめていた。
「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス…確か、ソロモンの杖を研究するために、輸送作戦に同行した研究者だったよな?」
「しかし、彼はソロモンの杖が強奪された際に行方不明となった」
「そのことと、列車を襲ったノイズの動きから、弦十郎は少し前から疑念を持っていた。これで確定だな。ウェル博士は、ソロモンの杖を使って列車を襲撃し、自分の死を偽造した…少し安心した。了子でさえノイズを召喚できても、精密な操作は杖が無いとできなかったから、ソロモンの杖以外にノイズを操る術があるのか警戒していたからな」
「それじゃあ、後はF.I.S.の居所を見つけ出せれば、必要なものが全部揃うってことだ」
「そういうこと。移動しながら“念話”で弦十郎達には知らせておくから、二人はさっさと仕事を終わらせるぞ。俺もしばらくは夜間の時間も使ってF.I.S.の探索をすることにしよう」
マリアの言葉を聞いたナナシ達は、急いで部屋を出て行った。だが、ナナシは一度顔だけを部屋の中に覗かせて、マリア達に短く言葉を掛けた。
「話をしてくれてありがとう。調、切歌…マリア」
「「「!!?」」」
驚く三人を置き去りに、ナナシは奏達を追いかけて行った。部屋に残されたマリア達は、しばらく無言で部屋の中に居続けるのであった。