戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第56話

リディアン音楽院 秋桜祭当日

 

「へえ~、新しい校舎はこんな感じなのか」

 

秋桜祭を見て回るためにリディアンに訪れた奏は、そう言って辺りをキョロキョロと見回していた。本来なら、人が賑わう場所でトップアーティストの彼女が堂々と歩いていれば握手やサインを求める人々が殺到してきてもおかしくないが、奏が身に着けた“血晶”に施された“認識阻害”のお陰で、誰も彼女を天羽奏だと気づいていない。

 

「学祭を楽しむのは良いけど、あんまり俺達から離れるなよ。一応は任務ってことになっているからな」

 

はしゃぐ奏に、背後からナナシがそう声を掛ける。

 

「分かってるって。それにしても、ナナシは忙しいのによく来れたね?」

 

「…ここら一帯の反社会的な方々の事務所にコッソリお邪魔して調査を終わらせたことを報告したら、ニッコリ笑顔の弦十郎と慎次、その他の大人達から秋桜祭でも見て来いって命令された。他にも仕事はあるはずだって言ったら、危うく弦十郎と慎次のペアから説得と言う名の実力行使を受けるところだった。前に一回受けたけど、できればもう遠慮したい」

 

「…一体前に何をやらかしたんだ?」

 

「大したことではないからそれは秘密で。それよりも…何時まで立ち止まっているつもりだ?せっかくここまで来たんだ。一緒に学祭を見て回ろう!」

 

そう言ってナナシが振り返った先には…マリア、調、切歌の三人がリディアンの門の近くで立ち止まっていた。

 

「…本当に、あなた達は何を考えているの?」

 

「ずっと潜水艦の中に籠っていたらやっぱり気が滅入るだろ?偶にはお日様の光を浴びないと。一応、俺達はお前達の監視ってことになっているから、あんまり離れないようにしてくれ。ああ、アイドル大統領には“認識阻害”を掛けてあるから、人目を避けてコソコソしなくても大丈夫だぞ」

 

大人達から休むよう言われたナナシは、どうせならマリア達も連れて秋桜祭を回れないか弦十郎に提案したところ、ナナシと奏を監視につけることであっさり許可が出た。元々マリア達を潜水艦内に閉じ込めたままの現状に思うところがあったのと、休暇を渋るナナシを休ませる理由に丁度良かったと言うのもある。

 

(後は、捜索が行き詰っているからマリア達にF.I.S.が接触してこないかって思惑もほんの少しはあるだろうな…まあ、これは本当に少しだろうけど。動ける人間はほとんど捜索に出ているから、監視も俺達だけだし…)

 

「私達は、あなた達と馴れ合うつもりはないわ」

 

「そ、そうデス!」

 

「…うん」

 

考え事をしているナナシに、マリア達がそう言い放つが、調と切歌はお祭りの雰囲気と出店から漂ういい香りにソワソワしている様子だった。そこでナナシは、調と切歌に対して笑みを浮かべながら語り掛けた。

 

「ここは翼、響、クリスの三人が通っている私立リディアン音楽院。つまり、あいつらにとっては第二の拠点と言っても過言ではない場所だ。偵察しておいて損は無いと思うぞ?」

 

「「!!?」」

 

「そして今日の秋桜祭は、学園内を部外者がある程度自由に歩き回れるビックチャンスだ」

 

「確かに…」

 

「そうデスね…」

 

「し、調?切歌?」

 

「でも、部外者が出店のものを買わずに敷地内をジロジロ見て回ったら流石に不自然だと思う。カモフラージュとして食べ歩きをしたり、催し物を見学するくらいしないとな?」

 

「で、でも…」

 

「アタシ達、お金持ってないデス…」

 

「それはもちろん、お前達と仲良くしたい俺達の都合で連れ回すんだから、ここは俺が出すさ。つまりお前達が好きなだけ買い物をすれば、それだけ敵のお財布にダメージが与えられると言うことだ」

 

「好きなだけ…」

 

「お買い物、デスか…」

 

「二人共!?ちょっと落ち着きなさい!」

 

ナナシの言葉で大義名分を得た調と切歌は目を輝かせる。今まで自由に買い物をするなんて経験をしたことが無い二人にとって、ナナシの言葉はあまりにも魅力的だった。

 

「さあ二人共!この『秋桜祭 うまいもんMAP』を持つんだ!これを完成させることをカモフラージュにして、二人が怪しいと思う所を見て回ろう!どこが怪しいと思う?」

 

「調!調!このクレープがとっても怪しいと思うデス!」

 

「待って切ちゃん!いきなりデザートは怪しまれるから、まずはホットドックとか、ご飯になる物からにしよう!」

 

「あ!ちょっと、待ちなさい二人共!!」

 

マリアの制止の言葉を聞かずに、二人はナナシと共に屋台に向けて駆け出してしまった。

 

「あははは!すっかりナナシのペースに乗せられたね、あの二人。マリアも早く追いかけないと見失うよ」

 

そう言ってナナシ達が向かった方向に進みだす奏の後を、マリアは渋々ついて行くのだった。

 

 

 

 

 

「楽しいデスなー。何を食べても美味しいデスよ」

 

「そうだね。切ちゃん」

 

「……」

 

すっかり学祭を満喫している二人の様子を、マリアは複雑な心境で見ていた。過去の境遇を考えると、二人が笑顔で学祭を回っていることは非常に喜ばしいことだが、どうしても自分達の現状を忘れられないマリアは、素直に楽しむことができなかった。

 

「ほら、アイドル大統領も食べなよ。結構イケるぞ」

 

切歌達が片っ端から買って回った食べ物が詰まっている袋を抱えたナナシが、そこからりんご飴を取り出してマリアに差し出した。それをマリアは、受け取らずに無言で眺める。

 

(何だ?りんご飴一つ受け取ったところで問題ないだろう?それとも、意味なく喚いてあの二人の笑顔を曇らせる気か?)

 

「ッ!?…はぁ、分かったわよ。受け取ればいいんでしょう」

 

わざわざ二人に聞こえないよう“念話”で言葉を伝えてきたナナシから、マリアはりんご飴を受け取って口に運んだ。学祭ならではの少し安っぽい味だが、気を張り続けていたマリアは、その甘さに心が和らぐようであった。

 

「ナナシ、あたしにもくれ」

 

「はいよ。ここ最近奏は訓練ばかりだったから、今日はカロリーを気にしなくて大丈夫だ。後は普段の食事で調整するから」

 

「ハイハイ、いつも助かってる」

 

「アーティストっていうのも難儀だな?俺は正直、体形の良し悪しって分からないんだよな。体が動かなくなったり、歌声が乱れさえしなければどれだけ体重が増えても良い気がする。翼なんかはむしろ細くて心配になる。あの体が無駄なく鍛え上げたものだとは理解しているけどな」

 

「まあ、全員があんたみたいに歌声だけで評価してくれる訳ではないからね。大勢から見られる以上、それなりに見せられる体を保たないとね」

 

「顔立ちについては二人共充分に世界に通用するぐらい整っているから良かったよ。最近は益々良い笑顔を浮かべてくれるようになったし、歌っている時の二人の顔は俺も好きだな」

 

「っ!?…あんたはまた、そういうセリフを臆面もなく…」

 

「…そういう会話こそ、他人に聞かれないように“念話”でしてくれないかしら?近くで聞いている私の方がいたたまれないのだけれど」

 

「…?何故?」

 

「何故って…」

 

「あー!兄弟子達も来ていたんですね!!」

 

ナナシ達の会話を遮るように、人混みの向こうから響が声を掛けてきた。隣には未来の姿もある。二人は人混みの合間を通り抜けてナナシ達の元まで近づいてきた。

 

「よう、響、未来。お前達も学祭を回っているところか?」

 

「はい!それで今から…ってあれ!?調ちゃんに切歌ちゃん、それにマリ…むぐっ!?」

 

「これ美味しかったからお裾分けだ!(でかい声でアイドル大統領の名前を呼ぶな!!)」

 

響の口をアメリカンドックで塞ぎつつ、ナナシは“念話”で注意する。

 

(俺達が監視することを条件に、一時的に外出許可を貰ったんだ。調達はともかく、アイドル大統領と奏は正体がバレると大騒ぎになるから注意してくれ)

 

(分かりました!…“念話”って、ご飯食べながらお話できて便利ですね!!)

 

(おお!!本当デス!!)

 

(…響、ご飯食べながらお話するのはお行儀が悪いからやめておこうか?)

 

(切ちゃんもね?)

 

「「モグモグ…ゴクン、ごめんなさい(デス)!!」」

 

「「あははははは!!」」

 

口に物を入れながら“念話”で会話する響と、それを真似する切歌を、未来と調が叱る。それを見たナナシと奏は、思わず笑い声を上げてしまった。そのやり取りを見ていたマリアは、未来が普通に“念話”で会話をしていることに気づく。

 

「あなたは…」

 

「初めまして、小日向未来と言います」

 

「(二課の民間人協力者で、お前達のことは響に説明するよう頼んでおいた)俺の恩人で、響の親友兼保護者だ」

 

「保護者って何ですか兄弟子!?未来は同い年ですよ!?」

 

「悪い、間違えた。保護者じゃなくて飼い主だった」

 

「より酷くなってる!?」

 

「ウチのワンコが普段ご迷惑を掛けているみたいで、どうもすみません。後でちゃんと教育しておきますので」

 

「酷い!未来まで乗っからないで!!」

 

「「あははははは!!」」

 

響と未来のやり取りに、ナナシと奏が笑う。遅れて、響と未来もクスクスと笑い出した。マリアは、笑顔を浮かべる響と未来を、何故か少し暗い表情で眺めていた。

 

「ほら、三人も自己紹介!」

 

「初めまして!暁切歌デス!」

 

「…月読調、です」

 

「……」

 

「この仏頂面なのはアイドル大統領だ」

 

「変な名前で紹介しないで!!」

 

「黙っているからだろ?」

 

「私の名前を出していいのか判断に迷っただけよ!」

 

(なら“念話”を使えば問題ないな。それとも、自分のことは知っていて当然とでも思っているのか?)

 

(…マリア・カデンツァヴナ・イヴよ。このような不可解な方法を使った挨拶でごめんなさいね)

 

(三人のことは、響から伺っています…本当に、あのマリアさんなんですね?お会いできて光栄です)

 

(聞いているなら分かっているでしょう?私達は…)

 

(はい、分かっています。それでも、いつか私の大切な人達の隣に居てくれると信じています。私はその場所へは立てないので、せめて皆さんが帰ってくる場所を守るお手伝いをさせて貰います。だから…)

 

「これから、よろしくお願いします」

 

未来がマリアに手を差し出す。マリアは、自分達のことを知った上で信じると…そして、自身の無力を受け入れながら、それでも自分にできることをすると真っ直ぐに伝えて微笑む未来の瞳に、自分には無い『強さ』を感じた。だからだろうか?差し出された手を、マリアは拒むことができず…そっと、その手に自身の手を合わせてしまった。

 

「…凄い。流石は未来さん。これが『陽だまり』の力か。俺なんて未だに出合い頭に溜息吐かれるのに…」

 

「それはあんたがからかってばかりだからだろう?」

 

「これから長い付き合いになるのに接し方を偽ってどうする?それに、これでも十分加減している!」

 

「確かに、偶にマリアさんをからかっている姿は、翼さんやクリスちゃんに比べたら控えめな気がしますね」

 

「あなたとは絶対に手を取り合う気はないわ!」

 

「つまり、俺以外とは手を取り合ってくれると?」

 

「ッ!?そう言う意味じゃ…」

 

「でも現に手を取っているじゃないか?」

 

「くっ!」

 

「諦めな。ナナシに口で勝とうなんて無謀だよ。それより響、さっき何か言いかけてなかったか?」

 

「あーそうだ!!これから弓美ちゃん達が、学園のホールでやっているカラオケの勝ち抜きステージに出るんです。わたし達もこれから向かうんで、兄弟子達も一緒に…」

 

「今すぐ速攻で向かうぞ!全員急げ!!」

 

「なっ!?突然どういうつもり!?」

 

「何を言っている!お前らにとって歌はとても重要なはずだ!なら、リディアンのホールは絶対に偵察すべき場所のはずだ!!ほらほら急げ急げ!!」

 

「え?え?」

 

「わ、分かったデスから、押さないで…アイタッ!?」

 

「きゃっ!?ごめんなさい。大丈夫?」

 

「だ、大丈夫デス」

 

ナナシが人混みの中で急かしたせいで、切歌がリディアンの学生にぶつかってしまった。幸いどちらも大したことはなかったため、学生はそのままその場を後にした。

 

「少し落ち着けこの音楽バカ!!こんな人が多いところで急かすな!」

 

奏がそう言ってナナシの頭を叩く。

 

「わ、悪い。大丈夫か切歌?」

 

「平気デス!ナナシさんは本当に歌が大好きなんデスね?」

 

「まだ時間には余裕があるんで、ゆっくり向かいましょう?人も増えてきたので、急ぐとまたぶつかりますよ?」

 

「ああ、そうだな……!」

 

未来の言葉を聞き、そう答えたナナシは、何かを思いついたのか突然ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「奏、こう人が多いと、こいつらと逸れる危険がある。俺達の任務としては、その危険は避けたいよな?」

 

「あ、ああ、確かにそうだな」

 

「響、未来、協力を申請する。三人が逸れないように手を繋いでくれ。未来はアイドル大統領、奏は切歌、響は調を頼む。俺はお前達の後ろからついて行くから」

 

「「「!!?」」」

 

「ああ、なるほど…了解だ!」

 

「分かりました」

 

そう言って、奏と未来は素早くマリアと切歌の手を取る。そして響は、満面の笑みを浮かべながら調に手を差し出す。

 

「調ちゃん、ほら!兄弟子の言う通り、逸れちゃいけないから!」

 

「な、なら、私は切ちゃんかマリアと…」

 

「いやいや、それだとお前だけ逃げようとすれば逃げられるだろ?」

 

「な、ならせめて先生と…」

 

「俺は既にお前達の買った荷物で片手が塞がっているからな。両手が塞がるのは避けたい」

 

「“収納”に仕舞えばいいじゃないですか!?」

 

「流石にこんな人目が付く場所で“収納”を使うのはな」

 

「なら…えっと…」

 

自分の提案が悉く封殺され、調がおどおどし始める。

 

「う~ん、なら、妥協案ってことで」

 

響はそう言って、調の服の裾を軽く掴んだ。

 

「これなら許してくれる?」

 

「……」

 

調は響の問いに答えない…ただ、響の手を振り払うことはなかった。

 

「それじゃあ、出発しよう!」

 

そうしてナナシ達は、リディアンのホールに向けて進み始めた。

 

 

 

 

 

「ところで、さっき調ちゃんが兄弟子を『先生』って呼んだのは何で?」

 

「…お料理を教えて貰っている」

 

「そうなんだ!兄弟子の料理美味しいよね!今度調ちゃんの作った料理も食べさせて欲しいな!」

 

「…失敗作の処分なら構わない」

 

「え~、ちょっとで良いから美味しくできた料理も味見させて~」

 

ホールに向かう途中、響は調に対してずっと話しかけていた。調はそれに対して、短くではあるが返事を返していた。

 

マリアは、そんな二人に…いや、響に視線を向けたまま、無言で歩いていた。すると…

 

(…アイドル大統領、お前この前の俺と奏の会話、盗み聞きしていただろう?)

 

(!!?)

 

…突然、ナナシから“念話”でそう指摘された。

実際、あの日給湯室に戻ったマリアは、ナナシ達の会話を聞いてしまい、響の体の現状について知ってしまっていた。

 

(…私が聞いていると知った上で話していたの?)

 

(いや、響に同情の視線を向けていたから、鎌をかけただけ。やっぱり聞いていたか)

 

(…趣味が悪いことするわね)

 

(盗み聞きも充分趣味が悪いと思うぞ?)

 

それから少しして、今度はマリアがナナシに“念話”で問いかけた。

 

(…本当に、どうにかできると思っているの?)

 

(言っただろう?何とかするって)

 

(そんな甘い考えで…あなたは、失敗した時のことを考えないの?)

 

(そりゃ失敗は怖いさ。だけど、世界の存続も響の命も、俺にとっては譲れないことだ。例え被害を最小限にできたとしても、俺の大切な奴らに犠牲が出るなら意味がない。だから、望む未来を掴む方法を模索して足掻く。それだけだ)

 

ナナシの答えを聞いたマリアは、再び黙ってしまった。

 

(…なあ、アイドル大統領。お前は何で人類を存続させようとしたんだ?)

 

(ッ!?何故って…)

 

(俺達二課は国のため、世界のために戦っているけど、それ自体が目的じゃない奴らも多い。俺の場合は歌のため。後は…仁は家族のためだったし、亮は昔、警察に命を救われた憧れから正義の味方を目指した。拓也は困っている人を放っておけなかったからだし、健司はノイズに恋人を殺されたから、同じ目に合う人を少しでも減らしたかったからだ)

 

(…それは、二課に所属する人達の名前?)

 

(正確には、その中でも死んでいった奴らの名前だな)

 

(!!?)

 

マリアは、背後を振り返ってナナシの顔を確認した。ナナシは普段と変わらぬ笑みを浮かべたまま、“念話”でマリアに話し続けた。

 

(俺が二課に入ってから死んでいった11人は、それぞれが世界のため以外に命を懸ける理由を持っていた。他の奴らも、シンフォギア装者達も、それぞれの理由を持っている)

 

 

 

(なあ、マリア。お前が行動していたのは、本当に人類の存続のためか?)

 

 

 

ナナシの問いに、マリアは答えを返せない。そんなマリアに、ナナシはそれ以上“念話”で語り掛けることはなかった。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

マリアは無意識に未来と繋いだ手に力を込めてしまった。それに気がついた未来は、マリアの顔を覗き込んで心配そうに尋ねてきた。

 

「…ええ、大丈夫よ。ごめんなさいね」

 

そう言って、何事もなかったかのように歩みを進めるマリア。気にはなったが、未来はそれ以上追究しなかった。

 

マリアは道中、未来と繋いだ手の温かさを感じながら、誰にも聞こえないくらい小さな声で、ポツリと呟いた。

 

 

 

「私は、何のために…」

 

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