戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
秋桜祭から三日が経った。
結局、ノイズの出現地点に罠などは無く、その後F.I.S.が行動を起こしてくることは無かった。そのため、二課は未だ手がかりを得られないまま捜索範囲を広げてF.I.S.の足取りを追っていた。
装者達は変わらず待機が続いており、基本はマリア達との交流を継続していた。秋桜祭以降、双方の距離は少しだが近くなったと思われ、最初の頃よりは険悪な雰囲気ではなくなっていた。
ナナシも捜索の合間に本部に戻ってマリア達の様子を見に行っていた。その際、何度かカラオケ対決の勝敗の話をクリスが蒸し返そうと試みたが、クリスが近づいた段階でナナシが先手を取り…
「よう、クリス。先日はツヴァイウィングの限定特典付きCDを行列に並んでまで購入して頂きありがとうございます。次からは言ってくれれば確保しておくぞ?」(探索中に偶然目撃)
「ペットショップのガラス越しに猫と十五分近く戯れたクリス、お疲れ様。コレ、猫カフェのクーポン。響達誘って行って来たらどうだ?」(妹弟子からの目撃情報)
「毎日翼達の名前を呼ぶ練習をしているクリス、そろそろ実践に移っても良いんじゃないか?」(ナナシの妄想)
…こんな感じに毎回撃退されていた。今はナナシの妄想が現実だったことがクリスの反応から判明し、響や翼から追いかけられている。
調と切歌も同様に聞き出したい雰囲気を出しているが、そっちは“収納”からお菓子を取り出して気を引いたり、“障壁”を使った見えない迷路脱出ゲームで楽しませたり、“浮遊”を使って両脇に二人を抱え疑似無重力体験をさせるなど、あの手この手で気を逸らしていた。
「クリスより調と切歌が厄介だ…次はどうするか…スプーン曲げ(物理)では気を引けるか?人体切断マジック(種も仕掛けもなし)は流石にマズいよな…」
そんな感じに、調達の追究を躱す方法を悩みながら、ナナシはもう一つの懸念事項についても考えていた。
「アイドル大統領、一体奏から何を聞いたんだ?」
秋桜祭が終わってから、マリアはまた何か考え込んでいるようだった。何かあったのかとノイズを殲滅して戻ったナナシが奏に聞いたところ、「悪い、あたしが勝手にあんたの昔のこと話した」と言ってきた。
「何話したのか聞いても、「どうせならマリアから聞いてみな」って教えてくれないし…今更俺のことであんなに考えるような情報はあったか?調達は一旦置いといて、一回話を振ってみるか?」
ナナシがそう決断したタイミングで…二課に警報が鳴り響いた。
「状況は!?」
指令室に集まったナナシ達は、すぐに何が起こったか確認した。
「現在は稼働していない工場の密集区域にノイズの発生パターンを検知!」
「数は?」
「大型の反応が一つ確認された後、徐々に数が増加しています!」
「小型のノイズを生産するタイプの大型ノイズか…じゃあ、また俺がひとっ走りして狩ってくる!」
「またですか兄弟子!?」
「ナナシ、貴様少しは…」
「理由は大体前回と同じ!行ってきます!」
「あ!おい!?」
一方的に話を終わらせて、ナナシは現場に向かってしまった。
「あのご都合主義の野郎、少しは協調性を持てってんだ!」
「「「……」」」
「な、何だよ!?」
「いや~、「勝手にやらせてもらう!邪魔だけはすんな」って言ってたクリスちゃんから協調性なんて言葉が聞けるなんて、成長したな~って」
「ああ、すっかりここに馴染んだようで、私達は嬉しいぞ、雪音」
「なっ!?喧しい!大きなお世話だ!」
「落ち着きなよ、クリス。ナナシのバカには後で罰としてあたしとあんたの歌を聴かせよう」
「はあ?そりゃあいつにはご褒美だろ?」
「どっちか一人、好きな方の歌を選ばせるんだ。死ぬほど悩むぞ?」
「…!なるほどな…けど、それをやるならあんたの相方だな。あたしとあんたならあんたを選ぶだろ?あのご都合主義」
「そんなことないよ、クリスちゃん!どうせならわたしも入れて皆でやろう!日頃のお礼で!」
「っ!?だあー!分かったから抱き着くな!やってやる、あくまで罰としてな!せいぜい困らせてやる!」
残された面々がナナシへの罰を考えていると、再び本部内に警報が鳴り響いた。
「「「「!!?」」」」
「何事だ!?」
「別地点で新たなノイズの出現バターンを検知!場所は…!?以前、F.I.S.の潜伏先として調査した廃病院内です!」
「何だと!?我々の調査後に舞い戻っていたのか!?」
あの廃病院に対してはしばらく監視を行っていたが、探索範囲の拡大による人員不足で、常時監視するのではなく、定期的に見回る方針に切り替えていたのが裏目に出る結果となった。
「師匠、今度こそわたし達が行きます!」
「だが…」
弦十郎が指示を迷っていると、通信を聞いたナナシから“血晶”経由で“念話”が飛んできた。
(毎回響の出撃を止めていたら不審に思われる。それに、響以外の二人を向かわせて、また別の場所にノイズが出現すれば、一人でノイズを対処しなければならない響の負担がでかくなる。ここは三人共出撃させるべきだ)
「…三人は廃病院に向かってくれ。分かっているとは思うが、罠の可能性が高い。充分注意してくれ」
「はい!」
「了解しました」
「久々の出撃だ。ノイズも罠もまとめて爆破してやる!」
そう言って、翼、響、クリスの三人は廃病院へと向かって行った。
一方、ナナシは一足先に閉鎖工場へとたどり着いていた。
『ノイズの反応があるのはその工場の奥だ。だが…』
「弦十郎、どうかしたか?」
『ノイズの反応は今も増加しているが、その増え方が少し妙な気がする。大型ノイズを中心に、徐々に膨らんでいるような…?』
「…考えてもしょうがないから、これ以上増えないうちに突入する」
『気を付けろ』
ナナシは一度通信を切り、工場の扉を蹴破って中に侵入する。明かりもなく薄暗い工場内に赤い霧が充満しており、その奥には何やら蠢いているものが見えた。
「うわっ、気持ち悪っ!?」
ナナシがそこで見たのは、黄緑色のイボイボが付いた肉体を膨らませ続けるノイズの姿だった。ノイズの肉体から落下してきたイボイボは、そのまま増殖するように膨らみ、際限なく増えていった。
「元々人気は少ないし、今は避難勧告が出ているけど、このまま放置していたら危ないな…さっさと片づけるか」
ナナシは“収納”から、“身体変化”で作り出した刀を取り出し、増え続けるノイズに攻撃を繰り出した…だが
「げっ!?」
分断されたノイズの肉体は、それぞれが再び膨れ上がっていき、攻撃を加えることで増殖スピードが加速してしまった。
「マジか…これは、工場内を一気に破壊し尽せる火力が無いと倒しきれないぞ?俺にはそんな瞬間火力を出す方法が無い。どうしたものか…」
目の前で増殖を続けるノイズを前に、ナナシは思考を巡らせるのだった。
「うわ~、何あのでっかいイボイボ!?」
時を同じくして、響達は廃病院の中でナナシと同じ増殖分裂タイプのノイズと対峙していた。時刻は日没を過ぎており、赤い霧の立ち込める明かりの無い病院内を進んだ響達は、廃病院のエントランスホールと思われる広い場所の中央で、蠢きながら増殖・分裂を繰り返すノイズを発見し攻撃を仕掛けた。
「はあっ!」
「せいっ!」
「くたばれ!」
翼が剣で切り裂き、響が拳で打つ砕き、クリスがガトリングを乱射する。だが、バラバラになったノイズの肉体はそこから増殖して肥大化し、攻撃を加える前より更に増加してしまった。
「こいつの特性は、増殖と分裂…迂闊な攻撃では、悪戯に数を増やすだけだ!」
「チッ!なら、こいつでどうだ!!」
“MEGA DETH PARTY”
ノイズの肉体が密集する地点に多数のミサイルを打ち出すクリス。今は少しでもノイズの総量を減らすべきと判断し、一か所に火力を集中する…だが、ミサイルを放った際に、クリスは肉体に違和感を覚えた。
「っ!?何だこの感覚!?」
そしてミサイルが着弾し爆発が巻き起こるが、その威力はクリスが想定した火力に達しておらず、一気にノイズの増殖が進んでしまった。
「っ!?どういうことだ!?威力がまるで出てねぇ!?」
「どうした!?何があった雪音!?」
クリスに声を掛けながら、迫り来るノイズに剣を振るう翼。だが、翼も自分の肉体に起こった変化を感じ始めていた。
「これは…剣を持つ腕が、妙に重い…ギアの出力が落ちている!?」
『聞こえるか!?』
「師匠、どうなっているんですか!?」
『やはり罠が仕掛けられていたらしい!お前達の適合係数が時間と共に低下している!すぐにその場を脱出するんだ!』
「脱出!?でも、このノイズを放置していたら!?」
未だに増殖を続けるノイズ。このノイズを放置して建物の外に溢れ出てしまえば、周囲に被害が出るかもしれない。そう考えた響は…二人に向かって、ある提案をする。
「……絶唱」
「「!!?」」
響の言葉で、翼とクリスは響の狙いを同時に察する。
「建物から溢れ出しそうな勢いで増殖するノイズ…こいつがいるってことは、この建物内にはF.I.S.の人達は残ってはいませんよね?絶唱で一気に殲滅しましょう!」
「あのコンビネーションは未完成なんだぞ!?」
「それに、適合係数が低下した今の状態でそんなことをすれば、ギアからのバックファイアが…」
「だから、これ以上適合係数が落ちないうちに、一気に決めてしまいましょう!大丈夫です。わたし達なら、きっと上手くいきます!」
そう言って、響は笑顔で…その瞳には、確固たる意志を宿して二人を見る。それを見た翼とクリスは、少しだけお互いを見て、小さくうなずいた後、二人は響と手を繋いだ。
「行きます!S2CA・トライバースト!!」
そして、三人の口から、絶唱が奏でられる。
「「「Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el baral zizzl……Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el zizzl」」」
静かで、力強い旋律が、ノイズが蠢く建物の中に響き渡る。絶唱の最後の一節が口に出された瞬間、三人を中心に膨大な力の渦が巻き起こる。
「スパーブソング!!」
「コンビネーションアーツ!!」
「セット、ハーモニクス!!」
三人の言葉と共に、発生した力は虹色の光を放ちながら徐々に周囲に広がっていき、光に接触したノイズの肉体は塵も残さずに蒸発していく。
力場の中心で、響は顔を苦痛に歪めて呻き声を上げていた。
「耐えろ、立花!!」
「もう少しだ!!」
「うぅぅ……あああああああぁぁぁっ!!!」
天へと向けて咆哮するように声を上げる響。見開いたその瞳は、充血のせいなのか、赤く染まっているように見えた。
三人の絶唱によって肉体のほぼ全てを蒸発させたノイズは、まるで人の骨格のような本体をさらけ出していた。
「今だ!!」
「…レディ!!!」
翼の合図と共に、響は両腕のギアを変化させ右腕に取り付ける。右腕のギアに周囲の力を集束させ、響はノイズの本体に向かって駆け出す。
「ぶちかませ!!」
クリスの激励と共に、響の拳がノイズへと叩き込まれる。
「これが、私達の…絶唱だあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
響が突き立てた右腕のギアから、集束したエネルギーが天へ向かって螺旋状に放出される。エネルギーはノイズと、室内の赤い霧と、頭上にある人工物の全てを吹き飛ばし…エネルギーの放出が終わった後には、欠けた月が失われた天井から顔を覗かせ、光のない病院内を月光で照らし出した。
地面に着地した響は、その場に膝をつき蹲る。
「無事か、立花!?」
「へいき、へっちゃら…うぐっ!?」
ドクンッ!
響がいつもの口癖を言い終わる前に、胸を押さえて地面に倒れ込む。その際、ギアが解除されて服が元に戻った。
「へっちゃらなもんか!!痛むのか!?まさか、絶唱の負荷を中和仕切れなくて…」
「くうううっ!?」
クリスの言葉に耳を傾けることもできず、響は胸元を掻き毟るように手を動かした後、そのまま気を失ってしまった。
「おい!?しっかりしろ!?」
「雪音、立花を連れて本部に戻るぞ!F.I.S.が何か仕掛けてくる前に、一刻も早く立花を医療施設に預けるのだ!」
「ああ、分かった!」
クリスが周囲を警戒し、翼が響を抱き上げようとする。その際、響が掻き毟ったために乱れた服の胸元から、何かが落ちるのを翼が目撃した。
「これは…?」
「おい!さっさと本部に向かうぞ!」
「っ!?ああ、急ごう!」
翼はそれを拾い上げると、確認する時間も惜しんですぐに本部へと駆け出して行った。
「…結局、響に無理をさせてしまったのか…クソッ」
『ナナシ君、必要以上に自分を責めるな。俺が下した決断の結果でもある。今、響君は翼達と病院を脱出したところだ。君の方は大丈夫なのか?』
「…とりあえず、危機的状況では無くなった。これから思いついた方法を試してみる」
そう言ってナナシが視線を向けた先では…肉体の全てを“障壁”で囲われ、それ以上増殖できなくなった増殖分裂タイプのノイズの姿があった。
「これで駄目なら、活動限界が来るまで耐えるしか無くなるが…」
そう言って、ナナシは“収納”からナイフと、今まで貯蔵していた血液を取り出す。血液はそのまま地面に流れて広がるが、ナナシは構うことなく自身の心臓にナイフを突き立てる。心臓から噴き出す血液が地面の血液と混じり合い、“血流操作”によって血液が蠢きだす。
ナナシは近くにある比較的狭い範囲を囲んだ“障壁”に血液を纏わり付かせる。“障壁”周辺を満遍なく血液で覆ったナナシは、“障壁”を解除して…“障壁”内に収まっていたノイズの肉体を、血液を圧縮させて押し潰した。少しして、ナナシが血液にかけていた圧力を解放してみると…ノイズの肉体は、何処にも残っていなかった。
「弦十郎、実験は成功だ。俺の血で包んで潰しきってしまえば増殖しない。貯蔵している血液が少ないから時間が掛かるけど、とりあえずは何とかなりそうだ…この血液を“血晶”に使うのは何か抵抗があるから、戦闘用に使う血液として分けておく」
『そうか。ではナナシ君は、引き続きそちらのノイズを…何!?』
「弦十郎?どうかしたのか?」
『新たにノイズが出現した!』
「新たにノイズの出現パターン検知!場所の特定を急いで!」
「ノイズの規模は三十体程度…場所は…何だって!?」
「出現場所はどこだ!?」
弦十郎の声に、オペレーターの藤尭が答える。
「場所は…私立リディアン音楽院、その学生寮付近です!」
「何だと!?」
「出現したノイズは、学生寮の正面口を取り囲むような形で点在しており、今の所動きを見せていません!」
「動ける人間はすぐに裏口から回り込んで学生の避難させるんだ!“血晶”を所持することを忘れるな!それと未来君に連絡を入れろ!学生がパニックを起こさないように誘導して貰うんだ!」
『弦十郎どうする!?このノイズを処理してリディアンに向かうなら一時間はかかる!』
「焦るな、ナナシ君!君はそのままノイズの処理を続けてくれ!翼とクリス君は!?」
「駄目です!二人共適合係数が回復していないですし、響ちゃん程ではありませんが絶唱のダメージが残っています。すぐに戦線へ出すのは危険すぎます!」
『ふざけるな!!このバカを届けたらすぐに向かう!あそこはこいつの帰る場所だ!』
『防人の剣が戦場で振るわれなくてどうするのですか!?例え手負いだったとしても、必ず人命を守ってみせます!』
「これは明らかに罠だ!今の君達を向かわせる訳にはいかない!俺が現場に行って時間を稼ぐ!ナナシ君が戻ってくるまで持たせて見せるからその隙に避難を…」
『今ここで弦十郎の指揮が無くなれば余計混乱して動けなくなる!!お前も少し落ち着け!!』
二課内部は大混乱に陥っていた。動ける装者がいない以上、根本的な解決ができない。“血晶”を使って時間稼ぎをすれば有効回数が尽きた瞬間、確実に二課の人間が死ぬ。このまま手を拱いていたら避難が遅れてリディアンの学生が死ぬ。ナナシが今捕えているノイズを放置して向かっても、間に合うかどうか分からない上に、再度増殖したノイズに対応し始めた段階でまた同じことをされたら状況は悪化するだけだ。
「私が向かおう」
その状況で、そう弦十郎に声を掛けたのは、了子…いや、フィーネだった。
「了子君!?駄目だ!君の存在がもしバレたら!?」
「ナナシの“認識阻害”さえあれば問題ない。議論している場合か?」
「ナナシ君の“認識阻害”が万能ではないことを知っているだろう!?以前のライブの時とは状況が違う!あれは事前に情報が外部に出ない状況を作ったからこその措置だ!君の存在が明るみに出る可能性がある以上、許可できない!」
「ならばこの状況をどうするつもりだ!!」
口調を強めて叫ぶフィーネ。緊張感が高まる二課の中に、通信機からナナシの声が響き渡った。
『…あ、そうだ!弦十郎、良いこと考えた!上手くいけば全部解決するかも!』
「…本気で言っているの?」
急遽、指令室に連れてこられたマリア、切歌、調の三人は、開いた口が塞がらなかった。
『もう少し嬉しそうにしたらどうだ?返して欲しかったんだろ?ギアペンダント』
つまり、そういうことだ。
ナナシは、F.I.S.が起こした一連の騒動を…捕虜であるマリア達に解決させようというのだ。
「…よっぽど私達に逃げて欲しいのかしら?」
皮肉でマリアがそう口にすると…
(Exactly!!)
(((!!?)))
ナナシから、“念話”で肯定の言葉が返ってきた。
(ここからの会話は記録に残ると面倒だから、“念話”で伝えるぞ。お前達には二課から逃げ出して欲しい)
(…どういう意味よ?)
(そのまんまの意味だ。お前達は、ノイズを倒したらそのままF.I.S.に合流してくれ)
(私達を完全に自由にすると言うの!?)
(そう。ていうかこの状況、どう考えても『人質交換』だよな?この状況でノイズが止まったままの理由が他に思いつかない)
(…それであなた達は、国の組織でありながらテロリストの要求を素直に飲むと言うの?何処まで甘い考えなのよ!)
(それは少し違うな。お前達を開放するのはそれだけが理由じゃない。F.I.S.に、ナスターシャ教授に俺達の方針を伝えてくれ。人類の存続、月の落下の阻止、俺達の目的は同じで、協力できるはずだ。お前達には、その交渉役になって貰いたい)
(((!!?)))
(これまでの調査と今回の件で、F.I.S.が何らかのステルス機能を持った異端技術を持っていることは察しが付いている。そうでないと、明らかに痕跡が少なすぎる。そんな相手と接触できるこれが唯一のチャンスなんだ。別にお前らは仲間を裏切る必要はない。お前達の手に入れた情報の一部として、こちらの方針を伝えてくれればいい)
ナナシが“念話”でそこまで伝えたところで、ギアペンダントとLiNKERを持った奏が三人の前まで近づいてきた。
「協力、して貰えるか?」
「……」
マリアは、目の前に用意されたギアペンダントとLiNKERに、手を伸ばしかけ、途中で動きを止めてしまう。そんなマリアの様子を見た奏が、マリアにある事を告げた。
「これは脅迫だと思ってくれて構わない…というか、まんま脅迫だね。もし、ここであんたが手を伸ばさないようなら、あたしがガングニールとLiNKERを持ってリディアンに向かう」
「「「!!?」」」
『何言ってんだ、奏!!?』
「あたしの目の前にガングニールとLiNKERが揃ってる。なら、あたしが躊躇う理由が見当たらないね…だけど、これはあんたのガングニールだ。持ち主が分かっている落とし物をくすねるつもりは無いけど…要らないって言うなら、ありがたく頂戴するだけさ」
奏は笑いながらふざけた口調で言った…それでも、その瞳には強い意思を宿してマリアを見つめていた。マリアは、奏が本気であることを察して、すぐさまギアペンダントとLiNKERを受け取った。切歌と調もそれに倣い、奏からギアペンダントとLiNKERを受け取る。
「…恨んでくれて構わない。それでも、あいつらの帰る場所を守ってやってくれ」
奏は、三人に深々と頭を下げた。マリアは、視線をモニターの方に向ける。そこには、医療班に響を預ける翼とクリス、学生寮に集まるノイズ、そして…工場内で、体中にナイフを突き立てて、流れる血液を操りノイズを処理していくナナシが映っていた。
(…このガングニールは、あなたを殺せる力がある武器よ?そんなものを他人に与えるなんて、どうかしているわ)
(道具は何時だって持ち主に使われるだけだ。殺すのも、生かすのも、その道具を使う人間次第だ。料理を作る包丁も、手術に使う医療用メスも、刃物ってだけで命を奪う力がある。ガングニールが俺を殺すのか、誰かを生かすのか、それはお前次第だ、マリア。もし、その槍が未来で俺の心臓を貫くとしても…今日、誰かの命を救ってくれるというのなら、俺は自分の選択に後悔はしない)
マリアの言葉に、ナナシは何の迷いもなく自分の考えを返した。それを聞いたマリアは、何も言わずに調と切歌を連れて、二課の案内の元、リディアン音楽院へと向かって行った。
「…あ、れ…?ここは、どこ?」
メディカルルームで目を覚ました響は、ゆっくりと体を起こして周囲を見回した。その時、自身の胸元、昔ガングニールの破片が飛んできた時にできた傷跡から、何か石のようなものがポロリと落ちた。
「…かさぶた?」
響が頭に疑問符を浮かべていると、メディカルルームの扉が開いて、ナナシが部屋の中に入ってきた。
「目が覚めたか、響。体の調子はどうだ?」
「あ…兄弟子、えっと、わたし、翼さんとクリスちゃんと一緒に絶唱を歌って、そして…」
「お前が気絶してからのことはこれからゆっくり説明してやる。もう一度聞くが、体は大丈夫か?」
「そっか、わたし気絶しちゃったんだ…あ、はい。とりあえず、どこも痛いところはありません」
「本当か?」
「え?えっと、はい。大丈夫です」
「…そうか。良かった」
響が大丈夫なことに安堵の言葉を口にするナナシだが、その顔はいつもの笑顔とは異なり、真剣な表情を浮かべていた。
「…響、お前に伝えないといけない重要な話がある」
ナナシは、響の方を真っ直ぐに見つめながら、ある事実を伝えた。
「マリア・カデンツァヴナ・イヴ、暁切歌、月読調の三名が二課から脱走して……お前の親友、小日向未来を攫っていった」
やや強引な展開かと思われますが、ご容赦いただければ…