戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第60話

「落ち着いて、慌てずに避難してください!」

 

二課から連絡を受けた未来は、学生寮にいる生徒を裏口へ誘導し、避難の準備を進めていた。

 

「これでこの階の避難は完了したはず。後は残っている人がいないか確認して…」

 

そう言いながら窓の外に視線を向けると、学生寮の前を取り囲むようにして佇む複数のノイズの姿が見えた。

 

「…響」

 

不安そうな表情を浮かべながら親友の名を口にする未来。すると…ノイズの群れの一部が、飛んできた何かに当たり塵と化した。

 

「ひょっとして、響達!?」

 

何かが飛んできた方向を見ると、そこには未来の予想とは異なる、しかし見覚えのある者達が視界に入ってきた。

 

「調ちゃん!?それに、切歌ちゃんも!?」

 

そこには、先日秋桜祭を一緒に回った二人が、ギアを纏ってノイズを殲滅している姿があった。

 

「…助けに来てくれたんだ」

 

調達がノイズと戦ってくれていることに、未来は喜びと…僅かな胸の痛みを感じていた。一緒に笑って過ごした、自分より年下の彼女達が武器を振るう姿を、未来は悲しそうに見つめていた。

 

「私だって、守りたいのに…」

 

二人によってノイズが数を減らしたタイミングで、数体のノイズに動きだした。ノイズは学生寮の方へ突撃していき、壁を突き破って寮の内部に侵入し…未来の前に立ちはだかった。

 

「っ!?」

 

未来は後ずさり、思わず 『お守り』に手を触れる。ノイズは少しずつ未来の方へ接近していき…次の瞬間、その体を塵と化して消滅した。

 

ノイズの背後には、黒いガングニールを身に纏い、槍を手にしたマリアが立っていた。

 

「マリアさん!」

 

マリアの姿に安堵する未来。だが、マリアは無言でそんな未来を見つめたと思うと…その槍の先端を、未来の方へと向けた。

 

「えっ!?」

 

驚く未来に対して、マリアは冷たい声で言い放った。

 

「小日向未来、あなたは私と一緒に来てもらう」

 

 

 

 

 

「これは、響ちゃんの体のスキャン画像よ」

 

響がいるメディカルルームに集まった翼達に、了子が響の体について説明をしていた。

 

「響ちゃんの体内にあるガングニールがエネルギー化と再構成を繰り返してきた結果、体内のガングニールは更なる浸食と増幅を果たして新たな臓器を形成している。これが、響ちゃんの爆発力の源よ。そして今回、適合係数が低下した状態で絶唱を使った負荷を受けたことで、適合者の生命の危機に呼応してこの臓器が急激に活性化。響ちゃんの命を脅かす結果となった」

 

了子の手には、先日翼が拾った鉱物があった。

 

「翼ちゃんが拾ったこれは、響ちゃんの体組織の一部よ。急激に浸食が進んだ影響で、シンフォギアの再構成の際に体外に排出されたみたい」

 

「もし、このままガングニールの浸食が進めば…」

 

「…遠からず、死に至るだろう」

 

弦十郎の言葉に、メディカルルームにいる者達は皆、悲痛な表情を浮かべる。

 

「あ、あはは…つまり、今後はなるべくギアを纏わないようにしろと?」

 

無理をして明るく振舞う響に対して、翼が食って掛かった。

 

「いい加減にしろ!なるべくだと?今後一切の戦闘行為を禁止すると言っている!!」

 

「翼さん…」

 

「このままでは死ぬんだぞ!立花!!」

 

瞳に涙を溜めながらそう叫ぶ翼に、響は何も言えなくなってしまった。

 

「そのくらいにしておきな。響だって、分かって言っているんだ」

 

奏が翼を宥めるように声を掛ける。落ち着いた様子の奏やナナシを見た翼は、二人に問い質した。

 

「…二人は、立花のことを知っていたのか?」

 

「……ああ」

 

「こうなる可能性に気づいて動いていた。奏には俺から口止めを頼んでいたんだ」

 

翼と奏のやり取りに、ナナシが割って入って話し出した。

 

「今回の一連の騒ぎは、ほとんどが弦十郎達に俺の妄想に付き合わせた結果だな。響のことも、そして…マリア達のことも」

 

「…クソッ!何でだ!?あいつら、学祭であんなに楽しそうに歌って、ここでも笑っていたのに…」

 

クリスは、悔しさに顔を歪めながら、マリア達が最後に取った行動を思い出していた。

 

 

 

 

 

ノイズの群れを殲滅した調達の前に、ステルス機能を解除した大型ヘリが姿を現した。そこから三本のロープが伸ばされ、それに調と切歌、そして…気絶した未来を抱えたマリアが捕まった。

 

「っ!?マリア!?」

 

「何でその人を連れて行くんデスか!?」

 

「いいから、二人も早くヘリに乗り込みなさい!」

 

ローブを伝ってヘリに乗り込むマリアの後を、二人は急いで追いかけた。三人を乗せた大型ヘリは、一瞬紫の光を放ったと思うと、再びその姿を消してしまった。

 

ヘリに乗り込んだマリアは、二課から渡された通信機を使って二課に連絡を取った。

 

「聞こえているかしら?」

 

『…これは一体、どういうつもりだ!?マリア君!』

 

「分からないの?私はあなた達と手を取り合うつもりはないと言うことよ」

 

マリアの言葉に、調と切歌は動揺するが、構わずにマリアは言葉を続ける。

 

「この子は人質としてこちらで預からせてもらう。今後、こちらから連絡することは無いわ」

 

『…それがお前の答えで良いんだな?マリア』

 

今度は通信機からナナシの声が聞こえてきた。

 

「…以前、あなたは私に聞いてきたわね?何故私が人類の存続のために行動していたのか…私は、私の大切な家族が笑って過ごせる世界のために行動している。マムや、調や切歌…私の大切な家族が生きる未来のために、もう後戻りはできない…私達のために命を失った妹の、セレナのためにも、この歩みを止めることなんてできないのよ!!」

 

『…他にも妹がいたのか』

 

「ええ、セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。あなたが私に返してくれたアガートラームは、あの子の形見だったのよ…争いが嫌いだったあの子は、F.I.S.の施設で起こったネフィリムの暴走を止めるために絶唱を歌い、その命を失った」

 

『……』

 

「あの子は私達を守るために、その命を犠牲にして私達に未来を託した。セレナの行いを無駄にしないためにも、私は人類の未来を守ってみせる!」

 

そう言ってマリアは、ヘリの窓から通信機を出して、握り潰した。通信機の残骸はそのまま地面に向かって落ちていった。

 

パチパチパチパチ

 

そんなマリアに、拍手をしながらウェル博士が近づいてきた。

 

「いやー、上手く脱出できたようで良かったですね…おや?あなた達の腕に付いているものは、一体何ですか?」

 

「…ああ、これ?あの連中が付けている『お守り』だそうよ?私達にも渡してきたけど…もう仲良くするフリも必要ないわね。調、切歌、こちらに渡しなさい」

 

マリアの命令に、調達は戸惑いながらもマリアに“血晶”を手渡した。マリアは、自分の分を含めた三つの“血晶”も、通信機と同様に砕いて窓から放り出した。ガングニールを纏ったマリアに砕かれた“血晶”は、空中で塵となって消失した。

 

 

 

 

 

「F.I.S.の大型ヘリが観測できないのは、恐らく『神獣鏡』を使ったステルス機能によるものね。幾ら捜索しても見つけられないはずだわ」

 

「そんな奴らに、あの子はまんまと連れて行かれちまった…チクショウッ!」

 

苛立ちを露わにしたクリスが、壁に拳を打ち付ける。

 

「未来…」

 

響は、心配そうに未来の名前を呟いた。

 

「…お前はここで大人しくしていろ。お前の『陽だまり』も、お前を助けるための『神獣鏡』も、必ず見つけ出す」

 

そう言って、ナナシは響の頭を撫でた。

 

「…大人しくしているのは貴様も同じだ、ナナシ」

 

「ん?」

 

翼の言葉の意味が分からず、ナナシは疑問の声を上げる。

 

「理由は未だに分からないが、ガングニールは貴様にとって致命的な弱点だ。敵の手に貴様の情報とガングニールが渡った以上、貴様もここで立花と待機していろ」

 

「だが断る!!」

 

間髪入れず茶化すように拒絶の言葉を返すナナシに、翼は近寄って胸倉を掴み、怒りを露わにしてナナシに食って掛かった。

 

「ふざけるな!貴様はそんなに私達が信用できないか!?元はと言えば、貴様の失策によってマリア達は我々の元を去り、小日向は連れ去られたのだぞ!?少しでも責任を感じるならば、せめて邪魔にならないように大人しくしていろ!」

 

「翼!言葉が過ぎるぞ!ナナシ君の気持ちを考えろ!!」

 

弦十郎の言葉に、一度翼は口を閉ざす。翼に胸倉を掴まれたまま、ナナシは翼から目を逸らすことなく、言葉を返す。

 

「そうか、俺は邪魔か…なら、今日限りで俺は二課を去るとしよう。何処か他国の組織にでも俺の力を売り込んで、そこで今回の騒動を解決するために協力してもらうとする。不老不死なんてものが目の前にあるんだ。多少の無茶は聞いて貰えるだろ。実験動物としての生活が待っているだろうけど、それで今回の件が解決するなら、甘んじて受け入れよう」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

「…私がいるこの二課以上に技術を持った組織なんて、世界中の何処にも無いわ。バカな考えは捨てなさい。それにそんなことをしても、力のある組織が協力なんてしてくれる訳ないでしょう?捕まってお終いよ」

 

「ナスターシャ教授やウェル博士みたいに、表に出ていないだけの優秀な技術者だって何処かには必ずいるし、この二課みたいなお人好しの集まりがあっても不思議じゃないだろ?ゴミみたいな小さな可能性だけど、動かないよりはマシだな」

 

ナナシはいつもの笑顔でそんなことを言ってのける。翼はそんなナナシを、悲痛な表情を浮かべて見ていた。

 

「何故、貴様はいつも…」

 

「そのやり方はお前に向いてないな、翼。相手より自分の方が傷ついている様子を隠せないようなら、無理に悪者を演じるのはやめておけ。お前とアイドル大統領は、妙なところで似ているな?致命的に悪役が向いていない」

 

「…これは私の本心だ」

 

「ああ、それを疑うつもりは無い。だけど、口にした言葉が全てではないだろう?ずっと自分を押し殺してきたお前が慣れないことをしようとするから、粗が目立つんだよ。もっとお前の相棒を見習え」

 

「とんでもなく失礼な言葉が聞こえてきたね?あんたにだけは言われたくないよ、ナナシ」

 

「俺としては褒めたつもりなんだけど?何かを抱えたまま笑って過ごすことには慣れているだろう?」

 

「何度も言うけど、あんたにだけは言われたくない!!」

 

奏をからかってクスクス笑ったナナシは、不意に表情を引き締めて翼に声を掛けた。

 

「ガングニールに俺を殺す力がある。危険だから下がっていろ…だけど、別にガングニールは俺だけを殺す武器じゃない。お前やクリスだって心臓を貫かれたら死ぬし、頭を砕かれたら死ぬ。俺だけ危ないから下がれと言うのはおかしいんじゃないか?」

 

「…今度こそ死ぬかもしれないのだぞ?カ・ディンギルの時と同じように、運よく無事で済むとは限らない」

 

「戦場に出れば死ぬかもしれない。それは当たり前のことだろう?今更言及することでは無いと思うぞ?そう思えば、死の危険がある今の状況の方がずっと自然なことだろう?」

 

死ぬかもしれない。そんな状況においても、なお笑顔を崩さずにナナシは言葉を続ける。

 

「“紛い物”の俺は、人の生死に対する感覚にやっぱり何処かズレがあるんだろうな。自分が死ぬ手段がある事に安堵している気さえする。死ぬ気なんてこれっぽっちも無いけど、何もしないでジッとしているつもりはもっと無い。そんなことは、もう何千年とやってきた。今ここで何もせずにいたら、また俺は『空っぽ』の状態に戻ってしまう気がする。前の俺に戻るくらいなら、俺は今の俺のままで死ぬことを選ぶ」

 

キッパリとそう言い切るナナシに、翼はそれ以上何も言うことができなくなった。自分の言葉では覆せない程の決意を、ナナシはその瞳に宿していたからだ。

 

「それに…俺はまだ、アイドル大統領が心から楽しんで歌う歌を聴いていないんだ!!このまま引き下がれるか!!首に縄をかけてでも連れ戻してやる!!ジッとなんかしていられるか!!」

 

力強くそう宣言するナナシの言葉に、メディカルルームにいる人間は思わず脱力してしまった。翼はナナシを掴んでいた手を離してしまい、思わず頭を抱えた。

 

「貴様は…この状況でもそれを言うか?」

 

「当たり前だ!いつも言っているだろう?世界はオマケ!一番はお前達の歌だ!お前達のことを考えると、アイドル大統領の歌に対する期待値も相当上がっているんだ。絶対に連れ戻して聴かせてもらう!その後でならいくらでも今回の責任を取ってやるさ。ガングニールの一撃を貰うなり、ロケットに括り付けて地球の外に放り出すなり、好きにしろ。できるなら行先は月が良いな。了子との約束もあるし一石二鳥だ」

 

「…はぁ、もういい。好きにしろ…ただし、マリアの相手は私か雪音がする。お前は暁、月読の横やりが無いように警戒しろ…偶には素直に守られていろ」

 

「おや?剣から盾に持ち換えるのか?まあ色々と固いし体形的にも装者の中では一番盾持ちが向いている…」

 

ガシッ!

 

再度ナナシの胸倉を掴んだ翼は、引き攣った笑みを浮かべながらナナシに声を掛ける。

 

「今の言葉の意味を聞かせて貰おうか?私の何が固くて、体のどういった点が盾のようだと言いたいのだ、貴様は?」

 

「前から頭が固いと言い続けているはずだぞ?お前と響、クリスの中では身長が一番大きくて長く鍛えているお前が一番盾を持つのに適していると言っただけだ。何がそんなに不服だったのか是非聞かせて貰いたいな?」

 

「うるさい!異性の体について言及するなど、非常識だろう!?」

 

「それこそ今更だな。未だに下着を含めた部屋の片付けを任せて、健康管理上体重も知っている。“解析”なんて使わなくても、SAKIMORIの諸々のサイズなんて大体把握している。今ここで答え合わせしてやろうか?」

 

「やめろ!!」

 

「あはははは!!」

 

そう言って普段通り騒ぐ翼とナナシを見て、響が笑い声を上げる。つられてメディカルルーム内の人間は笑い出した。お陰で、暗い空気が僅かに和らいだ。

 

「今回の件は、事態の鎮静化を急いだ我々のミスだ。だが、このままやられっぱなしでいるつもりは無い。それに…何か考えがあるのだろう?ナナシ君」

 

「ああ、気になることが一つある。ちょっと時間が掛かるかもしれないけど、今みたいに闇雲に捜索を続けるよりは手がかりが見つかるかも…まだ俺の妄想を信じてくれるなら、だけど…」

 

「当然だ。我々は君を、仲間のことを信じている。だが忘れるな。君は一人じゃない。君一人に責任を押し付けるような真似はしない。だから、ここから離れるなんて言わないでくれ。君の居場所は、ここだ」

 

「ハイハイ、なら少なくとも邪魔者扱いされない程度の成果は出して見せるよ」

 

そう言って部屋から出ようとするナナシの背中に、翼が声を掛けた。

 

「済まなかった。少し言葉が過ぎた」

 

「別に、本当のことだから謝る必要は無いだろ?」

 

「……」

 

「…悪い、冗談だ。本気にしてないから気に病むな。勝手に飛び出すような真似もしないから安心してくれ」

 

そう言って、ナナシはメディカルルームから出て行った。

 

「翼さん、ごめんなさい…いえ、心配してくれてありがとうございます」

 

「…立花、大丈夫なのか?体のこと、小日向のこと…」

 

「…体のことは、正直まだ整理ができていません。でも、兄弟子達が何とかしてくれると言うのなら、信じます。それに、未来ならきっと大丈夫です!マリアさん達のことも、一緒に過ごして、少しは通じ合えたものがあるって、信じていますから!」

 

「なら、最後までその想いをぶつけてみせろ!言葉より強いもの、知らぬお前達ではあるまい!」

 

「言ってること、全然分かりません、師匠!でも、やってみます!!」

 

 

 

 

 

「何で、てめえは笑っていられんだ?」

 

「ん?」

 

ナナシが振り返ると、そこにはナナシの後を追ってきたクリスが立っていた。

 

「あいつらに裏切られて、あの子が攫われて…この状況で、何でお前は、まだあいつらを連れ戻せる気でいられるんだよ!?」

 

「そう考えた方が楽しいからな」

 

「っ!?また…いつも、てめえは!?」

 

「お前も固いな、クリス。少しは肩の力を抜け」

 

「…てめえほど気楽に考えるなんてあたしには無理だ、ご都合主義」

 

「うーん…じゃあ、少しコツを教えようか?」

 

「コツ?」

 

「そう、“紛い物”の俺がやっている、都合の良い“妄想”の考え方」

 

そう言って、ナナシは笑いながらクリスに語り出した。

 

「まずは、自分にとって本当だったら面白い、嬉しいと思うことを探す。今回の場合は、『アイドル大統領達は裏切りなんてしていない、あの場であんなことをする理由があったんだ』って勝手に仮定する」

 

「っ!?てめえは、あいつが言ったことは嘘っぱちだって言うのか!?」

 

「いや、多分あれもアイドル大統領の本心だろう。自分が纏うガングニールよりも、妹の形見であるアガートラームに思い入れを持っていたことの説明も付く」

 

「なら…」

 

「まあ聞け。次にやるのは、この都合の良い仮定を信じられるだけの理由探しだ。何故アイドル大統領はあの時、俺達に裏切りを暴露した?わざわざあの場で裏切りをバラさずに、俺達と連絡を取らなければ、それだけ時間を稼ぐことができたはずだ。通信機に発信機が付いていることを警戒するなら、何処か遠くにおいて来れば良い」

 

「っ!?それは…」

 

「次に、何故人質として未来を選んだ?確かに未来は俺達の仲間だ。だからこそ、行動を起こして俺達に自分の居場所を伝えようとするリスクを抱えることになる。俺達の甘さを知っているあいつらなら、人質は学生の誰を選んでも有効なことを知っているはずだ」

 

「…確かにな」

 

「他にも、あいつらは通信を切った直後に俺が渡した“血晶”を砕いた。すぐに“念話”を繋げようとしたから間違いない。俺がまだ伝えていない能力がある事を警戒したとしても、砕くのは俺みたいな“紛い物”の力を仲間に見せてからでも良かったはずだ」

 

「……」

 

「まあ、それでもこの考えは、マリア達を信じる根拠にするには苦しいものだ。都合良くこう考えることもできるという、可能性の話だ…でも、信じたほうが、面白いだろ?」

 

そう笑って、ナナシは再び通路を進み始める。

 

「…てめえは、もしあたしが裏切っても、そうやって都合の良い“妄想”をするのか?」

 

クリスがそう問いかけると、ナナシは振り返ることなく答えた。

 

「それは無いな。そんな“妄想”は、考えるだけ時間の無駄だ」

 

「……」

 

 

 

「あれだけ幸せそうに歌うお前が、仲間を裏切る訳ないだろ?理由を探すまでもない。例え後ろから頭を打ち抜かれても、お前を疑うことは無い」

 

 

 

「っ!?」

 

「そんなこと考えるくらいなら、お前をからかう方法を考えた方が、よっぽど有意義だ」

 

そう言って、ナナシはクリスの前から遠ざかって行った。

 

「…クソッ、こっちがこれだけ頭を悩ませてることを、簡単に切り捨てやがって…お人好しのご都合主義め…」

 

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