戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第62話

「さて、いよいよだな」

 

指令室に集まった二課の面々は、モニターに表示された赤い点が一か所に留まっているのを確認した。

 

「途中の進路から予想はしていたけど、やっぱりフロンティアの封印された場所を目指していたのね」

 

モニターを見た了子は、F.I.S.が留まった場所の座標を見てそう呟いた。

 

「F.I.S.に気づかれないようにこちらも接近を開始している。後は…ナナシ君、頼んだ」

 

「了解」

 

弦十郎の言葉と共に、ナナシは未来に“念話”で連絡を取り始めた。

 

 

 

 

 

少し時間を遡り、装者達が弦十郎とトレーニングをしている時のことだ。

エアキャリアの廊下をウェル博士が歩き、その後ろを檻から出された未来がついて行っていた。

 

「その子をどうするつもりです?」

 

ウェル博士の進む廊下の先に、ナスターシャ教授が待ち構えていた。

 

「マリア達に人攫いの真似事までさせて連れ出したその子を使って、あなたは何をしようと言うのですか?」

 

「世界にとって必要な事をするだけです。安心してください、強制ではありません。この少女は私の立てた計画に自ら協力を約束してくれました。そうですよね?」

 

「…はい」

 

ウェル博士の言葉に、未来は暗い顔をしながらも、はっきりとそう答えた。

 

「そのようなこと、信じられる訳が…ゴホッ、ゴホッ!?」

 

「ナスターシャ、あなたはもう無理をせずに休んでいればいい。後のことは僕が上手くやっておきますから」

 

口を押えて咳き込むナスターシャ教授を残して、ウェル博士は廊下を進んで行った。一方、未来はそんなナスターシャ教授の様子を心配そうに見つめた後、背中をさすって彼女が落ち着くのを待った。

 

「大丈夫ですか?」

 

「…平気です。ありがとう」

 

「お体が悪いんですか?」

 

「あなたが気にする必要はありません…あなたは、本当に自らあの男に協力することを決めたのですか?」

 

「…はい、それが親友のために、私が出来ることだと考えたので」

 

「…そうですか」

 

そう言って黙ってしまったナスターシャ教授に、未来はポケットの中からあるものを取り出してナスターシャ教授に手渡した。

 

「あの…これを、預かって貰っていいですか?」

 

「これは…?」

 

「私が普段お世話になっている方から頂いた『お守り』です。優しいあの人なら、きっとあなたのことも守ってくれます」

 

そう言って未来は、ナスターシャ教授の手に『お守り』を取り付けた後、ウェル博士を追って廊下を走って行ってしまった。

 

 

 

 

 

「今、『お守り』を必要としているのは、あの子自身のはずなのに…噂通り、二課の人間は甘く…優しい人々の集まりなのですね」

 

そう呟き、ナスターシャ教授は自分の手に付けられた『お守り』を見つめていた。

 

「そして、それは本当ならあの子達も同じはず…あの子達を解放するため、フロンティアの封印を解くにはあの子達の力がまだ必要だと示すために行動しましたが…あの子達に十字架を背負わせるくらいなら、あの子達はあのまま二課に居続けた方が良かったのかもしれない…」

 

誰もいない部屋の中でそう後悔を言葉にするナスターシャ教授は、それでも瞳に力を宿しながら、これからの未来について思考を巡らせる。

 

「それでも、人類の…あの子達の未来のために、私は諦める訳にはいかない。あの男が欲望のままに行動すれば、救えるはずの命まで零れ落ちてしまう。だけど、満足に動くことができないこの体で、何処まで足掻くことができるか…」

 

 

 

(…未来、聞こえるか?周りに気づかれないようまず落ち着いてくれ)

 

 

 

「!!?」

 

ナスターシャ教授は、突然頭の中に響いてきた声に思わず体を硬直させる。

 

(“念話”を繋げているけど、今俺は近くにはいない。誰かと話している途中だったり、監視されていたら無理をする必要は無いが、可能ならいつも通り頭の中で会話してくれ)

 

ナスターシャ教授は、頭の中に響く謎の声にしばらく警戒した後…意を決して、声が指示したように脳内で会話を試みた。

 

(…あなたは、何者ですか?)

 

(うえっ!!?……申し訳ありません。こちらは特異災害対策機動部二課に所属しております、ナナシと申します。そちらは小日向未来様の“血晶”で間違いないと思うのですが、お念話口はどちら様でいらっしゃいますか?)

 

“念話”を繋いだ先が未来でないことに焦ったナナシが、まるで社会人の電話対応のような話し方で語り掛ける。

 

(…私はナスターシャ。ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤです)

 

(ああっ!アイドル大統領とチビッ子二人の母親か!)

 

(アイドル大統領?)

 

(ああ、悪い。マリアのことを勝手にそう呼んでいた)

 

(…随分と、あの子達と仲良くしていたみたいですね?)

 

(アイドル大統領の前であいつがフィーネ宣言する映像を流したり、切歌と調をちょっとした奇術でからかったりと、まあこっちは楽しませてもらったよ。あんたとも話をしたいと思っていたところだが、とりあえず未来の安否を聞かせて貰っていいか?あんたの口からで構わないからさ)

 

(…あの娘は、何らかの形でフロンティアの封印を解く鍵として、ドクターウェルが利用しようとしています)

 

(…どういうことだ?)

 

(詳細は分かりません。ですが、あの男はフロンティアの封印を解く手段のためにマリア達に指示を出していました。であるならば、恐らく…)

 

(…なるほど、何となく読めてきたな…ナスターシャ教授、あんたは俺達と協力するつもりはあるか?)

 

(…この状況でまだ、我々と手を取り合うつもりでいると?)

 

(ウチの大人共や歌姫達は、多少引っかかれたくらいで伸ばした手を引っ込めるような諦めの良い連中ではない。でも、無理やり掴んで引っ張り上げてやれるほどの力はない。捨てたくないなら、捨てさせたくないなら、どうか手を貸してくれ)

 

(……話を、聞かせて頂きましょうか)

 

 

 

 

 

(…それじゃあ、後はお互い手筈通りに、よろしくお願いします!)

 

(…一つ、あなた個人の考えを聞かせてください)

 

話を締めくくろうとしたナナシを、ナスターシャ教授が引き留めた。

 

(全く面識のない私を、何故すぐに信じる気になったのですか?フィーネの生存やあなたの情報など、決して軽々しく伝えて良いことでは無かったはずです。何故、そこまで…)

 

(それを答える前に、こっちからもあんたに聞きたかったことがある。聞いても良いか?)

 

(…何でしょう?)

 

(ナスターシャ教授、あんたが計画を立てたのって、本当に人類救済のためか?)

 

(……質問の意図が分かりません)

 

(本当は、レセプターチルドレンの存在を公にして、俺達みたいな組織に保護させるのが一番の狙いだったんじゃないのか?)

 

(世界の危機を前に、そんなことを考える訳はないでしょう。何を根拠にそんなことを…)

 

(確かに根拠のない俺の“妄想”だけど、母親が世界よりも自分の子供達を大切に想うのに、理由は必要なのか?)

 

(…あの子達が私を『マム』と呼ぶのは、私が訓練教官として指導していたからです)

 

(そうなのか?感情を読み取る“紛い物”の俺には、あんたを『マム』と呼ぶあいつらの感情は、家族に向けるものとしか考えられなかったから、全然気づかなかった)

 

(……)

 

(やっぱりあんたは、あのアイドル大統領の母親だな。悪役が向いていないところとか、そっくりだ…理由だったな?俺は歌を聴くのが大好きで、アイドル大統領のファンなんだ。あいつが大切にしている家族のために動けば、あいつのとても良い歌を聴けるかもしれない。それだけだ)

 

(…フッ、フフフッ…そうですか、あの子の歌のため、ですか…)

 

(あわよくば、あんたの歌も聴いてみたいな。あんたの感情が籠った歌、興味がある)

 

(…歌など、もう何年も口にしていません)

 

(なら、アイドル大統領と一緒に練習すればいい!切歌と調も一緒に口遊んで、あんた達が家族と笑って歌っているのを聴かせて貰えるなら、世界を救う報酬として、それ以上のモノはないな!)

 

ナナシの“念話”がそこで途切れる。ナスターシャ教授は、自分の役割と先程のナナシの言葉を頭の中で改めて整理する。

 

「あの子達と、笑って一緒に歌う…フフフッ、確かに、それが叶うのならば…世界を救うことぐらい、成し遂げてみせましょうかね」

 

 

 

 

 

ナスターシャ教授との“念話”を終えたナナシは、響達に状況を説明していった。

 

「まさか未来ちゃんが、“血晶”をナスターシャ教授に渡しているとはね…」

 

「まあ、お陰でナスターシャ教授とコンタクトを取ることができた。肝心の未来の状況は確認できなかったけど…」

 

「未来…」

 

響が心配そうに未来の名を呼ぶ。そんな響の頭を、ナナシは少し乱暴に撫でる。

 

「わわっ!?あ、兄弟子!?」

 

「未来も、ただ捕まっただけじゃなくて、何か考えがあって行動しているみたいだ。だから、何があってもお前はあいつのことを信じてやれ」

 

「…はい!」

 

響が、笑顔を作ってそう答えるのとほぼ同時に、二課本部に警報が鳴り響いた。

 

「ノイズのパターンを検知!」

 

「米国所属艦艇より応援の要請!」

 

「始まったか…弦十郎、行ってくる!」

 

「私も向かいます!」

 

「気を付けろ!」

 

「翼さん!兄弟子!わたしも…」

 

「死ぬ気か、お前!?」

 

翼達を追いかけようとする響は、クリスによって止められた。

 

「ここにいろって…な?お前はここからいなくなっちゃいけないんだからよ…頼んだからな」

 

そう言って、クリスも翼達の後を追った。

 

 

 

 

 

米国の兵士達が、艦艇の上でノイズと応戦していた。フロンティアの封印場所で待ち伏せていたのを、F.I.S.に見つかり襲撃を受けたようだ。

ノイズが米国の人間を炭化させる光景を大型ヘリの中で見ていたマリアは、唇を噛みしめて血を流していた。

 

「こんなことがマリアの望んでいることなの?弱い人達を守るために、本当に必要なことなの?」

 

調の問いに、マリアが無言を貫くと、調はヘリの扉を開く。

 

「調!?何やってるデスか!?」

 

「マリアが苦しんでいるのなら…私が助けてあげるんだ!」

 

調は切歌にそう言うと、ヘリから飛び降りる。

 

Various shul shagana tron

 

調は空中で聖詠を唱えて、シンフォギアを纏った。

 

「調…」

 

「連れ戻したいのなら、いい方法がありますよ」

 

切歌の肩に手をかけながら、ウェル博士は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

α式 百輪廻

 

空中で調は無数の丸鋸を飛来させ、ノイズを消滅させる。

その後、艦艇に着地すると、今度はスケート選手のような身のこなしで移動しながら、巨大丸鋸を操りノイズを切り裂いていく。

 

そうやってノイズの数を減らしていると、背後からノイズが奇襲を仕掛けようとしてきたが、そのノイズはギアを纏った切歌の鎌の一撃によって消滅した。

 

「切ちゃん!ありが…」

 

プシュッ!

 

調が切歌にお礼を言おうとしたところで、切歌が調の首筋に注射器を刺して何かを投与した。

 

「何を…?」

 

「Anti_LiNKER…適合係数を下げるものだそうデス」

 

切歌がそう言い終わるのと同時に、調のギアが動作を止めてしまう。

 

「ギアが、馴染まない…」

 

そして遂に、調はギアを纏うことすらままならず解除されてしまう。

 

「切ちゃん、どうして?このままだと大勢の人が…」

 

「でも!こうしないとまた家族がバラバラになっちゃうデス!!」

 

「っ!?」

 

切歌は、今にも泣きそうな顔で調に言い放った。

 

「アタシ達の力が足りないから、マリアはフィーネを演じて世界を敵に回すことになったデス!アタシ達が弱いから、マムを残してアタシ達は捕まったデス!」

 

「切ちゃん…」

 

「アタシは、マリアと、マムと、調と一緒なら…どんな世界だって構わないデス!世界がドッカンするよりも、家族が一緒に居られない方が嫌なんデス!だから…大好きな調に嫌われたとしても、アタシは調を連れて帰るんデス!!」

 

そう言って切歌が調に手を伸ばした…その時、海面から巨大なカプセルが浮上し、その中からナナシと、ギアを纏った翼とクリスが飛び出した。

 

翼が剣を手に切歌に接近し、切歌は鎌を手に応戦する。

 

「邪魔するなデス!!」

 

「それは無理だな。少し大人しくして貰う」

 

「ッ!?」

 

翼に気を取られている内に切歌の背後に回ったナナシが、切歌の腕を取って体を地面に押さえつけ、身動きを取れなくした。

 

「ぐあっ!?」

 

「切ちゃん!?」

 

「おい!ウェルの野郎はここにいないのか!?ソロモンの杖を使うあいつはどこにいやがる!!」

 

調を捕まえたクリスがそう問いかけるが、調は口を閉ざしてしまった。

 

 

 

 

 

「調!切歌!」

 

マリアが捕まった二人の名を呼ぶ。すると、ウェル博士が何かのボタンに手を伸ばす。

 

「ならば、傾いた天秤を元に戻すとしましょうよ。できるだけドラマティックに!できるだけロマンティックに!!」

 

そう言い終わると同時に、ウェル博士はボタンを押し込んだ。

 

「まさか…あれを!?」

 

 

 

 

 

Rei shen shou jing rei zizzl

 

戦場に、歌が響き渡る。

その声音を、装者達とナナシが聞き間違う訳は無く、だからこそ心をかき乱された。

 

閃光が艦艇を照らし、その数秒後に土煙を立てながら何かが装者達の前に着地する。

 

やがて煙は晴れて、二課本部のモニターを見ていた響は、思わず声を出した。

 

「未来…!?」

 

そこには、白と紫の鎧…シンフォギアを纏った小日向未来の姿があった。

 

ゆっくりと未来の瞼が開かれ、光の無い虚ろな瞳がナナシ達の姿を捉えた…

 

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