戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
「神獣鏡をギアとして、人の身に纏わせたのですね…」
マリアが座る操縦席の隣に、ナスターシャ教授が現れた。
「マム!まだ寝てなきゃ…」
マリアの制止を聞くことなく、ナスターシャ教授は言葉を続ける。
「あれは、封印解除に不可欠なれど、人の心を惑わす力…あなたの差し金ですね?ドクター」
「フン、使い時に使ったまでのことですよ」
鼻で笑いながらウェル博士は説明を始める。
「マリアが連れてきたあの娘は、融合症例第一号の級友らしいじゃないですか?」
「リディアンに通う生徒は、シンフォギアへの適合が見込まれた装者候補達…つまり、あなたのLiNKERによって、あの子は何も分からぬまま、無理やりに…」
「ん、ん、ん~、ちょっと違うかな?言ったでしょう?あの娘も同意の上だと。それにLiNKER使って、ほいほいシンフォギアに適合できれば、誰も苦労はしませんよ。装者量産し放題です」
「なら、どうやってあの子を…?」
「愛、ですよ!!」
「何故そこで愛!?」
予想外のウェル博士の言葉に、ナスターシャ教授が思わず声を上げる。
「LiNKERが、級友の命を救いたいと願う想いを神獣鏡に繋げてくれたのですよ!!やばいくらいに麗しいじゃありませんか!!」
「小日向が…!?」
「なんで、そんな恰好してるんだよ!」
目の前でアームドギアを展開する未来を見て、翼とクリスが動揺する。
「…フロンティアの封印を解くのに、ペンダントの状態だと出力が足りないと了子は考えていた。だから、それに気が付いたF.I.S.は未来を攫ったんだ…神獣鏡をシンフォギアとして纏わせて、出力を引き上げるために!」
ナスターシャ教授の話から考えていた最悪の“妄想”が、目の前で現実となったことに、ナナシは苛立ちを露わにする。
「あの装者は、LiNKERで無理矢理に仕立て上げられた消耗品…私達以上に急ごしらえな分、壊れやすい」
「ふざけやがって!!」
調の言葉に、クリスが悪態をつく。翼は未来を警戒しつつ、通信機で本部と連絡を取った。
「行方不明となっていた、小日向未来の無事を確認。ですが…」
「無事だと!?あれを見て無事だと言うのか!?だったらあたしらは、あのバカになんて説明すればいいんだよ!?」
二人がそう話している間に、未来はバイザーで目を覆い、一気に接近してきた。
「こういうのは、あたしの仕事だ!!」
クリスは調を翼の方に投げ渡し、ボウガンを手に未来へ向かって行った。
“QUEEN'S INFERNO”
クリスは未来に向けてエネルギーで形成された矢を連発する。未来はそれを素早く避けて海上へと移動していった。
未来を追いかけながら、クリスは手の武器をボウガンからガトリングへと切り替える。
“BILLION MAIDEN”
先程よりも数の多い攻撃に、未来は避け切れず被弾するが、まるで何も感じていないかのように未来はクリスに光線で反撃してきた。
(くっ…やりづれぇ!!助けるためとはいえ、あの子はあたしの恩人だ!!)
内心で舌打ちしつつ、翼達の居る艦艇まで戻ってきた未来に、クリスは腰部からミサイルを展開して発射する。
“MEGA DETH PARTY”
無数に発射されたミサイルを未来は避けようとするが、クリスがガトリングで動きを封じている間にミサイルが降り注ぎ、未来は爆炎に飲み込まれた。
煙が晴れて、倒れた未来を確認したクリスは、近づいて未来の頭の機械に手を伸ばそうとした時、機械から声が聞こえてきた。
『女の子は優しく扱ってくださいね。乱暴にギアを引き剥がせば、接続された端末が脳を傷つけかねませんよ?』
「ッ!?」
咄嗟に手を引いたクリスに、未来が立ち上がって扇子のようなアームドギアを円形に広げる。
「避けろ、雪音!!」
“閃光”
翼の声に反応したクリスは、咄嗟に体を捻って扇子から放たれた無数の光線を回避する。
「まだそんなちょせぇのを!?」
未来は、今度は脚部からアームドギアを円形に展開し…その口から、歌を奏で始めた。
「閃光…始マル世界 漆黒…終ワル世界 殲滅…帰ル場所ヲ 陽ダマル場所ヲ…」
(ッ!?未来の歌声…籠められた感情は本物。だけど…ふざけるな!!)
未来の歌を聴いたナナシは、腸が煮えくり返りそうだった。
(
“紛い物”を自称するナナシは、だからこそ、“本物”の感情が歪に捻じ曲げられていることが許せなかった。
そんな未来の歌でも、徐々に神獣鏡のギアは出力を上げていき、紫色の輝きが増していく。
クリスは一瞬だけ背後の翼達を確認した後、咄嗟に手に付けた“血晶”を使い、目の前に“障壁”を展開した。
“流星”
次の瞬間、未来のアームドギアから先程とは比較にならない規模の光線が放たれた。“障壁”は光線を受け止め、クリス達を守る…だが
「ッ!?クリス!そのままだとマズい!!」
「なっ!?」
ナナシが切歌を端に突き飛ばしてクリスの隣に移動し、自分でもう一枚“障壁”を展開する。その直後、クリスの“血晶”が砕けて消失した。
「くっ!!長くは…持たない!?」
ナナシが展開した”障壁”も、徐々に罅割れて今にも崩壊してしまいそうだった。
「だったら、リフレクターでぇぇぇぇっ!!」
クリスが叫びながら、腰部から金色の小さな結晶を無数に生成させる。ナナシの“障壁”が砕けるが、今度はクリスのリフレクターが光線の軌道を逸らして攻撃を防ぐ。
「調!今のうちに逃げるデス!消し去られる前に!!」
「っ!?どういうことだ!?」
切歌の叫びに、翼が思わず声を上げる。そうしている間に、クリスのリフレクターも徐々に分解されて数を減らしていた。
「何で、押されてんだ!?」
「無垢にして苛烈…魔を退ける輝く力の奔流…これが、神獣鏡のシンフォギア…」
翼に抱えられた調が、そう小さく呟いた。
「くっ!…うううっ…!?」
徐々にクリスとナナシに光線が迫り、どんどん追い詰められていく。
すると、上空から巨大な剣が落ちてきて、クリス達に迫る光線を遮った。
「ナナシ!雪音を!」
「分かっている!」
調を抱えた翼と、クリスを抱えたナナシが全力で後方へと下がる。剣を分解して迫る光線に、翼とナナシは次々と剣と“障壁”を展開して時間を稼ぐが、光線はその全てを貫き翼達に迫る。
「ナナシ、上だ!」
「了解!よろしくお願いします!」
翼とナナシの短いやり取りの直ぐ後、翼達の進行方向に巨大な剣が突き立つ。
「どん詰まり!?」
「喋っているとまた舌噛むぞ!!」
翼とナナシは剣を足場に一気に上空へと駆け上がる。直後、光線は翼達の真下を通り過ぎ、翼達は何とか窮地を脱したのだった。
「ッ!?てめえ、足が!?」
艦艇に着地したクリスが叫ぶ。良く見ると、ナナシの右足の足首から下が無くなっていた。“高速再生”で修復しているようだが、普段より治る速度が遅い。
「掠った…ガングニールの時と違って回復はするけど、速度が遅い。魔を退ける力…成程、聖遺物だけじゃなくて、“紛い物”の俺にも有効ってことか。個人的には納得だ。翼、あの光は“血晶”だと一瞬しか凌げない。クリスの“障壁”も途中から俺が展開していたけど、俺からの力の供給が間に合わずに消滅した感覚だった。気を付けろ」
「心得た」
ナナシが足を回復させている間に、調が切歌に向かって叫んだ。
「切ちゃん!ドクターのやり方では、弱い人達を救えない!」
「ッ!?…」
調の言葉に戸惑う切歌だったが、その場に通信機からウェル博士の言葉が響く。
『そうかもしれません。何せ我々は、かかる災厄に対してあまりにも無力ですからね。シンフォギアと聖遺物に関する研究データは、こちらだけの占有物ではありませんからね。アドバンテージがあるとすれば、せいぜいこのソロモンの杖!!』
エアキャリアの扉から身を乗り出したウェル博士が、ソロモンの杖を振るう。そこから無数のノイズが召喚され、米国の軍人達を次々と襲い始めた。
「ノイズを放ったか!?」
「くそったれが!!」
クリスはすぐに飛び出して、ガトリングとミサイルでノイズを殲滅し始めた。
(ソロモンの杖がある限りは、バビロニアの宝物庫は開きっぱなしってことか!!)
クリスが離れていったタイミングで、切歌が調を連れ戻すために、ナナシに鎌を振るう。ナナシは“収納”から取り出した刀でそれに応戦した。その隙に、未来がその場を離れて海上を進んでいく。
「翼!ここは俺に任せてお前もノイズの殲滅に向かえ!」
「っ!?だが、それでは小日向が…」
「大丈夫だ!お前は人命救助のことだけを考えてくれ!」
「…分かった。任せろ!」
「よろしくお願いします!」
翼がその場を後にし、ナナシは改めて切歌に視線を向ける。
「さて、切歌。お前は何のために戦っているんだ?」
「アタシは調を連れ戻すんデス!一緒にマリアとマムの所に帰るんデス!!」
「二課の暮らしは辛かったか?そんなに俺達の仲間になるのは嫌か?」
「楽しかったデスよ!ご飯は美味しくて、初めてお祭りに行って、沢山の人の前で歌って…とても暖かかったデス!!でも…それでも、アタシは家族と一緒が良いんデス!!辛くても、苦しくても、世界中の人に嫌われても…アタシは大切な家族の傍に居たいんデス!!」
切歌は泣きながら何度も大鎌をナナシに振るう。切歌の攻撃を防ぎながら、ナナシは黙って切歌の話を聞いた。
「世界の危機も!人類の救済も!正直もうよく分からないデス!アタシはただ、マリアもマムも、もう一人ぼっちにしたくないんデス!調にも帰ってきて欲しいんデス!家族がバラバラになるのだけは嫌です!そのために、悪い人にならなきゃいけないとしても!!」
「切ちゃん…」
ナナシの背後で切歌の想いを聞いた調が、小さく切歌の名を口にした。
その時、突然海面から水柱が上がり、そこから緒川が姿を現して調の両肩を押さえる。
「調!?」
「慎次!」
「人命救助は僕達に任せて!それよりもナナシさんは、未来さんの捕捉を!!」
「今手を打っている!だから慎次、そっちはよろしくお願いします!」
「了解です!」
緒川は調を抱えて、海の上を走ってその場から離れ始める。
「調ぇ!?待つデス!調を返すデス!!」
「行かせない」
「邪魔するなデス!!」
切歌は背部ユニットからナナシに向けて鎖を放つ。鎖はナナシを拘束し、ナナシの近くの地面に鎌の柄が突き刺さる。切歌の鎌はまるでギロチンのように形状を変えて、切歌はその後ろに足を付けていた。
「マスト…ダアアアァイ!!」
“断殺・邪刃ウォttKKK”
切歌はブースターで一気に加速し、ギロチンの刃がナナシの首に迫る。
「フン!」
ナナシは強引に鎖を引きちぎり、自由を得た後に、一歩だけ下がって…
ザシュッ!
…その体に刃の一撃を受けた。
「………え…?」
その結果に、誰よりも切歌が動揺した。刃はナナシの胸に半分以上食い込み、傷口から夥しい量の血液が溢れ出す。あっという間にナナシの足元には血だまりが出来上がり、一目で致命傷だと分かった。
「あ…あああ…」
切歌は青い顔で口から声を漏らして、自身の行動の結果を前に動けなくなる。
「ゴフッ…悪い訳は…ないだろう」
口から血を吐きながら、それでもナナシは切歌に語り掛ける。
「家族と一緒に居たい。家族を一人にしたくない。その想いが、悪い訳はないだろう。それがお前にとって、譲れない想いなんだろう?だけどな…今お前がやったのが、『人を傷つける』と言うことだ!このままだと、お前の家族達は、一生そんな想いを抱え続けることになるんだぞ!?それが嫌だから、調はお前達を止めようとしたんじゃないのか!?大切な家族を、守るために!!」
「ッ!!?」
「俺はお前の想いを否定しない。だけど、少し考えてみろ。傍に居ることが、本当に一緒に居るってことなのか?遠く離れたくらいで、お前達はバラバラになるのか?」
「そ、それは…」
「後で落ち着いて、ゆっくり考えるんだな。だから…」
ガシャアアアン!!
「なっ!!?」
ナナシが拳の一撃で、ギロチンを粉々に破壊し、上にいた切歌がバランスを崩す。隙だらけの切歌の手足を、ナナシは”血流操作”で地面に流れた血液を操って拘束した。
「今は眠っておけ」
「ぐあっ!?」
ナナシは身動きが取れない切歌の体に当て身を食らわせて、気絶させた。
体を修復し、気絶させた切歌を受け止めたナナシは、未来が去って行った方向へ視線を向ける。
「さて、後は『太陽』が『陽だまり』を取り戻すのを信じて、俺も人命救助に行くか」
未来がナナシ達から離れた艦艇に降り立つと、その艦艇に二課の潜水艦が横付けされる。その甲板には…響が立っていた。
「一緒に帰ろう、未来」
「…帰れないよ。だって私には、やらなきゃならないことがあるもの」
響の言葉に、未来はバイザーを開いて虚ろな目で響を見ながら答えた。
「やらなきゃならないこと…?」
「このギアが放つ輝きはね、新しい世界を照らし出すんだって。そこには争いもなく、誰もが穏やかに笑って暮らせる世界なんだよ?」
「争いのない世界…」
「私は響に戦ってほしくない。だから響が戦わなくていい世界を創るの」
響に戦って欲しくない。それはずっと前から未来が抱えている想い。偽りのない未来自身の想いだ。
「…だけど未来、こんなやり方で創った世界は、暖かいのかな?わたしが一番好きな世界は、未来が傍にいてくれる、暖かい陽だまりなんだ」
「でも、響が戦わなくていい世界だよ?」
「例え未来と戦ってでも…そんなことさせない!」
自分が傷つき、大切な人を傷つけることになったとしても…一緒に積み重ねて、強くなると決めた響は、迷うことなく宣言する。
「私は響を戦わせたくないの」
「ありがとう…でもわたし、戦うよ」
響はそう言って…シンフォギアを纏った。
「Balwisyall Nescell Gungnir tron」
ガングニールを纏った響は、未来に肉薄して拳を繰り出す。未来はそれを防ぎ、数秒の間、空中で攻防を繰り広げた二人は、距離を取って艦艇に着地する。
(熱い…体中が沸騰しそうだ)
響の体が淡く輝き、大きな熱を帯びていく。その中で、響は師と兄弟子とのやり取りを思い出していた。
それは、ナナシ達の前から未来が遠ざかって行った時だった。
(弦十郎、響、少し良いか?)
(!?どうした、ナナシ君?)
(何ですか、兄弟子?)
弦十郎と響に、ナナシから“念話”が届いたのだ。
(響、お前に未来の相手をしてもらいたい。弦十郎、サポートしてやってくれ)
(っ!?馬鹿な!?危険すぎる!響君の体は…)
(だからこそ、響に任せるべきなんだ…神獣鏡の力で、響と未来の聖遺物もまとめて消滅させる)
((!!?))
(ナスターシャ教授からの情報で、あの大型ヘリ…エアキャリアに搭載されている機器の情報を聞いた。未来がシンフォギアとして神獣鏡を纏っていても、フロンティアの封印を解けるかは未知数。なら、恐らくF.I.S.の連中はあの光線を束ねて出力を最大限高めてからフロンティアに照射しようとするはずだ。響、未来になるべく光線を使わせて、タイミングが来たら未来と一緒に飛び込め!二人共助かるには、それしか方法は無い)
「…師匠、やらせてください!お願いします!」
「だが…」
「死んでも未来を連れて帰ります!!」
「死ぬのは許さん!!!」
「じゃあ、死んでも生きて帰ってきます!!それは、絶対に絶対です!!」
響の言葉に、それでも難色を示す弦十郎に、藤尭と友里から声が掛かる。
「過去のデータと現在の融合進度から計測すると、響さんの活動限界は二分四十秒になります!」
「例え微力でも、響ちゃんを支えることができれば、きっと…」
それを聞いた弦十郎は、再び“念話”をナナシと響に繋げて確認する。
(オーバーヒートまでの時間は限られている。勝算はあるのか?)
((思いつきを数字で語れるものかよ!!))
(!!?)
ナナシと響から、全く同じ想いが弦十郎に伝えられる。
(前に言っただろ?後で後悔するぞって。お陰で俺達は、あんたの行き当たりばったりな所をしっかり受け継いだぞ?…信じてくれ、お師匠様)
ナナシの言葉と、響の真っ直ぐな瞳に、弦十郎は苦笑した後、ゆっくりと頷いた。
『胸に抱える時限爆弾は本物だ!作戦時間の超過、その代償が確実な死である事を忘れるな!』
未来の猛攻を防ぐ響に耳に、弦十郎からの通信が届く。
(死ぬ…わたしが…死ぬ…)
「死ねるかあああ!!!」
響が未来に膝蹴りを放ち、未来を吹き飛ばす。未来は無数の鏡を展開して光線を響に向けて放ち続ける。響は、溢れ出るエネルギーをブースターの推進力に変え、空中を跳ねるように移動することで、光線を回避し続ける。
未来と響の交戦中に、エアキャリアから無数のシャトルマーカーが発射され、未来が放った光線を反射させて一点に集中するよう動き出す。
「戦うなんて間違ってる…戦わない事だけが、本当に暖かい世界を約束してくれる…戦いから解放してあげないと…」
未来が虚ろな瞳で、そんな言葉を口にしていると…
パキパキパキッ!
「ぐっ…あ、あああぁぁ…!!」
響の体中から、黄金の鉱物のようなものが生えだして、響が苦痛に声を漏らす。
『未来、一緒に強くなろう。わたし達を傷つけるのを怖がらないで。わたし達への想いを押し殺さないで。一人にならないで…』
未来の頭に、響との約束が駆け巡る。苦しむ響の見た未来は、自分の本当の目的を思い出して、自分の意志とは関係なく動く体に抵抗する。
(違う!私がしたいのはこんな事じゃない…!)
「こんなことじゃ、ないのにいいいぃぃ!!」
絶叫する未来のバイザーが開き、涙を流す未来の顔が表に現れた。それを見た響が、光線を避けながら未来に向かって突っ込んで行く。
(誰が未来の身体を好き勝手してるんだ!!)
胸の激情のままに、響は未来を抱きかかえる。全身を蝕む苦痛の中で、それでも響は未来を離さない。
「離して!!」
「嫌だ!離さない!もう二度と離さない!!」
「響ぃいいいい!!」
「離さない!!絶対に!!」
響はシャトルマーカーによって反射された光が一点に集束されているのを確認し、ブースターを全開にして目的地へと向かう。
「そいつが聖遺物を消し去るっていうんなら…こんなの脱いじゃえ!!未来ぅううううううう!!!」
集束された強力な光線のど真ん中に、響が未来を抱えて飛び込み、二人の体は光に飲み込まれた。光線はそのまま海の底へと照射され、海中から凄まじい光が放たれ始めた。
ノイズの殲滅を終えたクリスは、遠目に響達の様子を眺めていた。周囲にはノイズによって炭化した米国の人間だったものが散らばっている。
「…分かっている。あたしが背負わなきゃならない十字架だ」
『料理に使う包丁で誰かが人を傷つけた場合、包丁を作った人間まで罪に問われるのか?』
『悩んで抱え込むくらいなら誰かに相談しろ。あんまり続くようならあんぱんと牛乳持って妹弟子や恩人と一緒に全力で茶化しに行くぞ』
クリスの頭に、以前翼から伝えられたナナシの言葉が過る。だが…
(あたしは、そんなに都合よく考えることが出来ねえよ…ナナシ…)
そう考えたクリスは、俯いていた顔を上げて、何かを決意するように瞳に力を宿す。
「雪音!こちらは無事にノイズを殲滅した!そちらは大丈夫か!?」
「…ああ、こっちも問題ねえ」
そんなクリスの元に翼が駆け寄ってくる。その直後に…
「こっちも大丈夫そうだな。二人共怪我は?」
気絶した切歌を抱えたナナシも、二人の傍に駆け寄ってきた。
「翼、響が上手くやったみたいだ。これで恐らく響と未来は助かった。急いで二人を保護してくるから切歌のことを頼む」
「本当か!?分かった!立花達を頼む!」
切歌を翼に預けて、ナナシは急いで響達の元へ向かって行った。ナナシの背を心配そうに翼が見送っていると…
バアンッ!!
…翼の背後から銃声が響いたと思うと、翼は衝撃を受けて切歌と共に地面に倒れ込んだ。
「ぐあっ!?…ゆ、雪音…?」
地面に倒れた翼が、困惑しながらクリスの名を口にする。そんな翼に、クリスは冷たい視線を向けながら、銃を構えた。
「…さよならだ」
そう言ってクリスは、躊躇うことなくその指で引き金を引いた。