戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第64話

「…あれ?…ここは…?」

 

メディカルルームのベッドで、未来が体を起こす。未来が周りを見回していると、部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。

 

「未来!」

 

響が未来の名を呼びながら真っ先に駆け付けて未来を抱きしめる。響の後に、翼、奏、友里、そしてナナシが入室してきた。

 

「小日向の容態は?」

 

「LiNKERの洗浄も完了。ギア強制装着の後遺症も見られないわ」

 

「良かった…本当に良かった~!」

 

「響、その怪我…」

 

響の顔には、いくつもの絆創膏が貼ってあった。

 

「うん」

 

「私の…私のせいだよね…」

 

「うん、未来のお陰だよ」

 

「…えっ?」

 

涙を流す未来は、響の言葉に疑問符を浮かべる。

 

「ありがとう、未来」

 

「響…?」

 

「わたしが未来を助けたんじゃない。未来がわたしを助けてくれたんだよ!」

 

未来が困惑していると、メディカルルームのモニターにレントゲン写真が映し出された。

 

「あのギアが放つ輝きには、聖遺物由来の力を分解し、無力化する効果があったの。その結果、二人のギアのみならず、響ちゃんの身体を蝕んでいたガングニールの欠片も、除去されたのよ」

 

「小日向の強い想いが、死に向かって疾走するばかりの立花を救ってくれたのだ」

 

「わたしが本当に困った時、やっぱり未来は助けてくれた…ありがとう!!」

 

「私が…響を…?」

 

「うん!」

 

響の明るい笑顔を見て、未来も喜びと安堵から涙ぐみながら微笑んだ。

 

「本当に、無事で良かったよ。未来も…響も」

 

奏は響の近くに近づき、響の頭を優しく撫でた。

 

「奏は凄い気にしていたものな?自分が響にガングニールを埋め込んだせいだって」

 

「…うるさいよ、ナナシ。自分だってコソコソ響を助けようと動いていた癖に」

 

「ん?何のことだ?響を助けたのは未来と弦十郎達、そして…マリアだよな?」

 

ナナシはそう言って未来の前まで移動すると、未来にある事を確認し始めた。

 

「違和感はあったんだ。未来が無理やりマリアに攫われたなら、何故ガングニールを纏ったマリアに襲われて、未来の”血晶”が無事だったのか…未来、お前自分からマリアに付いて行っただろ?響のことも、マリアから聞いて知ったんだよな?」

 

「…はい」

 

 

 

 

 

マリアが未来を誘拐した時のことだ。

 

(小日向未来、あなたは立花響のために、命を懸ける覚悟はある?)

 

マリアは未来に槍を突きつけた状態で、“血晶”を使って未来に“念話”で語り掛けていた。

 

(っ!?これって、“念話”?それに、響のためにって…?)

 

(立花響の体は、ガングニールに浸食されている。このままシンフォギアを使い続ければ、遠くない未来にあの子は命を失う)

 

(っ!!?そんな!?そんなのって!!?)

 

(…あなたなら、あの子の命を救えるかもしれない…でも、そのためには、あなたにも命を懸けて貰う必要がある。小日向未来、あなたは…親友のために命を懸けられるかしら?)

 

そう問いかけて来るマリアの目を、未来は真っ直ぐに見つめ返し、自分の想いを伝えた。

 

(はい!例えどれだけ危険だとしても、私も響も、生きることを諦めません!絶対に響を助けて、私も生きて帰ります!だから…どうか、響を助ける方法を教えてください!!)

 

(…それがあなたの覚悟なのね…分かったわ。なら…)

 

「小日向未来、あなたは私と一緒に来てもらう」

 

 

 

 

 

「あの『お守り』に不思議な力がある事は、その時に何となく気が付きましたけど、私がやろうとしていることを皆に知られると止められちゃう気がして、ただ隠し持っていました。それで、あのウェルって人に知られる前に、咄嗟にナスターシャさんにお渡ししました。ナナシさんなら、あの人のことも守ってくれると思って…」

 

「マリアは、私達を裏切った訳では無かった…?」

 

「あいつは俺と奏の話を聞いて、シンフォギアと装者の感情には密接な関係がある事を知っていた。そして、響のことを大切に想う未来に神獣鏡を纏う可能性を見出した。それが世界のためなのか、響のためなのか…多分、マリア自身も分かっていないんじゃないか?自分のことって、案外分からないからな。シンフォギア装者は本当に面倒な奴ばかりだ」

 

「「貴様(あんた)にだけは言われたくない!!」」

 

「そして、今現在面倒なことになっている奴がもう一人…」

 

「…あれ?そう言えば、クリスは?」

 

未来の言葉に、翼達の顔が曇り、俯いてしまう。そんな中、ナナシだけがいつも通りの様子で未来に説明していった。

 

「翼を後ろから発砲して、気絶した切歌を連れ去ってF.I.S.のところに行った」

 

「えっ!!?」

 

 

 

 

 

「こんなものが海中に眠ってたとはな…」

 

「あなたが望んだ新天地ですよ」

 

封印が解けたフロンティアの中枢を目指して、マリア達とクリスが歩いていた。

 

「本当に私達と一緒に戦うことが、戦火の拡大を防げると信じているの?」

 

「ふん、信用されてねえんだな。そこのチビ一人が手土産じゃ不服だったか?気に入らなければ、鉄火場の最前線で戦うあたしを後ろから撃てばいい」

 

「チビって言うなデス!そんなに変わらない…むしろ、アタシの方が大きくないデスか!?」

 

「はあっ!?んなわけあるか!!あたしの方が…」

 

「もちろん、不審な動きをすれば、そうさせて頂きますよ」

 

話が脱線しかけるクリス達を、ウェル博士が強引にそう言って黙らせる。

 

「着きました。ここがジェネレータールームです」

 

そうこうしている間に、マリア達は目的地に到着した。そこには、巨大な球体のようなものが設置されていた。

 

「なんデスか?あれは…」

 

切歌の疑問にウェル博士は答えずに、球体へと近づいていく。その背後から…覚醒したネフィリムがゆっくりと近づいていき、ネフィリムはウェル博士を飛び越えて球体へと嚙みついた。

 

ネフィリムの体はまるで球体へと溶け込むように崩れていき、心臓だけが球体に根付くように血管を伸ばしていた。そして、球体は徐々に黄金色に輝き出し、フロンティアが起動した。

 

「エネルギーがフロンティアに行き渡ったようですね」

 

「さて、僕はブリッジに向かうとしましょうか。ナスターシャ先生も制御室にて、フロンティアの面倒をお願いしますよ」

 

ウェル博士はナスターシャ教授にそう言ってその場を後にする。切歌は球体を眺めながら、ナナシの言葉を思い出していた。

 

『今お前がやったのが、『人を傷つける』と言うことだ!このままだと、お前の家族達は、一生そんな想いを抱え続けることになるんだぞ!?それが嫌だから、調はお前達を止めようとしたんじゃないのか!?大切な家族を、守るために!!』

 

『少し考えてみろ。傍に居ることが、本当に一緒に居るってことなのか?遠く離れたくらいで、お前達はバラバラになるのか?』

 

あの時、血まみれになったナナシの姿を思い出して切歌の手が震える。

 

(マリアやマムは、こんな気持ちを抱えてるんデスか?調はそれが嫌で飛び出したんデスか?ずっと一緒に居たのに、気づいてあげられなかったんデスか?調は気づいていたんデスか?…アタシは、どうすれば良いんデスか?)

 

「調ぇ…」

 

答えが出ない問題に、切歌は俯いて今ここにいない家族の名前を口に出す。一方、クリスもまた、球体を眺めながらかつてのナナシの言葉を思い出していた。

 

『あれだけ幸せそうに歌うお前が、仲間を裏切る訳ないだろ?理由を探すまでもない。例え後ろから頭を打ち抜かれても、お前を疑うことは無い』

 

「今でもまだ、そんな甘いことが言えるのかよ?…ナナシ…」

 

 

 

 

 

「いや、まあクリスがこんなこと仕出かしたのは、間違いなく『ソロモンの杖』が原因なんだろうけどさ…」

 

一同が指令室に集まったところで、ナナシがそう言いだした。

 

「あいつ、自分がソロモンの杖を起動させたことをずっと気に病んでいたからな。自分で取り返すためにF.I.S.に向かったんだろう」

 

「確かにクリスちゃん、移送作戦の時に辛そうにしていました…」

 

「…お前が私に頼んだ伝言は、そういうことか」

 

「ああ、いい加減自分から周りを頼るように、お前に伝言を頼んだり、ちょいちょい声を掛けてはいたんだけどな…やっぱり難しいな、人間は」

 

「…いいや、違う」

 

ナナシの言葉を聞いた翼は、ファミレスでの事を思い出してそう呟いた。

 

「雪音は…恐らく、私に何かを言おうと…頼ってくれようとしたんだ…それを私は、自分の無力を嘆くだけで、碌に聞こうともしないで…仲間の声に耳を貸さないなど…」

 

「そい!」

 

「おりゃ!」

 

ズビシッ!

 

翼の言葉を遮り、ナナシと奏が翼の頭にチョップを食らわせた。

 

「っ!!?な、何を…?」

 

「相変わらず固いなSAKIMORI?そんなだから頼ってもらえないんだ」

 

「ほんの少しで良いからナナシの軽さを見習ってみな?試しに笑ってみたらどうだ?」

 

「こ、このような状況で笑うことなど…」

 

「「だから固い!」」

 

ズビシッ!!

 

再度翼の頭に、ナナシと奏がチョップする。

 

「ちょっとくすぐってみよう。無理やりでも笑えば力も抜けるだろ?」

 

「俺は頭皮マッサージでもしようか?この固い頭が少しでも柔らかくなるように」

 

「あ、あはははは!?か、奏、やめっ…痛っ!?イタタタタッ!?ナナシ!?二人共やめろ!!?」

 

二人に揉みくちゃにされた翼が解放され、涙目で二人を睨む。

 

「余裕を持たない奴が頼って貰える訳ないだろ?頼って欲しいなら後輩の前でくらい不敵に笑って見せなよ、翼」

 

「ただ飼い猫が道に迷っただけだろ?居場所は分かっているんだからさっさと連れ戻せば終わりだ」

 

「…簡単に言ってくれる…あとナナシ、仲間を動物扱いはいい加減よせ」

 

「響が犬!クリスが猫!これだけは譲れない!SAKIMORIは犬だな。それも忠犬に見せかけたポンコツ犬。主人が家の中に居るのに気づかないでずっと家の前で主人の帰りを待ち続けているみたいな…」

 

「ブフッ!?アッハハハハ!!」

 

「あはっ、あははははは!!」

 

「フッ、フフッ…ひ、響、笑い過ぎ…フフッ…」

 

「お、お前達…!」

 

ナナシの例えに、奏と響が大笑いし、未来も笑うのを堪え切れずにいた。良く見ると、周りの大人達も笑うのを堪えている様子に、翼は顔を赤くして震える。そんな翼に、ナナシは近づいて翼の頭の包帯に視線を向ける。

 

「クリスは俺達の仲間だ。あの寂しがり屋が裏切るなんてある訳ない。それでもわざわざ根拠を探すなら…翼の“血晶”が、クリスの弾丸を防がなかった。俺の能力がポンコツだと言う理由以外に原因があるならば…それは、『攻撃』では無かったからだ。不器用なあいつなりに、お前に助けを求めたんだろう。この俺の“妄想”…翼、お前はどう思う?」

 

「…考えるまでもない。雪音は私達の仲間だ。最初から疑うことなどない」

 

「なら、さっさと迎えに行ってやれ…負担をかけて悪い。響とクリスが抜けた今、動けるのがお前一人(・・・・)になってしまったのが辛いところだ」

 

「案ずるな。すぐに雪音を連れ戻して、ドクターウェルの企みを止めてみせよう!」

 

「……?」

 

ナナシの言葉に、未来が疑問を感じたところで、二課の潜水艦が大きく揺れ動いた。

 

 

 

 

 

フロンティアのブリッジにマリアとウェル博士が到着した。二人が部屋の中心にある球体の傍に近づくと、ウェル博士は懐から何かの薬品が入った注射器を取り出した。

 

「それは?」

 

「LiNKERですよ。聖遺物を取り込む、ネフィリムの細胞サンプルから生成したLiNKERです」

 

ウェル博士は自分の左腕に注射器を当てて、LiNKERを注入した。すると、ウェル博士の腕がまるでネフィリムのそれになったかのように変形する。その腕でウェル博士が球体に触れると、球体の表面にある模様が光り出した。

 

「ふへへへ…早く動かしたいなぁ…ちょっとくらい動かしてもいいと思いませんか?ねぇ、マリア?」

 

「ッ!!」

 

ウェル博士は下卑た笑顔でマリアにそう問いかけてきた。そのタイミングで、フロンティアの外の様子を表示するモニターに米軍の艦艇が写り込んだ。それを見たウェル博士は笑みを深めながら制御室のナスターシャ教授に連絡を入れる。

 

『これは…!』

 

「どうやら、のっぴきならない状況の様ですよ?」

 

ナスターシャ教授に外の様子を見せたウェル博士は、視線をモニターから自分の左腕に移す。

 

「一つに繋がることで、フロンティアのエネルギー状況が伝わってくる。これだけあれば、十分にいきり立つぅ!」

 

『早過ぎます!!ドクター!!』

 

「さぁ、いけぇー!!」

 

ナスターシャ教授の制止も聞かずに、ウェル博士はフロンティアに命令を伝える。すると、フロンティアの中心から三本の光が上空へと放たれた。光は宇宙へと向かう過程で一つに束なり、巨大な手を形成したかと思うと、やがて月まで到達し、月面に指を掛けた。

 

「どっこいしょおおお!!!」

 

ウェル博士の掛け声と共に光の手は霧散し、同時にフロンティア全体が海面から浮上し始めた。

 

 

 

 

 

フロンティアの浮上によって二課の潜水艦は激しい海流に飲み込まれ、内部の人間は立つことすらままならない状況だった。

 

「一体何が!!?」

 

「広範囲にわたって海底が隆起!我々の直下からも迫ってきます!」

 

浮上するフロンティアと潜水艦が接触し、衝撃が走る。そんな中で、ナナシは何かに集中しながら呟いた。

 

「ドクターウェル、やりやがったな…」

 

 

 

 

 

浮上したフロンティアに対して、米国の艦艇が砲撃を開始する。だが、フロンティアには傷一つ付けることができなかった。

 

「楽しすぎてメガネがずり落ちてしまいそうだぁ!!」

 

ウェル博士がフロンティアに命令を下すと、フロンティアの下部にある突起が発光し、米国の艦艇を空中に持ち上げる。艦艇はそのまま見えない力に押しつぶされるように形を変え、やがて爆発してしまった。

 

「ふぅん…制御できる重力はこれくらいが限度の様ですねぇ…ふふふはははははは!!!」

 

(果たしてこれが、人類を救済する力なのか…?)

 

最早狂気を感じさせる顔で笑い続けるウェル博士を見て、マリアは疑問を持たずにはいられなかった。

 

「手に入れたぞ!蹂躙する力を!!これで僕も英雄になれるぅ!!この星のラストアクションヒーローだぁ~!!いひひひひひ!!!やったぁー!!!」

 




執筆するにあたり、改めてキャラのプロフィールなどを確認した際に、初めてクリスの身長が切歌より低かったことを知りました。何となく調が一番低くて、次が切歌だと思い込んでました。
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