戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
翼とクリスは激しい攻防を繰り広げていた。クリスの放つ弾丸を翼が避け、僅かな隙に翼が斬撃を飛ばす。跳躍して斬撃を避けたクリスが再度弾丸を放ち、翼は弾丸を剣で弾いてやり過ごす。
「何故弓を引く!雪音!!」
翼の問いに、クリスは無言を貫いた。
「その沈黙を、私は答えと受け取らねばならないのか!」
互いの攻撃を受け、捌き、避けては接近と後退を繰り返し、立ち位置を何度も入れ替えながら二人は戦闘を続ける。その合間に、翼はクリスに声を掛け続ける。
「何を求めて手を伸ばしている!」
翼はナナシとの話でクリスの目的に察しは付いている。それでも、呼びかけずにはいられない。そして攻防の最中、遂にクリスがその口を開く。
「あたしの十字架を、他の誰かに負わすわけにはいかねえだろ!!」
「何?…!?」
クリスが言葉を発する際に、翼はクリスの首に何かが取り付けられているのに気が付いた。チョーカーのように見えるそれは、赤く点滅を繰り返しており、何らかの仕掛けが施されているのは明らかだった。
「ぐあっ!?」
翼がチョーカーに気を取られている隙に、クリスが翼に発砲する。不意を突かれた翼は剣で弾丸を防ぐが、勢いを殺しきれずに後方へ体を弾かれた。
一方で、調と切歌も戦闘…いや、喧嘩を続けていた。
「切ちゃんは、マリアが苦しんでいるままで良いの!?」
「良くないデス!でも、マリアは全部駄目にならないように、なるべくたくさんの人を助けようとしているデス!全部助けようとして失敗したら、マリアはもっと苦しむデス!」
「マムだって、このままだと本当に手遅れになっちゃう!」
「分かってますよ!でもそれは、月が落ちても落ちなくても変えられないじゃないデスか!なら、マムがやろうとしたことを最後までやってあげるべきデス!」
「あの人達と協力できれば、月の落下も、マムの病気も何とかできるかもしれないでしょう!?」
「何で…何で調はあの人達がアタシ達を助けてくれるって信じられるんデスか!?いっぱい、いっぱい優しくして貰ったのに…アタシ達は、あの人達を裏切ったんデスよ!?今は大丈夫でも、全部が終わってアタシ達の力が要らなくなったら、裏切り者、もう要らないって言われるかもしれないんですよ!?調は怖くないんデスか!!?」
「怖いよ!!でも、悪いのは私達だもん!そう言われても仕方ないでしょ!?それならその時は一緒に、許して貰えるまで謝ろう?それからお願いしよう?マムやマリアを助けてって」
「許してくれる訳ないデス!アタシはナナシさんのこと切っちゃったデス!血がドバっと出て、口からも血を吐いて苦しそうで…調達は良くても、アタシは絶対無理デス!!アタシだけ一人ぼっちデス!!それだけは嫌デス!!!怖いデスよ!!!!」
口論が激しくなるに連れ、二人の攻撃も激しさを増していく。大鎌と丸鋸が接する度に火花が上がり、宙を舞う鎌の刃と丸鋸の数も次第に増えていく。
「やっぱり調は、アタシのこと嫌いになったんデス!!アタシよりもあの人達の方が好きなんデス!!大好きな調を騙したから、アタシは嫌われてしまったんデス!!!」
「勝手に決めないで!!私だって切ちゃんのこと大好きだもん!!大好きだから一緒にマリアとマムを助けようって言ってるんでしょ!!?あの人達と一緒に!!」
「なら調が戻ってくれば良いじゃないデスか!!調がアタシのこと大好きなら、許して貰えないアタシだけが一人ぼっちになるようなこと言わないデス!!信じられないデス!!」
「切ちゃんの臆病者!!!」
「調の分からず屋!!!」
二人は一度攻撃の手を止めて、互いにギアの形状を変化させる。
“緊急Φ式 双月カルマ”
調は二つのアームの丸鋸をまるでプロペラの様に変形させ、頭上と足元に位置付けることで自身の体を宙に浮かび上がらせる。
“封伐・PィNo奇ぉ”
切歌は肩に付いている左右二本ずつのアームを刃に変形させ、まるで悪魔の羽の様に広げてみせる。
「「大好きだって…言ってるでしょおおおお!!!」」
二人はお互いの想いと共に武器をぶつけあい、激しい火花を舞い上がらせる。
二課の潜水艦で、弦十郎と緒川が現場に向かうために車に乗り込んで準備をしていた。
「世話のかかる弟子のお陰でこれだ」
「きっかけを作ってくれたと、素直に喜ぶべきでは?」
緒川の言葉に弦十郎がフッと笑みを浮かべる。その時、指令室から通信が届いた。
『司令!』
「なんだ!?」
『始まりました!』
弦十郎が持つタブレットに、マリアの姿が映し出されていた。
『私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を最小限に抑えるため、フィーネの名を騙った者だ』
『ナナシ君が上手く彼女の協力を取り付けられたようです。今、世界各地に中継されています』
「後は、彼女の歌に世界が応えてくれれば良いのですが…」
「……」
緒川の懸念に対して、弦十郎は無言でただジッとタブレットの映像を見つめていた。
マリアが、自分が行動を起こした経緯の説明を終えて、いよいよ全人類に対して自分の想いを伝え始めた。
「全てを偽ってきた私の言葉が、どれほど届くか自信はない。だが、歌が力になるという真実だけは、信じてほしい!」
そう言ってマリアは、世界中の人々が見守る中で…聖詠を唱えた。
「Granzizel bilfen gungnir zizzl」
黒いガングニールを身に纏い、マリアは全ての人類に対して言葉を告げる。
「私一人の力では、落下する月を受け止めきれない。だから、貸して欲しい!皆の歌を、届けて欲しい!!」
そして、マリアはありったけの想いを籠めて…歌い出した。
(セレナが助けてくれた私の命で、誰かの命を救って見せる。それだけが、セレナの死に報いられる!!)
マリアの想いに呼応するように、マリアが身に纏うガングニールが赤く輝き始めた。
潜水艦のハッチが開き、弦十郎と緒川を乗せた車が現れる。
「緒川!」
「分かっています!この映像の発信源を辿ります!」
緒川はアクセルを踏み込み、車を発進させて映像の発信源へと向かった。
調と別れた響は、ブリッジにいるマリアの元へ向かうために、きつい傾斜の建物を走って登っていた。
(誰かが頑張っている!私も負けられない!)
背後で大きな爆発が起こるが、響は気にすることなく目的地に向かって進み続ける。
(進むこと以外、答えなんてあるわけがない!!)
困っている人に手を伸ばす…そのために、響はただ真っ直ぐに進んで行った。
クリスと翼は未だに戦闘を続けていた。クリスは翼の接近を許さず、翼はクリスの放つ弾丸を全て弾いて防いだ。頬に汗を流すクリスに、遠くから二人の戦闘を観戦していたウェル博士から通信が届く。
『ちゃっちゃと仕留めないと、約束の玩具はお預けですよ?』
その言葉を聞き、クリスの顔に焦りが浮かぶ。
(ソロモンの杖…人だけを殺す力なんて、人が持ってちゃいけないんだ!)
そんなクリスの首元で、チョーカーが赤く点滅していた。
(あれが雪音を従わせているのか!)
翼はそう確信し、剣を構えながらクリスに声を掛ける。
「犬の首輪を填められてまで、何を為そうとしているのか!?」
「汚れ仕事は、居場所の無い奴がこなすってのが相場だ。違うか?」
クリスの言葉を聞いた翼は…フッと、不敵な笑みを浮かべる。
「首根っこ引きずってでも連れ帰ってやる。お前の居場所、帰る場所に」
「ッ!?」
クリスは翼の言葉に狼狽え、つい顔を背けてしまう。
「お前がどんなに拒絶しようと、私はお前がやりたいことに手を貸してやる。それが、片翼では飛べぬことを知る私の…先輩と風を吹かせる者の果たすべき使命だ!」
翼は笑みを浮かべながら、クリスを真っ直ぐに見つめてそう宣言した。
(おやおや、随分と不敵な笑みが上手になったじゃないか?くすぐった甲斐があったか?それともナナシのマッサージが効いたか?)
(…こんな時まで茶化さないで、奏)
(アハハハ…翼のやりたいことは、あたしが、周りの皆が助けてやる!だから、さっさとあたし達の可愛い後輩を安心させてやりな、翼!)
(ああ、もちろんだ!)
“血晶”を通して、モニターを見ていた奏から届いた“念話”に、翼がそう答えた。
「その仕上がりで偉そうなことを!!」
クリスは瞳に涙を溜めながら叫ぶ。
『何をしているのですか?素っ首のギアスが爆ぜるまで、もう間も無くですよ?』
「ッ!…」
ウェル博士の脅しに、クリスは少しだけ顔を伏せた後…翼の方を真っ直ぐに見つめた。
「…風鳴、先輩」
「!!?」
クリスの口から、初めて翼の名が告げられた。
「次で決める!昨日まで組み立てて来た、あたしのコンビネーションだ!」
「…ならばこちらも真打をくれてやる!」
そう言って笑みを浮かべる翼を見て、クリスも翼に笑みを返して武器を構える。
クリスは翼に向かって発砲した後、拳銃をボウガンへと変形させる。翼は弾丸を躱しつつ剣を巨大化させ、蒼ノ一閃を放つ。飛来した斬撃はクリスの左手のボウガンを破壊するが、クリスはすかさず右手のボウガンで矢を放つ。クリスが放った結晶の矢は空中で無数に分裂し、翼の体を広範囲で攻める。翼が巨大化した剣を盾にして矢を防いでいる内に、クリスが腰部のギアを展開しミサイルをありったけ発射した。
“MEGA DETH PARTY”
それに対して、翼は上空に無数の剣を展開させて、ミサイルを迎え撃った。
“千ノ落涙”
ミサイルと剣は空中でぶつかり合い、大爆発を引き起こした。
「ぐわあああっ!!」
「ぐはっ!!」
クリスと翼の姿は、爆炎に飲み込まれて見えなくなった。
「ひやっはーーー!!!願ったり叶ったりぃ…してやったりぃ!!!」
その光景を見ていたウェル博士は、笑いながら嬉しそうにその場を飛び跳ねていた。
一方で、調と切歌は未だに刃を交えていた。二人は歌を奏でながら攻撃を繰り広げる。同じ女神ザババに由来する聖遺物で作られたシンフォギアを纏うためか、二人の口から紡がれる歌はまるで共に歌うために作られたかのような調和を感じるメロディーを奏でながら、二人の攻撃はより過激なものへと変貌していく。手数も技の威力も拮抗する二人の戦いには決定打が無く、両者共に息を整えるために一度手と歌を止めた。
「切ちゃん…どうしても引けないの?」
「引かせたいのなら、力ずくでやってみせるといいデスよ」
切歌はそう言って、調にLiNKERの入った注射器を投げ渡した。
「LiNKER…!」
「ままならない想いは、力ずくで押し通すしかないじゃないデスか」
切歌はもう一つ注射器を取り出して自分の首にあてがい、LiNKERを投与する。それを見た調も覚悟を決めて、自身にLiNKERを投与して、二人は互いの全力を出すために…絶唱を奏で始めた。
「「Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el baral zizzl……Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el zizzl…」」
絶唱を奏でた二人のギアが、溢れ出す力に呼応して形を変えていく。
「絶唱にて繰り出されるイガリマは、相手の魂を刈り取る刃!分からず屋の調から、ほんの少し負けん気を削れば!!」
切歌の手にする大鎌は、柄が持ち主の身の丈の倍以上の大きさまで伸びて、刃もそれに見合うだけの大きさへと巨大化した。
「分からず屋はどっち!?私が望む世界は、皆が一緒に居られる世界…そこには、切ちゃんもいなくちゃ駄目!!」
調の両手足のギアが巨大化し、まるで丸鋸で手足を作ったロボットのような形態へと変化する。
「でもアタシは、調の信じた人達とは一緒になれないデス…それなら、どんな酷い世界でも、アタシが家族を…調を守るんデス!!そしてずっと、一緒に居続けるんデス!!」
互いに強化したギアが接触し、弾き飛ばされる。切歌は大鎌のブースターを全開にして、加速によって勢いをつけた一撃で調の左腕のギアを破壊した。
「ドクターのやり方で助かる人達も、大切な人を失ってしまうんだよ!?」
上空へと舞い上がった切歌に向けて、調が想いを伝えるために叫ぶ。
「お願い、信じて…あの人達は、きっと切ちゃんとだってまた手を繋いでくれる!!」
「ッ!?…アタシは、こうするしかないんデス!例え、アタシが調に…調に嫌われてもおおおお!!」
切歌が振るった大鎌の一撃が、調の右腕にあるギアまで破壊する。
「切ちゃん…一人になんかさせない…私は絶対、大好きな切ちゃんを笑って暮らせる世界に連れて行く!!」
武器を失った調に切歌の大鎌の一撃が迫る。それに対して、調は何も持たない右腕を前に突き出した。すると…
ガキィィィン!!
…切歌の大鎌は、調の前に現れた『何か』にはじき返された。
「え…?」
完全に虚を突かれた切歌は、思わず声を出して困惑する。
「やぁあああああああ!!」
その隙を逃さず、調は掛け声と共に切歌の大鎌に回し蹴りを繰り出した。調の渾身の一撃を受け、切歌の大鎌は調の足のギアと共に砕け散った。
「ぐああっ!?」
衝撃で切歌は地面へと落下する。調はギアを元の状態へと戻して、ゆっくり切歌の傍へ近づいて行った。
「調…今の、は…?」
「あの人達の…先生の、力…」
そう言って調が切歌に見せるように右手を前に出す。調の右手には、出撃直前に弦十郎が渡してきた“血晶”が填められていた。切歌の大鎌の一撃を受けた“血晶”は、役目を終えたように二人の前で塵となって消滅する。調は伸ばした右手をそのまま広げて、切歌に差し出した。
「切ちゃん、一緒に行こう?あの人達は、マリアとも、マムとも…切ちゃんとだって、手を繋いでくれる」
「…本当に…あの人達は許してくれますか?…あの人達のお願い、叶えてあげなかったデス…それだけじゃなくて、アタシは…ナナシさんを切っちゃいましたよ?…あの人を殺そうとして…酷い怪我をさせて…」
「許して貰えないのが、怖い?」
「……はい」
「響さんは、裏切った私にも手を差し出してくれた。前に私が何度も振り払ったのに、絶対に私が手を取ってくれるって信じて待ってくれた。そして今は、マリアと手を繋ぐために、マリアの元まで向かってくれている。だから、切ちゃんとだってきっと手を伸ばしてくれる。後は、切ちゃんが手を伸ばせば良いだけ…勇気を出して、切ちゃん」
「勇気、デスか…」
「先生のことは、多分大丈夫。だって、響さんが言っていたでしょう?先生は、あの人達の中で一番のお人好し…優しい人だって。ちゃんと謝れば、きっと許してくれる。怖いなら、もう片方の手は私が握っている。切ちゃんのことは、絶対に一人ぼっちになんかしない」
「…分かった、デス…ちゃんと、あの人達にゴメンナサイします…調…しらべぇ…騙して、傷つけて、ゴメン…ゴメンナサイ…」
調の手を取り、泣きじゃくる切歌が落ち着くまで、調は静かに傍で待ち続けた。