戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第68話

「ガングニールに、適合だと…!?」

 

ギアが解除され、元の服に戻ったマリアが、ガングニールのシンフォギアを纏う響の姿に驚愕していた。

 

「うわああああ!!」

 

自分の窮地を察したウェル博士がブリッジから逃走を図る。

 

「こんなところで…うわああ!!?」

 

ウェル博士は途中で階段から足を踏み外し、転げ落ちて地面に体を打ち付ける。

 

「ぐふっ!?…こんなところでぇ…終われる、ものかぁ!!」

 

そう叫んでウェル博士がネフィリムの腕を地面に叩きつけると、そこから地面に穴が広がる。それを見た響は動こうとするが、目の前でマリアが疲労と緊張で倒れそうになったために慌てて彼女を支えた。

 

「ウェル博士!」

 

そこへ、弦十郎と緒川がブリッジへと駆けつけるが、ウェル博士は穴の中に飛び込み、穴はすぐに塞がれてしまった。

 

「響さん!そのシンフォギアは!?」

 

「マリアさんのガングニールが、わたしの歌に応えてくれたんです!」

 

響がそう答えた直後、フロンティア全体が揺れ動いた。

 

『重力場の異常を計測!』

 

『フロンティア、上昇しつつ移動を開始!』

 

潜水艦からの通信で、フロンティアの現状が報告されてくる。それを聞いたマリアが、座り込んだまま響に話しかけてきた。

 

「今のウェルは…左腕をフロンティアと繋げる事で、意のままに制御できる」

 

 

 

 

 

フロンティア内部に逃走したウェル博士は、その廊下を歩きながら何やらフロンティアへと指示を出し続けていた。

 

「ソロモンの杖が無くとも…僕にはまだフロンティアがある…!邪魔する奴らは…重力波にて、足元から引っぺがしてやる!!」

 

 

 

 

 

「フロンティアの動力は、ネフィリムの心臓…それを停止させれば、ウェルの暴挙も止められる。お願い…戦う資格のない私に変わって…お願い…」

 

マリアは、消え入りそうな声で響達にウェル博士を止めるように懇願した。

 

「調ちゃんにも頼まれてるんだ」

 

「……え?」

 

響の言葉に、俯いていたマリアが顔を上げる。

 

「マリアさんを助けてって…だから、心配しないで!」

 

響がマリアに微笑みながらそう言ったすぐ後、ウェル博士が穴を空けた辺りの地面を、弦十郎が拳で破壊して道を作り出した。

 

「師匠!」

 

「ウェル博士の追跡は、俺達に任せろ。だから響君は…」

 

「ネフィリムの心臓を止めます!!」

 

「行くぞ!」

 

「はい!」

 

響の返事を聞いた弦十郎と緒川は、破壊した地面からフロンティア内部へと侵入していった。

 

「待ってて!ちょーっと行ってくるから!」

 

響はマリアに明るくそう言って、フロンティアの周辺に浮かぶ岩を足場に跳躍しながら外に飛び出した。その背中を、マリアは心配そうに見送っていた。

 

 

 

 

 

響が地面に着地すると、そこには翼とクリスの二人が居た。

 

「翼さん!クリスちゃん!」

 

「立花!」

 

響が二人の名を呼んで近づき、翼も響の名を呼び返すが、クリスだけは気まずそうに響から目を逸らしてしまう。

 

「もう遅れは取りません!!だから…」

 

「ああ、一緒に戦うぞ!」

 

「はい!!」

 

翼と会話した響は、クリスの方に視線を向ける。そして、クリスがソロモンの杖を手にしているのを見て、近づいてクリスの両手を握った。

 

「ッ!?」

 

「やったね、クリスちゃん!!きっと取り戻して帰ってくると信じてた!!」

 

「お、おう…ったりめぇだ!」

 

ぶっきらぼうにそう言い放つクリスに、響と翼が笑みを浮かべていると、三人に弦十郎から通信が届いた。

 

『本部の解析にて、高出量のエネルギー反応を特定した!!おそらくはそこがフロンティアの炉心、心臓部に違いない!!装者達は本部からの新情報に従って急行せよ!!』

 

「行くぞ!!この場に槍と弓、そして、剣を携えているのは私達だけだ!!」

 

そうして、三人の装者達は移動を開始した。

 

 

 

 

 

「ひとんちの庭を走り回る野良猫め!!フロンティアを喰らって同化したネフィリムの力を、思い知るがいい!!!」

 

装者達の様子をモニターで見ていたウェル博士がそう叫ぶと、炉心に同化したネフィリムの心臓が赤く輝きだした。

 

 

 

 

 

装者達が目的地に進んでいると、突然目の前の地面が動き出して何かの形へと変化し始めた。

 

「何っ!?」

 

「今さら何が来たって!」

 

土から作り出されたそれは、やがて生物のような質感へと変化していき、巨大な化け物として三人の前に姿を現す。化け物は口を開いて咆哮を上げると、背中からミサイルのようなものを飛ばしてきた。三人が跳躍してその場から退避すると、ミサイルが三人の立っていた地面に当たり爆発した。

 

「あれはまさか、櫻井女史が言っていた自立型完全聖遺物か!?」

 

翼は了子から聞いていたネフィリムの情報から、化け物の正体を推察する。化け物…進化を遂げたネフィリムは、クリスに向かって口から炎の塊を吐き出し、クリスは再度跳躍してその攻撃を躱す。炎が当たった地面は熱せられてまるでマグマのようになっていた。

 

「だとしても張り切りすぎだ!!」

 

 

 

 

 

装者達が苦戦する様子を、ウェル博士が笑いながら見ていた。

 

「喰らい尽くせ!僕の邪魔をする何もかもを!!暴食の二つ名で呼ばされた力を…示すんだぁ!!ネフィリイイイイム!!!」

 

ウェル博士の叫びに呼応するように、モニターに映るネフィリムが大きな咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

マリアが、ブリッジの階段を呆然とした状態で降りていた。

 

「私では、何もできやしない。セレナの歌を…セレナの死を…無駄なものにしてしまう…」

 

 

『お前は本当に無理だと諦めたのか?お前の覚悟はその程度のものだったのか!?』

 

 

マリアの頭に、最後に交わしたナナシとの会話が過る。

 

「こんな…こんな何もできない弱い私に、できることなんて…」

 

 

『マリア・カデンツァヴナ・イヴ、他人を欺き、世界を欺いてきたお前は、今度は自分の心まで欺く気なのか!?』

 

 

「…欺いている?私が、私自身を…?だとしたら、今の私の心は一体何を…」

 

 

『煩わしいことなんか全部忘れてしまえ!お前は、お前が成し遂げたいことだけをやればいい…お前ならできるよ、マリア』

 

 

「…分からないわよ…私が成し遂げたいことって…私なんかに、何ができるって言うのよ…セレナ…私はどうすれば…」

 

(…マリア姉さん)

 

ただ一人、何もできずに己の無力を嘆き、涙を流すマリアの耳に、声が聞こえた気がした。マリアはその声に導かれるように頭を上げると、マリアは頭上から差し込む暖かな光の中に、無くなった妹の姿を見た。

 

「セレナ…?」

 

(マリア姉さんがやりたいことは何?)

 

夢か、現実か…呆然とするマリアは、目の前に姿を現した妹の問いに対して、自身の心にある願いを口にする。

 

「…歌で、世界を救いたい。月の落下が齎す災厄から、皆を助けたい」

 

そう答えたマリアに、セレナは近づいてきてマリアの手を取る。

 

(生まれたままの感情を、隠さないで…)

 

「…セレナ」

 

マリアの目の前で、セレナは瞳を閉じて静かに歌い出す。

 

(りんごは浮かんだお空に…)

 

「りんごは落っこちた地べたに…」

 

マリアは、セレナの歌に続く歌詞を自然と口に出していた。

 

Apple…マリア達の故郷に伝わる、わらべ歌。かつて姉妹で共に歌った想い出の歌を、再び妹と共に歌うマリアは、何もかもを忘れて微笑みながら歌詞を口にしていた。

 

マリアの歌は、フロンティアを通して世界中に響き渡った。歌を聴いた人々は、静かで、優しいそのメロディーを聴いて、まるで祈りを捧げるように瞳を閉じる。そして、無意識の内にその口から同じメロディーを口にし始める。その数は次第に増えていき、やがて世界中の人々がAppleの歌を口遊んでいった…

 

 

 

 

 

「歌が、聴こえる…」

 

瓦礫を跳ね除け、頭から血を流しながら起き上がったナナシは、モニターに映る地球と、世界中から聴こえてくる歌声を前に、怪我を治すことも忘れて立ち尽くす。了子とナスターシャ教授は、ナナシが咄嗟に展開した“障壁”によって無傷で守られていた。

 

「これは…!マリアちゃんの歌に、世界中の人間が応えた…!?」

 

「世界中のフォニックゲインが、フロンティアを経由して、ここに収束している!これだけのフォニックゲインを照射すれば、月の遺跡を再起動させ、公転軌道の修正も可能…!」

 

 

 

 

 

『マリア!マリア!!』

 

「ッ!?マム!!?」

 

ナスターシャ教授から届いた通信を聞き、マリアは急いでブリッジの制御端末に近づいた。

 

『あなたの歌に、世界が共鳴しています!これだけフォニックゲインが高まれば、月の遺跡を稼働させるには十分です!月は私達が責任を持って止めます!』

 

「マム!!」

 

『もう何もあなたを縛るものはありません。行きなさい、マリア…』

 

「マム…」

 

ナスターシャ教授の言葉を聞き、その意味を察したマリアは涙を流す。だが…

 

『何を勝手に今生の別れみたいなセリフを口にしている!!』

 

「ッ!?ナナシ…?」

 

『ナナシちゃん!?』

 

『あなたは、一体何を…?』

 

突然通信に割り込んできたナナシに、全員が困惑する。

 

『マリア、お前は凄いな。本当に歌で世界が一つになった…お前が使命を果たしたんだ。なら、ナスターシャ教授は…お前の母親は、俺が絶対に生きてお前の元まで送り届けてやる!!』

 

「えっ!?」

 

『ナナシちゃん!?』

 

『馬鹿な考えはお辞めなさい!私はもう病で長くない。あなた達だけなら、幾らでも生きて帰る手段はあるはずです。私のことは…』

 

『だが断る!!』

 

『っ!?』

 

『生憎と、無理無茶無謀は俺のお師匠様の専売特許だからな!その弟子の俺は、この程度じゃ諦めない!地球への帰還も、あんたの病気も、ご都合主義の“紛い物”が何とかしてやる!だから…生きるのを諦めるな!!』

 

『…ナスターシャ、観念しなさい。こうなったナナシちゃんは止まらないわ。この子は、諦めるって言葉を知らないもの』

 

『…あなた達は、どこまで…』

 

ナスターシャ教授の言葉が途切れ、再びマリアに対してナナシが言葉を掛ける。

 

『“紛い物”の俺を、お前が信じてくれるかは分からないけど、もし無事にナスターシャ教授をお前のところに送り届けられたなら…また、お前の歌を聴かせてくれるか?アイドル大統領!』

 

「…全く、あなたという人は…良いでしょう!オーディエンスの期待には応えてあげる!だから…頼んだわよ、『悪夢』!」

 

涙を拭い、瞳に力を宿したマリアが立ち上がる。その顔にはもう、迷いは一切見られなかった。

 

『…後で会いましょう、マリア。今は行って、私にあなたの歌を聴かせなさい』

 

「OK、マム!!世界最高のステージの幕を開けましょう!!」

 

 

 

 

 

「了子!ナスターシャ教授!少し席を外すぞ!」

 

マリアとの通信を終えたナナシは、二人にそう言い残してその場を離れていく。

 

「ナナシちゃん、何処へ向かうの!?」

 

「実験してくる!何も無策であんな約束をした訳じゃない。帰り支度をして来るから、世界の命運は二人に託す!よろしくお願いします!」

 

「…簡単に言ってくれますね」

 

「全くね。だけど…信じてくれるなら、応えてあげましょう!」

 

「ええ!」

 

ナナシを見送った了子とナスターシャ教授は、月の遺跡を再起動するために行動を開始した。

 

 

 

 

 

一方で、装者達はネフィリムに苦戦を強いられていた。翼が振るう剣も、響の拳による一撃も、全く効いた様子が無い。

 

「なら、全部乗せだ!!」

 

クリスがあらゆる銃火器を展開して全弾をネフィリムに叩き込むが、傷一つ負うことなくネフィリムは炎の塊を吐いて反撃してきた。

 

「うわあああ!!」

 

「雪音!」

 

直撃は免れたが、クリスは爆発の余波で吹き飛ばされる。クリスの身を案じる翼に、ネフィリムが腕を振り下ろす。翼は間一髪でその一撃を回避し、攻撃が当たった地面は衝撃で大きく抉れた。

 

「翼さん!」

 

翼に呼びかけた響に対して、ネフィリムがその腕を蠢かせ、人体ではあり得ない動きで腕を伸ばして攻撃してきた。不意を突かれた響は、攻撃に対応できずに立ち尽くす。すると、ネフィリムの腕に鎖が巻き付いて腕の動きが止まった。

 

「デェェェス!!」

 

動きを止めた腕に、切歌が展開したギロチンの刃が下ろされてネフィリムの腕を切断する。その直後、背後から奇襲を仕掛けた調が、丸鋸でネフィリムの胴体を切り裂いた。

 

「わああ!!」

 

二人が来たことに、響が歓喜の声を上げる。

 

「シュルシャガナと…」

 

「イガリマ、到着デス!!」

 

「来てくれたんだ!!」

 

「とはいえ、こいつを相手にするのは、結構骨が折れそうデスよ」

 

そう言って振り返った切歌達の視線の先には、既に切られた腕と胴体を復元させたネフィリムが咆哮を上げていた。

 

「だけど歌がある!!」

 

突然響いたその声が聞こえた方向に、装者達が視線を向けると、宙に浮かぶ岩の上にマリアが立っていた。

 

「「マリア!」」

 

マリアを見た調と切歌がいち早くマリアの元まで駆け寄り、響達も続いてマリアの元に近づいて行った。

 

「マリアさん!」

 

「もう迷わない!だって、マム達が命懸けで、月の落下を阻止してくれている!」

 

 

 

 

 

「出来損ない共が集まったところで、こちらの優位は揺るがない!!焼き尽くせ!!ネフィリイイイイム!!!」

 

フロンティア内部で叫ぶウェル博士の命令を聞き、ネフィリムがこれまでで一番大きな炎の塊をマリア達に向かって放つ。炎はマリア達にぶつかり、マリア達の姿は爆炎に包まれて見えなくなった。

 

「うひひひひひ…ひーははははははは!!」

 

その光景を見たウェル博士は、邪魔者が居なくなったことに声を出して笑う。

 

Seilien coffin airget-lamh tron

 

「あははははは…は?」

 

爆炎の中から聴こえてきた歌声に、ウェル博士の笑い声はピタリと止まった。

 

 

 

 

 

爆炎が晴れると、マリアを中心に球体状に展開されたフィールドによって、マリアと他の装者達が守られていた。マリアの胸元には、罅割れて機能していないはずのアガートラームが、マリアの歌に応えて輝いていた。

 

(調がいる…切歌がいる…マムも、セレナもついている。皆がいるから…このぐらいの奇跡…)

「安いもの!!」

 

 

 

 

 

その光景を目の当たりにしたウェル博士は、驚きながらも笑みを崩さない。

 

「装着時のエネルギーをバリアフィールドに!?だがそんな芸当、いつまでも続くものではなあああい!!」

 

そう言って、ウェル博士は再びネフィリムに攻撃命令を出した。

 

 

 

 

 

ウェル博士の命令を聞き、ネフィリムが再度口から炎の塊を放つ。迫り来る炎を前に、響が皆の前に出る。

 

「セット!ハーモニクス!!S2CA、フォニックゲインを力に変えてえぇぇ!!」

 

響が両手のギアを重ね合わせ、迫り来る炎に拳を叩きつける。六人の力を合わせたその一撃は、ネフィリムの放った炎を容易く霧散させた。

 

「惹かれ合う音色に、理由なんていらない」

 

翼が調に手を差し出すと、調は少しだけ躊躇いがちに手を伸ばして、その手を取った。

 

「あたしも、つける薬がないな」

 

「それはお互い様デスよ」

 

クリスが苦笑しながら差し出した手を、切歌も苦笑しながら握った。

 

「調ちゃん!切歌ちゃん!」

 

響が笑いながら差し出した手を、調と切歌はしっかりと握った。

 

「…あなたのやってること、偽善でないと信じたい。だから近くで私に見せて。あなたの言う人助けを…私達に…」

 

「うん!」

 

調の言葉に、響は笑って頷いてみせた。

 

六人は歌声を重ね合わせ、紡いだ想いがフォニックゲインを高めていく。

 

『絶唱六人分!たかだか六人ぽっちで、すっかりその気かあああ!?』

 

ネフィリムを介してウェル博士の声が響く。それと同時に、ネフィリムの全身から赤い光線が何本も放たれて、装者達のギアを分解していく。状況は絶望的…だが、ウェル博士は知らない。フロンティアには今、マリアが掴み取った『奇跡』が集まることを…

 

(六人じゃない…わたしが束ねるこの歌は!!)

 

 

「七十億の、絶唱おおおおおおおおお!!!!」

 

 

フロンティアに集まった全人類のフォニックゲインを束ねることで、六人のシンフォギアが姿を変える。

 

エクスドライブ…奇跡を纏った六人は、光り輝くシンフォギアと共にネフィリムへと向かって突き進む!!

 

 

「響き合う皆の歌声がくれた…シンフォギアだああああああああ!!!!」

 

 

六人は流星のように光の軌跡を残しながら進み、ネフィリムへと到達する。その瞬間、ネフィリムの姿は虹色の渦に飲み込まれ、渦は宇宙の彼方まで登って行った。渦が収まった時には、ネフィリムの姿は跡形もなく消滅していた。

 

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