戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

70 / 212
第69話

「なん…だと…?」

 

跡形もなくネフィリムが消し飛ぶ光景を見たウェル博士が、地面に膝をついて呆然とする。

 

「ウェル博士!」

 

「ッ!!?」

 

そこに、背後から弦十郎と緒川が迫ってきた。

 

「お前の手に世界は大き過ぎたようだな!」

 

ウェル博士が咄嗟に制御端末に手を伸ばすが、それよりも先に緒川が発砲する。弾丸は弧を描いて地面へ向かい、ウェル博士の左腕の影に命中した。

 

“影縫い”

 

「なっ!!?」

 

「あなたの好きにはさせません!」

 

緒川の影縫いによってウェル博士の左腕はピクリとも動かない。だが、それでもウェル博士は諦めようとしない。

 

「奇跡が一生懸命の報酬なら…僕にこそおおおおお!!!」

 

全力でネフィリムの左腕に力を籠め、腕の血管が破れて血が噴き出す。両目からも血を流しながら無理やり力を籠めることで、ウェル博士は力づくで影縫いを破って制御端末に左腕を叩きつけた。それによって、フロンティアに命令が下される。

 

「何をした!!?」

 

「ただ一言、ネフィリムの心臓を切り離せと命じただけ!!」

 

「「!!?」」

 

弦十郎達の前で、フロンティアのコアである球体が赤く輝き始めた。

 

「こちらの制御から離れたネフィリムの心臓は、フロンティアの船体を喰らい、糧として暴走を開始する!!そこから放たれるエネルギ-は、一兆度だああああ!!フハハハハハハハ!!!」

 

ウェル博士は両手を広げて、狂ったように笑い出す。弦十郎は、そんなウェル博士の傍にゆっくりと近づいて行った。

 

「僕が英雄になれない世界なんて、蒸発してしまえば…」

 

「フン!!!」

 

ドゴンッ!!

 

「うわぁ!!?」

 

弦十郎がウェル博士の隣にあった制御端末を粉砕する。弦十郎の行動にウェル博士は悲鳴を上げて口を閉ざした。

 

「壊してどうにかなる状況では、なさそうですね」

 

フロンティアのコアは依然として赤い光を放ち続け、徐々にその輝きを増していく。弦十郎は装者達に現状を伝えるため、通信機を取り出した。

 

 

 

 

 

「分かりました。臨界に達する前に対処します…っ!?」

 

弦十郎から通信を受けた翼がそう答えていると、翼の視線の先、マリアがいたブリッジのある建物から放電のような現象が起きていた。まるで、増加するエネルギーが外に漏れだすように、放電は徐々にその輝きを増していった。

 

 

 

 

 

ウェル博士を連れ出した弦十郎達は、車で二課の潜水艦に戻っていた。フロンティアの崩壊に伴い、重力場で浮かび上がっていた岩が各地で落下する中を車は進んでいく。

 

「確保だなんて悠長なことを…僕を殺せば簡単なこと…」

 

ウェル博士が悪態をついている途中で、巨大な岩が弦十郎達の車に向かって落下してきた。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」

 

「はあああああああっ!!」

 

ドゴォォォン!!

 

ウェル博士が情けない悲鳴を上げるが、弦十郎が掛け声と共に拳を繰り出し、車より数倍大きな岩を一撃で粉砕してしまった。

 

「殺しはしない。お前を、世界を滅ぼした悪魔にも、理想に殉じた英雄にもさせはしない。どこにでもいる、ただの人間として裁いてやる!」

 

「…ちくしょおおお!!!僕を殺せえええ!!!英雄にしてくれえええ!!!英雄にしてくれよおおおおお!!!!」

 

狂ったように叫んで暴れるウェル博士に取り合うことなく、弦十郎達はハッチから潜水艦へ入って行った。

 

 

 

 

 

ネフィリムの心臓はフロンティアを取り込むことでどんどんエネルギーを増幅させ、遂に留めることが出来なかったエネルギーの一部が暴発を起こして、コアの上部にあった建物が跡形もなく吹き飛ぶ。

 

「ぐっ…!!」

 

「うわっ!!」

 

爆風に煽られた装者達が腕で顔を守って耐える。爆風が収まると、装者達の前でフロンティアの形状が徐々に変化していった。

 

 

 

 

 

潜水艦に戻った弦十郎達は、ウェル博士を収容して指令室に入るとすぐに指示を出し始める。

 

「藤尭!出番だ!」

 

「忙し過ぎですよ!!」

 

「ぼやかないで!」

 

地震のような揺れの中で、文句を言いつつ迅速な行動を取るオペレーター達の働きで、潜水艦から発射されたミサイルが周囲の地面に命中、爆発を起こし、地面を砕いてフロンティアから潜水艦が落下することで、弦十郎達はフロンティアからの脱出に成功した。

 

 

 

 

 

切り離されたフロンティアの制御室で、了子とナスターシャ教授が最後の仕上げに動く。

 

「フォニックゲインの照射継続…ゴホッ!!」

 

「ナスターシャ!無理をしないで、後はこちらでできる!!」

 

口から血を吐くナスターシャ教授に声を掛けながら、了子が凄まじい勢いで端末を操作していく。

 

「まさか私が、月遺跡を再起動することになるなんて、皮肉なものね…月遺跡、バラルの呪詛…管制装置の再起動を確認…月軌道、アジャスト開始!」

 

了子が最後の命令を下し、月が公転軌道上に戻って行く。その直後に、ナナシが了子達の元へ戻ってきた。

 

「ただいま!了子、ナスターシャ教授、月は!?」

 

「たった今、月遺跡の再起動に成功したわ!これでもう、月が落下する心配は無いはずよ!!」

 

「流石はできる女の了子と、アイドル大統領の母親、ナスターシャ教授だ!なら、後は地球に帰るだけだ!」

 

「地球に帰る方法が見つかったの!?ナナシちゃん!!?」

 

「帰るだけなら何とか。翼達を助けたり、ナスターシャ教授の容体がこれ以上悪化する前に間に合うかは賭けになる!」

 

「分かったわ!どうすれば良い!?」

 

「まずは…」

 

 

 

「…本当に、これだけで良いのか?」

 

「ナナシ、あなたは一体、何をしようと…?」

 

ナナシの指示に従い、了子…ネフシュタンの鎧を纏ったフィーネが、ナナシが“収納”から取り出した寝袋に包まれたナスターシャ教授を抱えていた。ナナシはナスターシャ教授の車椅子を“収納”に仕舞い、フィーネに声を掛ける。

 

「了子とナスターシャ教授は、“血晶”を絶対に手放さないように注意してくれ」

 

そう言って、ナナシは“障壁”を立方体状に展開し、完全に二人の周囲を包み込んだ。そして、ナナシはしゃがみこんで地面に…フロンティアに手を付ける。

 

「ナナシ、本当にどうするつもりだ?」

 

「まあ、見ていてくれ。こっちが上手くいくかは、これから試すところだ…!」

 

そう言って、ナナシは…切り離されたフロンティアを、丸ごと“収納”の中へと仕舞った。

 

「なっ!?」

 

「これは!!?」

 

(良し!このサイズなら、“収納”に仕舞えた!!)

 

フロンティアを“収納”したことで、必然的に宇宙へと放り出された“障壁”の中のフィーネ、ナスターシャ教授の二人と…生身のままのナナシ。

 

(ナナシ!?どういうことだ!!?ネフシュタンと融合した私ならばともかく、お前とナスターシャは…)

 

周囲が真空なので音が伝わらないと考え、フィーネが“念話”でナナシに語り掛ける。

 

(“障壁”で周りを囲んでしまえば、外界の影響を遮断できる。前に弦十郎達とトレーニングした時に気が付いた。さっきはそれが宇宙空間でも有効かどうか試していた。途中でちょっと失敗して、生身のままで宇宙に出たせいで血管破裂してダメージの無効化が発動しちゃったけど、それ以降生身でも問題無くなった。相変わらず便利な体だよな、俺って)

 

(…色々と興味は尽きないが、ひとまず置いておく。それで、これからの行動は…)

 

フィーネがそう言うと、ナナシは“収納”から鎖を取り出して、自分の体と二人を包む“障壁”に巻き付けた。そして、ナナシは地球を背にした状態で…”収納”から取り出したデュランダルの切っ先を前方に構える。

 

(まさか…!?)

 

(デュランダルのエネルギー放出を推進力に突き進む!俺と了子だけなら、”障壁”を足場に時間を掛けて向かえば確実に地球へは帰還できる。でも、それだとナスターシャ教授は助からないし、翼達の援護も間に合わなくなる。周りは真空、推進力さえあれば幾らでも加速ができる。後は“障壁”内にどれくらい負荷が掛かるかの問題だ。軽く実験した限りでは、“障壁”はかなり都合よく内部のものを守ってくれるみたいだけど、保証はできない…ナスターシャ教授、俺に命を預けて貰っていいか?)

 

(…今更ですね。既に私の命はあなた達次第です。もし、もう一度あの子達に会えるのならば…その可能性をくれると言うのなら、どんな結末を迎えてもあなたを恨むようなことはありません)

 

(分かった。ナスターシャ教授、絶対にあなたをマリア達の元に帰すと約束する!)

 

(…私に確認を取らない理由を聞いても良いか?)

 

(了子は俺と一緒で不死身だろ?精々ナスターシャ教授の負荷を減らせるように頑張ってくれ。それと、俺移動中は前が見えないから”障壁”内と前方の状況の報告、よろしくお願いします!)

 

(全く…これも私の償いの一環と言うことで納得しておこう)

 

三人は視線を地球に向ける。三人の視界に映る地球は、未だに可視化できるほどのフォニックゲインに包まれ、輝いていた。

 

(星が、音楽となって…)

 

(ああ…行くぞ。俺達の帰る場所に!)

 

((よろしくお願いします!))

 

そしてナナシはデュランダルを起動し、黄金の輝きと共に虚空を高速で突き進んだ。

 

 

 

 

 

フロンティアがネフィリムの心臓に完全に取り込まれて、一点に集まって赤く輝く球体を作り出す。その後、まるで細胞分裂をするようにその姿を形成し始めた。

 

「あれを見ろ!あれが、司令の言っていた…」

 

「再生する…ネフィリムの心臓…」

 

装者達の前に、真紅の巨人となったネフィリムが姿を現す。地球の重力に引かれて徐々に落下するネフィリムに対して、切歌と調が先制攻撃を仕掛ける。調が自分の手足のギアを取り外すと、変形、巨大化して人型ロボットへと変化していき、調は頭部のコックピットへと乗り込んだ。

 

終Ω式 ディストピア

 

切歌は、三枚の刃が付いた鎌を展開、巨大化して高速回転させ、ネフィリムへと切りかかる。

 

終虐・Ne破aァ乱怒

 

切歌と調の攻撃が同時にネフィリムを襲う。だが、ネフィリムには効果が見られない。それどころか、ネフィリムと接触したことで…

 

「「うわああああああ!!?」」

 

二人の体からフォニックゲインが抜け出して、ネフィリムに吸収されてしまう。

 

「聖遺物どころか、そのエネルギーまでも喰らっているのか!?」

 

「臨界に達したら、地上は…!」

 

「蒸発しちゃう!!」

 

ネフィリムの体は徐々にその輝きを増していく。このまま放置していれば間違いなく地球が消し飛んでしまう。だが、シンフォギアを纏う装者達が近づけばエネルギーを吸収され、爆発までのタイムリミットを加速させてしまう。全員が手を拱く中で、クリスだけがネフィリムの前に飛び出していった。

 

「バビロニア、フルオープンだあああ!!」

 

クリスがソロモンの杖をかざして叫ぶと、杖から緑色の光が放たれ、落下するネフィリムの下に、バビロニアの宝物庫に繋がる亜空間が展開される。

 

「バビロニアの宝物庫!?」

 

「エクスドライブの出力で、ソロモンの杖を機能拡張したのか!?」

 

「ゲートの向こう、バビロニアの宝物庫にネフィリムを格納できれば!」

 

だが、開かれたバビロニアへの入り口は狭く、このままではネフィリムを格納することができない。うなり声を上げながら杖に力を注ぐクリスは、更に入り口を広げるために全力を出して叫ぶ。

 

「人を殺すだけじゃないって…やってみせろよ!!ソロモォオオオン!!!」

 

更に出力を増したソロモンの杖によって、バビロニアへの入り口は徐々に広がり始めた。

 

「これなら!!」

 

だが、そこでこれまで動きの無かったネフィリムの手が、ピクリと動いた。

 

「っ!?避けろ!雪音!!」

 

「うわああ!!?」

 

翼がいち早くそれに気が付き叫ぶが、ソロモンの杖に力を注ぐことに集中していたクリスは、迫るネフィリムの腕に対応できずに吹き飛ばされてしまった。その衝撃で、クリスは杖を手放してしまうが、すかさずマリアが杖をキャッチして、再度バビロニアへの入り口に杖をかざす。

 

「明日をおおおおお!!!」

 

マリアが叫びながら、全力でソロモンの杖に力を注ぐ。それによって、バビロニアへの入り口は一気にネフィリムが格納可能な広さまで展開された。

 

ゆっくりとバビロニアの宝物庫へ向かって落下していくネフィリム。ネフィリムが手を伸ばしてマリアを掴もうとするが、マリアは飛行して回避しネフィリムの手から距離を取る。

 

だが…

 

ネフィリムの指先から、複数の触手が伸ばされ…

 

まるでマリアを道連れにしようと、触手がマリアの体を捕える…

 

 

…寸前に、触手は半透明な『壁』に行く手を阻まれた。

 

 

「っ!?あれって…!」

 

「“障壁”!!」

 

「ってことは…!!」

 

マリアを守ったものの正体に気が付いた響達がそう口にした直後、三人の後方から凄まじい勢いで『何か』が通り過ぎて行き、ネフィリムへと迫る。

 

 

「大人しく…沈めえええええ!!!」

 

 

ドゴォォォォォォン!!!

 

ネフィリムに迫る『何か』…地球へ帰還したナナシが、その勢いを保ったままでネフィリムの腹部に拳を叩きつけた。ネフィリムはまるで隕石の直撃を受けたように後方へと吹き飛ばされ、バビロニアの宝物庫の中へと消えていった。

 

「…ッ!?閉じなさい!!」

 

それを見たマリアが、ソロモンの杖をかざしてバビロニアの宝物庫を閉じるよう命令を下す。亜空間は徐々に狭まっていき、そして完全に閉ざされた。その少し後、閉じた空間の色が揺らぐように変化して、やがて元通りになった。

 

「…成功…したの…?」

 

「もう、平気…?」

 

「大丈夫デスよね!?もう地球がドッカンする心配は無いデスよね!!?」

 

「ああ…我々の勝利だ!」

 

「「やったー!!」」

 

翼の言葉に、マリアが脱力し、調と切歌が手を取り合って喜ぶ。

 

「兄弟子!?大丈夫ですか!!?」

 

「また無茶しやがったな、てめえ!!」

 

(よく分からんけど間に合ったみたいだな?アイドル大統領が危なそうだって了子が言ったから、咄嗟にデュランダル仕舞って突っ込んだんだけど…まあ、この程度何も問題ない!)

 

響とクリスがナナシの元に近づいて声を掛ける。加速した状態でネフィリムを殴ったせいで、ナナシの右腕は肩の付け根付近まで吹き飛んでいた。だがそれも、すぐに“高速再生”によって修復される。

 

(さて…了子、ナスターシャ教授、お前達は大丈夫か?)

 

(ああ…驚くほど何の負荷もなかった。つくづく都合の良い力だな?貴様の能力は。研究のやり甲斐がある)

 

(本当に、生きたまま地球に帰れるとは…)

 

「「「マム!!!」」」

 

ナスターシャ教授に気が付いたマリア達が傍に近づく。“障壁”に阻まれて触れることが出来ないが、再会できたことに涙を流して喜ぶ。

 

「良かった…マム…もう会えないかと思った…」

 

(…ええ、生き永らえました…彼のお陰ですね)

 

そう言ってナスターシャ教授がナナシに視線を向ける。マリアもナナシの方に向き直り、深く頭を下げた。

 

「ありがとう…マムのことも、さっき助けてくれたことも…他にも、色々…」

 

(俺は約束を守っただけだ。後は俺がやりたいようにやっただけ…おぐっ!?)

 

ナナシがマリアに返事をしている途中で、調と切歌がナナシに飛びついてきた。

 

「先生…先生!ありがとう…ごめんなさい…うぅ…」

 

「ひっく…ありがとうデス…ぐすん…ひどいことして、ごめんなさいデス…うわ~ん!」

 

(ああもう、落ち着け、チビ共!早いとこお前達の母親を地球まで連れて帰るぞ!ほら泣くなって!)

 

「あはははは!」

 

感謝と謝罪を繰り返す調と切歌を、ナナシは慌てて引き離そうとする。泣きながら抱き着いてくる二人に戸惑うナナシを見て、響が笑い声を上げていた。ようやく二人を引き離し、泣き止むように宥めたナナシは、視線をクリスの方に向ける。

 

(お帰り、クリス。もう迷子になるんじゃないぞ)

 

「ッ!?…迷ってなんかいねえ、寄り道しただけだ…悪かったよ、心配かけて…」

 

(おや?珍しく素直だな?一人での寄り道はそんなに寂しかったか?)

 

「ッ!?てめえ…!!」

 

(まあまあ…さて、クリス。急で悪いけど、地球に戻る前に、ちょっとソロモンの杖を貸して貰っても良いか?)

 

「は…?あ、ああ、構わねえ。けど、どうするつもりだ?」

 

クリスの返事を聞いたナナシは、マリアが持っていたソロモンの杖を受け取ると…“収納”の中に仕舞い込んだ。

 

「ッ!?ご都合主義、何をやって…?」

 

(悪いけど、全員ちょっと静かにしていてくれ)

 

ナナシはそう言うと、自分の周囲を“障壁”で囲んだ後に“収納”からガスタンクを出して”障壁”内に空気を満たし、通信機を取り出して二課へと連絡を取る。

 

「弦十郎、聞こえる?」

 

『っ!!?ナナシ君か!?無事なんだな!?突然本部にある“血晶”が塵になったから心配していたぞ!!』

 

「悪い、心配をかけた。こっちの問題は概ね解決した。月の落下も了…ナスターシャ教授が阻止したし、今は翼達とも合流して、何か赤い巨人みたいなのも処理した」

 

『そうか!ネフィリムの暴走も無事に解決したんだな!』

 

「あれネフィリムだったのか…というか弦十郎、今モニターって見えてない?」

 

『ああ、ネフィリムの出現によって一部の機器に異常が発生してな。何かあったのか?』

 

「…実はな、弦十郎…ネフィリムをバビロニアの宝物庫に隔離しようとして無茶な使い方をしたせいで、ソロモンの杖が壊れた。砂みたいに崩れたから欠片も残ってない」

 

『何!!?』

 

「「「「「「「「!!?」」」」」」」」

 

通信機の向こうの弦十郎と、周囲の人間がナナシの言葉に驚く。

 

「まあ、世界の危機を救う代償と考えたら安い物だろ?」

 

『…そのことについては後で聞かせて貰う。今はとにかく、地球へと帰還してくれ。助けは必要か?』

 

「大丈夫、今の響達は飛べるし、俺は自分の足で帰れる」

 

『分かった。君達の帰りを待っている』

 

弦十郎はナナシの言葉に疑問を持っていたようだが、深く追究することなく通信を切った。

 

「ご都合主義、てめえ…」

 

(これは人の手に無い方が良い。今回の騒動は、基本的には米国の人間が色々隠して行動しようとしたのが原因だ。そう強く追究しては来ないだろ。本当に壊してしまった方が良いかもしれないけど、さっきみたいなことがまたあるかもしれない。だから俺が預かる。俺も余程の緊急事態が発生しない限り“収納”からは出さない。後は、お前達がこの話に乗ってくれるかどうかだ)

 

ナナシが周囲を見回すと、マリア達の視線はナスターシャ教授に、響達の視線はクリスに集中した。

 

(我々は異論ありません。その秘密は、決して口外しないと約束します)

 

ナスターシャ教授の意思を確認したナナシは、クリスに視線を向ける。クリスは、視線をフィーネの方に向けると、フィーネは無言でクリスに頷いた。それを見たクリスは、ナナシの方を見て、拳を差し出してきた。

 

「ご都合主義…預けた!」

 

(預かった!)

 

ナナシがクリスの拳に自分の拳を合わせる。そして、全員が地球の方に目を向ける。光り輝く自分達の星を一同が眺めた後、響が前に出て全員に振り返り、言った。

 

「帰りましょう!わたし達の居場所に!!」

 

 

 

 

 

響達が二課の潜水艦がある砂浜にたどり着くと、もう日が傾き始めていた。

 

「いひひひ、間違っている…英雄を必要としない世界なんて…い、いひひひ…」

 

ウェル博士はそんな譫言を口にしながら、軍人達に連行されていった。

 

「月の軌道は、正常値へと近づきつつあります。それとナスターシャ教授()は無事保護した後、ナナシさんがメディカルルームの方へ連れて行きました」

 

緒川が暗に、了子も無事に二課で保護したことを弦十郎に伝える。弦十郎は無言で頷き、視線を装者達の方へ向けた。

 

シンフォギアを解除した響達とマリア達は、空を見上げて月を眺めていた。

 

「マリアさん」

 

響の声に、マリアが振り返る。その胸元で揺れるアガートラームのギアペンダントは、シンフォギアを解除すると同時に半分に欠けてしまっていた。

 

響はマリアに、ギアペンダントに戻ったガングニールを差し出す。だが、マリアはそれに手を伸ばすことは無く、優しく響に微笑んだ。

 

「ガングニールは君にこそ相応しい」

 

その言葉を聞いた響は、マリアの目を真っ直ぐに見つめて、その手にあるギアペンダントを握りしめた。ギアとマリアの想い、そのどちらも受け取ったことを示すように。

 

「だが、月の遺跡は再起動させてしまった」

 

「…バラルの呪詛か」

 

「人類の相互理解は、また遠のいたってわけか…」

 

装者達が、それぞれ暗い表情を浮かべて月を見つめる中で、響だけが笑みを浮かべる。

 

「へいき、へっちゃらです!」

 

マリアがその明るい声音に驚きながら振り返る。そんなマリアに、響は自信に溢れた笑顔を見せて言い放った。

 

「だってこの世界には、歌があるんですよ!」

 

「響…」

 

真っ直ぐに自分の想いを伝える響に、未来とクリス、翼と奏が笑みを浮かべる。調と切歌も、響の言葉を聞いて暗い表情を明るくしていた。

 

「立花響、君に出会えて良かった」

 

マリアは笑みを浮かべて、響のことを真っ直ぐに見つめてそう告げた。

 

その後、マリア、調、切歌の三名は、緒川に連れられて響達の前から去って行った。

 




何らかの画期的な帰還方法を期待された方々、ごめんなさい。100パーセント力技ですw当初は主人公が走って戻る予定だったのですが、冷静に計算してみると無理がありすぎるためデュランダル使いました。それでもだいぶ苦しいですけど…やっぱり頭の中の考えを、実際に文章にしてみると色々粗が出ますねw
今後の展開的に着地点だけは変えられなかったので、少々強引な方法になってしまいました。あと、宇宙関係の知識が色々間違っているかもしれませんが、どうかご容赦ください。
次回、G編の締めになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。