戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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一部、大変読みにくいと思われる箇所があります。ご都合主義が働いたんだな~くらいに思ってもらえば問題ないので、流し読みして頂ければ…


第70話

フロンティア事変と名付けられた事件から、二週間が過ぎた日のことだ。

 

コンコンコン

 

「どうぞ」

 

扉をノックし、室内の人物の許可を得てから、部屋を訪れた人物が中に入る。

 

「ナスターシャ教授、今日も女の尊厳を踏みにじりに来たぞ!」

 

「…一々茶化す必要はありませんよ、ナナシ。私はちゃんと理解しています」

 

そこは二課の医療区域の一室。そこでナナシと、ベッドの上で療養しているナスターシャ教授がそんな会話をしていた。

 

「半分くらい自分に言い聞かせているだけだから気にしないでくれ。響の一件以来、奏以外の装者達も俺が見たらどうだって意見があってな。あいつらも何故か賛成気味だし、本当なら抵抗を感じることのはずだろ?」

 

ナナシはそんな会話をしつつ、紙とペンを用意してからナスターシャ教授に左手を差し出す。ナスターシャ教授がナナシの手を握ると、ナナシが右手にペンを持って何かを書き始めた。

 

「…一番、三番、五番の薬品はこのまま投与を継続。九番と十二番はもう投与をやめて良いな。内臓へのダメージは少し落ち着いてきた。できるだけ体力を付けておきたいから今日のストレッチは…」

 

…“解析”を用いた診察。既に何度もナスターシャ教授の体を“解析”したナナシは、瞬時に彼女の状態を把握することができ、時間と体への負担を一切掛けないで的確な処置を考えることができる。また、投与する薬品の適切な量や副作用の有無、その時の体調に合わせた最適な体の動かし方なども知ることができるため、ナスターシャ教授の容体は日に日に安定していた。

 

「後でご飯作って持ってくるから、時間が掛かってもちゃんと全部食べてくれ。少し量が多いかもしれないけど、あまり点滴で消化器官を弱らせたくない」

 

「それは構わないのですが…その…野菜の量を…」

 

「我慢してくれ。できるだけ要望には応えたいけど、これでも結構頑張ってメニュー考えたから、出された分は覚悟してくれ。せっかく生きて帰って来れたんだ。どうせなら孫の顔を見るまで頑張りなよ。世界の救世主様?」

 

「…それは私には、分不相応な言葉です。世界を救ったのはあなた方と…あの子達です」

 

「あいつらを育てたのはあんただろ?なら、やっぱりあんたも誇りなよ…自分の子供が大きなことを成し遂げるのって、やっぱり親としては嬉しいことなのか?」

 

「…笑って生きてくれれば、それだけで充分です。楽しい想い出など何一つ作ってあげられなかった私が、このようなことを言うのはおこがましいですが…あの子達の家族であることが、私の何よりの誇りです」

 

「そうか…ああ、もう診察は終わったから、入ってきていいぞ、三人共」

 

「!!?」

 

ナスターシャ教授がナナシの言葉に驚いていると、開いたままの扉から調、切歌、そしてマリアの三人が躊躇いがちに入室してきた。三人共顔を赤くして、目が潤んでいるように見える。

 

「あ、あなた達、何故ここにいるのですか!?拘束期間の間は二課の一室から出られないはず…」

 

「ああ、監視を付けることを条件に本部内なら出歩けるようになった。それで今日は偶々俺が三人の監視担当で、偶々医療区域を案内しようと思っていたから連れてきて、偶々ナスターシャ教授の病室の前を通ったから、ついでにお見舞いでもさせようと考えた。だけど、まだ今日の診察が終わってないのを思い出したから、診察が終わるまで外で待つように頼んでいたんだ」

 

わざとらしくそう言って笑うナナシ。あまりにも露骨であるため、ナナシの意図を全員が理解して…

 

「え!?そうなんデスか!?ナナシさんがマムに会わせてくれるってアタシ達を部屋から連れ出して…」

 

「切ちゃん!?シー!!」

 

…切歌だけがナナシの意図を理解せず、あっさりナナシの思惑を暴露した。調は慌てて切歌に注意するが既に手遅れであった。だが、ナナシは一切動じることなく…切歌に悪い笑顔で語り掛ける。

 

「あれ?俺そんなこと言ったか?どうも宇宙で脳の血管が破裂してから物覚えが悪くなった気がするな」

 

「いや、その、えっとデスね…」

 

「ここまで忘れっぽいと、お前達三人の夕食のハンバーグ、一人分だけ皿に盛りつけるのを忘れるかも…」

 

「アタシの勘違いでした!!そう、全ては偶然だったデス!ナナシさんは偶々アタシ達をマムの所に連れてきてくれたんデス!!」

 

「そうか、それなら良かった。俺の記憶力は正常みたいだ。これならご飯の準備を忘れることは無いかな?」

 

「そうデス!ナナシさんの頭は大丈夫デス!ハンバーグ楽しみデス!!」

 

慌てて自分の発言を撤回する切歌の様子を、ナナシが楽しそうに眺め、マリア達が呆れの混じった目で見つめる。切歌は視線に耐えられず、何とか話題を逸らそうとした。

 

「マ、マムはお体の調子はどうデスか?痛くないデスか?」

 

「…ええ、彼らのお陰で大分良くなりました。もう心配はいりませんよ」

 

ナスターシャ教授は切歌の意図を察しつつ、先程のナナシとの会話を蒸し返されないよう敢えてそれに乗った。僅かに頬を赤く染めたまま、何でもない風を装い切歌達と話し始める。

 

何のしがらみも無くなり、ナスターシャ教授達が楽しそうに会話をしていると…マリアがナナシに近づいて話しかけてきた。

 

「ありがとう。マムのことはもちろん…私達のことも…」

 

「元々そういう予定だったからな。理由は前に説明した通りだ。俺達は見返りを求めてお前達に便宜を図っているだけだ。それでもお礼を言いたいなら、響達や大人達に言えばいい。あいつらは俺と違って、見返りは建前で本心はお前達のことを想っての行動だからな」

 

そう言って笑うナナシに対して、マリアは真剣な表情で語り掛ける。

 

「とぼけないでよ。あなたがしてくれたことは、マムの体のことや、最初に私達に話してくれたこと以外にあるでしょう?」

 

 

 

 

 

事件の後、F.I.S.のメンバーは全員が逮捕・拘束され、米国は様々な裏事情を隠蔽するために逮捕されたメンバーの裁判を主導して、未成年である調や切歌を含めた全員に死刑判決を下されるよう画策し、治療中だったナスターシャ教授の身柄も引き渡すように日本政府に要求していた。しかし、事前に二課と日本政府で根回しをしていたこともあり、米国は責任追及を逃れるために、F.I.S.の存在そのものを認めず、F.I.S.のメンバーの罪状は消滅する方向で話が纏まるように動いていた。

 

マリア達以外のレセプターチルドレンも存在が暴露され、全員が解放・保護される方向で話が進んでおり、マリア達は二課の協力者としてこのまま日本政府が預かるはずであったが…国連がマリアに司法取引を持ち掛けてきた。

 

歌姫マリアの正体は、国連に所属するエージェントであり、テロ組織に潜入してスパイ活動をすることで世界を救った英雄であると発表することで、早急に事態の収拾を進めることができる。また、世界を救った英雄が各地でチャリティーライブを行うことで、プロパガンダの効果も期待できるとして、マリアに国連に所属するように役人が迫ってきたのだ。

 

マリアは、自分の在り方をこれ以上偽りたくないと最初はこの要求を拒否していたが…役人は調と切歌、そして中継に映り込んでしまった響の画像を引き合いに出し、暗に三人の存在を人質として交渉を進め始めた。家族と、自分達を最後まで信じてくれた恩人、決して切り捨てることができない理由を前に、マリアは国連の要求を全て飲む…はずであったが、ここで国連側に横やりが入れられた。

 

ナナシが“収納”で持ち帰ったフロンティアの一区画と、解析された機能の一部を資料としてまとめて開示することで、国連の役人を脅迫…もとい、交渉を開始したのである。

 

『こちらのフロンティアの機能を使うことで、F.I.S.は中継をジャックしたようですね。そして地球への帰還時に、膨大なエネルギーを消費することで座標移動を可能としたとか…まあ、こちらの機能に関しては帰還時の負荷でロストしてしまったようですが…未だ解析は進んでいませんが、他にも隠された機能があるかもしれません。もし聖遺物の知識に精通したテロリストが、このフロンティアの機能を悪用することになったら大変ですよね?フロンティア本体が消滅した以上、大それたことができるとは思いませんが、万が一のことがあるかもしれないと考えると恐ろしいですよね~。何もできないにしても、一瞬だけ座標移動の機能が復活して、我々の目の届かないところに行ってしまえば、我々は起こるかもしれない世界の混乱に怯える日々を過ごすことになる…え?脅迫?何故そのような発言を?…これは申し訳ない。無学な私は、このような交渉事では未来に起こりうる悲劇などを引き合いに出し、その悲劇を回避するための方法を共に考えることが定石なのだと勘違いしておりました。あなた方も我が国の若者の未来を気にかけて頂いていたようなので…え?フロンティアの破壊?よろしいのですか?確かに悪用されれば恐ろしいですが、我々の理解が及ばない技術の塊ですよ?各国から反発が起きませんか?…え?国連への譲渡?各国の総力を集めて機能の解析をする?それは素晴らしい考えですが…聖遺物に関する知識について、我が国はそれなりのものを所持していると思いますが、未だに全容が明らかになっていないんですよね~。例え国連の総力を挙げて機能を解析しても、果たしてどれほどの年月がかかるか…ん?我が国の協力?それはもちろん、我が国も国連の一員です。世界のために協力すべきでしょう。ただ…これは私個人の意見ですが、世界のために尽力した者達への対応を見ていると、我が国の聖遺物に関する知識をそう易々と提供しても良いのか、判断が難しいところですね~…Exactly!! 人類のため!!世界のために我々は協力すべきだ!!だからこそ!!世界を救った歌姫に対して過度な負担をかけることは避けるべきなのです!!勘違いしないで頂きたいのは、マリア・カデンツァヴナ・イヴの歌を世界に届ける、この活動を私は非常に素晴らしいと考えています!!であればこそ!!彼女の歌声が陰る様なことは絶対にあってはならない!!!世界を救った歌姫の身辺警護?あなたはどこの誰とも知らない人間に四六時中付きまとわれて平気なのですか!?彼女が心労で倒れでもして、彼女を取り巻く状況が世に出回ったら、世界中の彼女のファンが国連に対して不信感を持つと思いませんか!!?…彼女は人類が一つになれることを証明してみせました。あなたも彼女の歌を聴いたはずです。人は歌で、言葉で分かり合えるはずです。人類のため、世界のために、お互いの納得する方法を話し合うとしましょう。そのためなら私は、幾らでも時間を費やしてみせましょう。不眠不休で何日でも、何ヶ月でも、何年でも、ね…』

 

…交渉の結果、マリアが国連に加入する話は保留となり、マリアの身柄は調達と同様にしばらくは二課が預かることになった。だが、今回のような聖遺物の関わる大きな事件への対策や、各国が日本政府に聖遺物の知識が集まっていることを危惧していることもあり、特異災害対策機動部二課の在り方が変化することも話し合いに出され、現在は国の上層部で話をまとめているところである。

 

 

 

 

 

「“収納”を誤魔化すためにフロンティアに座標移動の機能があったって言うのは苦しい言い訳だったな。まあ、日本以外でフロンティアの解析をしようとすれば何十年かかるかも分からないし、大丈夫だとは思うが…ああ、話は変わるけど、国連の役人ってやっぱり心労が凄まじいんだな。今回の交渉の途中で、何人も不眠症患者が出て大変だったらしい。そりゃあ複数の国家が関わる組織の人間だからな。心に掛かる負担は相当だろう。“紛い物”の俺には疲労も睡眠不足も無縁の言葉だから理解できないけど、二課の大人達には気を付けて貰わないと…」

 

何でもないことのように話すナナシに、マリアが呆れた顔を向ける。

 

(この男、平然と情報に虚実を織り交ぜて国連に喧嘩を売ったのね…)

 

マリアは、ナナシの行動について奏から話を聞いていた。その際、彼女から可能性の話として…交渉の結果次第では、本当にフロンティアと共にマリア達を連れて逃亡することも視野に入れていただろう、と…

 

米国だけでなく、本当に世界各国を敵に回しかねない愚行である。奏の荒唐無稽とも思われるその話を…マリアは、恐らくそうなのだろうとすんなり納得していた。

 

(理由は…聞くまでもないわね…)

 

歌のため。

 

初めて聞いた時には、信じることができなかったナナシの行動原理。だが、今のマリアは理解していた。歌のためなら世界を救うことも、世界を敵に回すことも厭わない…それが、ナナシの持つ揺るぎない『覚悟』だと言うことを。

 

(…私の歌に…彼の行動に報いるだけの価値はあるだろうか…)

 

そう考え、ジッとナナシのことを見つめていたマリアに、ナナシは唐突に質問してきた。

 

「アイドル大統領、お前はもう観客の前で歌うのは嫌か?」

 

「…何故、そんなことを聞くの?」

 

「本気で嫌なら、お前がアイドルを辞められるように何とかする」

 

「ッ!!?」

 

ナナシの言葉に、マリアが驚く。それは、ナナシのこれまでの努力を根本から覆す発言だったからだ。

 

「俺が国連の奴らに噛みついた理由は、お前への配慮が全く無いことと、響達を人質に取ったことだ。だけど、内容自体はお前にとっても悪いことでは無いと思った。あれだけ派手に目立ったお前が、今後も『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』として生きていくならあの筋書きは使える。お前の歌が世界のためになると言うのも、決して嘘や方便なんかじゃない」

 

「…」

 

「ただ、それでもお前が、『世界を救った英雄』という立場を重いと感じるなら…何か別の方法を考える。お前が在り方を偽らなくて良い方法を探してみせる」

 

ナナシの言葉は、素直に捉えるならマリアに対する配慮や気遣いだろう。これからマリアが生きていく上で、余計なしがらみを少しでも減らそうとする優しさからの発言。だが、マリアはそれに気づきながらも、どうしてもナナシに問わずにはいられなかった。

 

「…私の歌は、もう必要ないということ?」

 

マリアは、そんなことを聞く自分をとても浅ましいと思った。これ以上自分の在り方を偽りたくないと言いながら…それで自分が必要とされなくなることに、恐怖を抱いている。

 

「そうだな。今更お前にアイドルを強制させてまで歌ってもらう必要はないだろ」

 

そんなマリアの心境を知ってか知らずか、ナナシがマリアにとって非情とも言える言葉を口にする。

 

「……そう」

 

マリアはナナシの言葉に、そう返すことしかできなかった。そんなマリアに、ナナシはお構いなしに話を続ける。

 

「お前のあんな素晴らしい歌を聴いたら、今更義務や責任感で歌われても満足できない。なら、今後はアイドルではないお前の歌が聴きたい!」

 

「……え?」

 

続くナナシの言葉を聞いて、マリアは思わずポカンとした表情を浮かべる。

 

「…アイドルではない私の歌でも、構わないと言うの…?」

 

「え?アイドルであろうとなかろうと、お前はお前だろ?何の問題がある?」

 

マリアの言葉に、ナナシは不思議そうに返した。

 

「国連の奴らが言うことなんて気にする必要は無い。むしろ『私が世界を救ったんだから後始末くらいお前らがやれバーカ!』くらいに思っていれば良いんだよ。元々月の落下は了子がバカやらかしたのと、俺がポカやらかしたのが原因だ。残りの面倒事くらいこっちに任せて、お前は好きなことをやればいい。お前がどんなものになったとしても、お前は歌を歌い続けるだろうからな!」

 

あまりに無責任に、お気楽に、何でもないことのように笑ってそう言い切るナナシの言葉を聞いて、マリアは呆気に取られて…思わず、肩の力を抜いて笑ってしまった。

 

「フ、フフフ…全く、あなたと話していると、色々悩んでいる私が馬鹿みたいに思えてくるわ」

 

「実際馬鹿なんじゃないか?世界の問題に何時まで自分が関わっているつもりだ?アイドル大統領と呼ばれているからって調子に乗っているんじゃないか?」

 

「そう呼んでいるのはあなただけでしょ!?いい加減やめてちょうだい!!」

 

「…そうだな。お前がアイドルを辞めると言うなら、もうこの名で呼べなくなる。それだけが心残りだ」

 

「どんな心残りよ。全く…続けるわよ」

 

「ん?」

 

「アイドル、続けるわ。筋書きはそのままでいい。細かいところは、あなた達に任せるわ」

 

「…良いのか?」

 

「言ったはずよ?『オーディエンスの期待には応えてあげる』って。あなたは約束を守った。なら、今度は私の番よ」

 

「そうか…いや~、良かった!!なら、これからもその美声で世界中のファンを導いてやってくれ!!よっ!アイドル大統領!!」

 

「その呼び方は認めるつもりは一切ないから早急にやめなさい!!」

 

「まあまあ、それは置いといて…」

 

「勝手に置くな!!」

 

「そろそろ自分の母親とも話してやったらどうだ?折角お見舞いに来たのに俺とばかり会話してどうする?」

 

ナナシの言葉にマリアがナスターシャ教授の方を向くと、先程まで楽しそうに会話していた三人がジッとマリアの方を見ていた。切歌と調は何処か心配そうな表情をしている。

 

「さて、これ以上家族水入らずを邪魔するのも悪いし、俺は部屋の外で待っている。あんまり病人に無理をさせないようにだけ気を付けてくれ」

 

そう言って、ナナシは部屋の外に出て行ってしまった。

 

「全く!あの男は!!」

 

「マリア、先程の選択に後悔はありませんか?」

 

ナスターシャ教授が、真剣な表情でマリアに問いかける。それをマリアは…力を感じる笑みを浮かべて答えた。

 

「もちろん、あるわ。どんな理由があろうと、また大勢の人に嘘を付くんですもの…それでも、私は自分にできることを精一杯やりたい。自分が行ったことの責任から逃げたくない。こんな私の歌でも、誰かの助けになれるのだと信じたい。この気持ちは、紛れもない私の…マリア・カデンツァヴナ・イヴの本心よ!私はもう、自分の心にまで嘘を付くつもりは無いわ!!」

 

「なら、私達もマリアのやりたいことを手伝う!」

 

「家族が一緒なら、どんなことだってへっちゃらデス!!」

 

マリアの宣言に、調と切歌も賛同する。それを聞いたナスターシャ教授は、優しい笑みを浮かべて三人を見た。

 

「あなた達の好きなように生きなさい。セレナが託し、あなた達が繋いだ未来を、私に見せてください。そして偶にで良いので、元気な姿を見せに来てください…その時は、私もあなたのことを、ただの優しいマリアとして…私の大切な娘として、歓迎しますから」

 

「…うん…ありがとう…お母さん…」

 

そう言って、マリアはナスターシャ教授にそっと寄り添った。ナスターシャ教授は、そんなマリアの頭を優しく撫でて微笑んだ。

 

「偶にじゃなくて、何時でも、幾らでも会いに来る!」

 

「会うだけじゃなくて、アタシ達にして欲しいことがあったら言ってください!何でもやるデス!」

 

切歌の言葉に、ナスターシャ教授は少しだけ考えて…少し前に耳にしたある言葉を思い出し、三人にあるお願いをしてしまう。

 

「そうですね…贅沢を言うなら、生きている間に孫をこの手で抱きたいですね」

 

「「「えっ!!?」」」

 

ナスターシャ教授の思いがけない要望に、三人が驚き固まる。

 

「それは…切歌達が成人するまで待ってもらわないと…私の立場では、もうそんな相手を望めないでしょうから…」

 

マリアが困ったような顔でナスターシャ教授にそう言うと…

 

「そうですか?あなたの肩書など気にもせず、降りかかる障害など簡単に解決してしまいそうな殿方に、私は心当たりがあるのですが?」

 

「えっ…?………!!?!?ちょっとマム!!!まさかとは思うけど、妙なことを考えていない!!?」

 

「「???」」

 

突然顔を真っ赤にして怒鳴るマリア。切歌と調はマリア達の言葉の意味が分からず唯々困惑していた。

 

「フフフフ、マリアにも、心当たりがあるようですね?これは、意外と早く願いが叶うかもしれませんね?」

 

「あり得ないわ!!絶対に!!!全く…調と切歌なら、すぐに良い人を見つけられるでしょうから、それまではマムも頑張って元気でいて!…他には何かして欲しいことはないの?今度は私にもできることにしてよね」

 

早急に話題を逸らしたくてそんなことを言うマリアに、ナスターシャ教授は笑いながら別のお願い事をする。

 

「フフフ…なら、私の歌の練習に付き合っていただけませんか?」

 

「歌?」

 

「体を動かせない私にはピッタリな健康法だと彼は言っていました。ただ、部屋で一人、何年も口にしていなかった歌を口遊むと言うのは、少し抵抗がありまして…一緒に、歌っていただけませんか?」

 

「…ええ、お安い御用よ」

 

そう言って、マリアがまず歌を口にし始める。曲はApple、自分達家族にとって、特別な歌…

 

「りんごは浮かんだお空に…」

 

マリアの口から、透き通るような美しい声が響く。

 

「りんごは落っこちた地べたに…」

 

少しだけたどたどしい、優しい声音がナスターシャ教授の口から紡がれた。

 

「「星が生まれて 歌が生まれて…」」

 

切歌と調の口からも、楽し気な声が響く。

 

「「「「ルル・アメルは笑った 常しえと…」」」」

 

マリア達家族が、一つの歌を紡ぐ。マリアは、かつてセレナと共に歌った日のことを思い出しながら、瞳から一筋だけ涙を流して、胸にこみ上げる暖かな感情を乗せて歌い続けた。

 

 

 

 

 

病室の外で、ナナシは部屋から僅かに聴こえてくる歌声に聴き入っていた。優しくて、暖かくて、これ以上ないほどに…幸せな感情が籠められた歌に、ナナシは瞳を閉じてそっと微笑む。そうして、しばらくの間、ナナシは世界の救済に手を貸した、最高の報酬を堪能するのだった。

 

 

 

 

 

(それにしても、アイドル大統領には近しい異性がいるのか?…ナスターシャ教授も知っているとなると、他のレセプターチルドレンか、F.I.S.職員の誰かかな?弦十郎に掛け合って、何とか連れて来られれば良いけど…)

 

後日、よりにもよってマリアに直接確認に行ったナナシが、真っ赤な顔をしたマリアに殴り飛ばされる光景を多くの職員に目撃されたが、ナナシの悪戯が原因だろうと特に問題視されなかった。

 




これにてG編終了です。
本日までにお気に入り数が約260、US数38000越えとなりました!
多くの方々に読んでいただき大変嬉しいです!ありがとうございます!
ここから少しだけG編後日談を挟み、いよいよGX編へと突入していきます。
今回の後日談はほぼギャグなのでご安心くださいw
今後もお付き合いいただけますよう、よろしくお願いします!
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