戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
第71話
フロンティア事変から、しばらく経った頃
マリア・カデンツァヴナ・イヴは、机に突っ伏していた。
場所は二課の仮設本部…いや、正式に本部として運用することになった潜水艦の一室。マリア、切歌、調の三名を拘束・監視している部屋…なのだが、とある人物の計らいで次々と制限が解除され、室内には三人のために二課の大人達や装者達が持ち込んだ物品で溢れ、殺風景だった室内が生活感のある空間へと変貌していた。
現在、室内にはそこで生活しているマリアと、マリア達の様子を見に来た奏、翼、響、未来、クリスの六名がいた。切歌と調は、ナナシと共にナスターシャ教授のお見舞いに行っている。本来マリアも同行するはずだったが、わざわざ響達が時間を作って会いに来てくれた…という口実を使い、マリアが留守番を申し出たのだ。
母親の見舞いをキャンセルした理由…切歌、調、そしてナナシの居ない状況を作った理由を、その場に居る全員、特に翼とクリスは深く理解していた。
「…んなのよ…」
響達が入室して少しの間、突っ伏して無反応だったマリアが何か言ったかと思うと、マリアは突然ガバッと起き上がり、大きな声で叫んだ。
「一体何なのよ!?あの『悪夢』は!!?」
『ちょっとナナシ!!』
『どうした、アイドル大統領?』
『これは一体何なのよ!?』
『ああ、お前がアイドルとして復帰する時に使うポスターのデザインを考えていた。それは没にしたやつだけど、せっかくだから貼り出してみた。どうだ?良くできているだろ?』
『どう見ても選挙ポスターじゃない!?何よこの『アイドル大統領に清き一票を!』、『振り返らない、全力疾走だ!ついてこれる奴だけ投票しろ!』って文言は!!?わざわざ私が宣戦布告した場面の画像を加工して使って、完全に悪ふざけの産物じゃない!!?』
『Exactly!!作るの楽しかったぞ!他にも何パターンか貼り出してあるから探してみてくれ』
『何をしてくれてるの!!?』
『ちょっと待ちなさい!この『悪夢』!!』
『何か用か?アイドル大統領?』
『食堂に置いてあったあれは何のつもり!?』
『書いてあっただろ?『アイドル大統領専用 持ち帰り用タッパー』って。聞いたぞ?武装蜂起した時は生活が苦しくてケータリングの食べ物を持って帰っていたって。そのうち自由にここの施設を使えるようになった時のことを考えて、気を使って事前に準備しておいた』
『気の使い方がおかしいでしょ!?食堂が利用できるようになったらそこで食べて済ませるわよ!!』
『まあ、最近は調も順調に料理の腕を上げているし、一緒に居られる間はあいつが全部食事を用意するだろうから、お前が食堂を利用することもほとんど無いかもしれないが』
『それが分かっているなら最初から置かないでよ!?』
「学祭で言っていた『加減している』と言うのが、まさか本当のことだなんて…あなた達は、いつもあの男からこんな仕打ちを受けているの?」
「あんたレベルなのは翼とクリスくらいだね。後は皆、軽い悪戯をされるくらいだ」
「兄弟子から全く悪戯をされてないのって、未来くらいじゃない?」
「そうだな。私もあの男が小日向に何かしているのは見たことが無い」
「この子はご都合主義にとっても恩人らしいからな。特別なんだろ」
「……」
「あれ?未来、どうしたの?」
「まさか、あのご都合主義の奴、あんたにまで何かしたのか!?」
「いえ、その…私が捕まった時に、色んな人達に心配やご迷惑を掛けたから挨拶周りをしていて、その時にナナシさんにも言ったんです。何かお礼できることはありませんか?って…そしたら…私が神獣鏡のギアを纏っていた時の歌について詳しく聞きたいと…」
「「「「!!?」」」」
「ああ…なるほどね…」
未来の言葉に、かつて『シンフォギア装者の歌から心象を考察する会』に呼ばれたことのある奏が理解の言葉を口にする。
「ナナシさんは、最初は必要ないって遠慮していたんですけど、普段からお世話になっていますし、以前頂いたお守りも凄いものだったみたいでしたし、どうしてもお礼がしたいって私が言ったら、そんなお願いをされて…だから、私もちゃんと答えようとして…ナナシさんが“投影”で何度も私の歌を流して…何度も…ナンドモ…」
「未来!?しっかりして!!?」
「小日向!もう良い!!無理をするな!!」
「そ、それで、あんたがわざわざあたし達にあのご都合主義のことを話すってことは、あいつに一泡吹かせるのに協力しろってことで良いのか!!?」
クリスが話題を逸らそうとしてマリアに本題に入るよう促す。だが、マリアの話はクリスの想定とは異なるものだった。
「いいえ、そうではないの…あなた達には、私と協力してあの男から調と切歌を守って欲しいの」
「ん?」
「暁と月読を守る…?ナナシから…?」
「どういうこった?」
「最近、あの子達とあの男が妙に仲が良くて、少し悪影響が出てきているというか…例えば、あの男があの子達を誘導して私に悪戯を仕掛けてきたり…」
それは、マリア達がナスターシャ教授のお見舞いをした数日後のことだった。
「ごめんなさいデス!!」
「ん?」
「切歌、調、どうしたの?」
ナナシが三人の様子を見に訪ねてすぐに、切歌がナナシに対して謝罪してきた。頭を下げて震える切歌の手を、調がしっかりと握っている。
「えっと…何に対してだ?二課を離れた時のことならもう何度も謝罪しただろ?…ああ!『ごめんなさい、邪魔なので出て行ってください』ってことか。悪いな、気が回らなくて」
「そうじゃないデス!?これは、その…前に、アタシはナナシさんを傷つけてしまったデス…ずっと謝りたかったデスけど、なかなか言い出すタイミングが無くて…」
「傷つけた?………ああ、あの時か!うん、全然問題ないから別にいい。そもそも何とも思ってないし」
「ええっ!!?だって、あんなにいっぱい血が出ていて…」
「それって割といつものことだな。お前達に渡した“血晶”の材料も俺の血液だから、俺が日課で集めている血液の量の方がずっと多いぞ?元々避けることが出来た攻撃を自分から受けただけだし、むしろ悪かったな。怖い思いをさせて」
「いやいやいやいや!!?危うく体が真っ二つになってましたし、最初は首チョンパ狙ってたデスよ!?それなのに…」
「どちらにしろ俺は死ななかっただろうし、別に良くないか?俺は気にしてないから、お前も気にするな」
「ええー…いいえ、やっぱりダメデス!あれは簡単に許されたらいけないことデス!アタシは何か罰を受けるべきデス!!」
「…ナナシ、あなたの優しさには感謝するけど、このままだと切歌はずっと自分を責め続けるわ。何とかならない?」
「そう言われても、俺は切歌が傷つく方が嫌だぞ?」
「なら…そうデス!アタシがナナシさんのお願いを何でも聞くデス!これなら何にも問題ないデス!」
「私も、切ちゃんと一緒に罰を受ける。ここの皆や、先生には、お礼も謝罪もまだまだ言い足りない。だから…何でも言ってください」
「ん?今何でもするって言ったよな?」
「「はい!」」
「なっ!?ちょっと、二人共!!」
二人の発言にマリアが慌てだし、ナナシは口に手を当てて少し考えて…すぐに何かを思いついたのか、笑顔を浮かべて二人と話し始めた。
「…それなら、早速お願いしてもいいか?」
「はい!」
「どんとこいデス!」
「ちょっとナナシ!?」
(落ち着け、分かっている)
ナナシに対して非難の声を上げるマリアを、ナナシが“念話”で落ち着かせる。
「俺のお願いは二つ。一つは、二度と異性に対して軽々しく何でもするなんて言わないこと!」
「え…?」
「何でデスか?」
(…!なるほど、そういうことね。これでこの子達は今後迂闊な事を言わなくなるわ。ありがとう、ナナシ。あなたが良識のある人で良かった。後は何か無難な頼みごとをしてこの話を終わらせるのね?)
ナナシのお願い事を聞き、安堵するマリア。だが、ナナシはマリアの問いに答えず、笑顔の…悪い笑顔のまま、二人に二つ目の願い事を言い渡す。
「まあ何故か気になるよな?そこで二つ目のお願い事は、何故俺が一つ目のお願いをしたのかアイドル大統領に聞くこと!」
「ちょっと!!?」
「マリアに、デスか…?」
「そう、お前らがしっかりと納得するまで詳しくアイドル大統領から理由を聞き出すこと。それ以外では自分で調べるのも禁止だ!」
「えっと…はい…?」
「分かりました…?」
二人共よく分かっていないようだが、とりあえずナナシのお願いを聞くことにした。
「マリア、どうしてナナシさんはあんなお願いをしたんデス?マリアは分かるんデスよね?」
「異性ってことは、男の人ってことだよね?何で駄目なの?」
「いや…それは…その…」
純粋な眼差しでマリアに問いかけて来る二人に、マリアが口ごもっている様子を、ナナシがニヤニヤと眺めていた。
(ちょっとナナシ!!どうしてくれるの、この状況!?)
(いくら何でも、精神年齢が三歳未満の“紛い物”よりその辺の知識が少ないのは問題だろ?二人は今後、社会に出て学校に通う予定なんだから、姉として責任を持って教育しろ。決して慌てふためくアイドル大統領の姿が面白そうという理由だけじゃない…フフッ)
(笑っているじゃない!?というか『だけじゃない』と言うことは理由に含まれているってことでしょ!?ねえ!!?)
「マリア、黙ってたら分からないデス」
「先生のお願いだから、ちゃんと叶えないと。詳しく教えて」
「え、え~っと、私も、分からないわ…突然訳の分からないことを言われて、私も戸惑っているの…」
「え~?本当デスか?何か誤魔化してませんか?」
「ジーーー」
「ちょ、ちょっと二人共!?何であの男の言うことは素直に聞くのに私の言うことは疑うのよ!?」
「よく分からないけど、アタシ達はナナシさんのお願いを叶えないとダメなんデス!お願いデス、マリア!教えてください!!」
「マリアが分からないなら、マリアに調べてもらうしかない。私達が調べるのは駄目でも、マリアが調べるなら問題ないはず」
「お~!流石は調デス!ナナシさん、それなら問題ないデスか?」
「フフッ…ああ、アイドル大統領が俺に直接聞いてこないなら問題ない…プフッ…頑張って調べるように頼むと良い…フフフッ…」
ナナシが時々笑い声を漏らしながら調の案を採用する。
「ちょっと!?何を笑っているのよ!!」
「マリア、お願いデスから調べてください!!」
「頑張って、マリア!!」
「二人共、ちょっと待って!勘弁して!!」
「それからと言うもの、事あるごとに二人が私に理由を調べるようにお願いしてきて困っているわ…」
「それは…災難だったな…」
「えーっと、未来、何で兄弟子は二人にそんなお願いしたのかな?わたしも前に『兄弟子が困ったことがあったら何時でも言ってください!わたしにできることなら何でもやります!!』って言ったら無言でチョップされたんだけど?」
「響、帰ったらお説教ね?」
「何で!!?」
「そこのバカは放っておいて、それであのご都合主義からあの二人を守るってのは具体的にどうすりゃ良いんだ?あの二人がこれ以上あいつの影響を受けないように近づかせなければ良いのか?」
「それは難しいわ…最近ではもうあの子達はすっかりあの男と打ち解けたみたいで…『ナナシさん、次は何時来ますかね?』、『先生に、もっと色々なお料理を教えて貰わないと』って言って、私があまり近づかないように言っても、聞いて貰えないの…」
そう言って、マリアは表情に影を落として再び突っ伏してしまう。それを見た五人は、マリアが抱えている感情を何となく察して呆れた顔をする。
「マリア、暁達を盗られて嫉妬しているだけではないか?」
「ッ!!?」
「つ、翼さん!?」
「翼、あんた…」
「…?今のマリアの印象を言ったまでだが、どうかしたのか?」
「天然で、この切れ味…この剣、可愛くない」
翼の言葉に、マリアは絞り出すようにそう言って、突っ伏したままプルプルと震えていた。
「だぁー!!埒が明かねえ!!あんたもとっとと本題に入りやがれ!!」
クリスがそう叫ぶと、マリアは伏せた顔を少しだけ上げ、五人に語り出す。
「…学祭の時、カラオケの勝ち抜き戦での勝負を無効にしたから、お詫びをするって話があったでしょう?それで、切歌と調は、あの男に何かをお願いしたみたいなの。それで、あの男は一日だけ外出許可を取って二人を外に連れ出すことにしたみたい」
「外出許可なんて、よく取れたな…」
「まあ、あいつやダンナ達が色々動き回ったお陰で、ほとんど拘束も形だけみたいになってるし、“血晶”があれば問題ないだろ?」
「へぇ~、なら、調ちゃんと切歌ちゃん、今度兄弟子とデートに行くんだ!」
ガタンッ!
響がそう言った瞬間、マリアが机に手を付き勢いよく体を起こして、響の方を据わった目で見つめる。
「立花響、勘違いしては駄目よ?これは決してデートなどではないわ。あの子達は何か外に用事があるだけ。あの男は二人の監視兼保護者として同行するだけ。理解できたかしら?」
「は、はい!!」
鬼気迫るマリアの雰囲気に、響が反射的に返事をする。
「そんなに心配なら、マリアも暁達に同行すれば良いではないか?」
「…あくまであの子達へのお詫びだから、私はお留守番だって…その間にあの男のお願いの意味を調べておいてって言われて…だけど!!」
再び暗くなったマリアが、瞳に力を宿して叫び、その場にいる全員がビクリと震えた。
「二課の司令、風鳴弦十郎に頼み込んで、何とか二人が外出する日に私も外出許可を出して貰ったわ!!だけど、当然私が単独で外出することはできない!万が一に備えて、最低でもシンフォギア装者の誰か一人を同行させることが条件に出されたわ!」
(し、師匠!?)
(叔父様!?)
(あのおっさん、面倒事をあたし達に押し付けやがったな!?)
戸惑うシンフォギア装者三人に対して、マリアは更に言葉を続ける。
「お願いよ!誰か私と一緒に来てくれない!?私はあの子達がこれ以上あの『悪夢』の影響を受けないように見守らないといけないの!!」
「それって、ストー…」
「奏さん、シー!!」
力説するマリアに、奏が不用意な言葉を掛けようとするのを、未来が慌てて止める。
「…マリアは、暁達のことを本当に大切に想っているのだな」
「まあ、家族が心配だってのは、当然かもしれねえな…」
「翼、クリス…!なら、私と一緒に…」
「「だが断る」」
期待するマリアに対して、翼とクリスはキッパリと拒絶の言葉を口にした。
「な、何故!!?」
「…マリア、これは心からの警告だ。ナナシに対して下手な考えで行動を起こさない方が良い」
「ああ、あたしも同意見だ。あのご都合主義のやることは、台風とかと同じでそれなりの予防と後始末の覚悟で済ませるに限る。下手に突っ込んで何とかしようとすると、余計な傷を負うことになる」
普段から被害に遭うことが多い二人の実感が籠った言葉に、マリアが何も言えなくなったうちに、翼が出口に向かって歩き出し、それに続いてクリスと、クリスに手を繋がれた未来が出口に向かう。
「あれ!?未来!!?」
「え?え?」
「あんたは装者じゃないんだからこの問題には関係ない。面倒事に巻き込まれる前にとっととずらかるぞ!」
「あー!!クリスちゃん達だけ狡い!!わたしも…」
ガシッ!
慌ててクリス達の後を追おうとする響の腕をマリアが掴んで引き留める。
「っ!!?マ、マリアさん…」
「立花響、付き合ってくれるわよね?最後まで私の手を取ることを諦めず、私からガングニールを引き継いだあなたなら!!」
「うっ…」
「同じガングニールを身に纏った者同士、協力してくれるわよね!?」
冷静さを失い、二人のためになりふりを構ってはいられなくなったマリアがガングニールを引き合いに出してきたため、響は腕を振り払うことができず…諦めて、がっくりと肩を落とすのだった。
「あ、あははは…じゃあ、シンフォギアを使えないあたしもこの辺で…」
ガシッ!!
その様子を見ていた奏が、そう言っていそいそと部屋を後にしようとすると、響とマリアに両腕を掴まれて引き留められる。
「ちょっ!?」
「奏さんも行きましょう!!ガングニール繋がりで!ガングニール仲間として!!奏さんから貰ったガングニールは消えてしまったけど、奏さんから託された歌は、今もこの胸に!!」
「あなた、あの『悪夢』とは長い付き合いなんでしょう!?あの男について色々理解があるあなたがいれば私達も心強いの!!」
こうして、二人に捕まった奏も加えた三人で、ナナシ達の動向を監視することになった。
「奇しくも、あの男の弱点であるガングニールに縁がある三人が集まった!私達なら、あの子達をあの『悪夢』から守り切れるはずよ!頑張りましょう!!」
「うぅ…あたし、呪われてる…」
「ああ…本当に、ガングニールは呪われた武器なのかもね…」
キャラ崩壊タグ追加しようか悩みましたが、何となくマリアさんならこんな言動するかなと作者は思うのでこのままでw