戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第76話

(とりあえず、二人はこれを持って壁際に居てくれ)

 

ナナシは“念話”で奏とマリアにそう伝えると、大剣を持った女に視線を向けたまま“収納”から“血晶”を取り出して二人に投げ渡した。

 

(…ナナシ)

 

二人共(・・・)、ここは俺に任せてくれ。頼む…よろしくお願いします)

 

マリアが“念話”で何かを伝えようとするが、ナナシがそれを遮るように念を押してきたため、マリアは渋々といった様子で奏と壁際まで下がった。

 

「あら?こんな状況で歌姫へ贈り物かしら?先程まで何も手にしていなかったはずですけど?不思議な殿方ですわね?」

 

「マネージャーたるもの、歌姫が必要とするものは常備しなければなりません。その美貌を引き立てる装飾品から、痴れ者を退ける武装まで…」

 

そう言って、ナナシは“収納”から今度は一本の()を取り出した。

 

「おい!?」

 

「それって!?」

 

“ガングニール・レプリカ”

 

それは、ナナシが“身体変化”によって作り出したガングニールの模造品。形状はそのままで、カラーリングは白と黒、まるで奏とマリアの使用していたガングニールが一つに合わさったような色彩をしていた。

 

(折角自由に武器を作れる能力があるからな。“紛い物”の名にふさわしく色々な模造品を作ってみた)

 

(そんな思い付きみたいな考えで、まともに使いこなせるの!?)

 

(安心しろ…槍使いが出てくるアニメは視聴済みだ!!)

 

((安心できるか!!))

 

二人のツッコミを無視して、ナナシが女に向かって突きを放つ。女は突きを躱してナナシに接近し、大剣でナナシに切りかかるが、それを予期していたナナシは突きの途中で動きを止め、手元でクルリと槍を回転させて大剣の一撃を槍の側面で受ける。そしてそのまま力を込め、シールドバッシュのように槍の面を女に押し込む。衝撃で女の体は吹き飛ばされるが、女は体勢を崩すことなく着地し再度大剣を構え、ナナシも再び槍を構え直した。

 

短い攻防ではあったが、とても素人とは思えない巧みな槍捌きを見せたナナシに対して、奏とマリアが呆れた視線を向ける。

 

「あなた、もはや何でもありなのね…」

 

「アニメは何でも教えてくれる!!…まあ、真面目な話、大抵の武器は昔、一通り試した。ノイズには効かないし、俺の力に耐えられないで壊れることが多かったから使わなかっただけで、最近は弦十郎との訓練でも使っている。傷一つ付けられないけど…不意打ち以外だと、何で刃すら弾き返すんだあいつ!?」

 

「落ち着け、ナナシ!目の前の相手に集中しろ!」

 

叫ぶナナシに隙を見つけたのか、今度は女がナナシに大剣を振り下ろす。ナナシは槍で迎え撃ち、交差した大剣と槍から、激しい火花が舞い上がった。

 

 

 

 

 

ロンドンで奏達が襲撃を受けている一方で、日本でも事件が起きていた。大規模な火災が発生したため、S.O.N.G.から救命任務を受けた響とクリスがヘリで現場に向かいながら、弦十郎から通信で事の詳細を聞いていた。

 

『付近一帯の避難はほぼ完了。だが、このマンションに多数の生体反応を検出している』

 

「まさか人が!?」

 

弦十郎の言葉に、響の表情が険しい物に変わる。

 

『防火壁の向こう側に閉じ込められているようだ。さらに気になるのは、被害状況が依然、四時の方向に拡大しているということだ』

 

「赤猫が暴れていやがるのか?」

 

赤猫…つまり、この火災が事故ではなく、誰かが意図的に引き起こしている可能性があることを知り、クリスが眉を顰めた。

 

『響君は救助活動に、クリス君は被害状況の確認にあたってもらう』

 

「了解です」

 

 

 

 

 

燃え盛る建物の傍を、黒ローブを纏った子供が何かから逃げるように駆けていた。

その子供を、建物の屋上から見下ろす一人の女がいた。

 

「踊れ、踊らされるがままに」

 

黄色を主体とした、カジノのディーラーのような服を纏ったその女は、そう言って四つのコインを指に挟み構えた。次の瞬間、女の手からコインが弾丸のような速度で投擲され、逃げる子供にコインの攻撃が迫る。幸いコインは子供には当たらず、大半がその周囲の地面に当たるが、一つだけ近くの車に命中し、火花がガソリンに引火、爆発しさらなる火災を引き起こした。

 

「わあ!?」

 

爆発の衝撃で子供の小さな体は吹き飛ばされ、地面を転がるが、子供はすぐに立ち上がり、その腕に抱えた箱を決して離すことなく走り続けた。

 

逃げる子供のすぐ傍に、高所から燃え盛るマンションを見つめる一人の少女がいた。少女は逃げ惑う子供にも、子供を襲う攻撃にも意識を向けることなく、ただ目の前にある紅蓮の炎をジッと眺めていた。

 

 

 

 

 

目的地であるマンションの上空にヘリがたどり着き、扉が開く。響は扉に近づいて、燃え盛るマンションを見下ろした。

 

「任せたぞ」

 

「任された!」

 

クリスの言葉に、響は笑顔で答えて、その身を空へと投げ出した。

 

Balwisyall Nescell gungnir tron

 

空中で聖詠を唱えた響がシンフォギアを纏い、歌を響かせながらマンションの屋上に蹴りを叩き込む。衝撃で屋根を貫通し、響はマンション内部に入り込むことに成功した。

 

『反応座標までの誘導、開始します!』

 

友里の指示に従い、響は要救助者がいる場所へと向かいながら、歌を奏でる。

 

一点突破の決意の右手 私という音響く中で…

 

その歌で、その力で、誰かを救うことができると信じて…

 

 

 

黒煙が充満する空間で、逃げ遅れた住民達がハンカチを口に当て、息苦しさと迫り来る炎への恐怖に耐えながら救助を待っていた。

そんな人々の耳に、これまで聞こえなかった音が聞こえてきた。

 

「…何か、聞こえないか?」

 

「これは…歌?」

 

歌声は徐々に大きくなり、人々は俯いていた顔を上げて歌声の響く方向に視線を向ける。すると…

 

ドゴンッ!!

 

突如、壁の一部に罅が入り、崩れ落ちて大きな穴が空けられる。穴の向こうには、拳を突き出した姿勢で歌を奏でる響の姿があった。

 

「避難経路はこっちです!」

 

突然の事態に人々は僅かに戸惑いを見せたが、響の言葉と突破口が出来たという事実から、安堵の表情を浮かべて立ち上がり、響が作り出した道を通って避難を開始した。

 

その場の全員が避難したことを確認した響は、再度壁を破壊しながら駆け回る。

 

『響ちゃん、生体反応ラストワン!』

 

友里の言葉に、響は奏でる歌声に力を籠め、走る速度を加速させる。

 

高鳴れ! メーターを ガンと 振り切れ!この両手で この歌で 守りきってやる!

 

響が階段を塞ぐ瓦礫の山を突き破ると、そこには気を失い倒れる少年の姿があった。

すぐさま響は少年に近づき、抱きかかえて安否を確認していると、頭上の天井が崩れ落ちて響達へと襲い掛かる。

 

貫け! 信念を 燃えろ 激しく!

 

そんな絶望的な状況でも、響は諦めず歌を紡ぎ続ける。少年を抱きかかえたまま響は真上に飛び上がり、片足で蹴りを繰り出す。迫る瓦礫も、残った天井も突き破り、一直線に突き進む。

 

限界なんて いらないッ知らないッ 絶対ッ!繋ぎ離さない

 

欠けた月の輝く夜空へと飛び出した響は、その腕の中で眠る少年の無事を確認して安堵の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

幾度となく槍と大剣が振るわれ、火花をまき散らしながら女と“紛い物”の刃が交差する。

 

「そろそろあなたとのダンスは飽きてきましたわ。私は剣ちゃんの歌を聴きに来ましたの。お引き取り願えないかしら?」

 

人間離れした怪力と、無限のスタミナを持つナナシに、女は汗の一つも流すことなくその細腕で拮抗してみせ、余裕の笑みを浮かべながらナナシを挑発するようにそう言ってきた。

 

「ここまで彼女の歌を切望されるなんて…仕方ありませんね。ここはひとつ、ファンサービスをしてもらうとしましょう!!」

 

ナナシがそう言うと同時に、女の背後から歌声が響き渡った。

ナナシの視線の先、女の背後でシンフォギアを纏った翼が、両手に剣を持って高速で接近して来ていた。

 

「待ち焦がれていましたわ!」

 

歌が聴こえてきた瞬間、女は背後を振り返って大剣を身構えた。だが…

 

「おっと、お客様」

 

女が振り返った瞬間、ナナシが槍を持ち上げて切っ先を女に向けると…槍から赤い液体が噴出し、液体は蠢いて女の両手足を拘束した。

 

「ッ!?」

 

「歌姫への手出しは厳禁です。特等席にてその歌声と、その籠められた想いの力をその身にご堪能ください」

 

ナナシが作ったガングニールの模造品は、中が空洞になっており、内部はナナシの血液で満たされていた。普段は血液を硬化させて槍の強度を保っているが、場合によって“血流操作”で内部の血液を操り、攻撃ができるように作られていた。

 

「風鳴る刃は輪を結び、火翼をもって斬り伏そぶ!!」

 

翼は女に接近しながら両手の剣を連結させ、その刃に炎を纏わせる。翼が剣を高速回転させることで赤い炎は勢いを増していき、やがて蒼い炎へと変貌した。

 

「月よ、煌めけ!!」

 

風輪火斬・月煌

 

加速の勢いを乗せ、蒼い炎を纏った剣の攻撃は、無防備な女の胴へと叩きつけられ、吹き飛ばされた女は通路に積み上げてあった箱へと突っ込み、崩れた箱の下敷きとなってその姿を消した。

 

 

 

 

 

「うちの子がまだ見つからないんです!まだ救助されていないんじゃ…」

 

火災現場のすぐ近くで、一人の女性が泣きながら救急隊員に縋り付いていた。そこへ、ギアを解除した響が、少年を抱えてやってきた。

 

「お願いします!」

 

「っ!?こうちゃん!!」

 

少年の顔を見た瞬間、女性は少年の名を叫び駆け寄ってきた。どうやら響が助けた少年の母親であったらしい。

 

「煙を沢山吸い込んでます。早く病院へ!」

 

「ご協力感謝します」

 

母親は響から少年を受け取り、一度頭を下げると、すぐに救急車の方へ向かって行った。救急隊員も響に短く感謝を伝えると、すぐに救急車に乗り込んだ。

 

これで全ての要救助者の避難が完了し、響は肩の力を抜いてフッと笑みを浮かべて帰路に就こうと踵を返すと、視界の端に人影を見つけて視線を向けた。そこには、高所から燃え盛る建物を眺める一人の少女がいた。

 

 

 

『それが神の奇跡でないのなら、人の身に過ぎた悪魔の知恵だ!』

 

炎を眺める少女の脳裏に、かつての忌まわしき記憶が過ぎ去る。

 

『裁きを!浄罪の炎で、イザークの穢れを清めよ!』

 

目の前で十字架に括り付けられた父親が、大勢の前で火炙りにされる光景。

 

『パパ!パパ!!』

 

体を押さえられ、何もできない自分の前で、敬愛する父親が炎の中へと消えていく。

 

『…キャロル』

 

泣き叫ぶ自分の娘に、父親が声を掛ける。炎に身を焼かれ、尋常ではない苦痛に襲われているはずなのに、その声音はどこまでも優しかった。

 

『生きて、もっと世界を識るんだ』

 

『世界、を…?』

 

父親の言葉を、少女は涙を流しながら繰り返す。

 

『それが、キャロルの…』

 

その言葉を最期に、父親は少女の目の前で業火の中へと姿を消した。

 

 

 

「…パパ」

 

眼前の業火に、父親の最期を思い出した少女…キャロルが、父を呼びながらその瞳から涙を流した。

 

「そんなところに居たら危ないよ!」

 

「ッ!?」

 

キャロルが慌てて声がした方向に視線を向けると、そこにはキャロルのことを心配そうに見つめる響の姿があった。

 

「パパとママと逸れちゃったのかな?そこは危ないから、お姉ちゃんが行くまで待って…」

 

「黙れ!!」

 

キャロルが目元を拭い、響の言葉を遮るように叫びながら空中に指先で円を描く。すると、次の瞬間、少女が指でなぞった軌跡に光る陣が現れ、そこから突風が巻き起こった。

 

「うわあああ!!?」

 

響は咄嗟に後ろに下がると、突風が地面に直撃し、先程まで響が立っていた地面が大きく抉れた。

 

「ええ!!?」

 

響が困惑していると、間髪入れずに響の通信機からクリスの声が聞こえてきた。

 

『敵だ!敵の襲撃だ!そっちはどうなっている!?』

 

「敵…?」

 

響が視線を上げると、キャロルの手の中に、新たな光る陣が形成されていた。

 

 

 

 

 

土埃が辺りに舞い、女を下敷きにする瓦礫の山を見て、マリアと奏が声を上げる。

 

「やり過ぎだ!人を相手に!!」

 

「いくら普通の相手じゃなかったとしても、これじゃあ…」

 

「やり過ぎなものか…」

 

「え…?」

 

「何処の世界に、鋼より硬い皮膚を持った人間がいるんだ?」

 

「何!?」

 

翼とナナシの言葉に、奏とマリアが戸惑いの言葉を上げる。

 

「ナナシの“念話”で聞いた時は半信半疑だったが、刃を交えて確信した。こいつは、どうしようもなく…化け物だ!!」

 

次の瞬間、瓦礫の山を吹き飛ばし、全くの無傷の状態で現れた女が、一同に不敵な笑みを浮かべて大剣の切っ先を向けてきた。

 

 

 

 

 

「…『キャロル・マールス・ディーンハイム』の錬金術は、世界を壊し、万象黙示録を完成させる!」

 

キャロルの言葉と共に、幾重にも折り重なった陣が響の方へ向けられる。

 

「世界を、壊す!!?」

 

「オレが奇跡を殺すと言っている!」

 

キャロルが言葉と共に、陣の中心に文字のようなものを投げ込むと、先程放った突風よりも強力な無数の風の攻撃が、響に向けて殺到した。

 

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