戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第77話

「うわあああ!!?」

 

迫り来る風の攻撃を喰らい、響の体が吹き飛ばされる。

大きく抉られた地面の中心で、響は手と膝をついて立ち上がろうとする。そんな響を、キャロルが冷ややかな目で見下ろしていた。

 

「何故シンフォギアを纏わない?戦おうとしない?」

 

謎の攻撃を仕掛けてくる敵を目の前にしても聖詠を唱えようとしない響に、キャロルが淡々と問いかけた。

 

「戦う、よりも…世界を壊したい理由を聞かせてよ」

 

響は傷ついた体を起こしつつ、キャロルに対してそう問い返した。キャロルはその問いに表情を強張らせると、その身を空中へと放り出す。ただ落下するのとは異なり、非常にゆっくりと響の眼前にある瓦礫の上にキャロルは降り立った。

 

「理由を言えば受け入れるのか?」

 

先程よりも、僅かに苛立ちを含んだような声音で、キャロルは響にそう問いかけた。

 

「わたしは…戦いたくない!!」

 

そう叫ぶ響に、キャロルは明確に苛立ちを表情に出して叫び返した。

 

「お前と違い、戦ってでも欲しい真実が、オレにはある!」

 

 

 

 

 

時は少しだけ遡り、響と別れたクリスが、目的地付近でヘリから降り立った。

 

『火災マンションの救助活動は、響ちゃんのお陰で順調よ』

 

通信機から聞こえる友里の声が、クリスに情報を伝えてくれた。

 

「ふん、あいつばっかに良い恰好させるかよ」

 

クリスがフッと笑ってそう言った直後、辺りに金属を弾いたような音が響き渡った。

 

次の瞬間、クリスの背後で爆発音が響き渡り、クリスが振り返ると、先程まで自分が乗っていたヘリの残骸が地面へと落下するのが視界に入った。

 

(ご都合主義の奴は、今ロンドンにいる…“血晶”は無ぇ…中にいた、パイロットは…)

 

目の前で命が失われたことを知り、クリスの顔が怒りに歪む。そしてクリスが、先程音が響いてきた方向をキッと睨みつけると、そこには橋の上でポーズをとってクリスを見下ろす女の姿があった。

 

「この仕業はお前か?」

 

クリスの問いに女は答えず、両者はしばしにらみ合いを続けた。

 

「あれは…」

 

そんな二人の様子を、柱の陰から窺う子供の姿があった。

 

沈黙を破り、女が手に持ったコインを高速で飛ばし、二つがクリスの足元、一つが顔のすぐ横を通り過ぎ、掠ったクリスの髪が数本千切れて落ちていった。

 

「こちらの準備はできている」

 

そう言って、女は両手の指にコインを構える。先程までの一連の行動といい、明らかにクリスを挑発していた。

 

「抜いたな?だったら貸し借りなしでやらせてもらう。後で吠え面かくんじゃねえぞ!!」

 

クリスは叫び、首のペンダントを手に持って聖詠を唱えた。

 

Killiter Ichaival tron

 

クリスの聖詠に応え、イチイバルのシンフォギアが展開される。イチイバルを纏ったクリスは、歌を奏でながら両手に持ったクロスボウで女に攻撃を開始した。

 

鉛玉の大バーゲン! バカに付けるナンチャラはねえ!

 

無数に迫るエネルギーの矢を、女はブレイクダンスを踊る様な動きで全て躱していき、終いには両手で矢を掴み取ってみせた。その動きから、相手が人外の者と確信したクリスは、むしろ好都合だと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「加減が要らねえなら、やりやすい!!」

 

クリスはクロスボウの射出部を増やし、矢の弾幕を更に厚くする。女はそれに対抗し、無数のコインを指弾で射出することで、全ての矢を撃ち落として見せた。

 

「装者屈指の戦闘力とフォニックゲイン、それでもレイアに通じない。やはり、ドウェルグ=ダインの遺産を届けないと…」

 

激化する二人の戦闘を隠れて見ていた子供は、そう言って箱を抱える腕に力を込める。

 

子供がそうしている間にも戦闘が進み、子供からレイアと呼ばれた女が、クリスのガトリングによる攻撃を回避するために飛び上がった。それを見たクリスがニヤリと笑みを浮かべ、腰部のギアを展開する。

 

MEGA DETH PARTY

 

腰部から一斉に放たれたミサイルは、レイアへと殺到し、その姿は爆炎の中へと消えていった。

 

「直撃!?」

 

その結果に子供は驚愕の声を上げるが、敵を倒したはずのクリスは気を緩めることなくジッと爆発により生じた黒煙を見つめていた。

 

 

 

 

 

一方、その頃ロンドンでは…

 

「貴様は、何者だ!?」

 

自身の渾身の一撃を受けて尚、無傷で立ち上がった女に、翼は剣の切っ先を向けてそう問いかける。女はスカートの端を掴み、大剣を持ち上げポーズをとると、余裕を感じさせる笑みを浮かべながら答えた。

 

「“オートスコアラー”」

 

「オートスコアラー?」

 

それが女自身を表す名称なのか、何らかの組織を意味するのか、判断がつかずに翼は女の言葉を復唱する。

 

「あなたの歌を聴きに来ましたわ…けれど、聞いていたよりずっとしょぼい歌ね?確かにこんなのじゃ、やられてあげる訳にはいきませんわ」

 

翼を挑発する女の言葉に、翼は気に留めることなく剣を構える…だが

 

 

 

「あ?てめえ…今、何て言った…?」

 

 

 

ゾクリッと、その場に居る人間が身を震わせて声がした方向に視線を向ける。

そこには、普段浮かべている笑みを消し、真顔で女をジッと見つめるナナシがいた。

 

「今の、翼が奏でた歌を…しょぼいって、言ったか…?」

 

「ナ、ナナシ…?」

 

普段の明るく他人に接する時とは全く異なり、驚くほど冷ややかな声で呟くナナシ。その豹変ぶりに、奏が困惑しながらナナシの名を呼ぶが、ナナシは奏の声に反応することなく、持っていた槍を“収納”し、手をダランと力なく下げたまま、焦点が合っているか分からない虚ろな目を女に向ける。

 

「ぶっ殺す」

 

短く、だが殺意に満ちたそのセリフとは裏腹に、ナナシが取った行動はその場で小さく手を振っただけだった。カランという音が廊下に響き、女の足元に黒い塊が転がる。女が視線を向けると、そこにあったのは…ピンが抜かれた状態の、手榴弾。

 

「ッ!?」

 

ドゴォォォン!!

 

起爆寸前の状態でナナシの“収納”に入れられていた手榴弾は、瞬時に爆ぜて衝撃と破片が女に襲い掛かる。だが、女は周囲に風の防壁のようなものを展開して攻撃を防いでいた。周囲は手榴弾によって舞い上がった煙で視界が遮られており、女は風を操って煙を吹き飛ばそうと考えたところで…咄嗟に体を仰け反らせる。

 

“贋作・天ノ逆鱗”

 

煙の向こう側から、ナナシが翼の技を模して作った巨大な剣が猛スピードで飛来する。剣は風の防壁を突き破り、仰け反った女の眼前を通り過ぎて、廊下の奥の壁にぶつかり、轟音が鳴り響いた。

 

女が仰け反った体を起こし、剣が飛来してきた方向に視線を向けて…一瞬体を硬直させる。剣が通り過ぎたことで煙が霧散し、眼前にとんでもない光景が表れたからだ。

 

槍、剣、銃、短剣、大鎌、丸鋸、斧、鉈、棍棒、槌…シンフォギア装者達に見覚えがある物から、そうでない物まで、ありとあらゆる武器がナナシの周りに浮かび上がっていた…否、正確には宙に浮かんでいるのではなく、ナナシが “収納”から出した血液を“血流操作”で操り、それぞれの武器を血液で持ち上げているのだが、そのせいでどの武器も血に塗れており、まるで呪われた武器が自らの意思で動いているかのようだった。

 

そして、ナナシ自身の手に武器は握られておらず、無手のままなのだが、その両手には血液が籠手のように纏わりついており、まるで悪魔の手を模したような禍々しい形状をしていた。

 

余りにも殺意が高い装いに、襲撃者の女だけでなく、翼達でさえ絶句し固まっていると、血濡れの武器が一斉に女に襲い掛かる。全方位から迫る武器の攻撃を、女が再び風の防壁を展開して防いでいると、不意に女の頭上に影が射した。

 

女が上を向くと、血液の供給によってまるで巨人の手のように肥大化させた両手を組み、今まさに振り下ろそうとするナナシの姿があった。

 

「くっ!?」

 

「くたばれぇぇぇ!!」

 

ズドォォォン!!!

 

女は咄嗟に大剣を掲げて防御姿勢を取ったが、ナナシの一撃は風の防壁を食い破り、大剣ごと女の体を押しつぶして、轟音と共に建物全体を揺れ動かした。そして、ナナシがゆっくり両手を持ち上げると、床には大穴が空いており、女の姿は何処にも見られなかった。

 

「チッ、下に叩き落としただけか…逃がさない…追いかけて止めを…」

 

「落ち着きなさい!この大馬鹿者!!」

 

女を追いかけようとするナナシの頭を、マリアが後ろからスパーンと思い切り叩いて止める。

 

「痛っ!?何するんだ、アイドル大統領!?」

 

「黙って言うことを聞く!!あなたは今すぐ武器と血を仕舞って奏を安全な所に連れて行きなさい!!」

 

「は?」

 

「奏!あなたは道中この男を宥めて頭を冷まさせなさい!!」

 

「お、おう…」

 

「翼!引くわよ!一緒に来て!」

 

「え!?えええ!?」

 

マリアが有無を言わさぬ迫力で三人に指示を出し、翼の手を引いて駆け出してしまった。手を引かれた翼も、困惑しながらマリアの後に続く。

 

「おい!!?…あー、もう!!受け取れ、翼!!」

 

止まる気配のないマリアを呼び止めることを諦め、ナナシは咄嗟に“血晶”を翼へと投げ渡す。翼は何とかそれを受け止めて、マリアと共に出口へと向かって行った。

 

 

 

「クソッ、アイドル大統領の奴、何だって言うんだ!?“念話”もだんまりで返事をして来ない!!」

 

「ナナシ、落ち着け!いくら何でも、今日のあんたはちょっと様子がおかしいぞ!?」

 

翼達と別れた後、一応はマリアの指示に従い、ナナシは素早く武器と血液の回収を終わらせ、今は奏を抱えて緒川の元へ向かっていた。緒川に奏と“血晶”を預けたら、ナナシも翼達の元へ合流する予定だ。

 

急ぐためとはいえ、ナナシに所謂お姫様抱っこで運ばれる奏は、自分が足手まといになっていることも含めて色々と複雑な心境だったが、今はマリアの要望通りナナシを宥めることに専念していた。

 

「アイドルやってるあたし達の歌が批判されることなんて、今まで幾らでもあっただろ?あたし達のマネージャーのあんたなら、あたし達よりもそう言った声は聞いてきたはずだ。それであんたが怒る事なんて今まで無かったじゃないか。何で今回に限って…」

 

「…別に、ただの八つ当たりだ」

 

奏の疑問に、ナナシはぶっきらぼうに答えた。

 

「八つ当たりって…」

 

「ノイズがいなくなって、やっとお前達が夢に向かって進み始めて、そして今日、これまでにない最高の歌が聴けて、幸せな気分でいたのに、また明らかに普通じゃない奴がお前達に絡んできやがった!しかも、危うく奏の唇が奪われる寸前だったんだぞ!?」

 

「お、おう…」

 

「それでもお前達の、特に翼のファンだって、あいつの歌を聴きに来たって言うから、動機については一応納得できた!!」

 

「納得したのか…」

 

「それなのに、翼がお前達を守るために奏でたあの素晴らしい歌を、しょぼいって言いやがったんだぞ!!?許せる訳ねえだろ!!!」

 

「わ、分かった。分かったからちょっと落ち着け」

 

危うく怒りを再燃させようとするナナシを、奏は何とか宥めようとする。

 

「それに…」

 

「それに?」

 

「お前達が日本を出てから、妙に落ち着かないんだよ。翼が入院していた時と近い様な、全然違うような…」

 

「!?」

 

「今まで通り、お前達が最高の歌を歌うために、俺ができることをしているはずなのに、何かが間違っている気がする。でも、奏と、翼と、マリアにとって、俺が近くでサポートするより、日本に残って俺にできることをした方が良いのは間違いないはずだ。以前の未来みたいに自分の役割に疑問がある訳じゃないのに…一体何なんだ?この感情は?」

 

「…さあ?あたしはあんたじゃないから分からないね」

 

「あー、うん。そうだよな。まあ、そんな感じでイライラしていた時にお前達が襲撃されて、止めに翼の歌を貶されて自制ができなくなった。悪い」

 

「そうか…それで、少しは頭が冷えたか?」

 

「ああ。奏と話していたらイライラもスッキリした気がする。お陰で大分落ち着いたし…マリアの行動の意味も、おおよそ察しが付いた。慎次の所に奏を連れて行ったら、急いで翼達と合流する」

 

「ああ…翼とマリアのこと、頼んだよ」

 

「おう!」

 

ナナシはそう返事をして、走る速度を上げる。そんなナナシの顔を見ながら、奏は先程のナナシの問いについて考えていた。

 

(本当に、自分のことになると、どうしてこう鈍いんだろうな?…要するに、あんたも寂しかったんだろう?あたし達と離れることが…)

 

 

 

 

 

しばらくの間、舞い上がる黒煙を見つめていたクリスだったが、やがて痺れを切らしたように叫び出した。

 

「もったいぶらねえでさっさと出てきやがれ!!」

 

クリスがそう言った直後、黒煙が晴れて無傷のレイアが姿を現す。レイアの前にはバリアのようなものが展開されており、クリスの攻撃はそれによって全て防がれていた。

 

レイアはバリアを消すと同時に、コインを射出してクリスに攻撃を仕掛けてきた。クリスがそれを躱しながら、クロスボウを射撃して反撃していると、唐突に友里から通信が届いた。

 

『何があったのクリスちゃん!?』

 

「敵だ!敵の襲撃だ!そっちはどうなっている!?」

 

レイアに応戦しつつ通信に答えるクリス。

 

「危ない!!」

 

突然、何処かから危険を知らせる声が聞こえ、クリスが周囲に意識を向ける。すると、頭上から何かが迫る気配を感じてクリスが視線を上に向けると、そこには何故かクリス目掛けて落下してくる数隻のクルーザーが…

 

「何の冗談だぁ!?」

 

予想外の事態にクリスはそう叫びつつもギリギリで回避行動を取る。そのお陰で何とかクルーザーとの直撃を免れるも、直後に発生したクルーザーの爆発に巻き込まれ、クリスの体は茂みの方へと吹き飛ばされた。

 

 

 

「私に地味は似合わない…」

 

クルーザーの爆発によって派手に舞い上がる炎を見つめて、レイアが静かに呟く。

 

「だけど、これは少し派手過ぎる…」

 

そう言って、今度は遠目に見える海の方に視線を向ける。そこには、巨大な人影が両手にクルーザーを持って佇んでいた。

 

「後は私が地味にやる」

 

レイアがそう言うと、巨大な人影はまるで幻であったかのようにスゥーッと消えていき、持っていたクルーザーが遅れて海面へと落下していった。

 

 

 

「ハチャメチャしやがる」

 

爆風で吹き飛ばされたクリスは、茂みに身を隠しながらレイアの様子を窺っていた。そんなクリスの背後から、声が聞こえてきた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ…って!!?」

 

敵意の感じられない、こちらを心配する声に、クリスがつい返事をしながらそちらに視線を向けると、そこには黒いフードを纏い、腕に箱を抱えた子供がいた。中性的な顔つきで、声から恐らく女性だと思われる…のだが、フードの隙間から窺えるその服装は、黒の際どいパンツのみというほとんど全裸に近い恰好をしており、クリスは思わず顔を赤く染めて狼狽える。

 

「おまっ!?その恰好!!?」

 

「あなたは…」

 

クリスの指摘に動じることなく、少女がそう言ったところで、クリスは自分がシンフォギアを纏っていることを思い出して慌てて顔を隠しながら誤魔化そうとする。

 

「あ、あたしは快傑☆うたずきん!国連とも日本政府とも全然関係なく、日夜無償で世直しを…」

 

「イチイバルのシンフォギア装者、雪音クリスさんですよね?」

 

「ッ!?」

 

クリスの言い訳(と言うより、ほぼ自白)を遮って、少女がクリスの正体を言い当てる。クリスは驚きで言葉を詰まらせると同時に、少女の声音からある事に気づいた。

 

「その声、さっきあたしを助けた…」

 

クリスがそう言うと、少女が被っていたフードを下す。

 

「ボクの名前はエルフナイン。キャロルの錬金術から世界を守るため、皆さんを探していました」

 




主人公が手に血液を纏わせた時の見た目のイメージは、某ゲームの世界を滅ぼした男が白い本から出す腕の魔法みたいな感じですw
血液を体に纏う戦い方は今後もちょくちょく出てきます。技名を頑張って考えようとしたのですが、結局投稿までにしっくりくる名前が決まらなかったのでこのままで…
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