戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
「戦ってでも、欲しい真実?」
キャロルの言葉の意味が理解できず、響は困惑しながら呟く。
「そうだ。お前にだってあるだろう?だからその歌で月の破壊を食い止めてみせた。その歌で、シンフォギアで、戦ってみせた!」
「違う!そうするしかなかっただけで、そうしたかった訳じゃない…わたしは、戦いたかったんじゃない!シンフォギアで、守りたかったんだ!」
まるで責め立てるようなキャロルの言葉を、響は間髪入れずに否定する。自分の力は、歌は、誰かを守るためにあると。
「…それでも戦え。お前にできることをやってみせろ!」
キャロルは足元に光の陣を形成する。錬金術…シンフォギアとは別系統の異端技術の力が、響に対して向けられる。
「人助けの力で、戦うのは嫌だよ…」
それでも、響はシンフォギアを纏おうとしない。そんな響に、キャロルは苛立たし気に叫ぶ。
「
錬金術の光は更に輝きを増し、並々ならぬ敵意を向けられても、響はキャロルと戦おうとは思えない。何故なら…
「だって…さっきのキャロルちゃん、泣いてた」
「ッ!!?」
「だったら、戦うよりも、その訳を聞かないと!」
響の手は何時だって、誰かと繋ぐためにあるものだから。涙を流す少女相手に、拳を突きつけることはできない。
「見られた…知られた…踏み込まれた!!」
そんな響の想いは、キャロルには届かない。むしろ、自分の踏み込まれたくない領域に手を伸ばそうとする響に対して、その顔を怒りに歪ませる。
「世界ごと、ぶっ飛べぇぇぇ!!!」
最早、響がシンフォギアを纏うことを待つことなく、キャロルが術を起動する。
「うわあああああ!!?」
光の奔流と共に衝撃が周囲に襲い掛かり、響の体が宙を舞う。やがて光が納まると、キャロルが立っている場所を残して、地面が隕石でも落下したかのようなクレーター上に抉られていた。
「ハァ…ハァ…」
激情のままに術に力を込めたキャロルが、汗を流して荒い呼吸を整える。
「どうして、世界を…?」
そんなキャロルに対して、傷だらけの響が瓦礫に手をかけ身を起こしながら、世界を壊す理由を問う。
「…父親に託された命題だ…お前にだってあるはずだ」
「え…お父、さん」
キャロルの言葉に、今度は響の心が揺さぶられる。
「面倒くさい奴ですねぇ」
突然、響とキャロル以外の声がその場に響く。いつの間にか、青いゴスロリ風の衣装を纏った女が、鉄橋の上に座って二人の様子を窺っていた。
「見ていたのか。性根の腐ったガリィらしい」
「やめてくださいよぉ。そういう風にしたのはマスターじゃないですかぁ」
そう言いながら、女…ガリィが飛び降りてキャロルの傍に着地する。
「『想い出』の採集はどうなっている?」
「順調ですよぉ。でもミカちゃん、大喰らいなので足りてませぇん!」
キャロルの問いに、分かりやすい噓泣きをしながらガリィが答える。
「なら急げ、こちらも出直しだ」
「りょうかーい、ガリィ頑張りまーす」
キャロルの言葉に、嘘泣きをやめて笑顔でそう返事をしたガリィは、何か液体の入ったガラス瓶を地面に叩きつける。ガラス瓶が割れると、地面に赤い陣が展開された。
「さよなら~」
赤い陣の上に立ったガリィが、手を振りながらそう言った直後、その場から跡形もなく姿を消した。
「次は戦え。でないと、お前の何もかもを打ち砕けないからな」
それだけ言い残して、キャロルもガリィと同様に、ガラス瓶を地面に投げて砕き、その場から姿を消した。
「託された…わたしには、お父さんからもらったものなんて、なにも…」
キャロルの攻撃によって、限界を迎えた響は膝をついて地面に倒れ込む。薄れる意識の中で、響の目には何も付けていない自分の右手が映りこみ、響は一時期ずっとそこに付けていた『お守り』のことを思い出した。
『少しずつ重さを抜いていって、最後には『あの時は大変だったなぁ』ってお前が思い出して笑えるようになることを目指して欲しい』
「兄、弟子…」
その言葉を最後に、響の意識は暗闇に飲み込まれた。
「何だって!?あのバカがやられた!?襲撃者に!?」
本部から通信を受けたクリスは、その内容に思わず叫んでしまった。
クリスは現在、今回の事件について詳細を知っていると思われるエルフナインを保護するため、レイアに見つからないようあの場を離れていた。
「くっ、錬金術ってのは、シンフォギアよりも強ぇのか…?こっちにも252がいるんだ。ランデブーの指定を…ッ!?」
クリスが本部に指示を仰いでいる途中で、クリス達に向けて光弾のような攻撃が迫ってきた。いち早く気が付いたクリスは、エルフナインを抱えて攻撃を回避する。
光弾が直撃した地面からは赤い煙が発生し、地面に空いた穴は縁から徐々に崩れて続けて、その大きさを次第に広げていった。
「なんだ、こいつは…」
明らかに異常なその光景に、クリスは思わずそう呟いた。
一方、ロンドンではナナシ達と別れた翼とマリアが、車でコンサート会場から離れていた。
『翼さん、一体何が起きているんですか!?』
「すみません。マリアに考えがあるようなので、そちらはお任せします。それと、恐らくナナシが奏を連れて緒川さんの所に来るはずなので、奏の保護をお願いします」
『ナナシさんが!?…分かりました。こちらのことはお任せください。お二人共、気を付けて』
緒川との通信を終わらせた翼が、隣で運転するマリアに視線を向けた。
「いい加減説明してもらいたいところだ」
翼の問いに、マリアは理由を説明していった。
「ナナシと交戦している時から、あの女は翼に固執しているようだった。奴の狙いは翼自身と見て間違いない」
「っ!?」
「この状況で被害を抑えるには、翼を人混みから引き離すのが最善手よ」
「ならばこそ、皆の協力を取り付けて…」
「ナナシが冷静であったならば、その選択肢もあったのだけれどね。国連から目を付けられているあの男は、あまり目立つべきではない。本人もそれを分かっているから、わざわざ走って…公共の施設を使うことなく、秘密裏にここまで来た。それなのに、あのまま大暴れさせていたら、いくら“認識阻害”の力があったとしても、外部にあの男の情報が洩れかねない。だから、無理やりにでもあの男を冷静にさせる必要があった。あなたや奏のためなら、あの男も私の言葉を無視できないでしょう?」
「っ!?…全く、ナナシにも困ったものだ!!…あのような挑発に心を乱すような男では無いはずなのに、何故今回に限って…」
マリアの意味ありげな発言に、僅かに顔を赤く染めた翼は、ナナシに対して悪態をついた後、普段と異なるナナシの様子に疑問を持った。そんな翼に、マリアは呆れたような顔をして言葉をかけた。
「原因なら分かり切っているでしょう?あの男は、これまでずっとあなた達の歌を傍で聴いているために活動してきたのに、今はあなた達と別れて日本に残ることを余儀なくされているのよ?それで普段通りでいられると思うの?」
「なっ!?だ、だが、日本に残ると言ったのはナナシ自身だぞ!?私達にそう告げた時も、私達が日本を離れる時も、何一つ変わった様子など無かったはずだ!」
「当然でしょう?私なんかの歌のために、国連に喧嘩を売る様な男よ?あなた達が歌うことに支障が出るような態度を見せられると思う?」
「うっ…」
「…あの男が日本に残る原因を作った私が言うのもなんだけど、少しは気にかけてあげなさい。埒外の力を持って、“紛い物”を自称する彼だけど、決してその心根まで人と異なる訳では無いはずよ。周囲の後押しがあったとはいえ、リスクを冒してまで私達の歌を聴きに来たり、わざわざ忍び込んでまであなた達の様子を見に来たのは、そういうことでしょう?」
「……」
マリアの言葉に、翼は赤い顔で黙ったまま俯いてしまった。そんな翼の様子に、マリアはつい苦笑してしまう。
(こういうところは可愛いわね、この剣。でも、あの男のことについては、奏の方が理解しているようなのよね…それに、響と未来もあの男を信頼しているし、クリスも口では色々言っているけど、何だかんだあの男に気を許している…やっぱり、あの男は危険ね!日本に残っている調と切歌のためにも、何とかしたいところだけど…)
そう考えるマリアは、未だに俯いて思い悩む翼の方を見て、思わずため息を吐いた。
「はぁ…あなた達があの男との関係をはっきりさせてくれれば、私も思い悩まずに済むのに…」
「…?マリア、一体何の話を…っ!?」
マリアの言葉の意味を聞き出そうと、翼が視線を上げると、前方に襲撃者の女が待ち構えているのが見えた。
「マリア!!」
「くっ!」
マリアは咄嗟の判断でアクセルを踏み込み加速する。生身でナナシやシンフォギアを纏った翼の攻撃に耐えるような相手に、今更躊躇する必要はない。跳ね飛ばしてでも先に進もうとするマリアの行動に対して…女は、大剣を構えた。
「「ッ!?」」
瞬時に相手の意図を察した二人は、シートを傾けて体を後ろに倒す。その直後、女が繰り出した大剣の一撃が、車体を切り裂き、二人の眼前を通り過ぎて、そのまま車を真横に両断してみせた。
間一髪で危機を脱した二人だが、もうこの車で逃走を続けることは不可能と判断し、翼はギアペンダントに手をかけて聖詠を口にした。
「Imyuteus amenohabakiri tron」
シンフォギアを纏った翼は、マリアを抱えて車から脱出する。マリアを路上に降ろした翼は、大剣を展開して即座に女に攻撃を仕掛けるが、女は難なく翼の一撃を大剣で受け止める。
「剣は剣でも私の剣は『剣返し』…『ソードブレイカー』」
女の呟きと共に、女の手にした大剣の表面に模様のようなものが浮かび上がり、突然翼の大剣が砕け散った。翼は女から距離を取って剣を構え直し、警戒しながら女の様子を窺う。
すると、女は中央が赤く輝く水晶のようなものを掌にいくつも取り出して地面にばら撒いた。水晶は地面に接触すると砕け散り、赤い陣が地面に広がる。そして…
「あぁ!?そんな…ノイズ!?どうして!!?」
赤い陣から、全滅したはずのノイズが次々と姿を現した。
そして、厄災の再来はロンドンだけの話ではなかった。
「クリスちゃん!」
『分かってるって。こっちも旧友と鉢合わせ中だ』
友里の呼びかけに、クリスがそう返す。S.O.N.G.本部のモニターには、多数のノイズと対峙するクリスの姿が映し出されていた。
「反応波形合致!昨夜の未確認パターンはやはり…」
「くっ!バビロニアの宝物庫は、一兆度の熱量に蒸発したのではなかったのか!?」
未だノイズの脅威が去っていないという事実に、弦十郎は拳を手に打ち付けて憤慨するのだった。
「…どうやら、出し惜しみしている場合では無いわね」
ノイズの群れと、その中心で大剣を構える女に対して、剣を構えて自分を守ろうとする友の姿を見て…マリアは、覚悟を決めて前に出る。
「マリア!?下がっていろ!ここは私が…」
「友の危難を前に、鞘走らずに居られる訳ないでしょう!!」
翼の制止を振り切り、マリアは胸元から…傷一つないギアペンダントを取り出した。
「それは…!?」
それを見た女が、驚いたような声を上げる。
「マリア…」
「私は、あなた達に守られ続ける弱い自分のままでいたくない。そんな自分を許してしまえば、私は二度と胸を張ってあなた達の仲間だなんて言えなくなる。それは、幾度となく差し伸べる手を払いのけてきた私達に、諦めず手を伸ばし続けてくれたあなた達に対する、これ以上無いほどの裏切りだ!私は、もう逃げない!!」
宣言と共に、マリアは懐から取り出した注射器を首に当てて、薬品…LiNKERを自身に投与する。そして、その喉を震わせて…歌を、奏でた。
「Seilien coffin airget-lamh tron」
マリアの歌に、ギアペンダントが応える。マリアの服はコンバーターに格納され、入れ替わるように白銀の鎧…アガートラームのシンフォギアが展開される。
マリアは左手に填められた銀の籠手から短剣を生成して右手に持ち、構える。それと同時に、ナナシから渡された“血晶”を使って、翼に“念話”を繋げた。
(翼、細かい話は後にしましょう。速攻で周囲のノイズを殲滅して、私達と後から来るナナシの三人であの女を制圧する。あなたの
(…ああ、分かった。背中は預けたぞ、マリア!)
そして、二人は歌声を響かせながらノイズの群れへと突撃する。翼は剣で、マリアは短剣と銀の籠手で次々とノイズを消滅させていく。ノイズが赤い粒子となって数が減っていく光景を、女は静かに見つめていた。
「…些か想定外ですけど、やることは変わりませんわね。あなた達の剣と籠手、大人しく殺されてくれると助かります」
「そのような可愛げを、未だ私に求めているとは!」
女の呟きに、翼は不敵な笑みを浮かべて答える。
「防人の剣は可愛くないと、友が語って聞かせてくれた!」
「こ、こんなところで言うことか!?」
マリアが顔を赤く染め、翼の言葉にツッコミを入れながら短剣の一撃でノイズを切り裂く。
「餓狼の光る牙は自らをも 壊し滅す諸刃のよう!」
翼は歌声に更に力を籠めて、破竹の勢いで迫り来るノイズを殲滅していく。始めはノイズの再来で戸惑った二人だが、マリアが言ったように単調な攻撃しかしてこない通常個体のノイズに、今更二人が後れを取ることなどない。
このまま二人がノイズを減らし続ければ、全滅は時間の問題…それでも、目の前の光景に、女の笑みは崩れない。
日本でノイズと交戦するクリスも、危なげなく戦闘を進めていた。
「どんだけ出ようが今更ノイズ!負けるかよ!」
余裕の笑みを浮かべてガトリング砲を撃ちまくり、ノイズ相手に無双するクリス。
…だが、その流れは唐突に断ち切られることになる。
射撃するクリスの側面から、ノイズが肉体の一部を伸ばして攻撃してきた。それに気が付いたクリスは、咄嗟にガトリング砲を盾のように構えて攻撃を受け止めた。すると、ノイズと接触した箇所が赤く発光していき、ガトリング砲が徐々に崩れ始めた。
「なん、だと!?」
次の瞬間、限界を迎えたクリスのガトリング砲は砕け散り、ノイズの攻撃がクリスのギアペンダントを掠めた。そして、今度はクリスのシンフォギア全体が崩壊し始めた。
「あ、ああぁ…!?」
自身のギアが崩壊していく光景に、クリスは戸惑いの声を上げることしかできない。そんなクリスの姿を見ていたレイアが、微笑みながら呟いた。
「ノイズだと、括った高がそうさせる」
「剣は剣としか呼べぬのか? 違う、友は翼と呼ぶ!」
マリアと協力しながら次々とノイズを屠る翼。そんな翼に、これまで見たことのないタイプのノイズが翼に迫る。人型をしたそのノイズは、左腕がランスのように鋭く尖っており、翼に対して刺突攻撃を仕掛けてきた。
「…我が名は 夢を羽撃く者也!」
ノイズの攻撃を、翼は剣の刺突で迎え撃ち、ノイズの左腕と翼の剣の先端が衝突する。
ノイズと翼の攻撃が拮抗し一瞬だけ両者の動きが止まった後…翼の剣が、ノイズとの接触部から赤い粒子となって徐々に崩れ始めた。
「剣が!?」
翼が動揺する隙に、ノイズが攻撃を押し込み、左腕の先端が翼へと迫る。
すると、翼の危機にナナシの“血晶”が“障壁”を展開してノイズの攻撃を阻もうとする。
…だが
パキンッ
「……え?」
ノイズの攻撃は……“障壁”を、透過して……軽い音を響かせながら、翼のギアペンダントを傷つけた。
そして、翼の身に纏うシンフォギアが、徐々に崩れ始める。戸惑う翼の様子を眺めながら、襲撃者の女は笑みを浮かべて呟く。
「敗北で済まされるなんて、思わないでね」
「アルカノイズ…」
広く、まるで王城の大広間を思わせる場所で、玉座に座ったキャロル・マールス・ディーンハイムが小さくそう呟いた後…天に向かって絶叫した。
「何するものぞ、シンフォギアァァァアア!!!」