戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
徐々に崩壊していく翼のシンフォギア。このままだと、ギアが完全に消失するのは時間の問題だった。
「はあっ!!」
完全にシンフォギアが消失する前に、翼は素早く剣を再展開させて、翼のギアを破壊した新種のノイズを切り捨てる。両断されたノイズは赤い粒子となって消失するが、それと同時に翼のギアは完全に崩壊し、強制的にシンフォギアが解除された。
「ぐあっ!?」
「翼!」
通常の解除と異なるためか、衣服の再構成が行われず、翼の体に衝撃が走る。裸の状態で気絶した翼の元に、マリアが駆け寄った。
「システムの破壊を確認。これで当初のお仕事はひと段落。あとは…」
襲撃者の女がそう呟くと、数体のノイズがマリア達の元に迫っていく。
「ッ!?翼には手を出させない!!」
短剣を構え、マリアがノイズを迎え撃とうとした。その時…
「翼!マリア!」
ズバンッ!!
…翼達に追い付いたナナシが、マリア達に迫るノイズを槍で横薙ぎに切り裂いた。
「ナナシ!」
すぐさまマリア達の元にたどり着いたナナシは、二人を庇うように女とノイズの前に立ちはだかる。
「あら、恐ろしいナイト様のご到着ね。でも、あなたの大切な剣ちゃんは既に折らせて頂きましたわ」
「……」
ナナシは、女の軽口に返答することなく無言で睨みつける。周囲を警戒しつつ、ナナシはマリアに“念話”を繋げた。
(何があった!?翼の状態は!!?)
(気絶しているだけ!翼のギアが破壊された!あのノイズ達は普通じゃない!)
手短に情報のやり取りを行うナナシに目掛けて、数体のノイズが触手を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。ナナシは自身の目の前に“障壁”を展開して…
「駄目!避けて!!」
「っ!?」
マリアの警告に、ナナシが咄嗟に回避行動を取るが、僅かに間に合わず…“障壁”を透過したノイズの触手がナナシの右腕に直撃し、手にした槍と共にナナシの右腕が宙を舞った。
「何で、“障壁”が!?」
「ナナシ!?」
攻撃を受けたナナシの右腕、その傷口周辺の組織が赤い粒子となってポロポロと崩れ落ちていた。
(何だ、これ!?切断じゃない…溶断?いや、溶けているんじゃない。まるで接触した箇所が分解されたような…)
未知の攻撃にナナシが困惑している間に、ノイズ達が追撃を加えるためナナシに触手を伸ばして来る。
「させない!!」
「っ!?よせ!マリア!!」
ナナシを庇うためにマリアが前に出て、銀の籠手から無数に生成した短剣を射出して攻撃する。だが、その悉くがノイズの触手によって赤い粒子へと分解され、触手がそのままマリアへと迫る。
「マリア!!」
ナナシの体の輪郭がブレて、右腕が再生する。ナナシがマリアを守るために駆け寄るが、それよりも早くノイズの触手がマリアに近づき…
ガキンッ!
…マリアの“血晶”から展開された“障壁”が、ノイズの触手を弾き返した。
「…え?」
「あら?」
「…!」
マリアが困惑し、女が驚いている隙に、いち早くその結果を受け入れたナナシが、新たに女とノイズの周囲に“障壁”を展開して完全に閉じ込めた。
ノイズ達が“障壁”に攻撃を加え続けるが、その全てが透過されること無く弾かれる。
「どうやら閉じ込められてしまったようですね?どうしましょうか…」
女はそれでも余裕を崩すことなく、少しの間立ち尽くしていたかと思うと…
「…分かりました。当初の目的通り、剣は折れましたし、銀の籠手はまた折を見ることにいたします」
そう一人で呟いた後、女は何処かからガラス瓶を取り出して地面へと叩きつける。すると、赤い陣が地面に広がり、次の瞬間には女と周囲のノイズは跡形も無く消え去った。
「消えた…敗北で済まされないとは、一体…」
「翼!」
マリアが女の口にしていた言葉について思案していると、ナナシが翼の名を呼ぶのが耳に入った。振り返ると、気絶する翼の元にナナシが駆け寄り声を掛けていた。
「翼!翼!!大丈夫か!?目を開けてくれ!!」
「うぅ…ナ、ナシ…?」
翼の肩を揺すりながらナナシが声を掛け続けると、翼は薄っすらと目を開けてナナシの名を呼んだ。
「大丈夫か翼!?何処か問題は!!?」
「…ギアが…」
「ギアなんてどうでもいい!!」
「っ!?」
ナナシの叫び声に、朦朧としていた翼の意識がハッキリとする。
「お前の体に問題は無いか!?怪我は無いな!?何処か痛むところはあるか!!?」
「あ、ああ…大事ない」
翼がそう言うと、ナナシはホッと息を吐いて…そのまま翼を抱きしめた。
「っ!?ナナシ!?何を!!?」
「良かった…翼が無事で、本当に良かった…」
そう安堵するナナシの声に、慌てていた翼は落ち着きを取り戻し、力を抜いてフッと困ったような笑みを浮かべた。
「えっと、翼?あなたが無事なのは良かったけれど、落ち着いたなら自分の状態を確認しましょうか…」
「…ん?」
ギアを解除したマリアが告げた言葉によって、翼は自分の状態を改めて確認して…自分が全裸でナナシに抱きしめられていることに気が付いた。
「……き…」
「き?」
「きゃあああああああああ!!?!?」
バチィィィン!!
「おぐっ!?」
普段の彼女からあまり考えられない、絹を裂くような悲鳴を上げながら振るわれた翼の平手がナナシの顔面に当たり、ナナシの体は弾き飛ばされるように吹き飛んだ。
「ぐあっ!?」
「クリスさん!」
日本にいるクリスも、翼と同じ状況に陥っていた。シンフォギアの分解による強制解除。その衝撃によって裸のまま気絶したクリスに、エルフナインが駆け寄る。
「世界の解剖を目的に作られたアルカノイズを、兵器と使えば…」
「シンフォギアに備わる各種防御フィールドを突破することなど、容易い」
エルフナインの呟きに、レイアが答える。気絶したまま目を覚まさないクリスの前に、エルフナインが立ちふさがり、小さな体を名一杯広げてクリスを守ろうとする。レイアがそんなエルフナインの姿をジッと見つめていると…
「させないデスよ!」
頭上から、突然声が響き渡った。
レイアが声に反応して視線を上げると、そこには何故か横断幕を体に巻き付け、マントのように靡かせる切歌の姿があった。
「フン!」
切歌がバサリと横断幕を脱ぎ捨て、懐から取り出した注射器を使い、LiNKERを投与する。
「Zeios igalima raizen tron」
切歌の聖詠によって、イガリマのシンフォギアが起動する。装者の心境の変化によってか、かつては黒と緑を主体とした鎧が、白と緑を主体としたものに変わっていた。
「危険信号点滅 地獄極楽どっちがイイDeath?」
歌声を響かせながら、切歌は展開した大鎌を構え、振りぬく。
“切・呪リeッTぉ”
複製された刃が投擲され、何体ものノイズが切り裂かれる。
「小っ恥ずかしい過去は 赤面ファイヤー消去Death!」
地面に飛び降りた切歌は、ノイズの群れへと駆け込みながら、自分の体を軸に大鎌を振り回し、肩部のブースターで回転速度を上昇させる。
“災輪・TぃN渦ぁBェル”
独楽のように回転しながら移動し、切歌はノイズを次々と切り裂いていった。
「派手にやってくれる」
レイアが派手に暴れる切歌に注目していると、突如飛来してきた丸鋸が、エルフナインとクリスに迫っていたノイズ達を切り刻む。
“α式 百輪廻”
大量の丸鋸を噴出させながら、白と薄紅色のシンフォギア、シュルシャガナを纏った調がフィギュアスケーターのような動きでエルフナインに接近する。
「女神…ザババの…」
絶体絶命の危機から脱し、僅かに気が弛緩したためか、エルフナインはそう呟くと意識を手放してしまった。倒れ込むエルフナインの体を、調が受け止めそのまま連れ去る。
「派手な立ち回りは陽動…」
レイアの意識が調に切り替わった一瞬の隙に、今度は切歌が先程の横断幕を手にクリスに急接近すると、クリスの裸体を横断幕で包んで連れ去った。
「陽動にまた陽動…」
まんまとターゲット二人を連れ去られたレイアは、特に焦ることなく傍観に徹していた。
「引くよ、切ちゃん」
「ガッテンデス!ナナシさんとの約束、『命を大事に』デスね!」
調が禁月輪を展開してノイズを蹴散らしながら進み、切歌がその後に続く。
「…予定に無い闖入者。指示をください」
逃亡する調達を見ながら、レイアが一人でそう呟く。すると、その脳裏に主人からの指示か伝わってきた。
(追跡の必要は無い。ファラも既に帰投している。お前にも帰投を命ずる)
主人からの指示に従い、レイアはガラス瓶を取り出して地面に叩きつけ、その場から姿を消した。
夜が明けて、水平線から朝日が昇る。
気絶したクリスとエルフナインを抱えて、調と切歌が道路を走っていた。すると、突然…
バチンッ
「ぐっ!」
「調!?」
不意に襲い掛かった痛みに調が呻き声を上げ、禁月輪を解除して立ち止まった。それを見て、切歌も調の傍に立ち止まる。二人のギアから、放電に似た発光現象が起こっていた。
「…了子さん達が作ったLiNKERがあれば、あんな奴に負けるもんかデス!」
痛みに顔を歪めながら、切歌がそう言い切った。
「切ちゃん…」
「分かってるデス!」
切歌をジッと見つめて呟く調に、切歌は目を逸らしてそう叫んだ。
マリア達三人が現在使用しているLiNKERは、かつて奏が使用していた『model_K』をベースに、了子とナナシ、そしてS.O.N.G.の技術者達が協力して再精製したものである。
フロンティア事変が解決した後、了子が主体となってウェル博士が開発した改良型LiNKERの解析・開発が進められることになり、基本理論は了子が構築し、ナナシとS.O.N.G.の技術者達で細かなアプローチと試行錯誤を重ねたが、その進捗は芳しいとは言えなかった。
それでも万が一の場合に備えるべく開発を進めた結果、解析された極一部の情報を元に、model_Kよりも安全性が高い、新型LiNKERのプロトタイプを作ることに成功した。
だが、奏より適合係数が低い三人の肉体的な安全性を重視した結果…代償として、シンフォギアを纏って活動できる時間が大幅に減少することとなった。
それゆえ、マリア達は常に救助活動に参加するのではなく、何らかの緊急時のみ出撃する方針が決定し、LiNKERのプロトタイプが完成した折に、マリアのアガートラームは了子によって修復されることになった。
マリア達は、最初にLiNKERのプロトタイプと、今後の方針についてナナシに説明を受けた際、役に立ちたい一心で、つい『多少の肉体へのダメージを許容させることで、活動時間を延長させることはできないか』と聞いてしまった。
「同じセリフを、ナスターシャ教授と奏の前で言えるなら一考してやる」
ナナシが冷たく言い放った一言で、マリア達はそれ以上何も言うことができなくなってしまった。そんな三人に、今度は諭すようにナナシは言葉を掛けた。
「三人共、約束してくれ。『命を大事に』だ。これは当然、お前達を慮っての言葉だ。だけど、それだけじゃない。失うことの辛さも、遺される人間の気持ちも、お前達は知っているはずだ。お前達自身のためだけでなく、お前達を想う人達のためにも…安易な自己犠牲に、逃げようとするな」
「…私達、どこまで行けばいいのかな?」
「…行けるとこまで、デス」
調の呟きに、切歌がそう返す。
「でもそれじゃあ、あの頃と変わらないよ?」
二人の脳裏に浮かぶのは、レセプターチルドレンとしてF.I.S.の施設にいた頃の日々。
「身寄りのない私達が連れてこられた、壁も天井も真っ白な世界」
「そこで出会ったシンフォギアは、昨日までの嫌な事、全部ぶっ飛ばしてくれる、特別な力だと思っていたデスよ…」
だが、切歌達がいた場所は、そんなに単純な世界ではなかった。シンフォギアという力を手にした後でも、待っていたのは訓練の日々。結局、切歌達は自分達以外の誰かの思惑通りに動くことしか許されなかった。
「聖遺物が引き起こした災厄から人類を守るには、聖遺物の力で対抗するしかない」
「そう考えるマムを、手伝いたいと思った訳デスが…」
その考えも、本質は施設にいた時と変わらない。自ら考え、それが最良の方法だと判断したのではなく、ただ流れに従って力を振るったに過ぎない。
「状況に流されるままに力を振るっても、何も変えられない現実だけを思い知らされた…」
「マムやマリアのやりたい事じゃない。アタシ達が、アタシ達のやるべき事を見つけられなかったから、あんな風になってしまったデス」
「目的もなく、行ける所まで行ったところに、望んだゴールがある保証なんてない。我武者羅なだけではダメなんだ」
「もしかして、アタシ達を出動させなかったのは、そういう事デスか!?」
「うぅ…」
切歌が何かに気づきかけたところで、クリスが呻き声を上げた後、その目を開いた。
「良かった」
「大丈夫デスか?」
クリスが目を覚ましたことに安堵する二人だったが…
「大丈夫なものかよ!」
意識を取り戻したクリスは、切歌の呼びかけに対して怒気を含んだ声で叫んだ。
(守らなきゃいけない後輩に守られて、大丈夫な訳ないだろ!)
悔しさに顔を歪め、身を震わせるクリスを、調と切歌は心配そうに見ることしかできなかった。
数日後
錬金術師と、新型ノイズという新たな脅威が現れたことで、ツヴァイウィングと歌姫マリアは急遽日本へと帰国することが決定。キャロルに襲撃され、S.O.N.G.に無事保護された響、ギアを破壊された翼とクリス、そして初めて実戦でプロトタイプのLiNKERを使用したマリア、調、切歌がそれぞれ身体検査を受け、ようやく全員がS.O.N.G.本部へと集合することができた。これより、関係者全員による対策会議が行われる。
「シンフォギア装者勢揃い…とは言い難いのかもしれないな」
装者全員と奏、そしてナナシの前で弦十郎がそう言うと、目の前にあるモニターに二つの画像が表示された。
「これは?」
「新型ノイズに破壊された、天羽々斬とイチイバルよ」
緒川の疑問に、了子が答える。映像には、至る所に罅が入ったギアペンダントが映し出されていた。
「コアとなる聖遺物の欠片は無事よ。だけど、エネルギーをプロテクターとして固着させる機能が派手に壊されちゃってるわね」
そう言って、了子は困った顔で肩を竦めてみせた。
「もちろん、直るんだよな?」
「当然よ。私ならちょちょいのちょいと直してみせるわ…ただ、問題はそこじゃないのよね」
「…例の新型ノイズだよな?」
ナナシの問いに、了子が頷く。
「折角修復しても、今のままだとまたあの新型ノイズに壊されて終わりね。修復には多少時間が掛かるから、壊れるたびに直していたら絶対間に合わなくなる。ただ直すんじゃなくて、何らかの防御機能を考えないと」
「防御機能…」
了子の話を聞いた翼が、ポツリと呟いて自身の手首に填めた“血晶”を見つめた。
「現状、動ける戦力は響君とナナシ君の二名のみ…」
「ちょっと待ちなさい!」
「そんなことないデスよ!」
「私達だって…」
弦十郎の言葉に、マリア達が反論を唱えるが…
「駄目だ」
三人の声を遮るように、ナナシが否定の声を上げた。
「ナナシ!?」
「先生!?」
「どうしてデスか!?」
「わざわざ言わなくても、本当は分かっているだろう?今のLiNKERでお前達を戦力として扱うことはできない」
「私達は緊急時に出撃するという方針だったはずよ!?今がその緊急事態でしょう!?」
「それはノイズが現れなくなって、救助活動が主な任務だった時の方針だ。戦闘行為となると話が別だ。もし戦闘中にLiNKERの効果が切れたらどうする?」
「それなら、予備のLiNKERを複数所持して連続で投与すれば…」
「そういう無茶を繰り返した結果、取り返しが付かなくなったバカがここにいるんだけどな」
マリアの反論を、奏が遮ってそう言った。
「しかも、あんた達は小さい時からずっと投薬実験を繰り返してきたんだろ?そんな無茶しようものなら、下手すりゃ本気で死ぬよ?」
「だけど…!」
「その辺りにしておきなさい」
マリアが尚も食い下がろうとしていると、部屋の扉が開いて車椅子に乗ったナスターシャ教授が入ってきた。
「マム!?」
「今のあなた達が無理に戦場へ赴いたところで、足手まといにしかなりません。聞き入れなさい」
ナスターシャ教授の言葉に、三人はそれ以上何も言えなくなり、俯いて黙ってしまった。
(要約すると、『大事な娘達が心配で仕方ないから、お願いだから無茶しないで』ってことだな)
(((ッ!?)))
ナナシが突然“念話”で語り掛けてきたことに、マリア達が驚く。
(相変わらず不器用な母親だな。あんまり心配かけるなよ)
(((……)))
「内緒話は済みましたか?」
「「「ッ!!?」」」
「あれ?バレてる?」
「あなたはともかく、三人は表情に出過ぎです。それでは情報のやり取りをしていることが隠せませんよ」
「流石は母親、娘達のことをよく見ているな!」
「茶化さないでください」
ナスターシャ教授は静かにそう言うが、照れているのか僅かに顔が赤くなっている。そんなナナシとナスターシャ教授のやり取りで、張り詰めていた部屋の空気が和らいだ気がした。
「それに、そんなに心配しなくても、今回の相手はお前達がわざわざ出張るほどの相手じゃない」
「「「え?」」」
ニコニコと笑いながら突然そんなことを言うナナシに、三人が思わず疑問の声を上げた。
「錬金術師なんて大層な肩書を名乗っているけど、実体は夜中に幼女を追いかけ回したり、奏の唇を奪おうとしたり、翼やクリスを裸にひん剥く変態の集まりでしかない。次現れたら俺が血祭りにあげるから安心してくれ」
「「ヒィッ!?」」
表面上はニコニコしているが、全く笑っていない目でそう言うナナシに、調と切歌は小さく悲鳴を上げた。
「ね、ねえ、クリスちゃん。兄弟子、ロンドンから戻って以来何だか不機嫌じゃない?」
「察してやれ。傍にいたのに、先輩を守り切れずにギアが壊されちまったんだ。今回の相手にはご都合主義もお冠なんだろ?」
「う、う~ん、本当にそれだけかな?それにしてはロンドンにいた三人の様子がおかしいような…」
響とクリスがヒソヒソとナナシについて話をする。普段と様子が異なるナナシを見て、翼は赤面し、奏は困ったような笑みを浮かべ、マリアは呆れたような視線を向けていた。
「そう、今回の相手は錬金術…シンフォギアとは異なる異端技術を使うってことだけど、了子は錬金術について何か知っているのか?」
「知っている…どころの話ではないわ。錬金術は、かつて私が統一言語に代わる新たな相互理解の方法を模索して生み出した技術の一つよ」
『!!?』
了子の言葉に、その場の全員が驚愕の表情を浮かべて了子を見る。了子が、その視線にバツの悪そうな顔をしていると…
「それは心強いな!流石できる女の了子だ!頼りになる!」
ナナシがそう了子を褒めちぎった。
「…随分と、簡単に流してくれるわね?」
「流石に今回の件で了子に責任を吹っ掛けるのは無理があるだろ?技術をどう使うかなんて人それぞれ。知識を教えた相手がやったことの責任なんて取っていたら、教師なんて職業は存在できないって」
「そんな訳ないでしょう!?研究者として、自分が生み出した技術に無責任でいるなんてできないわ!」
「おお!立派なお考え!惚れた相手のために世界を滅ぼしかけた女は言うことが違うな!」
「どんな嫌味よ!?というかナナシちゃん、慰める振りして私をからかっているだけでしょう!?」
「Exactly!!」
「解剖されたいか貴様!!」
「ぎゃあー!?ストップ、ストップ!!フィーネ漏れてるフィーネ漏れてる!?」
「プフッ、あはははは!そうそう、コレコレ!やっと日本に帰ってきた感じがした!」
了子がナナシに掴みかかるのを見て、奏が笑い出してしまった。
「了子さんが錬金術について知っているなら、本当に心強いことだろ?責任感じているって言うなら、せいぜい皆のために頑張ってくれよな!」
「奏ちゃん…分かったわよ」
そう言って、困ったような笑みを浮かべながら了子が話を進めた。
「専門的な話は時間がかかるから、今回は要点だけを話すわね。錬金術とは、いわば現代の『魔法』を総称する、現代科学とは別次元に進化してきた異端技術。その基礎工程は物質の分解・解析・再構築。物質を分解して、そこから情報を解析、そして新たな形へと再構築する。今回翼ちゃんやクリスのギアを破壊した攻撃は、錬金術の『分解』を利用したものだと推察されるわ」
「分解…確かにそんな感じの攻撃だったな」
ナナシが自分の右腕を見ながらそう呟いた。
「相手の攻撃が何か分かってんなら、対策もできんじゃねえのか?」
クリスの問いに、了子が首を左右に振る。
「それがそう簡単な話じゃないのよね。錬金術は術者によってその構成が全く異なるのよ。並の術者程度の攻撃なら、シンフォギアのプロテクターを突破するなんて無理よ。相手は世界屈指の術者と見て間違いない。そんな相手の錬金術の仕組みを一から分析しようと思ったら、途方もない時間がかかるわ」
「だが、そんな猶予を相手が与えてくれるとは思えませんよ、櫻井女史」
了子の言葉に、翼がそう意見する。
「まあ、そうでしょうね…そういう訳だから、事情を知っていそうな子に、話を聞くことにしましょう」