戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第80話

西洋の城の大広間を彷彿とさせる場所で、キャロル・マールス・ディーンハイムは玉座に腰かけていた。その視線の先の広間には四つの台座があり、クリスを襲ったレイアと、翼達を襲った女…ファラが、ポーズを取った状態でそれぞれ台座の上に立っていた。

 

台座の一つには、襲撃時にはいなかった赤毛の少女がレイア達と同様にポーズを取った状態で立っており、そのすぐ傍にガリィが寄り添っていた。

 

「いっきま~す。チュッ♪」

 

ガリィがそう言って、赤毛の少女に口付けをした。二人が重ねた唇が淡く輝く。そうしてしばらくの間二人が口付けを交わしていると、不意に光が消えてガリィが赤毛の少女から離れる。すると、今まで微動だにしなかった赤毛の少女が動き出した。

 

「んあ……あうぅ~」

 

ガクガクとぎこちない動きをした後、赤毛の少女はその場にペタリとへたり込んだ。

 

「最大戦力となるミカを動かすだけの想い出を集めるのは、存外時間が掛かったようだな」

 

「いやですよぉ、これでも頑張ったんですよ?なるべく目立たずにぃ、事を進めるのは大変だったんですからぁ」

 

キャロルの言葉に、ガリィがおどけるような態度で答えた。

 

「まあ問題なかろう。これで、オートスコアラーは全機起動。計画を次の階梯に進める事ができる」

 

「あうぅ~」

 

キャロルが話している間、赤毛の少女…ミカは、時々体を動かそうとしているようだったが、やがて動くのをやめてそのまま項垂れてしまった。

 

「どうした、ミカ?」

 

「…お腹が空いて、動けないゾ」

 

キャロルの問いかけに、ミカは力なくそう答えた。

 

「ガリィ」

 

「あー、はいはい。ガリィのお仕事ですよねぇ」

 

キャロルに名を呼ばれたガリィは、ヤレヤレといった仕草を取った後、その場から動き出す。

 

「ついでにもう一仕事、熟してくると良い」

 

立ち去るガリィにキャロルが追加の指示を出すと、ガリィは何かを思い出したかのようにキャロルの方へ振り返った。

 

「そう言えばマスター、エルフナインは連中に、保護されたみたいですよ?」

 

ガリィの報告に、キャロルはつまらなそうな表情を浮かべ、片目を閉じた状態で答えた。

 

「把握している」

 

 

 

 

 

S.O.N.G.本部のとある部屋に、先程まで話し合いをしていたS.O.N.G.の主要メンバーが集まっていた。

 

「ボクは、キャロルに命じられるまま、巨大装置の一部の建造に携わっていました」

 

その部屋には、先日クリスと接触し、調と切歌によって保護された少女、エルフナインが待機しており、今回の事件について何らかの事情を知っている彼女から話を聞こうと全員で押しかけていた。

 

「ある時アクセスしたデータベースより、この装置が世界をバラバラに解剖するものだと知ってしまい、目論見を阻止する為に逃げ出してきたのです」

 

「世界をバラバラにって…ただでさえ神様に言語をバラバラにされて、つい最近月の落下でバラバラになりそうだったのに、またバラバラにされそうなのか?この世界も大変だな」

 

「茶化すな、ご都合主義」

 

ふざけた口調で話すナナシに、クリスがツッコミを入れる。

 

「それを可能とするのが錬金術です。ノイズのレシピを元に作られたアルカノイズを見れば分かるように、シンフォギアを始めとする、万物を分解する力は既にあり、その力を世界規模に拡大するのが、建造途中の巨大装置『チフォージュ・シャトー』になります」

 

「装置の建造に携わっていたという事は、君もまた、錬金術師なのか?」

 

「…はい」

 

翼の問いに、エルフナインはコクリと頷いた。

 

「ですが、キャロルのように全ての知識や能力を統括しているのではなく、限定した目的の為に作られたに過ぎません」

 

「作られた?」

 

エルフナインの言葉に、響が頭に疑問符を浮かべる。

 

「…『ホムンクルス』、ってことか?」

 

「はい、その通りです」

 

ナナシの言葉を、エルフナインが肯定した。

 

「ナナシ、知っているのか?」

 

「錬金術は色んな作品に出てくるからな。錬金術で人工的に作られた生命体、ホムンクルス。それこそ作品次第で化け物だったり、ほとんど人間と同じだったり、或いはどちらにも変身できたりと様々な扱いだった。俺自身、そうやって作られた可能性があると思って一時期それなりに調べたことがある」

 

「あなた自身が、ですか?」

 

ナナシの言葉に、今度はエルフナインが疑問を感じた。

 

「ああ、こんな見た目だけど、俺も人間とは違う“紛い物”でな」

 

そう言って、ナナシが右腕を前に突き出して“身体変化”を使用する。腕がうねうねと不自然に動き出し、やがて肘から先が刃のような形状に変化した。

 

「こ、これは!?」

 

エルフナインはナナシの腕の変化に驚き、傍に近づいて注意深く観察したり、手で触って質感を調べたりし始めた。

 

「お、おい、素手で触るのは危ないんじゃ…」

 

「刃は潰してあるから大丈夫。それにしても怖がらずに観察し始めるなんて、随分好奇心が強いな?」

 

「…硬度や質感は完全に金属に変質している…でも、何らかの術式を構築したようには見えなかった…意識するだけで肉体を完全に別の物質へと変換するなんてどうやって…?…一体、変換には何をエネルギーに使用しているんでしょう…?」

 

「ご都合主義パワーだ!」

 

「ゴツゴウシュギパワー…」

 

「悪い、流さないでくれ!?冗談だ、冗談!いや、あながち間違いでもないけれど!」

 

ボケをスルーされそうになったナナシが、慌てて訂正をする。

 

「ハイハイ、ナナシちゃんの体が興味深いのは分かるけど、話を進めてもらって良いかしら?」

 

「あっ!?す、すみません!えっと、ボクは確かにホムンクルスですけど、装置の建造に必要な最低限の錬金知識をインストールされただけで、それ以外には見た目相応の身体能力しかありません」

 

「インストール、と言ったわね?」

 

「必要な情報を、知識として脳に転送複写する事です…残念ながら、ボクにインストールされた知識に、計画の詳細はありません。ですが…世界解剖の装置『チフォージュ・シャトー』が完成間近だという事は分かります」

 

そう言って、エルフナインは伏せていた顔を上げて全員の顔を真っ直ぐに見つめた。

 

「お願いです!力を貸してください!そのためにボクは、ドウェルグ=ダインの遺産を持ってここまで来たのです!」

 

「ドウェルグ=ダインの遺産って、まさか…!?」

 

エルフナインの言葉に心当たりがあるのか、了子が声を上げる。エルフナインは、ずっと手に持っていた箱の蓋を開けて、中から何やら文字のようなものが刻まれた、黒い板のようなものを取り出した。

 

「アルカノイズに、錬金術師キャロルの力に対抗しうる聖遺物…魔剣『ダインスレイフ』の欠片です」

 

「…また、とんでもない物を持ってきたわね」

 

「了子君、それが何か知っているのか?」

 

了子の呟きに対して、弦十郎がそう問いかける。

 

「…魔剣『ダインスレイフ』。伝承には、ひとたび抜剣すると犠牲者の血を啜るまでは鞘に収まらないとも記される曰くつきの一振りであり、その呪いは誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人の負の感情を暴走させる力を有している」

 

「メチャメチャ物騒な代物デス!?」

 

「そんな危険なもので、一体どうやって…?」

 

了子の説明に、一同が動揺していると…

 

「感情を…ふむ…悪い、ちょっと借りるぞ」

 

「えっ?あ!?待ってください!!?」

 

突然のナナシの行動に、エルフナインの制止が間に合わず、ナナシはエルフナインの手からダインスレイフの欠片を取り上げた。

 

ドクンッ!

 

その瞬間、ナナシの心臓が一際強く鼓動を刻む。ナナシは、自分の中で何かが蠢き、大きくなっていくのを感じていき…やがて、頭の中に声が響いた。

 

 

“全てを殺せ、全てを喰らえ、命を一つに、世界を一つに、そして大いなる一つの神に…”

 

 

それは、ナナシの中に初めからあった言葉。頭の中に鳴り響く声に、ナナシは…

 

(…あー…やっぱり、『コレ』ってそういう類いのものなのか…)

 

…極めて冷静に、自身の中に響く声をそう分析して、何事もなかったかのように手にした欠片をエルフナインに差し出した。

 

「ありがとう、返すよ」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

ナナシから欠片を受け取りながら、エルフナインが心配そうに声を掛けてきた。

 

「ナナシちゃん、話聞いてた!?もしナナシちゃんが暴走したらどうするつもりだったの!?」

 

「後ろにいる弦十郎と慎次と了子にボコボコにされて終わり?」

 

「…いや、まあ…そうなったでしょうけど…」

 

「一応、二人には“念話”で事前に連絡したし」

 

そう言って振り返ったナナシの視線の先には、胸元に手を入れて何時でも拳銃を撃てるようにしている緒川と、即座に飛び込めるように身構えている弦十郎がいた。

 

「了承する前に実行しないでください!」

 

「了承なんてされる訳ないから強行したんじゃないか」

 

「開き直るんじゃない!全く…それでナナシ君、何か分かったのか?」

 

「分かったような、分からないような?…まあ、多分了子が言った通りの代物だな」

 

「無茶した割に曖昧な答えね…何か隠していない?」

 

「いや、説明が難しくて…後でちゃんと説明する…痛っ!?いたたたたたっ!?」

 

「他人に自己犠牲がどうとか言っておいて、サラッと危険なことをするんじゃない!あなたはもう下がっていなさい!!」

 

マリアがそう怒鳴りながら、ナナシの耳を引っ張ってエルフナインから遠い位置に移動させた。

 

「全く…まあ、それが本物のダインスレイフだと言うのなら、あなたがそれを私達の元に持ってきた理由は、朧気ながら察しは付くわ。確かに、この状況を打開する鍵になるかもね」

 

「っ!?それは本当ですか、櫻井女史!?」

 

「ええ、あくまでこの子の言葉を信じるなら、だけどね」

 

「っ!?」

 

了子の言葉に、エルフナインがビクリと震えて不安そうな顔をする。そんな彼女に構わず、了子は部屋のモニターに何かの情報を表示させた。

 

「これは彼女の…ええ、彼女のメディカルチェックの結果なのだけれど、インプラントや後催眠なんかの特に怪しい痕跡は見つけられなかったわね。変わったところと言えば、無性ってところくらいかしら?」

 

「ムセイって、何デスか?」

 

「性別が無い、つまり男の子でも女の子でも無いって事よ」

 

「ナンデストー!?」

 

了子の説明に、その場に居る人間はついエルフナインに奇異の目を向けてしまう。それを感じたエルフナインは、慌てて弁明し始めた。

 

「そ、その!ボ、ボクは普通のホムンクルスであって、決して怪しい者ではありません!お願いです!信じてください!」

 

(((あ、怪し過ぎる(デス)……)))

 

本人を前に口には出さなかったが、その場のほとんどの人間がそう考えた。

 

「まあ、怪しいは怪しいけど、嘘は言ってないみたいだし、信じても良いんじゃないか?」

 

そんな中で、ナナシだけがそう主張した。

 

「…ナナシちゃんが言うなら、嘘は言ってないんでしょうけど、本当に信用して良いの?」

 

「だって、出自がある程度はっきりしている分、突然降って湧いた“紛い物”よりよっぽど信用できるじゃないか?」

 

「…そこでそういう風に自分を引き合いに出すのはどうなの?…はぁ、分かったわ。とりあえず、私の方で詳しい話を聞いて、有用な案かどうかを判断しましょう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

話を聞いて貰えると分かり、エルフナインがペコペコと頭を下げて感謝の言葉を口にした。

 

「でも、その前に…そろそろ後回しにしていた問題について話をするとしましょう」

 

「……ああ、そうだな」

 

了子の言葉に、ナナシの顔から笑みが消える。ナナシは真剣な表情をして、エルフナインに話しかけ始めた。

 

「エルフナイン、少し聞きたいことがある。まず、これを見て欲しい」

 

そう言って、ナナシはエルフナインの前に“障壁”を展開した。

 

「っ!?こ、これは…?」

 

「“障壁”と言う俺の能力だ。こんな感じに壁を作り出して攻撃を防ぐことができる。ポテンシャルとしてはシンフォギアの絶唱による一撃も防いだことがあるし、ノイズが透過することもできない…はずだった。だが…」

 

そう言って、ナナシが今度は“投影”を使ってロンドンでの出来事を表示させる。そこには、アルカノイズの攻撃が“障壁”を透過してナナシの腕を分解する光景と、マリアがアルカノイズの攻撃から“障壁”で守られる光景、そしてファラとアルカノイズの群れが“障壁”に閉じ込められる光景が映し出されていた。

 

「こんな感じに、新型ノイズ…アルカノイズの攻撃を防ぐ場合と、防げない場合が確認されている。翼のギアペンダントを破壊したアルカノイズの一撃も、“障壁”は防げなかったらしい。何か心当たりは無いか?アルカノイズは特殊な位相差障壁を使っているとか、そのキャロルと言う錬金術師が、俺の能力に何らかの対策を講じたとか」

 

「…残念ながら、心当たりはありません。確かにボクが見たデータベースの中には、シンフォギア装者の皆さんのデータの他に、『アンノウン(unknown)』と記載された人物のデータもありました。他のシンフォギアと余りに特徴が違うため、キャロルも別種のものとして扱ってはいましたが、詳細を調べることが叶わなかったため、暫定的にシンフォギア装者と同様の対策を取るとだけ記載されていました」

 

「『アンノウン』とは、また妙な呼び名を…」

 

「それに、アルカノイズは万物を分解する解剖器官を搭載した代償に、位相差障壁に関してはむしろ、通常兵器でもある程度ダメージを与えられるほどに劣化が発生しています。その欠陥を放置して、アルカノイズに対して何らかの追加機能を搭載したということも、考えられません」

 

「…なら、やっぱりこの現象はまだ発覚していない俺の能力の欠点が原因か」

 

エルフナインの言葉を聞いて、ナナシの表情が一段と険しいものに変わった。

 

「あのノイズの材料に、ガングニールみたいな兄弟子の弱点が使われているとか?」

 

「それなら、“障壁”が砕かれるんじゃないか?通り抜けてるみたいだったぞ?」

 

「単に能力使うの失敗しただけじゃねえのか?…以前、あたしの攻撃に反応しなかったこともあっただろ…」

 

「雪音、もうあまり気に病むな。それに、あの時は“障壁”が展開すらされなかった。恐らく今回の件とは要因が異なる」

 

「私や翼の纏う聖遺物の干渉…それも無いわね。それなら、ナナシ自身が守られていないことがおかしい」

 

「あとは…何だろう?」

 

「何デスかね?」

 

全員が思い思いに考えを述べていると、パンパンと手を叩いて了子が注目を集めた。

 

「ハイハイ、皆注目!実は、この件についてナナシちゃんに思い当ることがあるみたい。それを調べるために実験の用意をしてあるから、考えるのはその後にしましょう!」

 

 

 

 

 

了子の案内で一同が移動している途中で、クリスがナナシに話しかけてきた。

 

「んだよ、ご都合主義。心当たりがあるならとっとと言えよな」

 

それに対して、ナナシは険しい顔をしたまま静かに答えた。

 

「…この仮説は、叶うなら俺の“妄想”で終わって欲しい。それこそ、錬金術師キャロルが俺について調べた結果、何らかの対策を施したと言われた方が、まだ救いがあると思うくらいに…」

 

「っ!?」

 

ナナシの重く、悲痛さを感じさせる言葉に、思わずクリスは口を閉ざした。

 

「あ、あの…ボクまで付いて来て良かったんでしょうか?」

 

ナナシの後ろに付いて歩くエルフナインが、おずおずとそう訊ねてきた。

 

「構わない。錬金術師としての視点でも、それ以外でも、何か気が付いたことがあれば教えて欲しい…着いたぞ」

 

目的の部屋の前にたどり着き、扉を開けて全員が室内へと入る。部屋の中は、壁の一面がガラス張りになっており、隣の部屋の様子が見えるようになっていた。ガラスの向こうには、何の変哲もない白いマネキンが一体立っており、その手首には“血晶”が填められていた。そして、その頭上には何やら針のように尖った装置が見える。

 

「これは…?」

 

「人工的に雷を発生させる装置ね。そう複雑なものでは無いわ」

 

そう言って、了子が部屋の制御盤に近づき、ボタンを押す。

 

バチンッ!

 

その瞬間、針の先から光が走ったかと思うと、マネキンの頭の一部に焦げ跡ができた。

 

「このボタンを押すと、人形に雷が落ちる。用意しておいてなんだけど、本当にこんな単純なもので良かったの?」

 

「ああ、充分だ」

 

ナナシは了子にそう答えて、制御盤の前に立つ。そして、“血晶”を起点に、マネキンの周りを“障壁”で完全に囲んだ後、ボタンを押して雷を落とした。

 

バチンッ!

 

「えっ!?」

 

「あれ!?」

 

その結果に、いくつかの驚く声が聞こえた。“障壁”は、マネキンを雷から守ることなく、マネキンの頭部に新たな焦げ跡が作られた。

 

「一体、どういうことだ?」

 

「今、雷が“障壁”を通り抜けていたよな?」

 

「ナナシの能力は、雷も防げないということ?でも、何故そのことに気が付いたの?あのノイズと雷に、何か共通点でも…?」

 

装者達が実験結果について話している間に、ナナシは“収納”から何かを取り出していた。

 

「あれ?兄弟子、それは何ですか…?」

 

「スタンガン」

 

それは、映画やドラマなどで良く見られるハンディータイプのスタンガンだった。そんな物を取り出して、一体どうするつもりなのかと響が思っていると…ナナシは、自分の腕にスタンガンを押し付けて、そのスイッチを押した。

 

バチバチバチッ!

 

電流が流れ、ナナシが手に持っていたスタンガンを取りこぼす。

 

「ちょっ!?兄弟子!!?」

 

「先生!?」

 

「大丈夫デスか!?」

 

「いいから、人形の方を見てくれ」

 

スタンガンによる自傷のせいか、ナナシの顔色が先程より優れないように見える。それでも、ナナシは制御盤のボタンに手を伸ばし、一瞬だけ逡巡を見せた後、意を決してボタンを押し込んだ。

 

バチンッ!

 

『えっ!?』

 

…“障壁”は、今度はしっかりと雷を弾いて、マネキンを守った。

その事実を確認したナナシは…膝から崩れ落ちた。

 

「ナナシ!?」

 

「兄弟子!?」

 

「どうしたってんだよ、一体!?」

 

ナナシの様子に、周りが心配の声を掛ける。ナナシは床に手を付いたまま、震える声で今回の実験で判明したことを告げた。

 

 

 

「“障壁”は…俺の知らない攻撃を(・・・・・・・・・)防げない(・・・・)!!」

 

 

 

『!!?』

 

ナナシの言葉に、全員が驚愕する。ナナシは、そう結論を出した根拠について説明していった。

 

「…ノイズの攻撃を防げるのは、あのライブの日にノイズに触れて右腕が炭化したから。物理攻撃は弦十郎との特訓。神獣鏡や巨大化したネフィリムの攻撃を防げたのは、恐らくフォニックゲイン…翼の絶唱に巻き込まれたことがあるから…“障壁”は、俺が受けたことがある種類の攻撃しか、防げないんだ…だから今回、俺より先にアルカノイズと交戦した翼は“障壁”で守ることができず、俺の腕を分解された後、マリアは“障壁”で守ることができた」

 

そして、ナナシはこれまで自分が受けたことが無い攻撃…電撃を使った今回の実験を行うことで、自分の仮説が正しいことを確信した。

 

「冗談だろ?…初見殺しに対応できないような物を、これまで使い続けていたのか?…これまで、どれだけ皆を危険に晒してきた?…まさか、環境適応能力もか!?俺が生身で宇宙空間に出ていなければ、今頃ナスターシャ教授も…そして今回、一歩間違えば翼達が分解されていた…俺の能力が、弱点だらけのことなんて、分かっていたはずなのに!!」

 

そう叫んで、ナナシは頭を抱えて床に蹲ってしまった。

 

「ナナシ…」

 

「………だぁぁぁああ!!よし!反省終わり!!」

 

「!?」

 

自責の念で塞ぎ込んでいるナナシに、奏が声を掛けようとしたところ、突然ナナシが叫び声を上げながらガバッと立ち上がった。

 

「嘆いたところで何も変わらない!時間の無駄だ!原因が分かったなら次は対策!とりあえず色んな方法で俺を拷問すればそれだけ“障壁”の守りを固くできるはずだ!」

 

「おい!?」

 

「後はとにかく俺が真っ先に敵の攻撃に飛び込めば良いってことだ!」

 

「ちょっと待て!?落ち着け、ナナシ!?」

 

「あのキス魔の女は風を操っていたな?でも普通の風とは違うだろうから、やっぱり直接攻撃を喰らうしかないか?錬金術と言えば後は何だ?……薬物!毒か!…毒…」

 

色々と物騒なことをまくし立てていたナナシは、そう言って少し黙り込んだかと思うと…“収納”から何かを取り出した。

 

…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

『ヒィッ!!?』

 

「なあっ!!?」

 

「おいっ!!?」

 

「ナナシ君!!?」

 

ナナシが“収納”から取り出した『モノ』を知っている人間が戸惑いの言葉を口に出し、知らない人間はその『モノ』から溢れ出る威圧感に恐怖で悲鳴を上げる。

 

「いただきます…」

 

「「「やめろぉぉぉ!!!」」」

 

奏、翼、弦十郎の三人が素早くナナシを取り押さえる。

 

「落ち着け!ナナシ君!!」

 

「早まるんじゃない!!」

 

「てか処分してなかったのかそれ!!?」

 

「離せぇ!!俺は…俺はこの『カレー』を食べて、力を手に入れるんだぁぁぁぁ!!」

 

『それカレーなの!!?』

 

事情を知らない人間が動揺する中で、自棄になってかつて翼が生み出してしまった例の『カレー』を口にしようとするナナシを、三人は必死に止めるのだった。

 

 

十分後

 

 

「落ち着いたか?」

 

「……悪い…取り乱した…」

 

最終的に弦十郎が取り押さえ、緒川が“影縫い”を施し、了子がネフシュタンの鞭を巻き付けて動きを封じた状態で、装者達がリディアンの校歌を合唱することで、ようやく大人しくなったナナシに例の『カレー』を再び“収納”に封印させることに成功した。

 

「今後のことは、了子君がエルフナイン君から話を聞いた上で方針を決定する。だからナナシ君、くれぐれも…く・れ・ぐ・れ・も!早まった行動をするな。分かったか?」

 

「……分かった」

 

ナナシの力ない返事を聞いた弦十郎は、一瞬だけ奏達に目配せをして、今後の方針を決めるためにエルフナインと了子達を連れて実験室を後にした。装者達とナナシが残る室内で、奏がナナシに声を掛ける。

 

「ナナシ…カラオケ行くぞ!付き合え!」

 

「…気を使ってくれてありがとな…でも、さっきお前達の歌を聴かせて貰ったから大丈夫だ…今日は、もう少し考えを纏めたいから、行くならお前達だけで…」

 

「いいから、黙ってついて来い」

 

そう言って、翼がナナシの手を掴んで引っ張る。

 

「翼…?」

 

「てめえが歌の誘いに乗らねえ時点で大丈夫な訳ねえだろ?ほら、さっさと行くぞ!」

 

「ちょっ!?クリス!!?」

 

今度は、クリスがナナシの背中をグイグイ押して無理やり進ませようとする。

 

「今、未来にも連絡しました。皆で行きましょう!兄弟子!!」

 

「あなたにはたくさん借りがあるし、仕方がないから付き合ってあげるわ」

 

「私達の歌で先生を…」

 

「いっぱい元気づけるデス!」

 

「えっ!?ちょっ!?おい!?」

 

戸惑うナナシの言葉を聞くことなく、装者達はナナシを引き連れてカラオケへと向かって行った。

 

 

 

新たな脅威の出現という危機的状況ではあるが、久しぶりに友人や家族と過ごす歌姫達の楽しい感情と、何よりナナシを気遣う優しさの籠った歌を聴くことで、ナナシは何とか普段の笑みを浮かべられるだけの元気を取り戻すのだった。

 




主人公の”障壁”の弱点が判明。この辺からちょっと設定上のガバが目立ってくるかもしれません…
この設定も執筆開始前から決めていたのですが、実際に執筆を進めていると「あれ?この場合は…」って疑問に感じる場面が多々出てきてしまいましたw
一応、辻褄は合うように書く努力はしているので、そこまで違和感は無いはずです。多分…
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