戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第81話

季節は夏、燦々と輝く太陽に照らされながら、響と未来、そして安藤、寺島、板場の五人が一緒になって下校していた。

 

「最近、色んな所で工事してない?」

 

「そういえば、そうかも?」

 

「なんでも、昔作られた水道管に構造上の欠陥が発見されたとかで、しばらく前から交換作業をしているそうですよ?」

 

「うわ~、この暑い中で業者の人達も大変だね」

 

途中、工事が行われている場所を避けながら、未来達が何気ない会話をしている中で、響だけが無言で難しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

それは、先日カラオケに行った時のことだ。ナナシ以外が一頻り歌った後、改めて今回の敵について情報を話し合っていた。

 

「…こいつが、ロンドンで天羽々斬を壊したアルカノイズ?」

 

「ああ、我ながら上手く描けたと思う」

 

「アバンギャルドが過ぎるだろ!?現代美術の方面でも世界進出するつもりか!?」

 

クリスが手にした紙に書かれている翼の絵は、どう見ても子供が描いた武士にしか見えないような代物だった。

 

「人型で…左腕はランスみたいで…雰囲気は普通のノイズをベースに…こんな感じ?」

 

「ええ、概ねそんな姿をしていたわ」

 

その横で、マリアから話を聞いたナナシがサラサラと絵を描き上げる。そこには、細かい箇所は異なるが、翼を襲ったアルカノイズに酷似した姿が描かれていた。

 

「おい、SAKIMORI。何がどうなったらこれがこうなるんだ?」

 

「な、何を言っている!?そっくりではないか!?」

 

「今すぐメディカルチェックのやり直しだ!目か脳に異常があるぞ!?」

 

「何だと貴様!」

 

「あっはははは!ひっどい絵だな!これがそっくりって!あはははははは!」

 

「ちょっと奏!?」

 

自分の絵と翼の絵を並べてナナシが翼をからかい、あまりの違いに奏が大爆笑する。すっかりいつもの元気を取り戻したナナシを見て、皆が密かに安心していた。

 

だが、何時までも楽しんでばかりはいられない。それを理解しているマリアが、真剣な表情をして今の問題について語りだした。

 

「問題は、アルカノイズを使役する錬金術師と戦える戦力が、立花響とナナシの二人だという事実よ」

 

「戦わずに分かり合う事は…出来ないのでしょうか…」

 

マリアの言葉に響が暗い表情をして、呟くようにそう問いかけた。

 

「逃げているの?」

 

「逃げているつもりじゃありません!…だけど、適合してガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で誰かを傷つけることが…すごく、嫌なんです…」

 

「響…」

 

「……」

 

辛そうにそう語る響に、未来が心配そうに声を掛け、奏はそんな響を無言で見つめていた。

 

「それは…力を持つ者の傲慢だ!」

 

だが、そんな響の考えを、マリアは責めるようにそう言い切った。響はマリアの言葉に言い返すことができずに、その視線から逃れるように顔を俯かせてしまう。

 

「ちょっと落ち着け、アイドル大統領」

 

すると、今度はナナシがマリアに対して声を掛けた。

 

「頭ごなしに響の感情を否定しようとするな。響が悩むのは、響にとってさっき口にした想いが、それだけ大切だってことなんじゃないのか?」

 

「何を悠長なことを…ナナシ、あなたは今の状況が分かっているの!?」

 

「ああ、確かにお前の言っていることは正しいよ。ただな…正論に託けて自分の憤りを響にぶつけるのは卑怯だろ?」

 

「ッ!?」

 

「響の主張が力を持つ者の傲慢だとするなら、お前のそれは力を持てない者の嫉妬だろ?それならそうとハッキリ言え。自分の想いを隠したまま、響の想いを否定しようとするな、卑怯者」

 

ナナシの言葉に、マリアは怒りで顔を歪ませるが、咄嗟に開いた口からは言葉が紡がれることは無い。

 

「どうした?俺の“妄想”が間違っているなら、是非とも否定の言葉を聞かせて貰いたいんだが?」

 

そんなマリアを、まるで挑発するようにナナシが言葉で追撃する。険悪になっていく二人の会話に、響が慌てて割って入った。

 

「ま、待ってください、兄弟子、マリアさん!悪いのは、あの時キャロルちゃんときちんと話ができなかったわたしで…」

 

「Exactly!!響、俺もお前が正しいなんて思ってない」

 

「っ!?」

 

ナナシの言葉に、響が言葉を詰まらせる。そんな響に、ナナシは気にせず言葉を続ける。

 

「響、お前の想いを否定するつもりは無いし、誰が何と言おうがお前が扱う以上、ガングニールのシンフォギアは誰かを助けるための力なんだろう」

 

ただし、とナナシが響を指さしながら更に言葉を続ける。

 

「『誰か』の中には、ちゃんと響自身を含めないとダメだ。相手と戦うにしろ、対話を試みるにしろ、まずは自分の身を守るためにギアを纏え。そうじゃないと、またお前の『陽だまり』が色々抱え込むことになるぞ?」

 

「っ!?」

 

ナナシの言葉に、響がハッとして未来の顔を覗き込む。突然話題に出された未来は少し戸惑ったが、ナナシの言葉を否定することはなかった。

 

「頼りない兄弟子だけど、出来る女の了子が翼達のギアを修理する間ぐらいは何とかするから、それまでに答えを出しておけ」

 

「…はい…ありがとうございます、兄弟子」

 

まだ表情は優れないが、響は少しだけ声の明るさ戻ったようだった。

 

「まあ、響はいつも通り我武者羅に手を伸ばし続けるぐらいが丁度良いと思うのが正直なところだけどな。お前が頭を使って考えたところで…なあ?」

 

「ちょっ!?酷くないですか!?」

 

「お前が慣れない真似をするから、アイドル大統領まで出来もしない悪役を買って出ることになったからな」

 

「な、何を言っている!?」

 

「ああ、勘違いしてやるなよ、響?マリアのさっきの発言は、基本はお前を心配してのことだからな?俺の妄想だと、今のマリアの想いを100とすると、心配が70、お前にガングニールを渡したことに対する責任が20、何もできない自分への叱咤が9、嫉妬は1未満ってところか?」

 

「勝手に私の想いを推し量っているんじゃない!!」

 

「ただの優しいマリアさん、略してたやマさんがお前を傷つけるだけの言葉を言う訳無いだろ?」

 

「また勝手に私に変な呼び名を付けるなぁぁぁ!!いい加減黙りなさい!!」

 

「黙って欲しかったら今俺が入れた曲、歌詞がカオスな電波ソングを熱唱することだな!!」

 

「勝手に何をしているの!?あなたが入れたんだからあなたが歌いなさいよ!!」

 

「え~…しょうがない、誰も歌わないならメロディーだけ聴いて楽しむとするか。その間“投影”を使ってたやマさんが如何に悪役が似合わないかフィーネ宣言の記憶を再生して確認するとしよう!」

 

「歌ってあげるわよチクショウ!!」

 

「ドンドンパフパフワーワー!!」

 

 

 

 

 

(…結局、あの後兄弟子がずっと茶化してくれたから、あの場は有耶無耶になったけど…わたしは、逃げているつもりじゃないのに…)

 

未だ答えを出せずに、響は悩み続けていた。すると…

 

「私的には、ツイてるとかツイてないとかは、あんまり関係ないと思うんだけど?」

 

「えぇぇええ!!?」

 

たまたま聞き取った未来の発言に、響は思わず驚きの声を上げてしまう。

 

「ビッキー、何をそんなに?」

 

「だ、だって、ナニがドコについてるのかな、なんてそんな…」

 

…考え事をしていた響は、未来の発言からエルフナインの体の『ある一部』のことを連想してしまい、顔を真っ赤にして妙なことを口走ってしまう。

 

「ツイてるとかツイてない、『確率』のお話です。今日の授業の」

 

そんな響に、寺島が先程の未来の発言について補足説明をした。

 

「まーたぼんやりしてたんでしょ?」

 

「あ…あははは、そうだったよね?」

 

自分がとんでもない勘違いをしていたことに気が付き、響は誤魔化すような笑みを浮かべた。

 

「この頃ずっとそんな感じ」

 

「…ごめん、色々あってさ…」

 

未来の言葉に、響は再び俯いて悩みだしてしまう。そんな響を、未来は心配そうに見つめていた。

 

「きゃああ!?」

 

背後から聞こえた寺島の悲鳴に、響と未来が振り返る。そして、寺島達が見つめる視線の先を追うと、そこには色素が抜け落ちて真っ白になった人間が、何人も倒れていた。

 

明らかな異常事態に直面し、未来達は狼狽え呆然とするが、響はすぐに周囲を警戒する。すると、前方にある木に何者かが寄りかかっていることに気が付いた。

 

「聖杯に想い出は満たされて、生贄の少女が現れる」

 

詩の一節のようなセリフを口にしながら、その人物…ガリィが、響達に視線を向ける。

 

「…キャロルちゃんの仲間…だよね?」

 

「そしてあなたが戦うべき敵」

 

「違うよ!わたしは人助けがしたいんだ。戦いたくなんかない!」

 

ガリィの言葉を、響は否定する。そんな響の言葉に、ガリィはつまらなそうな表情で小さく舌打ちをして、掌一杯に持った水晶を周囲にばら撒いた。水晶が砕けた地面に陣が広がり、そこからアルカノイズが姿を現す。それを見た寺島達が悲鳴を上げた。

 

「あなたみたいなメンドクサイのを戦わせる方法はよぉく知ってるの♪」

 

怯える寺島達を見て、ガリィがニヤリと笑みを浮かべてそう言った。

 

「こいつ、性格悪っ!?」

 

「あたしらの状況も良くないって!」

 

「このままじゃ…」

 

「頭の中のお花畑を踏みにじってあげる」

 

ガリィがそう言って指をパチンと鳴らすと、アルカノイズがゆっくりと響達に迫っていった。

 

この状況では、もはや迷ってなどいられない。響は胸元からギアペンダントを取り出し、シンフォギアを纏うために聖詠を…

 

「…ぁ…っ……」

 

「…響?」

 

「……っ!ゲホッ、ゴホッ!?」

 

…響の口から、聖詠が紡がれることはなく、響は激しく咳き込んだ後、自分の身に起こっている異常を呟く。

 

「……歌え、ない…?」

 

「え?」

 

「いい加減観念しなよ」

 

響が未だに戦うことを迷っていると判断したガリィが、苛立たし気にそう言うが、響はただ困惑したままギアペンダントを見つめて、自身の状況を呆然と呟いた。

 

「聖詠が…胸に浮かばない…ガングニールが、応えてくれないんだ!?」

 

「「「「っ!?」」」」

 

響の言葉に、未来達が驚愕する。ここでようやくガリィも響が戦おうとしないのではなく、戦えないことを察して、これからの行動について思案する。

 

(ギアを纏えないこいつと戦った所で意味はない…ここは試しに、仲良しこよしを粉と引いてみるべきか?)

 

ギアを纏えない響にとって、最悪な考えを思い浮かべながらガリィが笑みを浮かべる。その直後…

 

ダンッ!

 

「あぁー、まどろっこしいなぁ」

 

足を踏み鳴らし、心底面倒だといった態度で突然寺島がそんな言葉を言い放った。普段の様子とはかけ離れた態度に、傍に居た安藤と板場が思わずぎょっとした顔をするが、寺島は周囲に構わず数歩前に出て苛立たし気にガリィを睨みながら口を開く。

 

「あんたと立花がどんな関係か知らんけど、だらだらやんのならあたしら巻き込まないでくれる?」

 

「お前、こいつの仲間じゃないのか?」

 

「冗談!たまたま帰り道が同じだけ。オラ、道を開けなよ?」

 

寺島の言葉に、ガリィは怒りで顔を歪ませるが、無関係と判断したからかアルカノイズに指示を出して後退させた。その瞬間、寺島は視線で安藤達に合図を送る。

 

「行くよ!」

 

「っ!?」

 

寺島の意図を正しく理解した安藤が未来の手を引いて駆け出す。響達三人も後に続き、アルカノイズの包囲から逃げ出すことに成功した。

 

「あんたって、変なところで度胸があるわよね!?」

 

「去年の学祭もテンション違ったし!」

 

「さっきのはお芝居!?」

 

「たまにはあたし達がビッキーを助けたっていいじゃない!」

 

「我ながら、ナイスな作戦でした!」

 

作戦が上手くいき、明るい声でそう言う寺島。

だが、それはぬか喜びでしかなかった。

 

ガリィは、離れていく五人を無表情で眺めており、ある程度距離が離れて寺島達が安堵の笑みを浮かべたのを確認すると…

 

「…と見せた希望をここでバッサリ摘み取るのよねぇ!」

 

そう言って、心底楽しそうな笑みでアルカノイズに追撃の指示を出す。わざわざ希望を見せてから絶望させる。創造主であるキャロルが言っていたように、本当に性根が腐っている。

 

アルカノイズは発光器官を伸ばして道中にある物を分解しながら響達に迫り、ガリィは足元を凍らせてスケートを滑るようにアルカノイズの後に続く。

 

「上げて落とせば、いい加減戦うムードにもなるんじゃないかしらぁ?」

 

「アニメじゃないんだからぁ!」

 

板場がそう嘆きながらも必死に走る。だが、追いかけて来るのは疲労することのないノイズであり、徐々に距離が狭まったところで、アルカノイズの攻撃が響の足元に届く。

 

「うわっ!?」

 

アルカノイズの攻撃は響の靴を掠め、靴の一部が分解されたことでバランスを崩した響が派手に転倒する。その際、ギアペンダントが響の手から離れ、宙へと放り出された。

 

「ギアが!!?」

 

すると、一台の車が猛スピードで響達の傍に接近してきたかと思うと、スピンをしながら急停車し、中からナナシ、緒川、そしてマリアが飛び出す。そして、マリアは飛び出した勢いそのままに跳躍し、空中でガングニールのギアペンダントを掴み取ると…聖詠を奏でた。

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

「マリアさん!?」

 

マリアが口にした聖詠に、響が驚愕する。マリアは、響の目の前でガングニールを身に纏い、両腕のギアを変形させてアームドギアさえ展開してみせた。

 

“HORIZON†SPEAR”

 

マリアは展開した槍の先端から、ビームを放ってアルカノイズの群れを一掃する。

 

(戦える…了子とナナシが作った、このLiNKERさえあれば…!)

 

その想いを胸に、マリアは槍を構えてガリィに向かい突き進む。

 

「黒い…ガングニール…」

 

「おい!無理やり付いて来た挙句に先行するな!慎次、響達を頼む!」

 

「分かりました!皆さん集まって!」

 

ナナシはマリアを追いかけ、緒川は響達を集めてその腕に付けた“血晶”で“障壁”を展開する。これで、防げるようになったアルカノイズの攻撃が響達を襲うことは無い。

 

『マリア君!発光する攻撃部位こそが解剖器官、気を付けて立ち回れ!』

 

弦十郎の通信に、マリアは歌いながら頷く。そんなマリアに、ガリィが追加のアルカノイズを召喚して向かわせる。次々とアルカノイズを倒すマリアに、ガリィはむしろ嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「想定外に次ぐ想定外。捨てておいたポンコツが、意外なくらいにやってくれるなんて」

 

マリアは、進行方向にいる最低限のアルカノイズを倒しながら、一直線にガリィの元へ向かう。

 

「おい!ちょっと待てって!?」

 

必然的に、残ったアルカノイズをナナシが片づけることになり、ナナシはなかなかマリアの元までたどり着けない。

 

「わたしのガングニールで、マリアさんが戦っている…」

 

自分の想いに応えてくれないガングニールが、マリアの想いに応えている。その現実が、まるで自分の想いが間違っていると言われているようで、マリアの戦う姿に響は強い焦りを感じていた。

 

マリアが地面を跳躍し、落下の勢いを付けてガリィに槍の先端を突き立てる。だが、ガリィは両手を前にかざし、氷の防壁を展開して、いとも容易くマリアの槍の一撃を防いでしまった。

 

「それでも!!」

 

マリアは諦めることなく、槍の先端を左右に分離させ強引にガリィの両腕を開かせる。その隙を逃さず、マリアは手元に残った槍の先端をガリィの胸に突き出した。

 

「ッ!?」

 

だが、槍の一撃はガリィの前に展開された小さな氷の防壁に阻まれる。驚くマリアを、ガリィがニヤリと笑みを浮かべて見つめた。

 

「頭でも冷やしやぁぁ!!」

 

ガリィの言葉と共に、氷の防壁から水が噴出してマリアを吹き飛ばす。マリアは槍を地面に突き立てて何とか体勢を保ち、無事地面へと着地する。

 

「決めた。ガリィの相手はあんたよ!」

 

ガリィはそう言ってニヤリと笑うと、その場で深くお辞儀をして…

 

「いただきま~す!」

 

凍らせた地面の上を滑り、これまでにないスピードでマリアの元に急接近する。マリアはその速度に対応することができず、ガリィの右手に展開された氷の刃がマリアのギアペンダントに迫り…

 

 

「させねえよ!」

 

 

ゴシャッ!!

 

「ガフッ!?」

 

…ガリィの顔面にナナシの拳が叩き込まれて、ガリィは後方へと吹き飛ばされた。

 

「無事か?」

 

「ナナシ…済まない、助かった」

 

「焦り過ぎだ。流石に五分も経たずに効果が無くなる様な代物じゃない。敵の言うことを聞くのは癪かもしれないが、少し頭を冷やせ」

 

ナナシとマリアがそう話している間に、ガリィが起き上がってナナシを睨みつけた。

 

「クソッ!よくもガリィちゃんの可愛い顔をぶん殴ってくれたわね!」

 

「喧しい!この変態人形共が!!」

 

「あぁ!?いきなり何の話だ!?」

 

「しらばっくれるな!ネタは上がってんだ!見た目幼女を追いかけ回すロリコンに、出合い頭に唇を狙ってくるキス魔、そして女を全裸にひん剥く変態集団め!てめえの性癖は何だ?響やマリアを裸にひん剥いて何をするつもりだった!?」

 

「とんでもない言いがかりね!?そいつらの体になんて興味無いわよ!…あぁ、強いて言えば、力も服も無様に奪われてそいつらの顔が羞恥と屈辱に歪む姿は見ものかしら?」

 

「何!?まともな奴もいるのか!?」

 

「どこがまともよ!!?」

 

「「「「「「どこがまともなんですか!!?」」」」」」

 

まさかのナナシの発言に、マリアだけでなく後ろの響達までもがナナシにツッコミを入れた。

 

「へえ?話が分かるじゃない?」

 

「他人が羞恥に悶える姿に愉悦を感じるのは、人として当然の感情だろ?」

 

「分っかるぅ~♪」

 

「そんな訳あるか!ただ単にあなた達の性根が腐っているだけでしょ!?この人でなし共!!」

 

「あ、そっか!俺もこいつも人じゃなかった!『人でなし』とは上手いこと言うな?アイドル大統領」

 

「妙な感心をしているんじゃない!!」

 

ふざけた会話をしながらも、ガリィは相手の様子を窺っていた。既に周囲のアルカノイズはナナシによって殲滅されており、ガリィは新たにアルカノイズを召喚するか、隙を突いてマリアのギアペンダントを破壊するか思案していると…不意に、その脳裏に声が響いてきた。

 

(ガリィ、引け)

 

(ッ!?…まだ目標を破壊できていませんが?)

 

(状況が変わった。無理をしてまでギアを破壊する必要はない。目の前の男は得体の知れない力を使う。万が一にも貴様があの男に破壊されることがあってはならない。速やかに撤退しろ)

 

(…はぁ、了解しました)

 

いかにも不承不承といった風に了承の返答をしたガリィは、ガラス瓶を取り出して地面に叩きつける。

 

「今回は見逃してあげる。だけど、次こそはそこのアイドル大統領と頭の中お花畑を辱めてみせるわ!」

 

「悪いがその役割は間に合っている。こいつらをからかうのは俺の仕事だ!!断固として譲る気はない!!」

 

「私達がからかわれる前提で話をするな!!」

 

そんな会話をしている間に、ガリィの足元の地面に陣が広がり、一瞬で姿を消してしまった。

 

「…新型ノイズを完成させるということは、位相空間に干渉する技術を備えるということ…エルフナインから聞いた通りだ。これは、俺の“障壁”で閉じ込めても無意味だな」

 

「…厄介な相手ね」

 

ナナシの呟きに答えながら、マリアはガングニールのシンフォギアを解除した。

 

「何でわざわざガングニールを纏ったんだ?お前にはアガートラームがあるだろう?」

 

「…咄嗟の判断よ。私は今までガングニールを使って戦闘訓練を行ってきたのだもの。修理されて日の浅いアガートラームより戦いやすいと思ったの」

 

「成程…まあ、そういうことにしておこう」

 

何処か含みのあるナナシの言葉に、マリアは一瞬だけナナシに視線を向けるが、特に追究することはなく、ガングニールのギアペンダントを手に響の方へと近づいて行った。

 

「君のガングニール…」

 

「わたしのガングニールです!!」

 

マリアの言葉を遮り、響はひったくる様に差し出されたガングニールのギアペンダントを手に取ると、マリアを睨むように見ながら叫んだ。

 

「これは、誰かを助けるために使う力!わたしが貰った、わたしのガングニールなんです!!」

 

まるで自分に言い聞かせるように、響は必死にそう主張する。

 

「……ごめんなさい」

 

だが、言葉を言い終えたところで少し冷静になったのか、響は消え入りそうな声でマリアに謝罪した。

 

「…そうだ、ガングニールはお前の力だ。だから、目を背けるな!」

 

マリアは、そんな響の肩を掴み、その目を真っ直ぐに見つめて厳しい言葉を投げかけた。

 

「目を…背けるな…」

 

だが、響はマリアの視線から逃れるように、目を逸らしてしまった。

 

 

 

 

 

「まあ、何にせよ響達が無事で良かった。後は、残った重要な問題を片付けてから弓美達を家まで送ろう」

 

重くなった空気の中で、ナナシが手を叩いて全員の注目を集めながらそう言った。

 

「重要な問題?ナナシ、何か気が付いた事でもあるの?」

 

ナナシの言葉を聞き、マリアが響から手を離して問いかけた。

 

「いいや、違う。残った重要な問題、それは…さっきのガラ悪いセリフって詩織が言っていたんだよな!?すげえ自然に言っていたけどあっちが素なのか!?ひょっとして元ヤン!!?」

 

真剣な表情でナナシがそんなことを言い出したため、その場にいる人間は思わずガクッと脱力してしまった。

 

「い、いえ、あれはただお芝居をしていただけです…」

 

「なあ、もう一回やってもらっていいか?車の中で通信だけ聞いていて凄く珍しいものを見逃した気分になっていたから是非見てみたい!よろしくお願いします!」

 

「ええっ!?いえ、あの、流石にそんな風に期待されるとちょっと恥ずかしいです…」

 

「そうか…しょうがない。本部に映像が保存されているはずだからそれで我慢するとしよう」

 

「保存されているんですか!!?」

 

「そりゃあ、新たな敵との交戦記録だからな。今後対策を講じるための重要資料としてバッチリ録画されているはずだ!」

 

寺島は真っ赤になった顔を手で覆い隠してしゃがみこんでしまった。学祭の時は堂々としていた彼女だが、流石に記録として保存され不特定多数に見られることになるのは恥ずかしかったようだ。

 

「ちょっと、ナナシさん!あんまり詩織をからかわないでくださいよ!」

 

「そうです!これ以上テラジをからかうつもりなら、これからはナナシさんのこと『人でナナシさん』って呼んじゃいますよ?」

 

「それは素晴らしい考えね!この男も屈辱的な呼び名でからかわれる気持ちを味わうといいわ!」

 

「えっ!?」

 

安藤は冗談のつもりだったが、普段からかわれているマリアが復讐のチャンスと考えて賛同してきた。

 

「今日からあなたの呼び名は『人でナナシ』よ!翼やクリスとも共有しないと!」

 

すっかりその気になったマリアは、ナナシをビシッと指さしながらそう宣言する。だが、ナナシは特に狼狽える様子は無く、少し考え込むと…

 

「ひとでナナシ…『ひとで』が海の『ヒトデ』ならむしろ有りだな!」

 

「何故そこでスターフィッシュ(ヒトデ)!!?」

 

「願掛けだな。あいつら自切で数を増やせるだろ?念願の“分裂”能力が手に入るかもしれない!『ヒトデナナシ』、良いじゃないか!むしろこっちからよろしくお願いします!」

 

マリアは、もし本当にナナシが“分裂”能力を取得した場合の未来を考えて…顔を青ざめさせる。

 

「やっぱり、やめておきましょう…万が一にもそんなことになったら、それこそ『悪夢』のような未来しか考えられない…」

 

「それは残念。しょうがないから、俺は体一つで『悪夢』の名に恥じないよう頑張っていくことにしよう!」

 

「そんなことを頑張るんじゃない!!」

 

ナナシが茶化したことで、先程までの重苦しい空気は払拭された…だが、それでも響の表情は暗いままで、伏せた顔を上げることはなかった。

 




本当は響がマリアさんから顔を逸らしたところまでだったのですが、「安藤が主人公に渾名を付けるなら何になるだろう?」と考えた結果、後半の話が追加されましたw
シンプルに響と同じように渾名を付けるとしたら、某ゲームの草タイプモンスターとか、某梨のご当地キャラみたいになりそうですよねw
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