戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
UA数50000突破!お気に入り登録350突破!
初投稿から約半年、これほど評価して頂けるとは思ってもいませんでした。
ほとんどシンフォギアという偉大な作品のお陰だとは思いますがw
稚拙な文章ではありますが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
今後もよろしくお願いします。
チフォージュ・シャトー 王座の間
広間にある四つの台座の空いている一つに、テレポートジェムを使って帰還したガリィが姿を現した。
「ガリィ、ただいま帰還しました!…それで、どういうことなんです?突然の命令撤回なんて?」
何処か不満げな表情で、ガリィがキャロルにそう問い質した。
「言ったはずだ、状況が変わったと。こちらで把握している情報から、貴様が破壊されるリスクを負ってまでギアを破壊する必要が無くなった。ただそれだけだ」
「ガリィのことを気遣ってくれたんですね!マスターってばやっさし~♪」
「違う。自分が作られた目的を忘れるな」
不機嫌そうな顔から一転、上機嫌に語るガリィに対して、キャロルが不機嫌そうにそう言った。
「ハイハイ、分かってますよ~♪…それで、ギア破壊が必須で無くなったなら、ガリィは次の任務に当たればよろしいんですか?」
全然分かっていなさそうに返事をしたガリィの問いに、キャロルは少し考え込む。そして、自分が初めて響と接触した時のことを思い出した。
『人助けの力で、戦うのは嫌だよ…』
響の言葉に、キャロルは苛立ちで眉を顰める。その苛立ちを誤魔化すように、キャロルは立ち上がってガリィに命令を下した。
「いや、あの歌女共の危機感を煽ってやる必要がある。故にあと一度、襲撃を命ずる。次こそはあいつの歌を叩いて砕け。これ以上の遅延は計画が滞る」
「レイラインの解放…分かってますとも。ガリィにお任せです♪」
襲撃の機会がまだあると知り、あくどい笑みを浮かべていたガリィが、一転してあざとい笑みで了承の言葉を返してきたのを見て、キャロルが溜息をつく。
「お前に戦闘特化のミカをつける。いいな?」
「いいゾ!」
「そっちに言ってんじゃねえよ!」
ガリィに下した命令に対して、何故かミカが無邪気な笑みで手を上げながら返答したことに対して、ガリィは怒鳴るようにツッコミを入れた。
太陽が雲に遮られ、今にも雨が降り出しそうな曇天の空の下、とある墓地の中に一人の人影があった。
「……」
一つの墓の前に、ナナシが無言で佇んでいた。墓前には、ナナシが供えた花束の他にも、既にいくつかの花束が供えられていた。
ナナシが祈ることも、語り掛けることも無く、ただジッと目の前の墓を見て佇んでいると、そこに別の人物が近づいてきた。
「よう、ナナシも来ていたのか」
「…奏」
奏はナナシに声を掛けながら近づき、手に持っていた花束を供えて手を合わせた。
「あんたの他にも、誰か来ていたみたいだな?」
「…ああ、俺が来た時にはもう花が供えてあった。大人達の誰かと、あとは…多分、クリスかな?今回、あいつの目の前でヘリを爆破されたらしいからな」
二人が花を供えているのは、先日オートスコアラーの襲撃によって故人となった隊員の墓である。この墓地には、他にも作戦行動中に戦死した隊員達が埋葬されていた。
「…やっぱり、知り合いだったのか?」
「ああ、何度も話したり、からかったり、一緒になって笑ったりした」
「そうか…自分のせいだ、とか思っていたりするか?」
奏は、ナナシが日本を離れている間に戦死者が出たことで、ナナシが自分を責めている可能性を考えて、そう問いかけた。
「それはない」
だが、奏の問いに、ナナシはすぐにそう言い切った。
「こいつらが死んだ原因を、俺は自分のせいだと思ったことはない。こいつらは、一人一人が自分達の守るもののために行動して、その結果死んでいった。俺が傍にいれば、助けられたかもしれないなんて考えはただの傲慢だ。そんな考えは、こいつらの命に対しての侮辱でしかない」
「…そうか」
「それに、幸助が死んだ後、大人達と約束させられたんだ。もし今後も自分達と行動するつもりなら、同じようなことがあっても絶対に自分を責めるようなことはするなって」
「……」
「だから俺は、今後も俺のために、俺が後悔したくないから、お前達やあいつらが死なないように動いていくだけだ。そのためにも、プロジェクト『イグナイト』を進める必要がある」
「プロジェクト『イグナイト』、か…」
エルフナインから概要を聞き、了子が実現可能と判断して説明した作戦の内容を思い出し、奏がポツリと呟く。
「なあ、ナナシ…」
「ダメだ」
奏がナナシに何かを言おうとするが、それを聞く前にナナシがバッサリと切り捨てた。
「…まだ何も言ってないんだけど?」
「『ギアペンダントが破壊される危険があるんだから、響やマリアの予備機体としてあたしのガングニールもついでに修復してもらうのもアリなんじゃないか?』…ダメだ」
わざわざ奏の声真似までしてナナシが言った言葉は、まさに奏が言おうとした言葉と一言一句違わないものであった。
「いや、理由が分かってるなら、もう少し考えても…」
「ダメだ」
「修復するだけして、あたしが使わなければ問題ないだろ?」
『あたしの目の前にガングニールとLiNKERが揃ってる。なら、あたしが躊躇う理由が見当たらないね』
奏の反論に対して、ナナシは“投影”でマリア達に救援要請を出した時の奏のセリフを再生しながら、ジトッとした視線を奏に送る。奏はその視線に耐えられず、苦笑しながら降参とでも言うように両手を上げた。
「…悪いのは俺だって、分かっている」
そんな奏に、ナナシは俯きながらそう口にする。
「奏の体を治すって約束したのに、何時まで経っても糸口すら見つけられないまま、了子と約束して、マリアと約束して、挙句にそんなガラクタのために身動きが取れなくて…やらなきゃいけないことばかりを溜め込む俺を信じられないのは、当たり前だよな…」
ナナシは奏の手首に付いた“血晶”を見ながら、自虐的な笑みを浮かべてそう言った。緊急事態ということで、装者である響達と、協力者である奏、未来には制限を解除して支給されることになっていた。
「本当に、俺は何をやっているんだろうな?…大事な約束を後回しにしてまで、お前達を守りたくて作ったはずの“血晶”で翼達を危険に晒す…何もできないことが辛いことを奏や未来、そして弦十郎達を見て知っていたから、マリア達の拠り所になると思って作ったLiNKERのせいであいつらに無理をさせることになる…“紛い物”の俺の言葉じゃ、響の心には届かないから、マリアが無理してガングニールを纏って響に発破を掛けなきゃいけなくなる…俺は、どうすればいいんだろう…」
呼吸なんてしなくても死なないはずなのに、息苦しくて仕方がない。
休息なんて取らなくても動き続けられるはずなのに、思考が定まらずに動きが鈍い。
傷なんてすぐに治ってしまうはずなのに、胸の内に感じる痛みが治まらない。
ナナシは今の自分に対して、これ以上ないほどの『不自由』を感じていた。
「ナナシ…」
「嫌だ」
「…だから、まだ何も言ってないって」
「奏の体は絶対に治す!ナスターシャ教授の病気もだ!了子との約束だって守ってみせる!諦めたりするもんか!一番辛いお前達を差し置いて、俺だけ逃げ出すような真似はしない!」
「辛くても、苦しくても、『空っぽ』の俺になんか戻りたくない!!」
自分の体のことは気にしなくていい、そう言おうとした奏に対して、ナナシは絶叫するようにそう言い放った。
「ナナシ…」
「悪い、八つ当たりだ…心配しなくてもいい。俺にはご都合主義パワーがあるからな!きっと、全部何とかしてみせるって!」
そう茶化すように言って、ナナシは普段と変わらない笑みを浮かべてみせる。だが、奏はそんなナナシの笑みから痛々しさしか感じられず、ナナシに何か言葉を掛けようとして…そのタイミングで、通信機から着信音が鳴り響いた。
「弦十郎、どうした!?」
『オートスコアラーの襲撃だ!響君と未来君が追われている!』
「っ!?すぐに向かう!」
通信で状況を把握したナナシが、一度だけ奏の方を向いて声を掛ける。
「響達が襲われている!奏はすぐに本部に戻れ!」
「あ、ナナシ!」
奏が手を伸ばしてナナシの名を呼ぶが、ナナシは“浮遊”と“障壁”を駆使して雨が降り始めた空を駆けて行った。奏は、そんなナナシの背を不安そうに見送る事しかできなかった。
降りしきる雨の中を、響と未来が必死になって走っていた。二人の後ろを、ミカがアルカノイズを引き連れて追いかけていた。
「逃げないで歌って欲しいゾ~!あ、それとも、歌いやすいところに誘ってるのか?ん~?…おぉ!それならそうと言って欲しいゾ!それ~!」
勝手にそう結論を出して、ミカが無邪気な声でアルカノイズに指示を出す。アルカノイズが響達を逃がさないように包囲しながら、ビルの工事現場へと誘導する。
ビル内部へと追いやられ、上の階へと逃げていた響達だが、未来が階段を上ったところでアルカノイズが階段を分解してしまい、まだ階段の途中にいた響は下へ落下してしまう。
「響!」
「がっ!?」
背中から地面に落下した響は、痛みでぼやける視界の中で未来の無事を確認する。
「未来…!」
「いい加減戦ってくれないと、君の大切なモノ解剖しちゃうゾ?友達バラバラでも戦わなければ、この町の人間を、犬も猫も、みーんな解剖だゾー?アハハハー!」
倒れる響の顔を覗き込みながら、まるで無邪気な子供のようにそう言って笑うミカ。響は痛みに耐えながら起き上がり、ギアペンダントを手にして聖詠を唱えようとする。だが、やはりガングニールが響の想いに応えようとせず、響の口からは嗚咽のような声しか出てこない。
「んー?本気にしてもらえないなら…」
そう言って、ミカはニヤリと笑ってアルカノイズに指示を出す。アルカノイズの群れは未来のすぐ傍に集まって、未来に飛び掛かろうと構え始めた。
「っ!?……あのね、響!」
すぐ傍に、アルカノイズが…『死』が迫る中で、未来は未だ歌うことができずに苦しむ親友の名を必死に叫ぶ。
「響の歌は、誰かを傷つける歌じゃないよ!!伸ばしたその手も、誰かを傷つける手じゃないって私は知ってる!私だから知ってる!!だって私は響と戦って、救われたんだよ!?」
「!!」
未来の言葉に、そこに籠められた想いに、響は目を見開く。
「私だけじゃない。響の歌に救われて、響の手で今日に繋がってる人、沢山いるよ!」
「だから、怖がらないで!!」
「ばいなら~!」
ミカの合図で、アルカノイズが一斉に未来に襲い掛かる。彼女が立っている足場が破壊され、未来の体は、空中へと放り出された。
「うわあああぁぁぁあああぁぁああ!!」
一緒に強くなると約束した。
一人にさせないと誓ったはずだった。
誰かを傷つけるかもしれない恐怖から、一番大切な想いを忘れていた。
自分の歌が、何の『ために』、紡がれるものなのかを…
「Balwisyall Nescell gungnir trooooooooooonnn!!!!」
自分の大切な『陽だまり』に、がむしゃらに手を伸ばしながら、響は自分の想いを全て籠めて…歌を奏でる。
(私の、大好きな響の歌を…皆のために、歌って…)
地面に落下していく中で、未来は響に、自分の『太陽』に、想いが届くよう祈りながら目を閉じて…
その体が、力強く抱き留められた。
「っ!?」
未来が目を見開くと、目の前には響の…ガングニールを身に纏った響の姿があった。響は未来を抱えたまま空中で身を翻し、未来に負担が掛からないように地面へと着地する。
「ごめん…わたし、この力と責任から逃げ出してた…だけどもう迷わない。だから聴いて!わたしの歌を!」
いつの間にか雨は止み、雲の隙間から太陽の光が差し込んで二人を照らし出す。
(未来の想い、ちゃんと届いたよ。わたしは歌う。皆のために、わたし自身のために、そして何よりも…大好きな未来のために!)
(!!)
腕の“血晶”によって響の想いが未来に伝わる。響は未来に、自分の『陽だまり』にニッコリと微笑む。その笑みには、二人を照らす太陽の光に負けない輝きがあった。
響は抱えていた未来を降ろす。
「行ってくる」
「待ってる」
そんな短いやり取りをして、響はその口から力強い歌声を響かせながら、ミカへと向かって駆け出した。
「うおりゃぁ~!」
ミカが両手一杯に持った水晶をばら撒いて、アルカノイズの群れを呼び出す。しかし、迷いの消え去った今の響はアルカノイズをものともせず、“血晶”に頼ることなく全ての攻撃を躱しきり、次々とアルカノイズを倒していった。
あっという間にアルカノイズを全滅させた響は、そのままミカに接近して拳の一撃を叩き込む。ミカは、掌から射出したカーボンロッドで響の拳を受け止め、後ろに押し込まれながらも防いでみせた。
「こいつ、へし折りがいがあるゾー!」
押されながらも、ミカは楽し気な笑みを浮かべていた。突如、ミカの二本の縦ロールの髪から炎が噴き出し、その勢いで響が後方へ弾き飛ばされた。相手の予想外の行動に、それでも響は冷静に対処し、地面を蹴って再びミカへ接近、炎の加速で響に迫っていたミカに対して、カウンターで肘鉄を叩き込んだ。
響の攻撃を諸に受けて、ミカが驚きで目を見開いて後方へと吹き飛ばされる。隙だらけのミカに、響が急接近して拳の一撃を叩き込む…
「ざぁんねん、それは水に映った幻…」
パシャアアン!!
響の拳を受けたミカの体が、水飛沫へと変わって辺りに拡散する。
驚愕で硬直する響の視界に、もう一人のオートスコアラー…ガリィが下卑た笑みを浮かべて響を見ているのが映った。
「っ!!?」
「アハハハッ!」
響の思考が状況を理解した時には既に遅く、攻撃を繰り出し空中で無防備になった響の真下には…無邪気に笑って響に掌をかざす本物のミカがいた。
ミカの掌から、凄まじい勢いでカーボンロッドが射出され、響のギアコンバーターへと迫る…
響の危機に、腕の“血晶”が反応して響を守ろうと“障壁”が展開される…
だが、“紛い物”の知らないその攻撃を、“障壁”は阻むことなく…
ミカの一撃は…響が取り戻した胸の歌を、容易く砕いてみせた。
「ぐあ、あああぁぁあああああぁああああああ!!?」
ギアコンバーターを破壊した一撃は、そのまま響の体を打ち上げて、纏ったギアが粉々に砕け散りながら響は天高く上昇し、ビルよりも高い高度から、そのまま地面へと落下していく…
「響ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
…そこに、ようやく響達の元へ辿り着いたナナシが響を空中で受け止めた。
「響!響!!頼む!返事をしてくれ!!」
ナナシが必死に響の名を呼ぶが、意識を失った響は虚ろな目を開いたまま答えない。ナナシの姿を確認したミカとガリィは、早々にテレポートジェムを使ってその場から離脱を果たすが、ナナシはそれに気づくことさえなかった。
「響!響!!」
地上に降り立ち、ナナシが“収納”から取り出した布で体を包まれた響の元へ未来が駆け寄る。
「いや!響!お願い、しっかりして!」
未来が涙を流しながら必死になって響に呼びかけていると、そこに複数の人間が駆け寄ってきた。
「響さん!未来さん!ナナシさん!無事ですか!?」
「くっ、間に合わなかった…!」
「響さん…!」
「大丈夫デスか!?」
駆け寄ってきたのは、緒川にマリア、調、切歌の四人。響達を援護するために本部から車を飛ばしてきたが、こちらも間に合わなかった。
「…慎次、俺が急いで響を本部に連れて行く。すぐに治療ができるように本部に連絡してくれ。マリア達は未来を警護しながら慎次と一緒に本部に戻れ」
「分かりました!」
「ええ、任せて!」
ナナシは緒川達の返事を聞くと、すぐさま響を抱えて空へと駆け出した。その背中を、未来は少しの間だけ心配そうに見送った後、すぐにマリア達と共に車に駆けこんで本部へと向かうのだった。
再び降り出した雨の中を、ナナシが全力で駆け進む。その途中、ナナシは雨で体力が奪われないように“障壁”で包み込んだ響と…その力なく垂れ下がった腕に付けられた“血晶”に視線を向ける。
「………何で」
シンフォギア装者に負けない身体能力がある。
どれだけ酷使しても問題ない肉体がある。
幾ら損傷しても問題ない回復力がある。
大抵のことはすぐに覚えてしまう学習能力がある。
そして何より、切っ掛けさえあれば取得できる、理不尽とさえ言ってしまえるような異能を…『可能性』を、誰よりも持っている。
それなのに…
「何で…俺はこんなに…何もできないんだ…」