戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第85話

迫りくるアルカノイズの群れから、発電施設を守るマリア、調、切歌の三人…そこに、ミカがカーボンロッドを手に襲い掛かる。

 

「ウリャッ!」

 

「くっ!」

 

ナナシから事前に“念話”が届いていたため、奇襲を受けずに攻撃を短剣で受け止めたマリア。だが、戦闘特化のミカが繰り出した一撃は、容易くマリアの体を後方へと吹き飛ばす。

 

「「マリア!?」」

 

「大丈夫よ!」

 

後方に押されながらも両足で踏ん張り踏みとどまるマリア。ミカは追撃を加えるでもなく、その両手でカーボンロッドを弄びながら笑顔で三人に語り掛ける。

 

「銀色女にじゃりんこ共~、あたしは強いゾ!」

 

「子供だとバカにして…!」

 

「でも、アタシ達の中で一番強いマリアが、力負けしているデス…!」

 

「そうね…でも、力が足りないのならば、足せばいいだけのこと!!」

 

マリアがそう言いながら、LiNKERの入った注射器を取り出す。調と切歌もそれを見て、覚悟を決めるように頷いた後、マリアに追従するようにLiNKERを取り出した。

 

(おい!お前ら、そんなことしたら…!!)

 

“血晶”を通して、奏の“念話”が三人に届く。だが、それでも…

 

(…あなたの言いたいことは分かる。それでも、ここを引くわけにはいかないの!)

 

(でも…!)

 

(…ありがとう)

 

(え…?)

 

唐突に伝えられた感謝の言葉に、奏が疑問の声を出す。

 

(心配してくれて、私達の体を気遣ってくれて、優しくしてくれて、居場所をくれて、裏切り者の私達を、許してくれて…このLiNKERを使って無茶をすることは、あなたや了子、ナナシに対する裏切りかもしれない。それでも、今ここであなた達の…『仲間』のために無茶ができないなら、私達はずっと変わることなんてできない!)

 

(…!!)

 

(ええ、そうよ!結局は自分達のためよ!あの男が言う通り、負い目を感じている私達が、言い訳を作りたいため…それでも、私達は変わりたい!いつか、あなた達の『仲間』だと、心から言葉にできる自分に、私達はなりたいの!!)

 

そう宣言すると同時に、マリアが自身の首筋に注射器を当てて、LiNKERを投与した。

 

「私達、家族が一緒なら…」

 

「怖くないデス!!」

 

調と切歌も、お互いの首筋に注射器を当てて、同時にLiNKERを投与する。その直後、三人は軽い眩暈に襲われた後、鼻からポタポタと血が流れてきた。

 

「オーバードーズ…」

 

「鼻血がなんぼのもんかデス!!」

 

「ええ…行くわよ!」

 

先行してミカに向かって行ったマリアが短剣を振るうと、その刀身が伸びてミカへと迫る。

 

EMPRESS†REBELLION

 

鞭のように襲い掛かる刃を、ミカは片手のカーボンロッドで弾く。だが、弾かれた刃は空中で不規則な軌道で動き、再度ミカへと攻撃を仕掛ける。

 

「おぉ~!変な動きで面白いんだゾ!」

 

だが、ミカは笑ったままもう片方の手にあるカーボンロッドで迫る刃を難なく遊撃し、打ち砕いてみせた。

 

「行くよ、切ちゃん!一緒に!」

 

「切り刻むデス!」

 

対鎌・螺Pぅn痛ェる

 

切歌は二本の鎌を両手に展開し、それを一つに束ねて左右に刃が付いた大鎌へと変形させた。

 

そして、調はツインテールにあるアームドギアから、大型の丸鋸を展開する。

 

「お!もっと面白くしてくれるのか!?」

 

ミカは手に持っていた二本のカーボンロッドを二人に投擲する。高速で飛来してくる攻撃を、二人は跳躍して躱した。

 

「おぉ!」

 

「よそ見していて良いのかしら!?」

 

切歌達に注目するミカに、マリアが短剣の一撃を仕掛ける。だが…

 

「余裕だゾ!」

 

ミカは難なくその攻撃を片手で受け止め、もう片方の手を切歌に向けてカーボンロッドを連続で射出する。

 

迫りくる攻撃に対して、切歌は回避せず背中のブースターを使って更に加速し、大鎌によってカーボンロッドを弾いて最短距離でミカに迫る。至近距離まで近づいた切歌はミカに大鎌の一撃を繰り出すが、ミカはその攻撃をカーボンロッドで受け止めた…しかし、適合係数の上昇した切歌の攻撃に耐えきれずに罅が入る。

 

「オリャアッ!」

 

「なっ!?」

 

「デス!?」

 

カーボンロッドが破壊される前に、ミカは掴んでいた短剣ごとマリアを振り回し、切歌に向けて投げつける。二人はぶつかり後方へと吹き飛ばされるが、今度は調がミカに対して追撃を放つ。

 

γ式 卍火車

 

射出された二つの大型丸鋸がミカに迫るが、ミカは生成したカーボンロッドを両手に持って力任せに丸鋸を弾き飛ばした。

 

非常Σ式 禁月輪

 

調は更に追撃を加えるべく、車輪のように展開した丸鋸でミカに高速で接近し、そのままミカに衝突しようとする。ミカは調の攻撃をカーボンロッドで受け止めるが、回転する刃によってカーボンロッドは徐々に削られ、真っ二つになる前にミカは横に逸れて調の攻撃を回避する。

 

 

 

 

 

S.O.N.G.本部では、オペレーター達がミカと互角以上に戦闘を進める三人の状態を正確にモニターしようとしていた。

 

「マリアさん、適合係数の上昇によってギアの出力も上がっています!」

 

「調ちゃんと切歌ちゃんの二人も、ユニゾンによって数値以上の効果を発揮しています!」

 

「だが、この輝きは時限式だ」

 

弦十郎は、三人の状態が決して長続きしないことを冷静に分析していた。

 

「それでも、きっとあの三人は勝つ。信じよう、弦十郎のダンナ…あたし達の『仲間』を」

 

奏はモニターから視線を外すことなく、自身の罅割れたギアペンダントを握りしめながら弦十郎にそう語り掛けた。

 

 

 

 

 

発電施設のパネル上に飛び乗ったミカを、三人が追跡する。

 

TORNADO†IMPACT

 

マリアは複数の短剣を生成し、自身の周囲で高速で回転させる。短剣の回転は気流を生み出し、竜巻を纏うようにマリアはミカに真っすぐに突進していった。ミカは目の前に赤く輝く巨大な結晶を作り出すことでマリアの攻撃を受け止める。そこに、跳躍した調と切歌が力を合わせ、足に丸鋸と刃を展開してマリアに追従するように攻撃を仕掛けた。三人の攻撃を受けた結晶は、徐々に罅割れていき…それを見たミカがニヤリと笑う。

 

「ドッカーン!」

 

「「「っ!!?」」」

 

ドゴォォォォォン!!

 

…三人の攻撃を受け止めていた結晶は、ミカの合図と共に爆ぜて、至近距離で三人は爆発に巻き込まれた。そして、その爆発によって発電施設は完全に崩壊してしまった。

 

 

 

 

 

マリア達がミカと戦闘を繰り広げている一方で、ナナシもキャロルと一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「フッ!!」

 

ナナシは腕に纏わせた血液を針のように伸ばしてキャロルに攻撃を仕掛ける。その攻撃をキャロルは冷気によって凍結させ、指から弦による斬撃を無数に飛ばして凍結した血液を砕きながらナナシに攻撃を仕掛ける。それを回避したナナシは“障壁”を足場に縦横無尽に跳び回り、隙を見てキャロルに接近する。そして、“収納”から取り出した無数の爆弾をキャロルの周囲にばら撒く。

 

ドオォォォォン!!

 

爆弾による衝撃や破片を、キャロルは黄色い陣による防壁を周囲に展開して防ぐ。だが、その頭上には時間差でナナシが投げ込んだ複数の手榴弾があった。

 

「チッ」

 

煩わしそうにキャロルは弦による斬撃で頭上の手榴弾を切り裂いて…手榴弾の内側から、赤い鮮血が溢れ出た。

 

「くっ!?」

 

手榴弾の内部は火薬ではなく、ナナシの血液で満たされていた。そして血液…液体は弦で攻撃しても多少散らばるだけで意味が無い。キャロルは頭上に冷気を放出して血液を凍結させると同時に吹き飛ばす。そして、キャロルの注意が頭上に向いた隙をついて、ナナシがキャロルに拳による攻撃を繰り出そうとして…咄嗟に跳躍してキャロルから距離を取る。すると、一瞬前までナナシがいた場所に、いつの間にか下に展開されていた青い陣から冷気が噴出された。あのまま攻撃を仕掛けていたら、ナナシは氷像と化していただろう。

 

 

 

ナナシの周りの人間にとって、ナナシは弦十郎の弟子という印象が強く、それ故にナナシの戦闘方法も力と技を駆使した肉弾戦というイメージではあるが、こと対人戦においては緒川の戦い方に近かった。人の感情を『何となく』感知できるナナシは、そこから相手の繰り出す攻撃を予測して戦略を組み立て、逆に相手の不意を突く戦法を得意としていた。

 

何よりも弦十郎との特訓では、技術を向上させる『稽古』ならいざ知らず、勝敗を決める『模擬戦』においては、基本弦十郎の不意を打たなければ有効打を与えられないため、自然とそういった技術が向上していったのはある意味必然であった。

 

 

 

ナナシは高い身体能力と尽きないスタミナを駆使してキャロルの周囲を駆け回りながら隙を突き、或いは隙を作り出してキャロルに攻撃を仕掛けていた。だが、キャロルも徹底的にナナシを接近させないように立ち回っており、冷気を主体とした錬金術を駆使してナナシの動きを封じることを目的に攻撃を繰り出してきていた。

 

(こいつ、明らかに俺を殺すんじゃなくて、俺を動けなくするために攻撃してきている。冷気以外の弦による斬撃攻撃も、体じゃなくて手足を執拗に狙っている。わざと受けて“障壁”で防げるようにしたいところだけど、攻撃の手数が多すぎてその最初の一手で詰みかねない…)

 

足に攻撃を受ければ機動力を失い捕縛される。手に攻撃を受ければ手を起点とする“収納”が一時的に使えなくなり攻撃の手数が減ることでやはり捕縛のリスクが高くなる。体で受けようにも両断されてしまえば同じことだ。ナナシの肉体強度は人より少し丈夫といった程度であり、恐らく弦の攻撃を受ければ容易く両断されてしまう。加えて、ナナシは弦十郎程巧みに発勁を操れる訳ではない。攻撃を受けるという選択肢は、やはりどうしてもリスクが高くなる。

 

そして長期戦となると圧倒的にナナシ達の分が悪い。マリア達のLiNKERはただでさえ効果時間が短くなっている上に、ナナシが“収納”に備蓄している兵器にも限りがある。ナナシ達の目的が響の治療とギア改修までの時間稼ぎであったとしても、叶うならば短期決戦によって相手を無力化することが最善であった。

 

膠着状態が続くことに、ナナシが内心で僅かに焦りを感じていた、その時…マリア達がいる発電施設の方で大きな爆発が起こり、発電施設が崩壊したことで、ナナシの意識がそちらに向いた。向いてしまった。

 

「っ!?」

 

「隙を見せたな?」

 

「やべっ!!?」

 

ナナシの意識が一瞬逸れた、その瞬間…ナナシの両腕が、キャロルの飛ばした弦によって切断された。それと同時に、“障壁”すら展開する間もなく、両腕の切断面を覆いつくすように弦が巻き付けられ、同時に両足も弦が巻き付き拘束される。四肢の関節を重点的に弦で拘束され、ナナシはまるで操り人形のようにキャロルの目の前に吊るされた。

 

「全く、随分と手間取らせてくれたものだ」

 

「……」

 

ナナシは口を開くことなく、拘束された自身の四肢に目を向ける。腕の断面は完全に弦で覆われ、再生が始まらない。締め付けによって止血もされているため、“血流操作”を使用することもできず、“身体変化”を使ったとしても、手足の変形に時間のかかるあの能力では、抜け出す前に再度拘束されてしまうだろう。

 

「無駄だ。こちらも貴様の異能については調べてある。もはや逃走は叶わないと知れ」

 

「……」

 

「どうした?あれだけペラペラと軽口を発していたというのに、絶望で声すら出せないか?」

 

(考え事は黙ってするタイプなんだ。まあ、会話をしたいというなら応じよう)

 

「!?」

 

ナナシの“念話”に、キャロルは一瞬驚きを露わにするが、すぐに冷静になってナナシに“念話”で言葉を返す。

 

(…念話(テレパス)まで自在に行使するか…益々興味深いな)

 

(お前もあの人形共とこうやってやり取りしていたよな?ちょくちょくそういった素振りをあいつらはしていた)

 

(フン、それを知ったところで何ができる?)

 

(まあいくつか思いつくことはあるな。例えば…)

 

(マスター、該当エリアのエネルギー総量が低下中。間もなく目標数値に到達しますわ)

 

(ッ!?)

 

丁度そのタイミングで、ファラからキャロルに作戦の進捗についての報告が届いた。

 

(よろしい、では次の命令を伝える。全オートスコアラーは早急に自壊せよ)

 

(なっ!?貴様!!)

 

(いかがなさいました?マスター?)

 

ナナシが勝手に命令を伝えようとしたことにキャロルは動揺するが、ファラはそんなキャロルの様子を怪訝に思っていた。

 

(…いや、問題ない。各自、事前に伝えた作戦通りに行動しろ。それから今後、緊急時以外の念話による情報伝達を禁止する)

 

(…?…了解しました)

 

キャロルの命令を疑問に思いつつも、ファラは了承の返答をして念話を切る。

 

(なるほど…他人とのやり取りは聞き取れるけど、他人を通じてこっちの思念を送ることはできない、と…俺以外に“念話”を使う相手がいなかったから分からなかった貴重な情報だな。ありがとう)

 

(…本来、念話(テレパス)の盗聴には相応の対策を施してあるが、貴様の“念話(ソレ)”はそういった枠組みから外れた埒外の力ということか…これは研究のし甲斐がありそうだ)

 

(研究?)

 

ナナシの疑問に、キャロルが加虐的な笑みを浮かべてナナシに語り掛ける。

 

(あの歌女共の情報を集める過程で、貴様のことについてもある程度調査したが、何一つはっきりとした情報は出てこなかった。真理を追究する錬金術師として、未知とは解き明かさなければ気が済まない。万象黙示録を完成させるまでの合間に、貴様の体を様々な方法で解剖させてもらうとしよう)

 

ナナシを脅すようにそう言って、キャロルはその顔に浮かべた邪悪な笑みをより一層深めた。

 

 

 

 

 

唐突な話になるが、ナナシが持つ最も強力な武器とは一体何だと思われるだろうか?

 

常人を遥かに超える身体能力から繰り出される暴力だろうか?

様々な分野の情報を学び、吸収する学習能力だろうか?

何事も諦めず努力を続ける精神力だろうか?

それとも、あらゆる理屈を無視して取得する異能の力だろうか?

 

…否、ナナシにとって最も強力な武器、それは…

 

 

 

 

 

(黙れよ。父親の遺言を自分の願望のために都合良く歪めているクソガキが、賢人ぶってんじゃねえ)

 

…人の心を抉る言葉である。

 

 

 

 

 

「…………………は?」

 

突然ナナシが伝えてきた言葉の意味を、キャロルの頭が時間をかけて理解して…キャロルの顔が怒りに歪み、その目が見開かれる。

 

「き、きさっ!貴様!!今!!何とっ!!!!?」

 

「ぺっ!!」

 

ベチャッ!

 

「がああああ!!?」

 

冷静さを失い、大きく見開かれたキャロルの瞳に、ナナシが口から吐き出した『何か』が命中し、キャロルが痛みで悲鳴を上げる。

 

ナナシが吐き出した『何か』…自らの舌を噛み切り、口の中で留めて“血流操作”で粘度を高めたナナシの血液が、キャロルの視界を封じている間に、ナナシは舌から流れ出る血液を操って自らの四肢を根元から切断して拘束から逃れた。

 

「逃がすものかぁ!!」

 

視界を封じられた状態で、キャロルが我武者羅に周囲に冷気を放出し始める。キャロルを中心に、その周囲はあっという間に氷の世界と化していった。

 

(ラッキー!!)

 

だが、ナナシ本人は早々に“ダメージの無効化”によって一瞬で欠損を修復した後、タイミングを見てキャロルが放つ冷気に指先で触れて、凍結が広がる前に腕を引き千切った。そして、“障壁”で冷気を防ぎながら駆ける。

 

(マズいな…引っかかった(・・・・・・)…ギア改修が終わるまで、誤魔化しきれるか?)

 

無事脱出したはずのナナシは、一抹の不安を感じながら、マリア達の元に駆けて行った。

 

 

 

 

 

ミカが引き起こした爆発に巻き込まれ、ボロボロになりながらも、マリア達は何とか立ち上がろうとしていた。だが…

 

バチンッ!!

 

「あぐっ!?」

 

「調!?」

 

「まさか…!」

 

遂に、LiNKERのリミットが訪れてしまった。適合係数の低い調が、最初にギアからのバックファイヤに襲われる。マリアと切歌に限界が訪れるのも時間の問題だ。

 

「このままじゃ、何も変わらない…変えられない」

 

「こんなに頑張っているのに、どうしてデスか!?こんなの嫌デスよ!変わりたいデス!!」

 

「ガラクタの私達では、ここまでなの…!!」

 

発電施設は破壊され、もう自分達に残された時間は僅かしかない。三人の口から、自身の無力を嘆く言葉が漏れ出す。

 

「まあまあだったゾ!でもそろそろ遊びは終わりだゾ!お薬が切れる前に、お仕事終わらせちゃうゾ!」

 

そう言って、ミカの髪から炎が噴き出し、一気に加速してミカがマリアに迫る。

 

「ッ!?」

 

「ばいなら~!!」

 

マリアのギアを破壊するため、ミカがカーボンロッドを突き出して…

 

ドグシャッ!!

 

「が…ふ…」

 

「…え?」

 

…マリアを庇ったナナシの胸を、カーボンロッドが貫いた。マリアの目前で止まったカーボンロッドを伝って、マリアに数滴の血飛沫がかかる。

 

「あー!!?使っちゃったんだゾ!!ダメって言われてたのに!!」

 

「ごふっ…失せろ!!」

 

ゴシャッ!!

 

「ぎゃふっ!?」

 

ナナシがミカの顔面を殴り飛ばし、突き刺さったカーボンロッドを掴んで胸から引き抜く。

 

「三人共、無事か?」

 

「ナナシ…血…血が…」

 

「あー大丈夫だ。不死身の“紛い物”にとっては、これぐらいどうってことはない」

 

青い顔で狼狽えるマリアをそう慰めて、ナナシは三人の周囲を“障壁”で囲む。

 

「後は俺に任せて、そこで待っていてくれ」

 

「で、でも…ぐっ!?」

 

「うぐっ!?」

 

そうしている間に、切歌とマリアにも限界が訪れ、三人のギアが解除されてしまった。

 

「あ~…お仕事、できなかったんだゾ…とんだハズレ装者達だゾ」

 

「ミカ、下がれ」

 

ミカが立ち上がってぼやいていると、キャロルがすぐ傍まで近づいてきてミカにそう命令した。

 

「面目ないゾ、マスター…ギアを壊せなかったし、あの男に武器も使っちゃったんだゾ」

 

「…後のことはオレに任せてお前は戻れ」

 

「分かったゾ!」

 

ミカはそう言って空中へと跳躍し、懐から取り出したテレポートジェムを爪で砕いて姿を消した。

 

「さて…」

 

キャロルは周囲に水晶をばら撒き、ナナシとマリア達の周囲にアルカノイズを召喚する。

 

「もう貴様を研究する気が起きない。歌女共の前で無様に分解してやる」

 

「図星を指されて逆ギレか?やれるもんならやってみろ、クソガキ」

 

余裕を見せるために笑いながら…ナナシはこの状況に酷く焦っていた。

 

 

 

 

 

ナナシが肉体を修復する術は、二通り存在する。

“高速再生”と“ダメージの無効化”だ。

“高速再生”が時間経過によって徐々に肉体を修復するのに対して、“ダメージの無効化”は体がブレたと思うと瞬時に万全の状態へと戻される。

 

これだけ聞けば“ダメージの無効化”が圧倒的に優れた回復能力に思われるが、こちらにも致命的な弱点が存在していた。

 

かつてデュランダルの一撃によって肉体が半分消し飛んだ際、“ダメージの無効化”で回復したナナシの肉体にはしばらくの間、機能不全が発生した。

 

能力の開発中にそちらの検証も行った結果…どうやら、肉体を三割以上失った状態で“ダメージの無効化”を使用すると、この機能不全は発生するらしい。

 

そして、この機能不全は時間経過で解消されるのだが…完全に解消される前に損傷を受けると、損傷の割合に関係なく復帰までの時間が加算され、機能不全が重症化するのだ。つまり、この状態になったナナシは、傷を負うごとに動けなくなっていく。

 

…そして、ナナシが懸念を持つ最悪の“妄想”がもう一つ。

 

ナナシは、これまでに二回(・・)、意識を失ったことがある。

 

一回目は、カ・ディンギルによって肉体をほとんど失った時。

そして二回目は…了子達と宇宙に飛ばされ、地球へ帰還するために検証を行った時だ。

 

生身で宇宙空間に出てしまったナナシは、脳の血管が破裂して“ダメージの無効化”が発動し、それ以降、宇宙空間での活動が可能となった。

 

しかしその際、実は数分間ほど意識を失っていたのだ。

 

そしてそれらの経験から、自分が『意識を失う条件』と『目覚めるまでにかかる時間』について、ナナシはある仮説を立てた。それは…

 

 

 

 

 

(気絶の条件は『脳の損傷』!そして目覚めるのにかかる時間は『再生時の蓄積ダメージに比例』!!)

 

アルカノイズの攻撃を避け、再度キャロルに切り落とされた片腕を修復しながら、ナナシは自身の“妄想”を再確認する。

 

脳が傷つけば意識を失う、当たり前だ。そちらについてはナナシもほぼ確信している。だが、もう一つの目覚めるまでの時間については確証がなく、ナナシも流石に試していない。もしそれが間違いで、目覚めにかかる時間がランダムだった場合、目が覚めたら数年経過していた、なんてこともあり得るからだ。

 

だが、この“妄想”が正しかった場合、現在ナナシの身に起こっている機能不全が無関係とは思えない。攻撃を避け切れず、徐々に増す体の痺れが、気絶から復帰する時間に関わったならば、間違いなく数日は意識を失うことになる。

 

「あはははは!どうした?随分と動きが鈍ってきたじゃないか!!貴様の再生能力、どうやら無制限という訳ではないようだな!!」

 

「があっ!?」

 

ナナシを痛めつけるキャロルが笑い、脇腹を切り裂かれたナナシが苦痛から声を上げる。だがそれは演技だ。身体能力の低下は誤魔化しが効かないレベルになっているため、ナナシはキャロルの加虐心を煽ってどうにか頭部への攻撃を避けつつ時間を稼いでいた。

 

「あ…あ…」

 

「先生…先生…」

 

「もう…もうやめて!!」

 

その光景を見せつけられて、マリア達の精神の方が既に限界に近かった。“念話”で説明する余裕もなく、徐々に動けなくなっていくナナシの姿に、三人は“障壁”を叩いて涙を流す。

 

「誰か…彼を…助けて…」

 

「ぐあっ!?」

 

「「「っ!?」」」

 

遂に、ナナシがキャロルの攻撃を足に受けてしまい、その動きを完全に止めてしまう。そんなナナシに、アルカノイズの解剖器官が一斉に迫った。

 

「誰か…ナナシを…誰かああああああああ!!!」

 

絶望的な状況に、マリアが目を閉じて、絶叫した…

 

 

 

「『誰か』だなんて、連れねえこといってくれるなよ」

 

 

 

戦場に、聞き覚えのある声が響く。マリア達が目を開けて周りを見ると、周囲のアルカノイズの体には、幾つも風穴が空いてその動きを止めていた。そして、ナナシに迫っていたアルカノイズは、解剖器官が全て切り落とされており、マリア達はアルカノイズの陰に、この絶望的な状況を切り開いた輝きを見つける。

 

「剣…?」

 

 

 

「ああ…振り抜けば風が鳴る剣だ」

 

 

 

言葉と共に、剣が振り下ろされて、風切り音と共にアルカノイズが崩れて消える。

 

「ぷっ、くくくっ…かっこいいな?珍しくちゃんと先輩風を吹かせているじゃないか?SAKIMORI、クリス」

 

満足に動かせない体を大の字に広げて地面に横たわり、それでも笑って茶化すようにナナシが言葉を紡ぐ。

 

「そう言うてめえは、珍しくお疲れみてえじゃねえか?ご都合主義?」

 

「全くだ、普段休まないからこうなるのだ。少しは反省してそのまま昼寝でもしていろ」

 

そんなナナシの言葉に、二人が…生まれ変わったシンフォギアを纏う、風鳴翼と雪音クリスが、同じように茶化して言葉を返す。

 

「あははは!耳が痛いな。確かにちょっと疲れたかもな…だけど、少し休めばすぐ動けるようになる。だからそれまで…よろしくお願いします」

 

「ああ!」

 

「任せろ!」

 

言葉は軽く、されど万感の想いを籠めて、“紛い物”は二人の歌姫に『信頼』を伝える。二人もまた、ありったけの想いを籠めて答えを口にし、錬金術師キャロルと対峙した。

 

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