戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第86話

強化型シンフォギアを身に纏った翼とクリスの姿を見て、マリア達は“障壁”の中で安堵の表情を浮かべた。そんな三人に、ナナシが這うようにして近づき、自身も内部に入るよう“障壁”を再展開する。

 

「ナナシさん!」

 

「先生!」

 

「ナナシ!あなた、とんでもない無茶をして!」

 

「あー、心配させて悪い。説明する暇が無かったけど、実は相手を油断させるために大げさに悲鳴を上げていただけだ。実際はちょっと体が痺れているだけでそう大した問題はない」

 

「そんな見え透いた嘘を!!」

 

「いやホントホント!!そんなに深刻じゃないから!!ちょっとあの変態錬金術師を喜ばせるためにハードなSMプレイを演じていただけだから!!」

 

「えすえむ…?」

 

「ぷれい…?」

 

「わー!?何でもない何でもない失言だった!!お前達にはまだ早い!!てか一生知る必要の無い言葉だ!!忘れろ!!」

 

「また子供扱いデスか!?」

 

「教えてくださいよ先生!!」

 

「アイドル大統領に聞いてくれ!!」

 

「私に話を振るな!?」

 

一難が去って早々、ナナシが三人を茶化すような会話を繰り広げる。そのお陰で、先程まで三人の周りにあった悲壮感漂う空気は霧散するが、急ぎ駆けつけた翼とクリスは力が抜けそうになった。

 

「全く、あの男は…」

 

「ほっとこう、アレに付けるナンチャラはねえですよ…さて、ラスボスのお出ましみたいだけど、どうしてくれる?先輩」

 

「反撃…程度では生温いな。逆襲するぞ!!」

 

宣言と共に力を入れ直し、二人が武器を構えて眼前に立つキャロルを睨む。そんな二人にキャロルは冷ややかな視線を向けていた。

 

「フン、なけなしの希望をようやく束ね終えたか。ならまずは、オレが自ら踏みにじるだけの価値があるか試してやろう」

 

そう言って、キャロルが水晶をばら撒いて無数のアルカノイズを召喚した。

 

「慣らし運転がてら片付けるぞ!」

 

「綺麗に平らげてやる!」

 

翼とクリスが、アルカノイズの群れに突っ込む。歌声を響かせながら、翼の振るう剣の攻撃は易々とアルカノイズの体を両断し、一振りで複数のアルカノイズを纏めて消滅させることさえしてみせた。クリスの放つボウガンでの攻撃も、アルカノイズの体を容易く消し飛ばしてみせる。そうやって二人は、瞬く間にアルカノイズを殲滅していった。

 

 

 

 

 

「天羽々斬、イチイバル共に、各部コンディショングリーン!」

 

「これが、強化型シンフォギア…!」

 

本部で二人の戦闘をモニターしていた友里が、その出力の高さに驚嘆の声を上げる。

 

「プロジェクト『イグナイト』は、破損したシンフォギアシステムの修復に留まるものではありません」

 

そう言いながら、扉を開いてナスターシャ教授と了子が入室してきた。

 

「出力を引き上げると同時に、解剖器官の分解効果を減衰するよう、バリアフィールドの調整を施している…エルフナインちゃんの仕事が光るわね♪」

 

了子が言うように、アルカノイズの攻撃を翼が受け止めても、ギアが分解される様子はない。これならば…その場にいる人々の瞳に希望の光が見える中で、ギアの改修に関わった三人の顔には、依然として影があった。

 

 

 

 

 

アルカノイズを全て滅ぼした二人は、そのままキャロルへと攻撃を仕掛けた。

 

蒼刃罰光斬

 

翼の剣から放たれたクロス状の斬撃がキャロルに迫るが、キャロルは跳躍してそれを躱す。

 

MEGA DETH FUGA

 

キャロルの着地地点を狙って、クリスが巨大なミサイルを二発撃ち放つ。ミサイルはキャロルに命中して、キャロルの姿は爆炎の中に飲み込まれた。

 

「フッ、ちょせぇ…」

 

そう言って不敵に笑うクリスだが、翼が煙の向こう側に黄色の光を捉えた。

 

「…いや、待て」

 

「何…?」

 

煙が晴れると、そこには黄色い防壁を展開し、無傷で佇むキャロルがいた。

 

「なるほど…良いだろう。オレが直々に貴様らの相手をしてやる。この身一つでお前ら二人を相手するぐらい、造作もないこと」

 

「…図体ばかりでなく、態度もえらく大きく出たものだな」

 

「ハン、その生意気な顔、すぐに吠え面に変えてやらあ!!」

 

翼が斬撃を、クリスが弾丸を放つ。だが、キャロルが背中に付いたハープの弦を弾くと、陣が展開されて竜巻が発生し、二人の攻撃を打ち消してそのまま二人に竜巻が迫る。二人が回避する間にも、キャロルが次々と陣を展開しながら指先から弦を飛ばして攻撃する。二人は猛攻を躱しながらも何とか反撃の隙を窺うが、炎、風、水、土…ナナシとの戦闘では見せなかった多彩な攻撃の前に、二人は徐々に追い詰められていた。

 

 

 

翼達が炎の爆発に吹き飛ばされ、キャロルの弦による不意打ちがナナシの“血晶”によって時折弾かれる。そんな光景を“障壁”の内部から見ることしかできないマリア達は、無力感に唇を噛む。

 

「見ることしか、できないんデスか…」

 

「私達が、足手まといだから…」

 

「何言ってんだアホ」

 

弱音を吐く切歌と調に、何とか上半身を起こしたナナシが声をかけた。

 

「お前らが無茶してまで時間を稼いだから、ギアの改修は間に合ったし…さっき“念話”で連絡があったけど、響は無事に目覚めたんだ」

 

「響さんが!!」

 

「本当デスか!?」

 

「お前達はちゃんと自分の役目を果たしたんだ。なら、後は仲間のことを信じて、無力を嘆く前に胸を張れ」

 

「そんな慰めを言われたところで…自分の無力を誤魔化すことなんて…」

 

暗い顔で俯くマリアに、ナナシが呆れたような視線を向ける。

 

「いや、何でだよ?言葉通りに受け取れよ。感受性を高めろ、在るがままを受け入れろ。できないことに目を向けてばかりだとキリが無いぞ?そのうち俺みたいに手足が生やせないことにも嘆くつもりか?」

 

「…ついさっきまで無力を嘆いて一人で戦おうとしていたあなたが言うセリフではないわ」

 

他人(ヨソ)他人(ヨソ)自分(ウチ)自分(ウチ)

 

「そんな身勝手な理屈があるか!!」

 

「なら、どれだけその時の俺が無様だったか知っているだろ?反面教師にして学べ。相手の弱い部分を助けるだけじゃなくて、自分の弱い部分も委ねられるのが、お前達がなりたくて仕方がない『仲間』なんじゃないのか?」

 

「なっ!?あ、あなた、奏との会話を盗み聞きしていたの!?」

 

「何だ、奏と話をしていたのか?なら余計な口出しだったな。俺の言葉は忘れてくれ」

 

そう一方的に話を終わらせて、ナナシは戦い続ける翼とクリスに視線を戻す。切歌と調もひとまずは弱音を吐くことを止めて、二人の戦いを見守ることにした。

 

(…相変わらず、無自覚に相手の心を見透かしたようなことを口にして…)

 

胸の内で悪態をつきながら、それでも確かにナナシの言葉で心が軽くなったマリアは、俯いていた顔を上げて、目の前で戦う『仲間』を見る。その勝利を信じて。

 

 

 

キャロルの猛攻に傷つき、膝をついた翼とクリスは、それでも諦めず立ち上がる。

 

「クソッタレが…!」

 

「大丈夫か、雪音?」

 

「『アレ』を試すくらいにゃあ、ギリギリ大丈夫ってとこかな」

 

「フン、弾を隠しているなら見せてみろ。オレはお前らの全ての希望をブチ砕いてやる!」

 

高所から二人を見下ろしながら、キャロルが傲慢な態度でそう言い放つ。

 

「付き合ってくれるよな?」

 

「無論、一人で行かせるものか!」

 

 

 

「「イグナイトモジュール、抜剣!」」

 

 

 

二人がそう叫ぶと同時に、ギアコンバーターに新たに追加された羽のようなボタンを押し込む。コンバーターから『ダインスレイフ』という無機質な起動音が聞こえたのを確認して、二人がコンバーターを取り外して宙へと放った。すると、コンバーターが形を変えて、その中心から赤く輝く光の刃が形成されたかと思うと…光の刃が、翼とクリスの胸を貫いた。

 

「う、ぐ、がぁ…ああああ!?」

 

「ぐあ、が、あぁああぁ!?」

 

それと同時に、二人の口から苦悶の声が漏れ出す。だがそれは、刃に胸を貫かれたことによる痛みからではない。

 

「腸を、掻きまわすような…これが…この力が…!!」

 

胸の中で膨れ上がっていく感情に押し潰されそうになりながら、翼はプロジェクト『イグナイト』について説明されたことを思い出していた。

 

 

 

 

 

プロジェクト『イグナイト』が正式に始動することが決まり、装者達の前でエルフナインがその概要を説明していった。

 

「ご存じの通り、シンフォギアシステムには、いくつかの決戦機能が搭載されています」

 

「絶唱と…」

 

「エクスドライブか…」

 

「とはいえ、絶唱は相打ち前提の肉弾。使用局面が限られてきます」

 

「だろうな…俺が自分の歌以外で、唯一忌み嫌う歌だ」

 

翼が目の前で倒れたことを思い出しながら、ナナシが吐き捨てる様にそう言った。

 

「そんときゃあエクスドライブで!」

 

「いえ、それには相当量のフォニックゲインが必要となります。奇跡を戦略に組み込むわけには…」

 

「役立たずみたく言ってくれるな!」

 

緒川の正論に、クリスが思わず噛みついていると、今度は了子が口を開いた。

 

「忘れていないかしら?シンフォギアにはもう一つ、決戦機能があったはずよ」

 

了子の言葉に、全員が一瞬考え込んで…

 

「…!暴走か!?」

 

ナナシが、デュランダルを掴んだ響の姿を思い出してそう叫んだ。

 

「立花の暴走は、搭載機能ではない!!」

 

「トンチキなこと考えてないだろうな!!?」

 

クリスが了子に詰め寄って掴みかかる。そんなクリスの腕を掴んで、了子の隣にいたナスターシャ教授が諭すように言葉を紡いだ。

 

「暴走を制御する事で、純粋な戦闘力へと変換錬成し、錬金術師キャロルへの対抗手段とする…これが、プロジェクト『イグナイト』の目指すところです」

 

 

 

 

 

暴走の制御…それがどれだけ困難なことかは、モニターに映し出された翼とクリスの様子を見れば、一目瞭然だった。

 

「モジュールのコアとなるダインスレイフは、伝承にある殺戮の魔剣。その呪いは、誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的に暴走状態を引き起こす」

 

「それでも、人の心と叡智が、破壊衝動をねじ伏せることができれば…!」

 

「シンフォギアは、キャロルの錬金術に打ち勝てます!」

 

「心と、叡智で…」

 

「あいつらなら、きっと…!」

 

全員が、二人のことを見守る。翼とクリスなら、決して心の闇に負けないと信じて…

 

 

 

 

 

「頑張るデス!!」

 

「負けないでください!!」

 

「あなた達なら、きっと…!!」

 

苦しむ翼とクリスに、マリア達が声をかけ続ける。そんな中、ナナシは二人を見守りながらも、別の思考に囚われていた。

 

(やっぱり、俺はこの光景を知っている…人の心が塗り潰される、この光景を…)

 

ナナシの胸を過る、奇妙な懐かしさ…かつて、ナナシが同じような光景を見たことがあるのか…或いは、遥か昔、自身が同じ状況に陥ったのか…

 

(だけど、お前達なら打ち勝てるはずだ!苦しみ藻掻きながらも、前へと進もうとするお前達なら…)

 

二人の胸に渦巻く暗い感情を感じ取りながら、それでもナナシは信じ続けた。二人が心の闇に打ち勝つことを…

 

 

 

 

 

暗闇の中で、翼が目を覚ますと、そこは…

 

「…ステージ?」

 

広いステージの中央で、翼は重さを感じる体を起こそうとする。

 

「私は、奏と一緒に、もう一度ここで、大好きな歌を歌うんだ…!夢を諦めて、なるものか…!」

 

自身を鼓舞して、伏せた顔を上げた先にあったのは…観客席を埋め尽くす、ノイズの群れ。

 

「っ!!?…私の歌を聴いてくれるのは、敵しかいないのか…?」

 

『防人』として歌を奏でる時、翼の目の前にはノイズしかいない。

 

(新たな脅威の出現に、戦いの歌を余儀なくされ…剣に戻ることを強いられた私は…)

 

翼の目の前に、自分の父親…風鳴八紘が現れる。

 

「お父様!!」

 

幼い翼が涙を浮かべながら父の名を呼ぶ。

 

「お前が娘であるものか。どこまでも穢れた風鳴の道具にすぎん」

 

そんな翼に、八紘は視線すら向けることなく、心無い言葉を吐き捨て姿を消した。

 

(それでも認められたい…だから私は…私はこの身を剣と鍛えた…そうだ!…この身は剣…夢を見ることなど許されない道具…剣だ!)

 

そう考える翼の目の前に、相棒の…自分の片翼である奏が現れる。

 

(でも…私は…)

 

心が押し潰されそうな翼の前で、奏はフッと優しく微笑んだ。

 

「奏!!」

 

その笑みに、温もりに縋りたくて、翼が奏を抱きしめて…奏の体が、バラバラに崩れて落ちた。

 

(剣では…誰も抱きしめられない…)

 

「う、あ、あぁあああぁあああ!!」

 

自分の在り方に絶望し、翼は地に蹲り、涙を流して…

 

 

 

『お前がどんなにその身を剣として鍛えようが、お前は人間だ。俺が“紛い物”で人間じゃないのと一緒で、お前は人間で剣じゃない』

 

 

 

「っ!?」

 

…胸の内に響く言葉に、翼は閉じていた瞳を見開いた。

 

 

 

 

 

クリスが瞼を開くと、そこは教室の中だった。全員が授業を受けて黒板を見る中で、クリスの友人が後ろを振り返り、クリスの顔を見て微笑む。

 

「ッ!?」

 

気恥ずかしさから、クリスは咄嗟に教科書で赤くなった顔を隠す。

 

(あたしがいてもいいところ…ずっと欲しかったものなのに、まだ違和感を覚えてしまう…)

 

自分を受け入れてくれる、暖かい世界…だが、これまで冷たい世界で生きてきたクリスは、未だにその温もりを素直に受け入れることができなかった。

 

(それでも、この春からは新しい後輩ができた…なのに…あたしの不甲斐なさで…あいつらがボロッカスになって…)

 

気が付くと、クリスの目の前の光景が一変していた。自分が…クリスの大切な人達が住む町が、何もかも壊されて、廃墟となった光景…まるで、これまでクリスが生きてきた世界のように…

 

(一人ぼっちが、仲間とか、友達とか…先輩とか後輩なんて求めちゃいけないんだ!でないと…でないと…!)

 

廃墟の中で、クリスは調と切歌の姿を見つける。二人はボロボロに傷つき、地面の上に倒れて、事切れていた。

 

(残酷な未来が皆を殺しちまって…本当に一人ぼっちとなってしまう…!)

 

「うわああぁあああぁあああぁぁぁ!!」

 

クリスは泣きながら駆け出した。大切なものを失う可能性(未来)を恐れて、暖かな(現実)から、逃げ出すために…

 

 

 

『お帰り、クリス。もう迷子になるんじゃないぞ』

 

 

 

「ッ!!?」

 

そんな、帰る場所から遠ざかろうとするクリスの胸の内に、かつて聞いた、クリスが帰ってくることを信じて疑わなかった言葉が過る。その言葉に、クリスがその足を止めると…クリスの手を、誰かが掴んだ。

 

 

 

 

 

クリスが目を開くと、クリスと同じように、膨れ上がる心の闇に苦しめられ、痛みに耐えながら…それでも、笑みを浮かべてみせる翼の顔が映った。

 

「すまないな、雪音の手でも握ってないと、底なしの淵に、飲み込まれてしまいそうなのだ…!」

 

そう言って笑う翼を見て、クリスも苦しみながらも笑みを浮かべてみせる。

 

「…フッ、お陰で、こっちも良い気付けになったみたいだ…!危うくあの夢に溶けてしまいそうで…!」

 

二人を飲み込もうとしていた闇の感情が霧散し、イグナイトモジュールが強制解除される。二人は暴走することなく、されど感情の制御には失敗したため、反動で立っていることすらままならず、地に膝をついて息も絶え絶えな状態だった。

 

「不発…尽きたのか?それとも折れたのか?いずれにせよ、立ち上がる力くらいはオレがくれてやる!」

 

キャロルがそう言って、空中に水晶を一つ放って投げる。上空で水晶が砕けると、そこから大型アルカノイズが一体出現する。気球や飛行船を思わせる丸いフォルムのアルカノイズは、その両足にある穴から無数の飛行型アルカノイズを出現させる。

 

「いつまでも地べたに膝をついていては、市街への被害は抑えられまい」

 

アルカノイズの群れが、市街地を襲い始めた。アルカノイズが急降下していく度に、爆発音と悲鳴が聞こえてくる。

 

(手をつく力を…!)

 

(奴に突き立てる牙を…!)

 

翼とクリスは力を振り絞って立ち上がるが、ふらつく体を支えるので精一杯だった。

 

「歌えないのなら、分解される者達の悲鳴をそこで聞け!!」

 

そう言ってキャロルが二人を嘲笑う。その光景を見ていたナナシが、未だ痺れる体に力を入れて立ち上がり、歩みを進めようとしていた。

 

「ナナシ!?あなた、まだ体が…!」

 

「俺の役割は、あいつらやお前達が全力で歌えるように支えることだ!こんな、体の不自由くらい…!」

 

「ナナシさん!」

 

「先生!」

 

無理やり歩みを進めようとしたナナシは、倒れ込みそうになるのを調と切歌に支えられる。その光景を見ていたキャロルが、今度はナナシを嘲笑うように声をかけてきた。

 

「フン、まだ足掻こうとするか、『アンノウン』。今の貴様が出たところで、そこの歌女共同様に無様を晒すだけ…」

 

「喧しい!!誰よりも無様な奴が偉そうにあいつらを貶すな!!」

 

「!?」

 

キャロルの言葉を遮り、ナナシが怒鳴り声を上げる。

 

「あいつらが無様?傷つくことを知っていて尚、自身の心の闇に立ち向かおうとするあいつらを、下に見てんじゃねえよクソガキが!!てめえを見ていると、俺の師匠が言っていた言葉の意味が良く分かる!確かにこれじゃあ年を取って図体がデカくなることを大人になるとは言えねえなあ!!」

 

「何だと…?貴様、一体何を言っている!?」

 

動かない足の代わりに口を動かし、力の入らない体の代わりに言葉に力を込めて、ナナシはキャロルに立ち向かう。

 

「何百年生きようが、碌に積み重ねてきたものが無いてめえはガキのままだって言ってんだ!てめえの今やっていることは、自分ができないことを他人が必死になってやろうとしているのを見て、できるわけないってバカにして笑っているクソガキ以外の何でもねえよ!!」

 

「貴様…!そんなに歌女共より先に分解されたいか!!」

 

激昂したキャロルが、ナナシに向けて錬金術を放とうと手をかざして…そのタイミングで、海の方角から無数のミサイルが接近してきた。

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

先頭のミサイルの上には、ガングニールを纏った響が立っていて、大型アルカノイズにミサイルが着弾するのと同時に、響が拳の一撃を繰り出して大型アルカノイズを打ち滅ぼした。そして、後から続くミサイルが、次々と飛行型アルカノイズを打ち落としていく。

 

「ようやく揃うか」

 

キャロルがナナシにかざした手を下して、翼達の元へ向かう響を見据える。

 

「済まない、お陰で助かった」

 

「とんだ醜態を見せちまったけどよ」 

 

響が駆けつけ、アルカノイズによる被害の心配が無くなったことで、翼とクリスの顔に安堵が浮かぶ。響はそんな二人の顔を真っすぐに見つめて、ある提案をした。

 

「イグナイトモジュール、もう一度やってみましょう!」

 

「だが、今の私達では…」

 

先程心の闇に飲み込まれそうになった時の光景が過り、翼とクリスは響の提案に躊躇する。それでも、響は二人に訴えかけた。

 

「未来が教えてくれたんです。自分はシンフォギアの力に救われたって。この力が、本当に誰かを救う力なら、身に纏ったわたし達だって、きっと救ってくれるはず!だから強く信じるんです!ダインスレイフの呪いを破るのは…」

 

「いつも一緒だった、天羽々斬…」

 

「あたしを変えてくれた、イチイバル…」

 

「そしてガングニール!信じよう、胸の歌を、シンフォギアを!」

 

「フフッ…このバカに乗せられたみたいでカッコつかないが…」

 

「もう一度行くぞ!」

 

響の想いに呼応して、翼とクリスも再度呪いに挑む決意を固める。

 

「「「イグナイトモジュール、抜剣!」」」

 

三人がスイッチを押し込み、コンバーターを宙へと投げる。そして、展開された呪いの刃が、三人の胸を貫いた。

 

三人の心が呪いに蝕まれ、その口から苦しみの声を漏らす。そんな三人に、マリア達が必死に声をかけ続ける。

 

「呪いなど斬り裂け!」

 

「撃ち抜くんデス!」

 

「恐れずに砕けばきっと…!」

 

そしてナナシも、“紛い物”の自分の言葉でも、想いが伝わることを信じて懸命に言葉を紡ぐ。

 

「お前達は、これまでだってずっと目を背けたくなるような辛い出来事に逃げずに立ち向かってきたはずだ!そんなお前達が…仲間と積み上げ続けて強くなったお前達の心が、今更そんな魔剣の呪いになんか負けるものか!そんな腑抜けた様子を見せるようなら、これまでとは比べ物にならない悪戯で鍛え直してやるから覚悟しやがれ!!」

 

激励なのか、脅迫なのか分からない、そんなナナシの言葉だが…それでも、その想いは確かに、三人へと届いた。

 

 

 

『お前がどんなにその身を剣として鍛えようが、お前は人間だ。俺が“紛い物”で人間じゃないのと一緒で、お前は人間で剣じゃない』

 

(ああ、そうだ…あの男は何時だって、私が目を背けてきた事を突き付けてきた。私が乗り越えられると信じて…あの男の言葉に比べれば、こんな呪いなど…!)

 

 

 

『お帰り、クリス。もう迷子になるんじゃないぞ』

 

(簡単に言いやがって、ご都合主義が…だけど、あいつは先輩に引き金を引いたあたしのことさえ、微塵も疑うことはなかった!あいつが信じるなら…あいつの悪戯に比べたら、この程度の呪いなんか…!)

 

 

 

『響の歌は、誰かを傷つける歌じゃないよ!!伸ばしたその手も、誰かを傷つける手じゃないって私は知ってる!私だから知ってる!!だって私は響と戦って、救われたんだよ!?』

 

(未来が教えてくれたんだ…力の意味を!背負う覚悟を!)

 

『少しずつ重さを抜いていって、最後には『あの時は大変だったなぁ』ってお前が思い出して笑えるようになることを目指して欲しい』

 

(いつか、全てを笑って許せる幸せな明日をこの手に掴むために…この衝動に塗り潰されて…)

 

 

 

(((なるものかああああああ!!!)))

 

 

 

過去の痛みも、未来への恐怖も、現在(いま)の絶望を打ち砕く力に変える様に…三人のギアが形を変える。黒く、禍々しいギアを纏った三人は、その口から力強い旋律を奏でる。

 

始まる歌!

 

始まる鼓動!

 

響き鳴り渡れ希望の音!

 

その歌声に、“紛い物”は歓喜の笑みを浮かべる。

 

(これが…人間の想いの力…痛みも、苦しみも、積み重ねた力として受け入れた強い想いの籠った歌…!!)

 

 

 

 

 

「モジュール稼働!セーフティダウンまでのカウント、開始します!」

 

藤尭の言葉と共に、本部のモニターに表示された『999』の数字が減少し始める。暴走の制御に成功しても、呪いを力へと変えるイグナイトモジュールは無制限で使える代物ではない。カウントが『0』になると同時にギアが強制解除されてしまう諸刃の剣…時間が過ぎれば、敗北は免れない。

 

そんな状況の三人に対して、キャロルは水晶をばら撒き、これまでの比ではない大量のアルカノイズを召喚する。

 

「検知されたアルカノイズの反応…約3000!?」

 

その数に驚きの声を出す友里。だが、その報告を聞いていた響は…

 

 

 

 

 

「たかだか3000!」

 

全く臆することなく、アルカノイズの群れに突っ込んでいった。拳を構えた響がアルカノイズの群れの中を通過すると、その進路にいた全てのアルカノイズは瞬く間に消滅していく。

 

蒼ノ一閃

 

黒い刀身から放たれる翼の一撃は、それだけで目の前のアルカノイズの群れを一掃し、後方にいた大型アルカノイズさえ両断してみせた。

 

MEGA DETH QUARTET

 

クリスの腰部と背中から一斉に放たれた無数のミサイルは、地上と上空に密集するアルカノイズを容易く消し飛ばした。

 

これまでにない苛烈な攻撃を繰り出す三人によって、約3000のアルカノイズの群れは何もできないままそのほとんどが駆逐された。

 

「臍下辺りがむず痒い!!」

 

そんな三人の力を前にしても、キャロルは余裕を崩すことなく笑いながら三人に攻撃を仕掛けた。弦で地を引き裂き、錬金術によって全てを薙ぎ払う。イグナイトの力を行使する三人を相手に、キャロルはその力で真っ向から対抗してみせた。

 

 

 

 

 

「強大なキャロルの錬金術…ですが、装者達もまた、それに対抗できる力を…」

 

モニターで戦闘を見守る緒川がポツリと呟く。キャロルの力は強大、だが響達も決して負けてはいなかった。繰り広げられる激闘を、未来と奏が悲しそうに眺めていた。

 

(それでも響は、傷つけ傷つく痛みに、隠れて泣いている。私は何もできないけれど…響の笑顔も、その裏にある涙も、拳に包んだ優しさも…全部抱きしめて見せる。だから…!!)

 

(復讐のために歌っていたあたしは、少しだけ理解できる…大好きな歌を戦う力に変えて、何かを壊したり傷つけたりするのは辛いことだ…戦えないあたしは、それでもその辛さを一緒に背負ってみせる!支えてみせる!お前達の歌が、誰かを傷つけるだけじゃなくて、誰かを救うことができる歌なんだって、傍で伝え続けてやる。だから…!!)

 

「「負けるなああああ!!!」」

 

ありったけの想いを籠めて、未来と奏は叫ぶ。その想いが、少しでも戦う三人の力になることを信じて…

 

 

 

 

 

キャロルが響の動きを封じようと右腕に巻き付けてきた弦を、響が強引に引き寄せる。その力に耐えきれなかったキャロルが、体勢を崩して隙を晒すことになった。

 

『稲妻を喰らえぇぇぇ!!!』

 

その勝機に、弦十郎が三人に向けて叫ぶ。翼とクリスがキャロルに斬撃と矢を放って攻撃を仕掛け、キャロルが弦を束ねた腕で咄嗟に攻撃を防ぐ。しかしその隙に、響がキャロルへと炎を纏って突撃を仕掛ける。キャロルは腕でその攻撃を受けるが、止めきれずに押し込まれて背後の壁にその体を叩きつけられ、鳩尾に響の拳が炸裂する。

 

「ぐあああ!!?」

 

壁にめり込み、炎でファウストローブが焼け焦げたキャロルに対して、上空へと跳躍した響が足のブースターを全開にして凄まじい勢いで飛び蹴りを放つ。動けないキャロルに響の一撃が命中して大爆発が起こり、周囲が黒煙に包まれる。

 

徐々に煙が晴れていくと、そこには息を切らせながら立つ響と、ダメージ故か子供の姿に戻り、満身創痍な状態のキャロルが座り込む光景が露わになった。

 

「勝ったの…?」

 

「デスデス、デース!」

 

“障壁”の中で、その光景を見た調と切歌が三人の勝利を喜び、マリアが安堵の息を吐いた。

 

響がキャロルへと近づき、傷ついた彼女に手を差し伸べた。

 

「キャロルちゃん…どうして世界をバラバラにしようなんて…」

 

しかしキャロルは、響の手を拒むように払いのけた。

 

「忘れたよ…理由なんて…想い出を焼却…戦う力と変えた時に…」

 

絞り出すように答えを口にするキャロル。しかし…

 

「忘れた?違う、お前は逃げたんだよ、クソガキ」

 

キャロルの答えを、麻痺から回復して近寄ってきたナナシが否定した。

 

「覚えていると都合が悪い記憶だったから忘れて逃げた。お前の行動を、決意や覚悟だなんて言わせはしない。バレたら怖い秘密を隠そうとする、どこまでも臆病なガキの考えなんだよ、お前の行動は!!」

 

「貴、様…!!」

 

その瞳に憎悪を宿して、キャロルはナナシを睨みつける。その瞳を、どこまでも冷めた目でナナシは真っ向から見つめ返した。全てを見透かすような目に、キャロルが言い知れぬ何かを感じ取って…逃げる様に、響へと視線を向けた。

 

「…その呪われた旋律で誰かを救えるなどと思い上がるな」

 

「っ!?」

 

キャロルの言葉に動揺する響を見て、キャロルはニヤリと笑みを浮かべて…奥歯を噛み締めた。

 

「キャロルちゃん…?」

 

突如黙り込んだキャロルに、響が声をかけると、キャロルの体が地面へと倒れ込む。

 

「キャロルちゃん!?」

 

驚く響の前で、キャロルの体は緑色の炎で包み込まれ、その体はあっという間に崩れていった。

 

「…ぅ…ぁ…うわあああぁぁあああああぁああああぁあああ!!!!」

 

その手を握ることさえできずに、目の前で命を絶ったキャロルの見た響は、辛い現実を前に絶叫する…だが…それでも…

 

「呪われた旋律…誰も救えない…そんなことない…そんな風にはしないよ…キャロルちゃん…」

 

響は目の前の現実から逃げ出すことなく、崩れて空へと舞い上がるキャロルの亡骸を見ながら誓う。この力で…胸の想いで…助けを求める人々を、救ってみせると…

 

 

 

「……」

 

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