戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
今後の展開に関わる重要な話なのですが、独自解釈が多めです。
突飛な考えがあるかもしれませんがご容赦ください。
錬金術師キャロルが、イグナイトモジュールを使う装者達に敗れ、その命を絶った夜。
「キャロル…」
S.O.N.G.の一室で、エルフナインは一人、キャロルの名を呼んで顔を俯かせていた。
世界を分解し、万象黙示録を完成させる。キャロルのその思惑を阻止すると決めた時から、エルフナインはこの結末を予期していた。だが、やはりすんなりとはキャロルの死を受け入れることができず、エルフナインは涙を流すことさえできずに途方に暮れていた。
コンコンコン
そんなエルフナインのいる部屋に、ノックの音が鳴り響いた。
「っ!?は、はい!」
「エルフナイン、ちょっといいか?」
「ナナシさん…?はい、どうぞ入ってください」
その声から誰かを察したエルフナインが、入室の許可を出すと、程なくしてナナシが部屋の中へ入ってきた。
「えっと、どういったご用件でしょうか…?」
「まあ、色々と心配になってな…大丈夫か?」
エルフナインを気遣うナナシの言葉に、エルフナインは力のない笑みを浮かべて答える。
「…はい…ナナシさん達のお陰で、キャロルの野望を阻止することができました…ありがとうござ…」
ビシッ!
「あうっ!?」
感謝の言葉を口にしようとするエルフナインの額に、ナナシのデコピンが炸裂し、エルフナインが情けない声を出す。
「ナ、ナナシさん…?」
「バーカ、欠片も無理しているのを隠せてないんだよ…そんな顔でお礼を言われるくらいなら、『何でキャロルを救ってくれなかったんですか!』って恨み言をぶつけられた方がずっとマシだ」
「っ!?そ、そんな!?だって、ボクが助けを求めたせいで、皆さんは危険な目にあって、それでもキャロルのことで心を痛めてくれているのに、そんなこと…」
ビシッ!!
「あうっ!!?」
再度、ナナシがエルフナインにデコピンをしてその言葉を遮らせる。涙目で額を押さえるエルフナインに、ナナシは苦笑した後、目線を合わせる様にしゃがみ込んで…エルフナインを優しく抱きしめた。
「っ!!?ナ、ナナシさん…?」
「大丈夫だよ、エルフナイン…お前は、キャロルに生きていて欲しかったんだろ?」
「…ぅ…ぁ…」
「一緒に、父親の命題の答えを探したかったんだろ?」
「………は、い…」
「大丈夫だよ、想いを我慢しなくて…お前はよく頑張った」
「う…うぅ…うわああああああぁぁぁ!!」
暖かな温もりと、優しい声音に、緊張の糸が切れたエルフナインは、堰を切ったように大声を出して、ナナシの胸に顔を押し付けて涙を流した。ナナシは、ただ黙ってエルフナインの頭を優しく撫で続け、やがて泣き疲れたエルフナインは、ナナシの胸の中でそのまま眠りについた。
「……」
目の前に、様々な光景が浮かび上がる。
場所も、昼夜も、季節も、何もかもが異なる光景が目まぐるしい勢いで流れていき、膨大な量の情報が周囲を行き交っていた。
それは、数百年に渡るキャロルの記憶…錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムが、自身の記憶を予備躯体に転写している際の、情報処理による『夢』のようなものだった。
『パパはね、世界の全てを識りたいんだ。人が人と分かり合うためには、とても大切なことなんだよ』
キャロルの脳裏に、大切な父の記憶が過る。
(パパ…)
記憶の定着が不安定で、朧げな意識しかないキャロルだが、それでも大切な父親の記憶に、無意識に父親へと呼び掛けて…
「へぇ…これがお前の父親なのか?クソガキ」
(!!?!?!!?)
突如聞こえてきた声に、キャロルの意識がはっきりと浮かび上がる。そして、意識しか存在しないはずのその空間で、キャロルの姿までもが形作られ、キャロルが背後を振り返る。そこには、キャロルと同様に現状に酷く困惑しているエルフナインと…周囲の記憶を興味深そうに見回しているナナシの姿があった。
「な…な…なぜ…何故、貴様らが、ここに…!?…いや、そもそもこの現状は何だ!!?」
「え?え?キャ、キャロル!?生きてる!!?これは、一体!!?ナナシさん、ボク達は、今どうなって!!?」
「あー…落ち着け、エルフナイン。説明してやりたいけど、正直な話俺も完全に予想外だ。ただ心当たりが一応あるから、それを聞いて一緒に考えてくれ」
慌てふためくエルフナインをナナシがそう諭して、何とか落ち着かせる。キャロルはキャロルで、現状を理解するために黙ってナナシの話に耳を傾けた。
「えっとな、まずこの現象は、俺がエルフナインに能力を使った結果に起こったことだと思う」
「能力…?」
「“明晰夢”…要は相手に夢を見せる能力なんだけど、眠っているお前にせめて安らかな夢を見てもらうためにこの能力を使ったら、気が付いたらこんなことになっていたんだ」
「そんな能力まであるんですか!?」
「ああ…それで、この現象が発生した理由だけど、そこのクソガキが自分の死を偽装して生きていたこと、そして…多分、お前を通じて俺達S.O.N.G.の動向を監視していたのが原因だと思う」
「「!!?」」
ナナシの言葉に、キャロルとエルフナインが驚愕する。エルフナインは自分が原因で情報が漏れていたことに、そしてキャロルは、そのことに気づかれたことに動揺していた。
「俺、以前から“分身”や“分裂”なんかの俺を複製する能力が取れないか色々試していたんだ。その中で調べた情報の中に、双子の共感覚やテレパシーなんかの話もあってな。そこからエルフナインが見聞きした情報を、そこのクソガキが傍受する方法があるんじゃないかな?って“妄想”を思いついたんだ。そう考えると色々辻褄が合うからな。見た目通りの身体能力しかないはずのエルフナインが、シンフォギア装者と同等以上のスペックを持つオートスコアラーの追跡から逃げてきたこととか。確信したのは赤毛人形に鎌かけた時だけど」
ナナシの言葉に、エルフナインが青ざめる。そんなエルフナインの頭を優しく撫でながら、ナナシは言葉を続けた。
「それで、今の現象はクソガキとエルフナインに繋がりがある状態で、お前達二人が眠っている時に俺が能力を使った結果起こった不可思議な現象じゃないかなと“妄想”したわけだが…どうなんだ、クソガキ?お前が覗いていたんじゃないなら本格的に原因が分からないぞ?」
「…フン、そこまで確信されていては誤魔化しきれないな…ああ、その通りだ。そこの廃棄躯体は、オレがお前達の行動を監視するために仕組んだ毒に間違いない」
キャロルはナナシの問いに肯定してみせた。既に確信されているため…そして、未だバレてはいない目的を隠すために。だが…
「ふ~ん…お前があっさり肯定するってことは、他にも何か目的があるな?てめえがどんな形であれ、他人に賛同するような姿勢を見せるわけないだろう?クソガキが。もし図星だったなら、曖昧に答えるか無言を貫くはずだ」
「!!?」
ナナシの言葉に、キャロルは黙り込んでナナシを睨みつける。全てを見透かすようなナナシの態度と、実際に言葉通りの言動をしてしまっている事実に、キャロルは腸が煮えくり返りそうな怒りを感じていた。
そんなキャロルを無視するように、ナナシは周囲に展開するキャロルの記憶に視線を向けていた。
「貴様…!人の記憶を勝手に盗み見るな!!」
「変態覗き魔錬金術師のお前が言うな。これがエルフナインならいざ知らず、お前に気を使ってやる気は欠片もねえよ」
そう言って、ナナシはキャロルの記憶…その中で、キャロルの父、イザークが火炙りにされている光景に目を向ける。
『キャロル…生きて、もっと世界を識るんだ』
「…死の間際まで娘に声をかけ続ける…お前の父親は強く、優しい人間だったんだな…だからこそ哀れだ。その娘が、自分の言葉を言い訳に使って碌でもないことを仕出かそうとしているなんて…」
「っ!!?まだ、そんな戯言を口にするか『アンノウン』!!何を根拠に、オレがパパの命題を歪めているなどと!!」
「それをてめえに説明してやる義理はねえよ、クソガキ。俺は自分の納得がいく“妄想”をしたからてめえに押し付けているだけだ」
キャロルの怒号をナナシは淡々と切って捨てる。そんなナナシに、今度はエルフナインが話しかけた。
「あの…ひょっとして、ナナシさんは…パパの命題の答えについて、何か気が付いたことがあるんですか?だから、キャロルの言動について、そこまではっきりと否定できるのでは…?」
「!!?」
エルフナインの言葉に、キャロルが驚愕する。
(そんなはずはない!!オレが何百年と解き明かせない命題を、何も知らないこの不愉快な男が解き明かすなど!!)
そう考えながらも、キャロルはナナシの返答を無視できない。もしも、それが事実ならば…
「いや、エルフナイン、流石にそれは無い。何年も一緒にいて必死に理解しようとしている奴らのことさえ曖昧なのに、会ったことも話したこともないおっさんが娘に託した命題の答えを出すなんて、“紛い物”には荷が重すぎる」
だが、ナナシはあっさりとエルフナインの言葉を否定した。そのことに、キャロルは当然だという気持ちと、極々僅かな失望を覚える。
「俺はただ、このクソガキが父親の想いを歪めていると確信できる“妄想”をしただけだ…ああ、でもそうだな…お前が父親の命題に答えを出す、参考くらいにはできるか…?お前が聞きたいというのなら、俺の“妄想”を語って聞かせてもいいが、どうする?エルフナイン」
「…聞きたいです。少しでもパパと…キャロルのことを識ることができるなら…」
「それなら…」
パチン、とナナシが指を鳴らすと、ナナシ達の目の前に丸いテーブルと三人分の椅子が現れた。テーブルには三人分のティーカップとショートケーキ、紅茶の入ったポットが置かれている。
「一応、俺の能力は有効みたいだな…さて、エルフナイン、少し長くなるから座ってお茶でもしながら話そう。クソガキ、てめえも聞くなら好きにしろ。俺も自分の“妄想”の裏付けができるからオマケで聞かせてやる。怖くて逃げたいなら耳を塞いでどっかで震えていろ」
「貴様は、何処までもオレを虚仮にする気か!良いだろう!!貴様の“妄想”など、オレが完膚なきまでにブチ砕いてやる!!」
エルフナインがオドオドと、キャロルが乱雑に椅子へと座るのを見て、ナナシもまた席に着く。
「さて、それじゃあ早速…クソガキ、てめえは黙っていろ」
ナナシがそう言うと、キャロルの口に猿轡が付けられて、キャロルは言葉を出せなくなった。
「!!?」
「ナ、ナナシさん!?」
「こいつ絶対途中で俺の話を遮って喚くのが目に見えているからな。とりあえず一通り俺が話し終えるまではそのままにしておく。さあエルフナイン、話の前にゆっくりお茶しよう!このケーキはS.O.N.G.の皆から好評なお店の味を再現してあるから、きっとお前にも気に入ってもらえるぞ!」
「い、いえ…出来れば、話を始めていただければ…」
口を塞がれたキャロルの目の前で、ナナシが美味しそうにケーキを頬張るのを見せつけていた。キャロルがテーブルをひっくり返してもおかしくないが、体も動かせないようにしているのか、キャロルはプルプルと体を震わせてナナシを殺意が籠った目で睨んでいた。そんなキャロルのことが気になり、エルフナインはナナシに話をするように促した。
「そうか?エルフナインがそう言うなら、話を始めるとしよう。さて、まずは前提の確認からだ」
そう言って、ナナシが手をかざすと、三人の目の前に再度イザークが火炙りにされる場面が映し出された。
「お前達の父親は、今から数百年前、所謂中世の魔女狩りが行われていた時代において、多くの人々を救ったために、その知識を『人の身に過ぎた悪魔の知恵』と判断され、大衆の前で火炙りにされた。そして…」
『キャロル…生きて、もっと世界を識るんだ』
映像のイザークは、キャロルに優しい笑みを向けてそう言葉をかけた。
「死の間際、お前達の父親は最期に『世界を識れ』という命題を残してその命を散らせた…そして、その命題に答えを出すべく、そこのクソガキは錬金術における基礎工程、『物質の分解、解析、再構成』を世界規模で行うことで、世界の全てを解き明かす『万象黙示録』を完成させることに決め、エルフナインはそれを止めるために俺達の元へやってきた…ここまでは問題ないな?」
ナナシの確認に、エルフナインが頷く。キャロルもまた、特に否定する素振りは見せなかった。
「さて、エルフナイン。ここで少し考えて欲しい。何故、そこのクソガキは父親の命題に対して『万象黙示録』なんて解答を導き出した?」
「え…?それは、パパの『世界を識れ』という命題に答えようと、キャロルが研究の末にたどり着いて…」
「だけど、お前も言っていたじゃないか?」
ナナシが手をかざすと、今度はナナシとエルフナインが会話をしていた場面が表れる。
『ボクはパパが…優しかったパパが、そんなことを望んでいたなんて思えなくて、パパが望んでいないことをキャロルにさせないため、そしてパパの命題の本当の答えを識るために、キャロルのもとを離れました』
「お前は、お前達の父親は優しく、世界の分解なんて望むはずが無いと主張した。そして、そこのクソガキだって、そんな父親を慕っていたが故に、何百年と父親の命題を解き明かすために時を過ごしてきた。そんなこいつが、恐らく父親の意に沿わないと思われる方法で命題に答えようとしたのは何故だと思う?」
「それは…」
エルフナインが、ナナシの問いに答えられずに口を閉ざす。
「これは俺の持論だけど、『知識を学ぶ』って言うのは、二つの過程が存在すると思うんだ。一つは自分より先に生まれた先人達の軌跡を辿って、その積み重ねた知識を受け継ぐこと。そしてもう一つは、引き継いだ知識と自分の経験から、新たな発見をして物事の理解を深めていくこと。そこのクソガキが世界を識るために真っ先に思いつくことは、まず偉大な父親の軌跡を辿る事のはずだ。その軌跡を辿った末に、このクソガキは『万象黙示録』なんて解答を出したのか?それとも、父親の生き方に目を向けることなく独自に学んだ知識を元に『万象黙示録』なんて解答を出して、それが父親の命題の解答だと言い張っているのか?」
「……」
ナナシの問いに答えが出せずに、エルフナインが黙り込む。そんなエルフナインに、ナナシが再び語り掛けた。
「俺はこの疑問に対して、俺自身は納得がいく“妄想”を展開した。エルフナイン、このクソガキが…目の前で父親を殺された娘が真っ先に取る行動って、一体何だと思う?」
「そ、それは…パパが、最期に残した命題の答えを出すこと…」
「本当にそうか?大切な父親を、理不尽な理由で目の前で殺され、その父親が為した偉業を『奇跡』の一言で終わらせた世界を、父親の命題だからと理解するために行動しようと真っ先に思えるか?」
「それ、は…」
「残された娘が考えるのは…大好きな父親を奪った世界を怒り、恨み、呪う…『復讐』することを考えたんじゃないか?」
笑いながら語るナナシを、キャロルはジッと睨みつける。その体はピクリとも動かない。ナナシの“妄想”が全く見当違いなのか、または…目の前の男に何も悟らせないためか。
「俺はこのクソガキが、世界に対して並々ならぬ憎悪を持ち、復讐したいんだと“妄想”した。ただ…この復讐を果たす上で『邪魔』なのが、他ならぬ父親の命題だ」
「ッ!!?」
父親の残した命題を『邪魔』と言い切るナナシに、流石に体を震わせて視線に籠る殺意を強めるキャロル。だが、ナナシはそんな視線に動じることなく話を続ける。
「『世界に復讐したい』というこのクソガキの願望と、『世界を識れ』という父親の命題は両立できない。父親の命題をこのクソガキは無視できない。それはこいつにとって、何をおいても解き明かすべき父親の『想い』だ。だが、自身が持つ復讐心も、決して無視できないこいつ自身の『想い』だ。父親の『想い』と、自分の『想い』…二つの想いに苦悩した末に、このクソガキは絶対に相容れないはずのその想いに応えられる、ある一つの解答を考え出した」
「っ!?それは、まさか…!?」
「『万象黙示録』」
ナナシの答えに、エルフナインが驚愕する。ナナシはキャロルを冷ややかな目で見つめながら、自身の“妄想”の結論を語る。
「お前は自分の願望を、父親の命題に答えるための『過程』に組み込んだ。お前は父親の命題を都合の良いように解釈して、父親の命題を解き明かすためと言い訳して自分の願望を叶えようとしている…これが、お前が父親の命題を歪めていると考えた、俺の“妄想”だ…さて、てめえはこの“妄想”に対して、どんな答えを返す?クソガキ」
ナナシがそう言うと、キャロルの口に付けていた猿轡を消滅させる。俯いて表情がハッキリと伺えないキャロルは、少しの間沈黙を保った後…ゆっくりと、顔を上げながら自由になったその口を開いた。
涙目でおでこを押さえるエルフナインを妄想して思わずニヤけてしまうのはきっと作者だけではないはず!!
主人公の”明晰夢”について少し補足すると、主人公は対象にイメージした夢を見せたり、それに対する相手の反応を窺うことは出来ますが、元から相手が見ている夢を覗いて情報を獲得したりは本来できません。今回の現象はエルフナインとキャロルの夢が混線した結果、能力を使っていた主人公にもキャロルの想い出が流れ込んできた、というイメージです。
ちなみに、まるで主人公も一緒に夢を見ているみたいになっていますが、これは主人公がそう見えるように力を使っているだけで主人公は普通に起きています。なので夢の中の主人公が飲み食いしても別に味は感じません。完全にキャロルを煽っているだけですw