戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
ナナシが風鳴家に住み始めて、半年が経過した。
この半年の間に様々なことがあった。
まず、奏は無事に退院できた。
まだ体の調子は万全とは言えず、激しく動いたりはできないため、ツヴァイウィングの活動は再開できないが、普通の生活を送るのに支障はないレベルまで回復し、何か困ったことがあれば翼やナナシがフォローしていた。
ツヴァイウィング…現在は風鳴翼個人のマネージャーの仕事を緒川の補佐という形でナナシは行っていた。ナナシは取得した能力をフルに使用し、“収納”で翼に必要なものを全て所持・管理し、“念話”であまり公にしたくない情報を密かに共有、車以外で移動する際は“認識阻害”によって目立たず移動でき、翼の近辺を調べているのか、度々翼の向かう先で見かける不審人物に対してはしばらく観察した後、“投影”で情報をデータ化して二課へ報告。相手の身元の調査を依頼していた。
仕事を請け負ったり、スケジュール管理などはまだ緒川にしか出来ないが、緒川の補佐をしつつコネクション作りが終わればそれらの仕事もある程度ナナシに任せられるようになるだろう。
そして…ノイズとの戦闘も何度かナナシは経験した。ナナシの現在の立場は『詳細がはっきりしない聖遺物に適合したシンフォギア装者』ということになっている。元々シンフォギアについては極秘情報なので、各省庁に最低限の情報だけを開示し、ナナシが自身に“認識阻害”を使用することで情報漏洩の対策については万全であった…そもそもナナシ自身の情報が極端に少ないため調べようがないというのもあるが。
戦闘能力については弦十郎との訓練もあり、ノイズとの戦闘で苦戦することはなかった。問題があるとすればナナシの戦闘方法は徒手空拳であるため、ノイズの数が多い場合には処理に時間がかかることだった。そこはノイズの密集地帯では翼が範囲技で殲滅、逆に周囲への被害を考慮しなければならない場合はナナシが各個撃破していくなど役割分担することで対応していった。
一番大きな変化は、ナナシの精神面である。初めて二課に来た時に比べ、だいぶ表情が豊かになってきた。二課の面々が少し心配していたのは、ナナシが模範的に社会のルールを守るだけの機械のような存在にならないかということだったが、ナナシは人間の『曖昧さ』というものを正しく身に着けており、社会のルールを守りつつ『人間らしく』生活していた。
こうしてナナシの来訪は二課にとって非常に好ましい結果となっていた…約一名を除いて。
風鳴翼は机に突っ伏していた。
普段からはあまり考えられない彼女の様子を、理由に察しがつく奏は苦笑しながら眺めていた。
場所は風鳴家、翼自身の部屋の中である。翼の部屋はナナシが掃除を行ったばかりで現在はとてもきれいに保たれている。そんな部屋の中で翼は力なく項垂れていたのだ。
ナナシが風鳴家で生活を開始してから…翼に接するナナシの態度が、徐々に変化していったのだ。
『…お部屋はきれいに使いましょう』
『ご、ごめんなさい。だけど私にはあまり時間に余裕がないの。仕事以外の時間も、防人として自身の鍛錬に使っているし…』
『防人?』
『そう、防人として常に戦場に居続けるために、私は強くならないといけないの』
『…防人だと部屋をきれいに使わなくてもいいの?』
『い、いや、それは…』
『…これ、何?』
『…翼、調理場に立ったのか』
『き、今日は二人とも遅いようなので、せめて一品、簡単なものでもお作りしようかと、卵焼きを作ったのですが…』
『この、炭の塊にしか見えないものは、卵焼きなのか…』
『(ガリゴリ)…硬い』
『ナナシ君、無理をしなくていい』
『…防人だと、料理も出来なくなるの?呪い?(ガリゴリ)』
『ブフォッ!』
『…叔父様?』
『す、すまない。フフッ』
『…なあ翼、洗い物をナナシがやるなら、せめて拭くだけでもって手伝ったんだよな?何でこんな現代アートみたいに食器を積み上げているんだ?』
『い、いや、私は普通に重ねていただけで…』
『これじゃ一つでも取り出したら全部崩れて落ちるよ。というかよくこんな形に積めたね?』
『“収納”を使えば崩さずに済むから大丈夫』
『ほら、却ってナナシに迷惑が掛かってるじゃないか』
『しょうがないよ。防人だもん』
『っ!?』
『あっはっはっは!』
『奏!そんなに笑わなくてもいいでしょ!?』
『ねぇ防人。何で掃除をすると左右が揃わない靴下や上下が揃わない下着が何種類もポンポン出てくるの?シンフォギアって変身する度に衣服がどれか無くなったりするの?』
『ナ、ナナシ、流石に目の前に下着を含めた衣類を並べられるのは私も抵抗があるから勘弁してもらえないか…』
『今更そんなところに恥じらいを持たれても取り合う気にはなれないよ。掃除する度に揃わない衣服が出てくるってどうなっているの?まさか出かける度にどこかに脱いで置いてきているの?防人は変態?』
『誰がそんなことするか!!』
『洗濯機の使い方すら分からないなんて、全くこれだからSAKIMORIは…』
『ナナシ!貴様いい加減にしろ!事あるごとに防人、防人と!お前はただ単に防人である私をバカにしているだけだろ!!』
『Exactly!!』
『何故そこで英語!?』
『なんかこの力強い響きが気に入った。“そう!!”とか“その通り!!”って強調するより“Exactly!!”の方が力が入る』
『わざわざそんな全力で私をバカにしていることを肯定するんじゃない!!』
過去の出来事を思い出していた翼は、突然体を起こすとその勢いのまま大声で叫ぶ。
「一体何なのだあの男は!?事あるごとに私のことを防人、防人と!防人をまるで蔑称のように扱って私のことをバカにしてきて!」
「確かに最近ナナシが使う防人って言葉には含むものを感じるね…」
「奏もそう思うでしょう!?」
「いや、でもね、翼。原因は割と簡単に思いつかない?」
「うっ…い、いや、だけど、それにしても最近の彼の態度は目に余るものがある!私にも非があるのは否定できないけど、人の失敗をあんなに楽しそうにからかって良い道理はないはずだ!!」
「それは、まあ…」
「このまま彼の行いを容認するわけにはいかない!私は私なりに彼の行いに対して報復をさせてもらう!!」
翼はそう言うと襖を開けて自身の部屋から出ていく…そしてその数秒後、入れ替わるように襖を開けてナナシが部屋に入ってきた。
「…わざわざ“認識阻害”使ってまで盗み聞きしてたのか?」
「確かに能力使うまでもなかった。家中に大声が響いていたから聞き耳を立てる必要もなかったな」
悪びれる態度一つ見せずナナシは奏の質問にそう答えた。
「…なあ、最近翼に対して当たりが強い気がするけど、翼が何かしたか?翼の世話に疲れたなら緒川さんと代わってもらったら良くないか?」
「うん?いや、別にそんなことはないよ。弦十郎達がくれた映画や漫画みたいなSAKIMORIの行動は見ていて楽しいから、SAKIMORIと奏、それと弦十郎が俺と生活するのが嫌だって言わない限り俺は今の生活を続けたいな」
そう言ってナナシはニヤリと悪い笑顔を作る。その顔は心の底から今の生活を楽しんでいるようだった。
「…じゃあ何で翼にはああいった態度で接するんだ?このままだとそのうち翼が本当に出て行けと言い出すかもしれないよ?…いや、その場合翼は自分が出ていくって言いそうだな」
「SAKIMORIが一人暮らしなんか始めたらゴミ屋敷一直線だろうから、どちらにしろ俺が出張ることになるだろうな。慎次は色々忙しいし」
そう言って一頻り笑った後、ナナシは奏の疑問に答え始めた。
「…翼はさ、『固い』んだ」
「固い?」
「そう、感情が固い。俺はさ、人の感情の動きが何となく分かるんだ」
「…それは新しい能力か?心を読めるとか」
「いや、最初から…少なくともあのライブの日、奏達の歌を聴く前からそうだった。これが普通じゃないって気づいたのは最近だけど。これも俺が“紛い物”だからかな?」
“紛い物”、奏がナナシに対して放ったこの言葉をナナシは良く使うようになっていた。
「皮肉じゃなくて俺が気に入ったんだよ。良く分からない自称神様より、奏がくれたこっちの方が好きだ。奏が本気で嫌だと思うならもう使わないよ」
「…やっぱり心が読めるんじゃないか」
「これは奏の反応を見て俺が考えた妄想を押し付けているだけ。心を読むなんて、人は自分のことすら分からないのに他人が読み取れる訳ない」
「…あんたが気に入ったなら、好きにしな。あたしももう気にしない」
「良かった。ありがとう。さて、話を戻そうか。翼はさ、防人になりたい、ならなきゃいけないって思っている。防人として人の命を守りたいっていうのは確かなんだろうけど、そのために色々自分の気持ちを押し殺している。口調も意識して変えようとして、少しでも強い自分に近づこうとしている。そんな想いで感情がガッチガチに固まっているみたいなんだ」
「…全く、翼のこと良く見てるね」
「ただの妄想だよ。それである時、藤尭と友里が話しているのを聞いたんだ。仕事で座りっぱなしだと体を動かせなくて固くなる、偶には動かして柔らかくしなくちゃって。だから翼の感情も動かしていたら柔らかくならないかなって色々試してみた。あのまま固くなったら、いつか割れて砕けちゃいそうで…奏と話していると柔らかい気がするし、俺は俺でどうにかできないかなって」
ナナシの言葉は奏がいつも翼に対して感じていることに近かった。翼は真面目が過ぎるから、そのうちポッキリ折れてしまいそうだと。
「…それであんたが翼に嫌われるのは良いのか?確かに翼は最近感情を表に出している気がするけど、それであんたが無理しているのを翼が知ったら、優しい翼は本当に砕けちゃうかもよ?」
翼のこと、そしてナナシのことを心配して奏はそう伝える。だが…
「いや、最初の目的は翼のためだったけど、どんどん楽しくなっちゃってさ」
「…は?」
「目の前で翼の表情と感情がコロコロ変わるのが面白くて、ついついやり過ぎちゃって。奏も偶に翼をからかうから、分からないかな?」
「いや、まあ…」
「だから翼が俺に報復するっていうのは今から楽しみだな。あのSAKIMORIが一体何をするつもりなのか、それが失敗した時のあいつの表情を想像するとワクワクしてくる」
(…この辺のナナシの考え方は了子さんの影響な気がするな。私はここまで酷くないはずだ…多分、恐らく、きっと…)
そう考えながら、これから自分の片翼に訪れる未来について想像した奏は、心の中で合掌するのであった。
「奏は基本的に柔らかいけど、所々ガチガチに固まっている部分がある気がする。そこに今触ると割れちゃいそうだから、いつか柔らかくできたらいいな」
「…ナナシ、そういうことはね、面と向かって言うことではないよ」
「そう?」
主人公のキャライメージに近いのは某先生を暗殺する教室のコードネーム中二半の方でしょうか?作者は男女問わず邪悪な笑顔のキャラが好きです。