戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第91話

ガリィが召喚したアルカノイズを殲滅していた響とクリス。だが、その途中で響があることに気が付いた。

 

(オートスコアラーは?…皆から引き離されている!?)

 

先程、ガリィが離脱するマリア達を気にかけていたことを思い出した響は、ガリィの狙いはマリア達だったことを悟る。響はアルカノイズを蹴散らしながら、“血晶”を使って全員へと情報を伝達する。

 

(皆!わたし達と戦っていたはずのオートスコアラーがいなくなってる!もしかしたら、マリアさん達の方に…)

 

 

 

 

 

響からの“念話”が届くのとほぼ同時に、未来とエルフナインを護衛しながら移動していたマリアの前に、ガリィが現れて立ちふさがった。

 

「見つけたよ、ハズレ装者!」

 

「くっ!」

 

「いつまでも逃げ回ってないで…!」

 

ガリィが左手に氷の刃を生成し、マリアへと迫る。

 

Seilien coffin airget-lamh tron

 

マリアは、ガリィの攻撃に臆することなく、聖詠を奏でながらガリィへと向かって行き、紙一重でガリィの氷の刃を躱すと…生身のままガリィの顔面に左拳を叩きこんだ。

 

まさかシンフォギアを纏っていない状態で反撃されるとは思わず、ガリィはマリアの攻撃を諸に受ける。それとほぼ同時に、マリアの聖詠に応えたアガートラームが、左手を起点にシンフォギアを展開していき、銀の籠手による一撃でガリィの体は後方へ大きく吹き飛ばされた。

 

(銀の、左腕…!!)

 

「マリアさん、それが…!」

 

「新生アガートラームです!」

 

全身にシンフォギアを纏い、マリアは歌声を奏で始める。クルリと踊るように体勢を立て直したガリィは、何処か嬉しそうにニヤリと笑う。

 

「へえ、少しはマシになったのかしら?ミカちゃんみたいに私まで失望させないでよ?」

 

ガリィは水晶をばら撒いて、アルカノイズを召喚する。マリアは銀の籠手から無数の短剣を生成し、アルカノイズに向けて一斉に射出した。

 

INFINITE†CRIME

 

放たれた短剣はアルカノイズの群れを容易く赤い塵へと変える。解剖器官の刃を回転させながら襲い掛かってくるアルカノイズの攻撃を、マリアは短剣で受け止め、そのまま押し込んで両断した。出力の上昇、そして解剖器官による攻撃を受けても分解されないギアを見て、マリアはアガートラームが強化されたことを実感する。

 

(特訓用のLiNKERが効いている、今のうちに…!)

 

それでも、自分の力が時限式なことには変わらない。それ故にマリアは慢心することなく、短期決戦にて敵を排除するため行動する。

 

EMPRESS†REBELLION

 

マリアが短剣を振るう。すると、短剣の刃が蛇腹状に展開し、空中で不規則な動きをしながら周囲のアルカノイズを切り裂いていった。

 

「うわぁ~、私負けちゃうかも~。ギャハハハハ!」

 

マリアの苛烈な攻めによって、アルカノイズが全滅するのを見て、ガリィはわざとらしく困ったような顔で弱音の言葉を口にすると、堪え切れないといった風に笑い声を上げ始めた。そんな隙だらけのガリィに、マリアが短剣を振り下ろして…

 

「なんてね!」

 

「っ!?」

 

先程まで笑っていたガリィは、マリアの一撃をヒラリと躱し、再展開した氷の刃でマリアにカウンターの攻撃を繰り出した。

 

ガキィン!!

 

しかし、その攻撃はマリアの“血晶”によって防がれる。

 

「チッ!本当に面倒臭いわね、ソレ」

 

「はあ!!」

 

ガリィの攻撃が止まった隙に、マリアが再び攻撃を仕掛けるが、ガリィはいとも容易くマリアの攻撃を躱して距離を取る。

 

「まあ、あの男の力におんぶにだっこしてもらっているアイドル大統領の攻撃なんて、目を瞑っていても当たらないんだけどね?」

 

「強い…だけど!」

 

余裕でマリアの攻撃をあしらうガリィの様子に、マリアは切り札を切る覚悟を決めて、ギアコンバーターへと手をかける。

 

「聴かせてもらうわ」

 

「この力で決めてみせる!イグナイトモジュール、抜剣!!」

 

コンバーターのスイッチを押して、マリアがコンバーターを空中へと放ると、変形したコンバーターから赤く輝く光の刃が形成され…マリアの胸を貫いた。

 

「ぐぅぅ、があぁぁぁあああぁぁ!?」

 

魔剣の呪いが、マリアの心を蝕む。その苦痛に耐えながら、マリアは力を得るために自身の内から出てくる暗い感情を抑え込もうとする。

 

「弱い自分を、殺す!!…が、あああぁぁああぁ!?」

 

覚悟と共に、今の自分を否定する言葉をマリアが口にした瞬間、魔剣の呪いがマリアを蝕み、その心を、体を黒く、暗く染め上げて…

 

「ガァァァァッ!!」

 

…マリアは、暴走状態となった。

 

「あれれ?」

 

そんなマリアを、ガリィがキョトンとした顔で眺める。暴走したマリアは、獣のような叫び声を上げながら一気にガリィへと襲い掛かった。だが、ガリィは先程宣言した通り、目を瞑った状態で軽やかにマリアの攻撃を回避してみせる。

 

「ガァァァァッ!!」

 

「獣と堕ちやがった…」

 

破壊衝動のままに振るわれるマリアの攻撃を、やはり目を瞑ったままバレエを踊るように回避するガリィ。それでも、暴走したマリアは叫びながらガリィへと攻撃を続ける。

 

「いやいや、こんな無理くりなんかでなく…歌ってみせなよ!アイドル大統領!!」

 

目を瞑っていたガリィは、下卑た笑みを浮かべて迫り来るマリアの顔に掴みかかり…

 

 

 

「残念、それは血で模った”紛い物”だ」

 

 

 

バシャリッ!

 

…鷲掴みにされたマリアの顔面が、そのままガリィに握り潰されて、ガリィの手が鮮血に染まった。

 

「………へ?」

 

目の前で起きた事象に、完全に虚を突かれたガリィは、間の抜けた声を出して思考が完全に停止してしまい…

 

「凹めオラァ!!」

 

ゴシャッ!!

 

「ガフッ!!?」

 

その呆けた顔面に、拳の一撃が容赦なく叩き込まれた。

 

「ぐっ…な、何が…?」

 

派手に吹き飛び、地面を転がったガリィがよろよろと起き上がりながら視線を向けると、そこには拳を振り抜いたナナシと、“障壁”に囲まれた中で暴れる無傷のマリア、そして…ガリィに顔を潰されたマリアの体が、ドロドロと形を失って崩れていく光景があった。

 

水鏡(みずかがみ)

 

ナナシの新能力…ではなく、“投影”と“血流操作”の応用である。

 

ナナシの“投影”には、過去の映像を映し出す他に、紙などの媒体に場面を転写することができる。その能力を使い、ナナシは“血流操作”で形作ったマリアの血液人形の表面に、“投影”で着色してガリィが余裕綽々で目を瞑って回避行動をしている隙を突いてマリアを“障壁”内部に隔離、入れ替わるようにマリアの血液人形を配置したのだ。

 

別に、ガリィの隙を突くためにこんなことをしなくても、ガリィが目を瞑っている間に一撃を加えれば済むことだった。それをせずに、何故ナナシがこんな手の込んだことをしたかと言うと…

 

「ねえ?今どんな気持ち?相手を舐めて余裕ぶっこいていたら自分の十八番(おはこ)をそっくりそのままやり返されて地面に這いつくばったお前は今どんな気持ちなのか教えてくれよ?ねえねえねえ!!」

 

…ガリィを徹底的に煽るためである。

 

「て、てめえ…!!」

 

「あっはははは!無様だな!ほら見ろよ!何が起きたか分からず晒した間抜け面に、拳がめり込んで歪んだこの顔!ご自慢の可愛いお顔が悲惨なことになってるぜ!あははははは!!」

 

「ぶっ殺す!!」

 

“投影”でわざわざ先程の出来事を表示させて嘲笑うナナシに、ガリィは殺気を籠めた視線で睨みながら氷の刃を展開する。

 

「上等!こっちもてめえに響をやられた借りがあるし、そのせいで人生最大の黒歴史作っちまったからな!!やるならスクラップになる覚悟をしとけよ!」

 

「ッ!?」

 

飛び掛かる寸前だったガリィだが、ナナシの最後の一言を聞いて少し冷静さを取り戻す。

 

(…計画のために、万が一にもこの男に破壊される訳にはいかない)

 

溢れ出す怒りを何とか抑え込み、氷の刃を解除したガリィは、テレポートジェムを取り出して撤退することを選択した。だがその前に、憎々し気にナナシと、“障壁”に囚われた暴走状態のマリアを見て言葉を吐き捨てる。

 

「そこのハズレ装者、あんた達にどうにかできる訳?そのまま畜生として一生世話するつもり?」

 

「てめえの気にすることじゃねえよ、腹黒(まとも)人形。こいつらの世話は俺の仕事だ。てめえは悪夢に魘されるクソガキに子守歌でも歌ってろ」

 

「ッ!!?…フン!」

 

まるでキャロルの現状を知っているかのようなナナシの言葉を、ミカに仕掛けた鎌かけと同じものと判断したガリィは、動揺を表に出さないように注意しながら苛立ちを籠める様にジェムを地面に叩きつけて姿を消した。それを遠目に見ながら、響とクリスがマリア達の元まで駆けつけてきた。

 

「兄弟子!未来達は…っ!?マリアさん!!?」

 

「魔剣の呪いに飲み込まれて…!」

 

「響、クリス、未来とエルフナインを守っていてくれ」

 

「ガァァァァッ!!」

 

ナナシは二人にそう言うと、未だ暴れ続けるマリアへと近づいて、“障壁”を解除した。

 

マリアは咆哮を上げながらナナシに迫り…その左腕を、ナナシの胸に突き入れた。

 

ザシュッ!

 

マリアの左手はナナシの胸に深く食い込み、そこから鮮血が溢れ出す。

 

「兄弟子!?」

 

「ご都合主義!?」

 

「いやあああ!?」

 

「ナナシさん!!?」

 

響達が困惑と悲鳴の声を上げるが、ナナシは無言でマリアを見つめ続けた。

 

「ッ!?グウゥゥ!!」

 

ナナシが力を籠めたことで、マリアは深く突き入れた左手が抜けずに藻掻き、遂にはナナシの首筋へと牙を突き立てた。ナナシはそれに動じることなく…そのまま、マリアの頭を固定するようにマリアを抱きしめた。

 

「ッ!!?」

 

ナナシの行動に驚いたのか、マリアの体がビクリと一瞬硬直する。そんなマリアに対して、ナナシが“投影”を使ってある音声を流し始めた。

 

『りんごは浮かんだ お空に…』

 

『りんごは落っこちた地べたに…』

 

「ッ!!?」

 

それは、マリアが家族と共に歌った、Appleの歌。自分と、家族の優しい声音に、マリアの目が見開かれる。

 

『『『『ルル・アメルは笑った 常しえと…』』』』

 

「マ、ム……しらべ……きりか…………せ…れ…」

 

マリアの口から家族の名前が漏れ出し、その体から次第に力が抜けて…遂に、マリアのギアが解除された。

 

「マリアさん!!」

 

「…エルフ、ナイン…私、は…わぷっ!!?」

 

「ハイハイ、とりあえず、ばっちぃから今すぐ口の中のもの吐き出して顔拭こうか?」

 

呆然とするマリアが正気に戻る前に、ナナシが“収納”から取り出したタオルをマリアの顔に押し付けて…その隙に、素早くマリアの手を自身の胸から引き抜き、“高速再生”で傷を塞ぎながら、“血流操作”で付着した血液を回収する。

 

「ほら、これで口の中も濯げよ。間違っても飲み込むなよ?“紛い物”の血液なんて何が含まれているのか分からないんだから」

 

「ちょっ!?ま、待って…がぼごぼっ!!?ゲボッ、ゴホッ!!?」

 

畳みかける様に、ナナシがペットボトルに入った水をマリアの口に流し込んだため、マリアは盛大にむせて咳き込んだ。

 

「い、いい加減にしなさい!危ないでしょう!?」

 

「良し!やっといつも通りのアイドル大統領に戻ったな!」

 

「ッ!?いつも通りの、私…」

 

そこでマリアは、ようやく自分に何があったかを思い当たり、心配と困惑の表情を浮かべるエルフナイン達と、胸の傷を悟られないよう敢えてナナシが残していた首の傷跡を見て、表情を暗くする。

 

「守るどころか…また、私のせいであなたが傷ついて…」

 

「ん?どうした?アイドル大統領?…ああ!水着のほぼ半裸状態で異性の首筋に顔を埋めていた事実に今更ながら悶えているのか!」

 

「ッ!!?」

 

ナナシの言葉に、マリアが思わず顔を赤く染める。

 

「そんな大胆な水着を着ておいて、お前もおぼこい反応をするな?気にするなって!異性って言っても“紛い物”なんだからノーカンだって!そんなことに比べたら、普段のお前の言動の方がよっぽど恥ずかしいことが多い…」

 

「いい加減茶化すのはやめて!!そんなことで、私が弱い現実を誤魔化そうとしないで!!」

 

いつも通り、笑いながら茶化そうとするナナシに、マリアが悲痛な叫びを上げる。

 

「だが断る!!」

 

「ッ!!?」

 

だが、そんなマリアの懇願を、ナナシは間髪入れずに拒否してしまった。

 

「そんなお前の無意味な葛藤を考慮して、俺がお前をからかうことを控えるつもりは全くない!!」

 

「なっ!?無意味、ですって!!?」

 

「Exactly!!悩めば強くなれるのか?嘆けば現実が変わるのか?違うだろ?ままならない現状を何とかするためにここで特訓して、ちょっと間に合わなかったから今回は負けた。ただそれだけのことをグチグチドロドロと自分の中に抱え込んで、だからお前は『重たい』って言ってんだよ、アイドル大統領!」

 

「何ですって!!」

 

「そして何より!!」

 

マリアが反論しようとするのを許さずに、ナナシがマリアの声を遮るように叫ぶ。

 

「誰よりも!お前自身が!!自分が弱い現実を誤魔化そうとしている癖に!!他人に説教しようとしてんじゃねえ!!」

 

「なっ!!?それはどういう意味よ!?」

 

「さあな?自分で“妄想”してみろ。少なくとも、今回の敗北をあの腹黒(まとも)人形に負けたと思っているうちは無理だと思うけどな?響、クリス、この場を任せた。調と切歌がもうすぐ到着するだろうし、俺は奏と翼を回収してくる」

 

一方的に会話を終わらせて、ナナシはその場を離れて行ってしまった。遠目に、ナナシが言った通り調と切歌が駆けてきているのが見える。

 

「私が、自分が弱い現実を誤魔化してる…?私は、何に負けたのだ…?」

 

その場に残されたマリアは、呆然とナナシが口にした言葉を呟く。そんなマリアを、エルフナイン達は心配そうに見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

チフォージュ・シャトーの広間にガリィが戻ると、各台座でポーズを取って固まっていた三体のオートスコアラーがガリィに視線を向けた。

 

「派手に立ち回ったな?」

 

「目的ついでにちょっと寄り道よ」

 

「自分だけペンダント壊せなかったの、引きずってるみたいだゾ!」

 

「うっさい!だからあのハズレ装者から一番に毟り取るって決めたのよ!」

 

ミカに図星を指されて、ガリィが苛立たし気に声を上げた。

 

「本当、頑張り屋さんなんだから…私もそろそろ動かないとね」

 

ファラがガリィを慰めつつ、計画を進めるために動き出すことを告げる。ガリィはそれを聞いて、頭上にある各オートスコアラーを連想するような配色の垂れ幕を見つめた。

 

(…一番乗りは譲れない)

 

 

 

 

 

ガリィの襲撃から時が経ち、夕日によって外が赤く染まる頃、S.O.N.G.の面々は研究機構の一室に集まっていた…そこに、マリアとエルフナイン、そしてナナシの姿は見えない。

 

「主を失ってもなお襲い掛かる人形…」

 

「…どうしてあの人形達は、先生との戦闘を避けてるんだろう?」

 

「ん?どういうことデス?」

 

調の言葉に、切歌が疑問を感じて問いかける。

 

「響さんが歌えなくなってマリアと先生が援護に向かった時と、響さんのギアペンダントが壊された時、そして今回の襲撃…あの人形達は、自分達が優位に事を進めていても、先生が本格的に戦闘に介入しようとすると、すぐに撤退行動に移っていた。最初は先生のことを警戒しているんだと思ったんだけど…それなら、発電施設を襲撃しに来た時、先生の相手を主人であるキャロルに任せて、私達を襲ってきた理由が分からなくて…警戒しているなら、キャロルを守るために一緒に先生を倒そうとするか、キャロルが私達を倒す間に自分が先生のことを足止めしようとするんじゃないかな?」

 

「あー、言われてみれば、とんだアハ体験デス!」

 

「いちいち盆が暗すぎるんだよな」

 

「気になるのは、マリアさんの様子も…」

 

全員がオートスコアラーの行動に疑問を感じている中で、未来が別の懸念事項を口にする。

 

「力の暴走に飲み込まれると、頭の中まで黒く塗り潰されて、何もかも分からなくなってしまうんだ…」

 

「オマケに、あのご都合主義が相変わらず情け容赦ない言葉を吹っかけていやがったからな…」

 

ナナシに責められていたマリアの様子を思い出して、クリスが呆れたような顔をしていた。

 

「うん…だけど、兄弟子が厳しいことを言うのは何時だって、わたし達の『ために』、だから…それはきっと、マリアさんも分かっていると思う」

 

そう言って、響は自身の手に付けた“血晶”に、心配と期待を籠めたような視線を向けるのであった。

 




”投影”の転写能力は、某ハンター漫画の殺人ピエロさんが使う能力の一つを思い浮かべていただけると分かりやすいかもです。
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