戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
響達がオートスコアラーの行動について考察している頃、マリアはビーチで一人、ずっと頭を悩ませていた。
(私が弱いばかりに、魔剣の呪いに抗えないなんて…)
『まあ、あの男の力におんぶにだっこしてもらっているアイドル大統領の攻撃なんて、目を瞑っていても当たらないんだけどね?』
マリアの脳裏に、ガリィの言葉が響き渡り、マリアは自身の腕にある“血晶”に視線を向ける。
(分かっている…肝心な時に私はいつも無力で、ナナシに守られてばかり…その度に、いつもナナシは血を流して傷ついている…)
『悩めば強くなれるのか?嘆けば現実が変わるのか?違うだろ?ままならない現状を何とかするためにここで特訓して、ちょっと間に合わなかったから今回は負けた。ただそれだけのことをグチグチドロドロと自分の中に抱え込んで、だからお前は『重たい』って言ってんだよ、アイドル大統領!』
自身の無力を嘆くマリアの頭の中に、ナナシの言葉が過る。
(そんなことは、分かっている!!…でも、それなら私はどうすれば良いの?どうすれば、弱いままの自分を、変えられると言うの?)
『誰よりも!お前自身が!!自分が弱い現実を誤魔化そうとしている癖に!!他人に説教しようとしてんじゃねえ!!』
(…こんなにも、私は自分が弱いことを自覚しているというのに、一体私が何を誤魔化していると言うの!?)
答えの出ない問題に、マリアは頭を抱えて苦悶の表情を浮かべる。
「強くなりたい…」
そう呟くマリアの足元に、何処からかボールが転がってきた。そして、そのボールを追いかけて、エルフナインがマリアの傍まで駆け寄ってくる。
「おーい、エルフナイン!結構遠くまで飛んで行ったけど大丈夫か?」
そして、そのエルフナインを追いかけて、今度はナナシがマリアの傍まで来た。
「ん?何だ、アイドル大統領も外に出ていたのか?」
「ごめんなさい…皆さんの邪魔をしないようナナシさんと待っていたのに…」
「邪魔だなんて…練習、私も付き合うわ」
「はい!」
「それは良い!アイドル大統領は体を動かして色々と軽くしないとな!そう、色々と!!」
ナナシが茶化すように言った言葉に、マリアは『色々』に何が含まれるのか問い質したくなったが、どうせまたからかわれると考え、苛立ちや先程までの悩みなどをグッと飲み込んで、ナナシ達の後に付いて行った。
エルフナインがサーブを打って、ナナシがネットの向こうでボールをキャッチする。マリアはエルフナインの後ろで、エルフナインのサーブにおかしなところが無いか見守っていた。
「エルフナイン、ボウリングの時と一緒だ。サーブを打つ瞬間に重心がブレてる。足元が砂で難しいかもしれないけど、もう少し足を開いて体を安定させてみろ」
「はい!行きます!」
ナナシのアドバイス通りにサーブを打つエルフナインだが、ボールはギリギリでネットを超えただけで、これまでのサーブとあまり変化が見られなかった。
「おかしいなぁ、上手くいかないなぁ、やっぱり…」
「何言ってんだ?上出来上出来!分かりにくいけど、確実に良くなっているよ。それに、安定してサーブが入るようになってきたじゃないか。少しずつ、楽しみながら覚えていけばいいんだよ」
落ち込むエルフナインにナナシが近づき、そう言ってエルフナインの頭を撫でる。エルフナインはくすぐったそうにしながらも、嬉し気にニコリと微笑んだ。
二人のやり取りを、まるで年の離れた兄弟のようだと思いながらマリアは眺めて…不意に、マリアはエルフナインに対して、呟くように声をかけた。
「色々な知識に通じているエルフナインなら、分かるのかな…」
「え?」
マリアの呟きを聞き取り、エルフナインがマリアに顔を向ける。
「だとしたら教えてほしい。強いって、どういうことかしら?」
「まだそんな下らない疑問を抱えているのか?本当にお前は重たいな、マリア?」
マリアの問いを、エルフナインの傍で聞いていたナナシが、マリアに呆れたようにそう言った。
「煩い!私はエルフナインに聞いたんだ!大体、私が悩んでいるのは、あなたが一方的に問題を突き付けて碌に答えてくれないからでしょう!?口を出すなら答えを教えなさいよ!!」
「だが断る!!俺はお前みたいに黒歴史を自分で掘り起こして悶える趣味は無い。全く、何で他人に伝えることができるのに、自分のことだと気が付かないんだ?人間って、本当に自分のことは分からないな?」
「え…?私が、伝えた…?」
ナナシの言葉の意味が分からず、マリアが思わずそう呟く。困惑するマリアに、今度はエルフナインが声をかけた。
「そうですよ…強いとは何か、それは…マリアさんがボクに教えてくれたじゃないですか?」
「!!?」
ナナシの意見に賛同するようなエルフナインの言葉に、マリアが更に困惑し、その意味を聞き出そうとすると…
ザバァン!!
突如、砂浜から水柱が噴き出した。その頂上には、バレリーナのように片足立ちでポーズを取るガリィがいた。
「お待たせ、ハズレ装者」
ガリィを見た瞬間、マリアとナナシがエルフナインを庇うように前に出る。
「今度こそ歌ってもらえるんでしょうね?」
「日に何度もアイドル大統領の前に現れやがって、何が狙いだ!?……ひょっとして、お前は…!!」
「!!?」
何かを察した様子のナナシに、ガリィは自分達の目的を勘付かれたかと警戒し…
「アイドル大統領のファンなのか!?こいつの歌が聴きたくて度々襲撃に来ているんだな!!つくづく気が合うな、
…ナナシの言葉に、その場の全員の力が抜けて倒れそうになる。
「んなわけあるか!!今のハズレ装者の歌になんてこれっぽっちも興味なんて無いわよ!!」
「いやいやいやいや、その判断は早計だ!確かに今のアイドル大統領の歌は悩みや葛藤なんかの暗かったり重かったりする感情が多いが、これはこれで趣があってだな、何より悩むということは問題と逃げずに向き合うということであって、今後更なる成長が期待できるということだ!そう考えると、今のアイドル大統領の歌も決して切り捨てるべきものではなく、アイドル大統領が葛藤を振り切って素晴らしい歌を歌えるようになった時、彼女のこれまでの苦悩と努力を共感し、より彼女の素晴らしい歌に没入できるという、謂わば彼女のファンにとっても修練と言うべき…」
「長いわ!!!布教活動ならこいつらにでも好きなだけしてなさい!!」
早口で捲し立てるナナシの言葉を遮り、ガリィが周囲に水晶をばら撒いてアルカノイズを召喚する。
「ナナシ!あなたはエルフナインを守って!ここは、私が…」
「…やれるのか?」
「ッ!?」
ナナシの何処か探るような問い掛けに、マリアは咄嗟に言葉を詰まらせて…
「大丈夫です!マリアさんならできます!」
…代わりに、エルフナインが信頼の感情を籠めてそう断言した。その言葉に勇気を貰い、マリアはペンダントを手にして聖詠を口にする。
「Seilien coffin airget-lamh tron」
アガートラームを纏ったマリアは、短剣を構えてガリィと対峙する。
「ハズレでないのなら、戦いの中で示して見せてよ!」
ガリィが更に追加でアルカノイズを召喚し、マリアへと嗾ける。迫り来るアルカノイズをマリアが蹴散らし、ナナシはエルフナインを“障壁”で守りながら彼女に迫るアルカノイズを殲滅していた。
その様子を、遠目で確認していたファラが、まるで空気に溶け込むようにその姿をかき消した。
アルカノイズの出現により、室内にいたS.O.N.G.の面々も事態を察知する。
「アルカノイズの反応を検知!!」
「マリア達がピンチデス!!」
装者達が全員部屋から飛び出してマリア達の元へ向かう。その様子を室内から見ていた緒川は、無人の廊下に一瞬奇妙な違和感を持ち、廊下へと飛び出して周囲を確認する。だが、特に不審な点は見つからなかった。
「風…?」
「どうかしたんですか?」
「誰かいたのか?」
「いえ、大丈夫です。きっと…」
何処か腑に落ちない様子の緒川だったが、奏と未来を安心させるためにそう言って、二人を警護するために部屋へと戻った。
マリアが迫り来るアルカノイズに短剣を飛ばして消滅させる。その隙に、ガリィが錬金術によって水を放出して攻撃してきた。マリアは三本の短剣を放り投げ、それを起点に三角形のバリアを展開するが、防ぎきれずに足元から徐々に凍り付いていく。
(強く…強くならねば…!!)
「マリアさん!!」
「強く!!…ぐうっ!?」
体を覆う氷を、マリアは言葉と共に力ずくで弾き飛ばすが、ダメージが大きくその場に膝をついた。
「てんで弱すぎる!」
そんなマリアに、ガリィは吐き捨てる様にそう言った。マリアは、現状を打破するために、胸元のギアコンバーターへと手を伸ばして…
「その力、弱いあんたに使えるの?」
「ッ!?」
ガリィの言葉がマリアの心に突き刺さり、その動きを止めてしまう。
「私はまだ弱いまま…どうしたら強く…!!」
無力を嘆き、目をきつく閉ざすマリア。
『強いとは何か、それは…マリアさんがボクに教えてくれたじゃないですか?』
そんなマリアの脳裏に、先程のエルフナインの言葉が響いた。
「私が…?」
「マリアさん!!」
“障壁”の中でマリアの戦いを見守っていたエルフナインが、伏せるマリアに呼び掛けた。
「大事なのは、自分らしくあることです!!」
「ッ!?」
『弱く打っても大丈夫。大事なのは、自分らしく打つことだから』
エルフナインの言葉で、マリアは自分がエルフナインに向けて言った言葉を思い出した。
「弱い…そうだ…」
「ん?」
蹲っていたマリアが立ち上がり、何処か迷いが晴れたような顔をしていることに、ガリィは怪訝な表情を浮かべる。
「強くなれない私に、エルフナインが気付かせてくれた。弱くても、自分らしくある事。それが、強さ!エルフナインは戦えない身でありながら、危険を顧みず勇気を持って行動を起こし、私達に希望を届けてくれた!」
そう言って、マリアはエルフナインと…その近くで、エルフナインに迫るアルカノイズを殲滅するナナシに視線を向ける。
「マリア・カデンツァヴナ・イヴの歌が世界中の人々を引き付ける魅力を持っているのは、彼女の在り方が常に他者を思い、自身を投げ打ってでも相手の幸せを願うこの上ない愛情が籠められているからだと俺は“妄想”しており、その在り方故に彼女は常に自分以外の人間の重責を背負う覚悟をしているために悩み続けるからこそ、時折その歌声にも波のような乱れが生じる場合があるが、彼女のファンであるならばそれを不調と切り捨てるのではなく、ファンも一丸となって彼女に寄り添うべき…」
…本当にアルカノイズに対しても布教の言葉を放ちながら戦う、何処までもふざけたようなナナシの姿に…マリアは、フッと笑みを浮かべる。
「エルフナイン!ついでにナナシ!そこで聴いていてほしい。あなた達の勇気と想いに応える歌だ!イグナイトモジュール、抜剣!」
マリアがイグナイトモジュールを起動し、魔剣の呪いが彼女を蝕む。内側から溢れ出す暗い感情が、マリアの心を塗り潰そうとする。
『全く、何で他人に伝えることができるのに、自分のことだと気が付かないんだ?人間って、本当に自分のことは分からないな?』
そんなマリアの脳裏に、ナナシが放った言葉が過った。
(…さぞ、滑稽だったでしょうね?あなたに…自分の在り方を捨てようとしていたあなたに、想いを伝えた私が、何時までも自分の在り方を否定している姿は…)
呪いに蝕まれながら、苦しみの中で目を開くと、心配そうにマリアを見つめるエルフナインと…変わらぬ笑みを浮かべて、何の心配もいらないと…これ以上無いほどの、『信頼』を籠めた瞳で見つめるナナシの姿が見えた。
(狼狽える度、偽りに縋って来た昨日までの私…)
『誰よりも!お前自身が!!自分が弱い現実を誤魔化そうとしている癖に!!他人に説教しようとしてんじゃねえ!!』
(ええ、そうよね…私は、理想を追い求めるあまり、弱い自分を…他ならない、今の私自身を誤魔化し続けてきた!)
だが、それでは駄目なのだ。何故ならマリアがいつも周りの人間を見て感じていた『強さ』は、決して弱さを否定したものではなく…弱さを受け入れ、それでも足掻き続ける在り方だったのだから。
(そうだ!らしくある事が強さであるなら!)
「私は弱いまま、この呪いに反逆してみせる!!」
弱い自分を受け入れて、それでも望む未来を求めて足掻く。その強い想いが魔剣の呪いを打ち砕き…マリアは、自身が積み重ねた過去を、力へと変える。
「銀色の左腕に
イグナイトモジュールの起動を成功させ、マリアのシンフォギアが、白銀の鎧から漆黒の鎧へと姿を変える。そしてマリアは、今の自身の想いをありったけ籠めて、歌を紡いだ。
「弱さが強さだなんて、頓智を利かせ過ぎだって!!」
ガリィが悪態をつきながら無数のアルカノイズを召喚する。迫り来るアルカノイズに対して、マリアは左腕の籠手に短剣を連結して構える。すると、短剣から光の刃が弾丸のように射出されて、アルカノイズの群れはマリアに近づくことさえできずに消滅した。
「いいねいいね!」
ガリィは笑みを浮かべながら、地面を凍らせてスケートのように滑走してマリアに迫る。マリアもガリィへと接近し、短剣の一撃でガリィを両断する。すると、ガリィの体が泡となって弾けた。泡の一つ一つにガリィの姿が映っており、マリアが光の刃を連射して泡を全て打ち落とすと、マリアの背後に巨大な泡が発生、中からガリィが現れた。
「私が一番乗りなんだから!」
突然のガリィの出現に臆することなく、マリアはガリィに急接近して短剣の一撃を繰り出す。だが、ガリィは余裕綽々といった態度で目の前に防壁を展開してマリアを嘲笑う。
だが、マリアの短剣による攻撃は、ガリィの防壁を打ち砕き、驚愕するガリィの顎にマリアは強烈なアッパーカットを繰り出して、ガリィの体を高く打ち上げた。
宙を舞うガリィを、マリアが跳躍して追い越す。そして短剣を左手の籠手と連結・巨大化させて、腰部のブースターを点火して一気にガリィへと迫り…ガリィの胴体を、刃の一撃で両断した。
「一番乗りなんだからあぁぁぁぁ!!」
“SERE†NADE”
マリアの攻撃で真っ二つとなったガリィは、そのような断末魔の声を上げながら全身が罅割れ、そして…その身を爆散させた。
地面へと着地したマリアは、ギアを解除して地面に膝をつく。
「マリアさん!!」
そのタイミングで、響達がマリアの元まで駆けつけてきた。
「オートスコアラーを倒したのか?」
「どうにかこうにかね…」
「謙遜するなよ。イグナイトを使いこなして、これまで敵わなかった敵を倒した。大活躍じゃないか!お手柄だな、マリア!」
少し遅れて、エルフナインと共にマリアの傍に近づいたナナシが、マリアをそう褒め称えた。
「これがマリアさんの強さ…」
「弱さかもしれない」
「え?」
「でもそれは、私らしくあるための力だ。教えてくれてありがとう、エルフナイン。それから…ナナシ」
「…はい!」
「ん?何故俺まで?俺は解答を拒否しただろ?」
マリアの言葉に、エルフナインは素直に返事をするが、ナナシははぐらかすようにそう答えた。
「あなたも少しは、エルフナインのように素直に言葉を受け取りなさい」
「お前の強さを気づかせたのはエルフナインで、それを切っ掛けに魔剣の呪いに打ち勝ったのはお前自身だ。俺は今回、お前の歌の素晴らしさを布教しながらアルカノイズを蹴散らして、お前の歌に聴き惚れていただけだよ」
「全く、あなたは何処までも…あなたらしいわね?」
「そりゃそうだ。俺は俺だからな…お前達が教えてくれたことだろ?」
そう言って、ナナシが微笑みながらマリアに手を差し伸べる。マリアは呆れたような、仕方ないといったような笑みを浮かべて、ナナシの手を取り立ち上がった。
「お疲れ様、ガリィ…無事に私は目的を果たせました」
研究施設の屋上に、不可視化を解いたファラが姿を現す。彼女が伸ばした舌の上には、マイクロチップが張り付いていた。
同時刻、チフォージュ・シャトーでは、ガリィが待機するのに使っていた台座から青い光が放たれ、その真上にあった青い垂れ幕に、何かの模様が浮かび上がった。その様子を、チフォージュ・シャトーで待機していたレイアとミカが、笑みを浮かべて見つめていた。
日が完全に沈み、夜になった砂浜で、装者達は花火を楽しんでいた。
「マリアが元気になって、本当に良かった」
「お陰で気持ちよく東京に帰れそうデスよ!およ…?」
マリアが元気になったことを切歌と調が喜び合って笑っていると、ポトリと線香花火が落ちて終わってしまった。
「うむ、充実した特訓であったな!」
「おいおい、翼…」
「それ本気で言ってるんすか?」
翼の発言に対して、奏とクリスが呆れたようにツッコミを入れる。
「充実も充実!お陰でお腹も空いてきたと思いません?」
「いつもお腹空いてるんですね…」
昼間と同じようなことを言う響に、エルフナインが苦笑する。
「じゃあ、今度こそナナシに…ってあれ?そういえばナナシは?」
「あれ?花火を出してもらって…それから姿が見えませんね?“念話”で呼んでみます?」
「何か仕事中だったら、わざわざ呼び出すのも悪いし…だとすれば、やることは一つ!」
『コンビニ買い出しジャンケンポン!』
ジャンケンの結果、響がパーを出し、他の全員がチョキを出すという、響の完全な一人負けで決まった。翼はもちろん、例のかっこいいチョキを出している。
「パーとは実にお前らしいな?」
「拳の可能性を疑ったばっかりに…」
「あれ?お前らまたジャンケンしてるのか?」
そのタイミングになって、先程まで姿を消していたナナシが戻ってきた。
「ナナシ、今まで何処に行っていたのだ?」
「今回の戦闘のちょっとした事後処理を終わらせてきただけだ。また買い出しか?」
「今、響の一人負けで決まったところだ」
「結果が出たなら、ここで俺が食べ物を出すのも無粋か…まあ、夜道を一人で行かせるのもアレだし、俺も不戦敗ってことで一緒に行くよ」
「本当ですか!?やった!兄弟子と二人きりって、何だか久しぶりな気が…」
ガシッ!
響が話している途中で肩を掴まれたため振り返ると、そこにはニッコリ笑顔の未来がいた。
「私も付き合ってあげる。二人で買い込むのも大変でしょ?」
「ふぇっ!?未来!?」
「いや、俺の“収納”があれば…」
「私も付き合ってあげる。二人で買い込むのも大変でしょ?」
「そうだな。未来さん、よろしくお願いします!」
「う、うん!ありがとう、未来!」
未来の笑顔の奥に、只ならぬ雰囲気と感情を感じ取った二人は、それ以上反論することなく三人で買い出しへと出発した。
コンビニに着いた未来とナナシが入り口に近づくが、響は外の自販機の前に立ち止まって動かない。
「もう何やってるのー?」
「凄いよ未来!兄弟子!東京じゃお目にかかれないキノコのジュースがある!あっ!こっちはネギ塩納豆味!?」
「何だそのゲテモノラインナップ…」
奇抜な商品に興味を惹かれる響に、未来とナナシが苦笑を浮かべていると…
「あれ?君は確か…」
コンビニの店内から出てきた男に声をかけられた。
「未来ちゃん…じゃなかったっけ?」
「え?」
「ほら、昔ウチの子と遊んでくれていた…」
どうやら男は未来のことを知っているようだった。ただ、未来がその正体を思い出せず、困惑していると…
「…ん?あんた、昼間に子供達を置いて真っ先に逃げ出したおっさんだよな?」
「「っ!!?」」
ナナシの指摘に、未来と男が驚愕の表情を浮かべた。そう、男は昼間、翼の協力を拒否して逃げ出した人物だった。
「そんな言い方をしなくても…あんな状況なら、誰だって…」
男はナナシの言葉に対して、気まずそうに言い訳の言葉を口にする。
「別に責めているわけじゃないさ。誰だって自分の命を大切に思うのは当たり前だろ?」
「っ!?そ、そうだよな!別に俺は悪いことをしたわけじゃ…」
ナナシの言葉に、男は安心したようにほっとして…
「勝手に責められている被害妄想した挙句に、ちっぽけな自尊心と罪悪感を誤魔化す言い訳を始めないでくれ。迷惑だ」
…そんな男の言葉を、ナナシはそう言ってバッサリ切り捨てた。驚き固まる男を、ナナシは何の興味も無いといった風に素通りして店内に入ろうとして…
「どうしたの未来……え…?」
未来に近づいた響が、男の顔を見て驚き固まった。
「響…」
「お父…さん…」
「っ!!?」
震えるような響のか細い声を聞いて、ナナシが驚愕と共に振り返る。
(おとう、さん…?…お父さん?…父親?響の…父親って!!?)
余りにも、響の口にした言葉が理解できずに、少しの間ナナシが動きを止めている間に、響は逃げ出すように夜道を全力で駆け出していた。
「響―!!」
未来が、響の名を叫ぶ。響の行動と、その感情、そして、未だ驚き固まる男の感情を感じ取って、ようやくナナシは先程の響の言葉が真実だと理解する。
(こいつが、家族を捨てて逃げ出した、響の父親…)