戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
苦手な方はご注意ください。
共同溝内の調査を終えた翼、クリス、マリアの三人が、本部のシャワー室で汚れた体を洗いながら会話をしていた。
「やはり父親の一件だったのね?」
話題は響について。筑波から帰還する際に響の様子がおかしかったため、未来から全員に響の父親の事は説明されており、今回の戦闘での暴走の原因について三人は当たりを付けていた。
「こういう時は、どんなふうにすればいいんだ?」
「どうしていいのか分からないのは、私も同じだ。一般的な家庭の在り方を知らぬまま、今日に至る私だからな…」
クリスの問いに、翼がそう答えるのを聞き、マリアは先日の翼と奏との会話のこともあり、翼の家庭にも何らかの問題があることを察した。
『悪い、マリア。今はそのことに触れないでやってくれ。まだナナシにも聞かせてないことなんだ』
あの時、奏から聞いた話を思い出しながら、マリアはふと思う。
(…あの男が、自分の大切な両翼の問題について、気が付かないなんてことがあるのかしら?)
翼達がそんな会話をしている一方で、指令室では弦十郎が緒川から報告を受けていた。
「敵の狙いは、電気経路の調査だと!?」
『はい。発電施設の破壊によって電力総量が低下した現在、政府の拠点には優先的に電力が供給されています。そこを辿ることにより…』
「表から見えない首都構造を探ることが、可能となるか…」
緒川の推測に共感した弦十郎は、すぐにオートスコアラーが持ち出したと思われる情報について調べるために迅速に行動を開始した。
「あ、危なかったんだゾ…」
チフォージュ・シャトーの広間で、ギリギリテレポートジェムの使用が間に合い危機を脱したミカが地面に手をついて安堵していた。その様子を、ファラとレイアがジッと見つめている。
「マスターからのご命令で
「正論かもだけど…鼻につくゾ!」
ファラからの指摘に、ミカはガバリと起き上がるとイライラした様子で地団駄を踏む。
「落ち着け、ミカ。それで目的の方は達成出来たのか?」
「当然だゾ!これで~どや~!」
レイアの言葉に、ミカはそう答えながら手を振り下ろすと、地面に共同溝から持ち帰った電気経路が記された図面が表示された。
「派手にひん剥いたな!…ん?」
レイアの称賛にも反応せず、ミカはテクテクと何処かに歩き出していた。
「何処へ行くの?ミカ。間もなく想い出のインストールは完了するというのに…」
そう言うファラの視線の先には、キャロルが座っていた王座に設置されている、何らかの機器やパイプオルガンのような装置から伸びる管が接続された棺のような物があった。
「自分の任務くらい分かってる!きちんと遂行してやるから、後は好きにさせてほしいゾ!」
ミカはファラに苛立ちをぶつけるようにそう言って、広間から出て行ってしまった。
夕焼けが周囲を赤く照らす中、調と切歌が少しだけ距離を開けて帰路に就いていた。本部を出てから終始無言だった二人だが、調が気まずい沈黙を破って切歌に話しかける。
「私に言いたいこと、あるんでしょ?」
「それは調の方デス!」
「私は…」
『喧嘩するなら、ちゃんと相手の目を見てものを言え。自分の言葉が、想いが、相手にどう伝わったのか、どれだけ相手が傷ついたのか、自分の言葉を伝えた結果から、目を背けてんじゃねえよ、ガキ共』
言い争いになりかけた二人の脳裏に、ナナシの言葉が過る。その結果、互いに言葉を紡げずに再び顔を背けて沈黙してしまった。
ドカァアアアン!!
その時、無数の爆発音と、逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえてきた。二人の周囲に次々と赤く輝くカーボンロッドが降り注ぎ、地面に接触して轟音と爆炎を撒き散らす。
「アタシ達を焚きつけるつもりデス!」
二人が周囲を見回すと、半壊した鳥居の上で笑いながら二人を見るミカの姿があった。
「足手纏いと、軽く見てるのなら!」
そう言って、調がギアペンダントを手に、聖詠を奏でる。
「Various shul shagana tron」
シュルシャガナを身に纏う調。それに続いて切歌もイガリマを身に纏い、二人はミカとの交戦を開始する。
“α式 百輪廻”
調が射出する無数の丸鋸を、ミカが手にしたカーボンロッドで全て弾く。そしてミカが、鳥居から飛び降りて二人に襲い掛かる…
「沈め!!」
「ギャフッ!!?」
ドォォォン!!
…途中で、突如空から降ってきたナナシに踏み潰された。
「先生!!?」
「ナナシさん!!?帰ったんじゃ…」
グリグリ…
「俺は「帰ってアニメでも見て過ごそう『かな?』」って言っただけだ。くだらない用事でまた間に合わず妹弟子を守れなかった無能でも流石に学習したっつーの。あの
グリグリグリ…
「ムガァアアアアア!!」
ナナシがミカの頭をグリグリと足で踏みつけながら話していると、怒ったミカが叫びながら暴れて爪を振り回してきたため、ナナシはそれを躱して切歌達の方へ移動した。
「もう怒ったんだゾ!!このお邪魔虫!!いつもいつもミカの邪魔をするお前を今度こそへし折ってやるんだゾ!!」
「やれるもんならやってみろ雑魚人形が!!ご自慢の両手をもぎ取ってその減らず口に捻じ込んでやる!!」
…ナナシが両手に血液を纏いながら、物騒なセリフを口にする。これではどちらが悪役か分からない。そんなナナシに若干気圧されながらも、切歌と調がナナシの両隣に並んで構える。
「先生、私達も…」
「お手伝いするデス!!」
「いらない」
「「ッ!!?」」
調達の加勢を、ナナシが拒絶したため二人は驚き固まった。
「そ、それは…私達が足手纏いだから…」
「Exactly!!」
「「ッ!!?」」
足手纏いであることを力一杯肯定されてしまい、二人が泣き出しそうな顔になった。
「
そう言ってナナシは、二人の周囲を“障壁”で囲んで閉じ込めてしまった。一人歩き出すナナシの背を、以前のように二人はまた見ていることしか出来ない。その時、本部から二人に通信が届いた。
『今から応援を寄越す!それまで、持ちこたえ…ぬう!!?』
「司令!?」
「どうしたデスか!!?」
通信の途中で言葉が途切れ、大質量が振動するような音が聞こえてきたかと思うと、弦十郎の驚愕する声が聞こえてきた。
『海底に巨大な人影だと…!?』
どうやら、本部も襲撃を受けているらしい。これでは増援も期待できない。切歌達が通信を聞いている間に、ナナシとミカは戦闘を開始しようとしていた。
ミカがカーボンロッドを生成し、ナナシへと襲い掛かる。それに対してナナシは、“収納”から何やら武器を取り出して迎え撃った。
ナナシが取り出したのは、血液で作られたと思われる水晶のような形状の…早い話が、ミカが使っているカーボンロッドの模造品である。
「ああーーーー!!?また!!また真似っこなんだゾーーー!!!」
「悔しかったら、俺を圧倒してみせろ!オリジナル!!」
ガキンガキンガキンガキンッ!!
ミカが我武者羅にカーボンロッドを振り回し、ナナシがまるで鏡のように同じ動きで攻撃を弾く。何もかもを真似されて苛立つミカが大振りな攻撃を繰り出した…その時、同じような動きで繰り出されたナナシの武器がミカのカーボンロッドと接触した瞬間、大きく
「うぇっ!!?」
“血流操作”によって一時的に柔らかくなったナナシの武器は、ミカのカーボンロッドを受け流すように動き、予想を裏切られたミカは大きくバランスを崩した。その隙を突いて、ナナシが再び硬質化した武器をミカに対して振り下ろす…
ズガガガガガッ!!
「っ!?」
…その時、ナナシに向かって何かが高速で飛来してきたため、ナナシは咄嗟に地面を蹴って回避した。先ほどまでナナシがいた場所には、夕日に照らされて光を反射する無数のコインがあった。
ナナシがコインの飛んできた方向を見ると、そこには両手にコインを持ってポーズを取るレイアがいた。
「私と妹が地味に支援してやる…だから存分に暴れろ、ミカ」
「ムゥ…複雑だけど、正直助かったんだゾ!こうなったら、二人でさっさとこのお邪魔虫をへし折るゾ!レイア!」
「チッ…」
新たなオートスコアラーの出現に、ナナシが舌打ちをする。切歌と調は、“障壁”を叩きながらナナシに叫んだ。
「先生!オートスコアラー二体を相手なんて危険です!」
「アタシ達をここから出すデス!」
「だが断る!!ロリコン人形が出てきたなら尚のことお前らをそこから出せるか!!お前らに何されるか分かったもんじゃねえ!」
弾丸のように降り注ぐコインを避けながら、それでもナナシは切歌達を開放しようとしない。ナナシの回避場所に先回りしたミカが、力一杯カーボンロッドを振り下ろしてナナシを攻撃する。それをナナシは後方へと押し込まれながらも何とか防ぐが…押し込まれた先で、左右から巨大なコインがナナシを挟み込むように迫ってきた。
「っ!!?」
咄嗟に武器を“収納”して、両手で巨大コインを受け止めるナナシ。だが、そこに…
「ドカーン!!」
ドゴォォォォォォン!!!
…赤く輝く巨大なカーボンロッドがナナシへと襲い掛かり、接触と同時に爆発して爆炎がナナシを包む。そして、巨大コインが完全に閉じて、ナナシを押し潰してしまった。
「先生!!?」
「ッ!?……」
また、目の前でナナシが傷つくのを見ているだけ…そんな現状に耐えられない切歌は、覚悟を決めて調の方に視線を向けてその肩を掴む。
「ッ!?切…ちゃん…?」
「調は何で…何であの時、後先考えずアタシ達を庇ったんデスか!?」
「ッ!?…やっぱり、切ちゃんは私を足手纏いと…」
「違うデス!調が大好きだからデス!!」
「え…?」
切歌の言葉に驚き、調が俯きかけていた顔を上げる。そんな調の顔を真っ直ぐに見ながら、切歌は更に言葉を続けた。
「大好きな調だから…傷だらけになる事が、許せなかったんデス!!」
「じゃあ、私は…」
「アタシがそう思えるのは…あの時調に庇ってもらったからデス!!…皆がアタシ達を怒るのは、アタシ達を大切に思ってくれているからなんデス!!」
「私達を…大切に思ってくれる…優しい人達が…」
二人の脳裏には、これまで訓練教官として厳しく自分達を育てたナスターシャ教授の姿、自分達が無茶をする度にそれを窘めるS.O.N.G.の仲間達の姿、そして…いつだって仲間に辛辣な言葉を放ちながらも、大切な想いに気づかせてくれる、今も二人のために戦うナナシの姿が過った。
「セレナが託して、マム達が繋いでくれたこの世界で…かっこ悪いまま終わりたくない!!」
「だったら、かっこ良くなるしかないデス!!」
ナナシに完璧に攻撃が決まったことで、ミカは無邪気に喜びながら笑っていた。
「ようやくお邪魔虫がいなくなったゾ!」
「油断するのは良くない、ミカ。マスターが地味に警戒していたあの男が、この程度で片付くなどと…」
「どう見てもぺっちゃんこだゾ!きっと開けたら、私の炎で焼かれておせんべいみたいに…」
バァアアアアアン!!!
ミカの言葉の途中で、レイアの巨大なコインが粉々になって左右に弾け飛んだ。すぐに警戒するミカとレイア。ミカの起こした爆発によって地面が赤く熱せられ、モクモクと煙が舞い上がっている。その煙の中から、一歩一歩ゆっくりと、しかし力強い足取りで…全身の皮膚が焼け爛れて、顔全体の筋繊維と一部の骨が露出し、瞼が無くなった眼球でギョロリとミカ達を見つめながら…満身創痍と言っていい状態で、それでも確かな笑みを形作るナナシが姿を現した。
「派手に驚愕。あの状態でも…」
「まだ動けるんだゾ!?」
「生憎ど、肉が焦げで血が沸騰じだ
舌と喉がやられたのか、濁音の混じった言葉を使いながらも、平然と動き続けるナナシに、ミカは少し気圧されていた。
(こいつをへし折るには、『アレ』を使わなきゃ無理かもだゾ…でも、マスターの命令を守れなくなるから、それはダメなんだゾ…)
ミカがナナシの攻め方を悩んでいると、静かになっていた調達の方から声が聞こえてきた。
「先生!」
「ナナシさん!」
「あん?(ギュルンッ)」
「「ヒィィィィィィ!!?」」
「あ!悪い!!」
筋肉と骨が剥き出しになった顔で振り返るという完全にホラーな行動で二人に悲鳴を上げさせてしまったナナシは、“ダメージの無効化”によって瞬時に肉体を再生させる。何とか落ち着きを取り戻した二人は、再度ナナシに語り掛ける。
「私達は、もう自分の責任から逃げ出す子供ではありません!」
「ニャンコの手より、ずっと役に立つことを証明してみせるデス!!」
目を逸らすことなく、真っすぐにナナシの顔を見て宣言する二人を見て…ナナシはフッと笑って、二人を閉じ込める“障壁”を解除した。
「なら、俺はロリコンの方を相手してやるから、お前達はそっちの
「「はい!!」」
自由になった調達は、ミカの方へと向き直り、ギアコンバーターへと手をかける。
「自分のしたことに向き合う強さを…!イグナイトモジュール!!」
「「抜剣(デース)!!」」
二人がイグナイトモジュールを起動し、魔剣の呪いをその身に受ける。ナナシは結末を見届けることなく…二人の勝利を確信して、レイアの方へと向き合った。
「地味に予想外。戦闘特化のミカの相手を、貴様があの二人に任せるとは…」
「その方が都合良いんだろ?何が狙いかは知らねーけど、二人とあの
「…貴様がそう考えているのなら、何故わざわざ相手の思惑通りに動く?派手に理解不能」
「別に、大した理由じゃない」
ナナシが一気にレイアへと迫り、その拳を振るう。レイアは咄嗟に巨大なコインを展開し、その攻撃を防御して…
「
ゴシャアッ!!
…その防御を粉砕し、ナナシがレイアの顔面へと拳を叩きこんだ。
「ゴフッ!?」
ナナシの攻撃を受けて、レイアが派手に吹き飛び背後の壁に激突する。そんなレイアにゆっくりと近づきながら、ナナシは普段の笑みを引っ込めた、感情の感じない真顔で淡々と言葉を紡いだ。
「どうしてもてめえをぶん殴りたかった、俺の個人的な我儘だ」
「「うぅ…ぐああああああ!?」」
「底知れず、天井知らずに高まる力ぁ!!」
呪いに蝕まれ、苦し気に声を上げる調と切歌。だが、その瞳からナナシに宣言してみせた意志の強さは決して失われていない。だからこそ、ミカは二人が呪いに打ち勝つことを確信し、先程ナナシに使うことを躊躇った切り札を使うことを選択した。
『バーニングハート・メカニクス』…想い出の焼却効率を限界まで引き上げて出力を上昇させる決戦機能。使用すれば最後、自身の体が燃え尽きるまで止まらないミカの決死の奥義。それでも、ミカはマスターの命令を遂行するために、全力を尽くす。
「ごめんね…切ちゃん…」
「いいデスよ…それよりも皆に…!」
「そうだ…皆に謝らないと…!そのために、強くなるんだ!」
二人の強い想いが魔剣の呪いを打ち破り、ギアがその形を変える。漆黒のギアを纏った二人は、全身から高熱を発して衣服が全て燃え尽きたミカに対して攻撃を開始した。
イグナイトによって上昇した出力を乗せて、切歌が鎌を振るい、調がヨーヨー型のアームドギアを放つ。だが、ミカは易々と切歌の鎌の一撃を弾き飛ばし、調のヨーヨーを軽々と受け止めて調ごと投げ飛ばしてしまった。
「調!?」
「サイキョーのあたしには響かないゾ!もっと強く激しく歌うんだゾ!」
ミカがカーボンロッドを射出しながら切歌に接近する。切歌はカーボンロッドを鎌で切り飛ばして防ぐが、接近したミカから強力な打撃を喰らってしまう。その攻撃は切歌の“血晶”が身代わりになって防ぐが、それを予期していたミカはそのまま切歌に手を翳して至近距離で手から炎を放とうとする。
「向き合うんだ!でないと乗り越えられない!!」
調がミカの背後から無数の丸鋸を射出する。だが、ミカは咄嗟に髪に熱を集中することで、調の丸鋸を融解、蒸発させて攻撃を凌ぎ切った。そしてミカが空中へと跳躍して指でクルリと頭上に円を描くと、赤く巨大な陣が展開されてそこから無数のカーボンロッドが降り注ぎ、切歌を追い詰めていく。
「闇雲に逃げてたらジリ貧だゾ!!」
ミカが一際大きなカーボンロッドを切歌に蹴り放ち、追撃のためミカ自身も切歌に接近する。
「知ってるデス!だから!!」
放たれたカーボンロッドを切歌が前方に跳躍して躱す。空中で無防備な切歌に、ミカが急接近するが、切歌は突き刺さったカーボンロッドの一つに鎌を引っかけることで空中で軌道を変えてミカの攻撃を躱してみせた。
「ぞなもし!!?」
隙を晒したミカに、今度は切歌が肩のギアから鎖を射出してミカに攻撃を仕掛ける。それをミカは紙一重で回避して…
ガシャン!
ミカが回避した鎖が、ミカの背後から車輪のように鋸を展開して接近する調のギアに接続される。それに気を取られていたミカが、切歌が追加で射出した鎖に拘束されて身動きが取れなくなる。そして、前方には巨大なギロチンを展開して、調のギアの動きと自身のブースターで加速し迫る切歌の姿があった。
“禁殺邪輪 Zあ破刃エクLィプssSS”
「足りない出力をかけ合わせてぇ!!?」
防ぐことも躱すことも出来ないミカは、その身に命を刈り取る刃を受ける…その寸前、ミカは確かにニヤリと笑みを浮かべて、バラバラになった体を爆散させた。
「うっ…ぐっ…」
「……」
レイアと対峙してから、ナナシはただひたすら拳による攻撃を繰り返していた。レイアの攻撃を“障壁”で防ぐことさえせずに、最低限の防御と回避のみを行い、多数の傷を負いながらもレイアに攻撃を当てることを優先していた。レイアは、そんなナナシの攻撃を何とか致命傷を避ける様に受けるか捌きながら戦闘を続けていたが、ダメージが蓄積して徐々に動きが鈍くなっていた。
「…どうやら私は、派手に恨まれているようだな?貴様とは初対面のはずだが?」
レイアが口を開いて、会話による時間稼ぎを試みる。その思惑に気づきながら…それでもナナシは動きを止めて、レイアの問いに答えた。
「別に、恨んでねえよ…これはただの、八つ当たりだ…」
「…?」
ナナシの言葉の意味が分からず、レイアが疑問を感じていると…少し離れた場所で、大爆発が起こった。それによってナナシは二人の勝利を、そしてレイアは…目的の達成を悟る。
ナナシの意識が逸れた一瞬の隙を狙い、レイアがテレポートジェムを地面に叩きつけ、その姿を消した。ナナシは、レイアが姿を消したことに憤ることも、調達が勝利したことに喜ぶこともせずに…ただ、大きな溜息を吐いた。
「こっちの気も知らないで!」
「たまには指示に従ったらどうだ?」
戦いが終わり、急ぎ駆けつけてきた弦十郎とクリスに調と切歌が怒られていた。本部からの支援が期待できない状態で、時間を稼ぐのではなくぶっつけ本番でイグナイトを使用してオートスコアラーと戦闘を行ったためだ。
「独断が過ぎました…」
「これからは気を付けるデス…」
「んぉ?」
「お、おぉ…珍しくしおらしいな?」
二人が素直に謝罪してきたことに、クリスと弦十郎は驚いた。
「私達が背伸びしないでできるのは、受け止めて、受け入れること…」
「だから、ごめんなさいデス…」
「う、うむ…分かれば、それでいい」
しっかりと頭を下げて、反省した様子の二人に弦十郎がそう言うと、二人はとぼとぼとその場を後にした。
「全く…」
「…先輩が手を引かなくたって、いっちょ前に歩いて行きやがる」
(あたしとは、違うんだな…)
ほんの僅かな間に、自分の知らないところで大きく成長した二人の背中を、クリスがジッと見つめて…
「なーに暗くなってんだ、クリス?」
ポコンッ
…その後ろ頭に、今まで何処かに行っていたナナシがチョップを入れた。
「ッ!?ご都合主義!てめえ、今まで何処に…?」
「別に?ただ事後処理を手伝っていただけだよ」
クリスに笑顔でそう言って、ナナシも離れる二人の背中を見つめた。
「ホント、お前達人間は切っ掛けさえあればあっという間に在り方を変えてみせる。そんなお前達が面白くて、愛おしくて…少し、羨ましい」
「ご都合主義…?」
ナナシの楽しそうないつもの笑みに、何処か無理をしているような印象を受けて、クリスが疑問を感じていると、ナナシが突然わしゃわしゃとクリスの頭を撫でてきた。
「大丈夫だよ、クリス!焦らなくたって、お前なら出来る!」
「っ!?何の話だ!?てか、頭を勝手に撫でるな!!」
「ああ、ごめんごめん。じゃあ撫でるぞ?」
「だぁー!!許可してねえのに続けるな!!」
顔を真っ赤にして怒るクリスを、ナナシが心から楽しそうに眺めた後、クリスと弦十郎に声を掛けた。
「二人が突っ走ったのは、俺が煽ったところもあるからあんまり叱らないでやってくれよ?それよりも、ちゃんと成果を出したことを、後でちゃんと褒めてやれ…それじゃ、俺達も帰ろうぜ!」
ナナシがそう言って、二人の間を抜けて歩き出して…
「「ちょっと待て、ナナシ君(ご都合主義)」」
…ナナシの肩を、弦十郎とクリスがガッシリと掴んで引き止めた。
「え?な、何?二人を煽ったことに対するお説教?」
「いや、そちらに関してはまあ、あの二人が充分に反省しているし、君なりの考えがあってのことだろうからそこまで強く責める気はない。それよりも…」
「てめえが普段、どんな鍛え方をしてんのか、詳しく聞かせやがれ」
クリスの言葉に、ナナシの笑みがビシリと凍り付く。
「聞かせてもらおうか?痛覚が存在するはずの君が、肉が焦げて血が沸騰しても動じなくなるような特訓とは、一体どんなものなのか?」
「確かてめえ、前に言ってたよな?火口に突っ込むとかどうとか?」
「あ、あははははは…」
二人の問い掛けに、ナナシは曖昧な笑いを返すことしか出来なかった。
調と切歌は帰路の途中で、これまでの自分達の言動について考えていた。
「足手纏いにならないこと…それは強くなることだけじゃない。自分の行動に責任を伴わせる事だったんだ」
『自分の口にした言葉の責任から逃げるような子供は本当に足手纏いだ。悔しかったら半端な喧嘩に片を付けてみせろ!』
ナナシの言葉を思い出しながら、調はそう呟いた…そのナナシが、今現在境内で正座させられながら、自分の不用意な言葉と行動の責任を取らされているとは露とも思わない。
調の隣で、切歌が携帯を使って責任と言う言葉の意味を調べる。
「責任…自らの義に正しくあること。でも、それを正義と言ったら、調の嫌いな偽善っぽいデスか?」
切歌の言葉に、調が悲しそうに顔を俯かせる。
「ずっと謝りたかった。薄っぺらい言葉で、響さんを傷つけてしまったこと…」
「ごめんなさいの勇気を出すのは、調一人じゃないデスよ」
切歌は調と額を合わせながら、調の手を取ってぎゅっと握った…かつて、許されないことに怯えていた自分が、そうしてもらった時のように。
「調を守るのはアタシの役目デス!」
「切ちゃん…ありがとう。いつも、全部本当だよ…」
二人はしっかりと向き合って、笑顔で互いの想いを伝え合った。
チフォージュ・シャトーの玉座の間。ミカが立っていた台座の上にある垂れ幕が赤く輝き、ガリィの台座の上にある垂れ幕と同じような模様が浮かび上がる。そして、それと同時に王座に設置されていた棺のような箱が開いて…中から、想い出のインストールを終えたキャロルが姿を現した。
「お目覚めになりましたか。ご気分は…」
ガンッ!!
「…よろしくないようですね?」
目覚めて早々、キャロルは怒りに顔を歪めながら、拳を振るって棺を殴りつけた。キャロルの脳裏には、ナナシとエルフナインが一方的に送ってきた、自分の物ではない想い出が渦巻いている。
(忌々しい真似を…今すぐにでも、このような想い出は薪にくべる様に燃やし尽くして…)
『忘れた?違う、お前は逃げたんだよ、クソガキ』
「ッ!!?」
想い出の焼却を考えていたキャロルの脳裏に、ナナシの言葉が過る。
『覚えていると都合が悪い記憶だったから忘れて逃げた。お前の行動を、決意や覚悟だなんて言わせはしない。バレたら怖い秘密を隠そうとする、どこまでも臆病なガキの考えなんだよ、お前の行動は!!』
ギリッ!!
キャロルは歯を食いしばり、胸の内で膨らむ憎悪を抑え込む。
(オレは、逃げてなどいない!…いいだろう、この記憶は、貴様の大切な歌女共を葬る時に使ってやる。貴様の稚拙な思惑で、オレに想い出という力を与えたことを後悔するがいい!!)
そう考え、冷静さを取り戻したキャロルが、広間にある模様の入った垂れ幕に視線を向ける。
「…そうか…ミカも…」
「…?ええ、ガリィとミカは、派手に散りました」
「レイア、貴様も随分派手にやられたみたいだな?」
キャロルがそう言うレイアの装いは、服があちこち汚れ、破れてボロボロであった。
「あの男に派手に痛めつけられました。作戦に支障が出ないよう、地味に力を尽くしたため、問題はございません」
「そうか…念のため、後でメンテナンスを施す。その時にオレが眠っている間の記録も見せてもらう」
「これからいかがなされますか?」
目覚めてから少し様子がおかしいキャロルに対して、ファラがそう問いかけた。
「言うまでもない、万象黙示録を完成させる…この手で奇跡を皆殺すことこそ、数百年来の大願…」
そう言って、キャロルが目を見開くと、その視線の先に城の広間以外の光景が映し出される。
『聞いた?調ちゃんと切歌ちゃん強いね!本当に強くなったと思う…そう思うでしょ?エルフナインちゃん』
キャロルが、今では忌々しいとさえ感じるエルフナインとの繋がりを利用して、エルフナインの周囲の情報を傍受した。
「ああ、思うとも。故に…世界の終わりが加速する!!」
ストックが底をついてきました…努力はしますが、場合によっては更新頻度を下げるかもしれません。