戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
想い出のインストールを終えて、諸々の準備を終えたキャロルが、行動を開始するために王座から立ち上がった。すると…
ドクンッ!!
「うぐっ!!?」
突然、激しい動悸と頭痛に襲われて、その場に膝をつく。
「マスター…」
「最後の予備躯体に不調ですか?」
「負荷を度外視した想い出の高速インストール…更に、自分を殺した記憶が拒絶反応を起こしているようだ…」
世界屈指の錬金術師であるキャロルにとっても、体を乗り換えて再誕を果たすというのは相応のリスクがあったようだ。
「いかがなさいますか?」
「無論、まかり通る!歌女共が揃っている…この瞬間を逃すわけにはいかぬのだ!」
ふらつき、大量の汗を流すキャロルを心配するレイアの言葉に、キャロルが険しい顔でそう返しながら立ち上がった。
『ボクは…キャロルに世界を識ってほしい!!笑ってほしい!!生きてほしいです!!!…だから…どうか、力を貸してください!!ボクがパパの命題に、答えを出してみせます!!』
頭痛が続く脳内に、エルフナインの言葉が木霊する。
(貴様ごときに、出来るものか…パパの命題には、私が答えを導き出す!!)
S.O.N.G.の指令室に、響を除いた関係者達が集まっていた。先日、共同溝内で盗み出されたと思われる電力の優先供給地点から、敵の襲撃地点を割り出すための作戦会議を行うためである。
「計測結果、出します」
「電力の優先供給地点になります」
友里と藤尭がそう言って、指令室のモニターにデータを表示させる。
「…?エルフナイン、具合でも悪いのか?」
「っ!?い、いえ、大丈夫です…」
エルフナインがモニターから目を逸らすように俯いたため、マリアが心配したように声を掛けた。
(エルフナイン、大丈夫だ。どうせ情報は盗まれているんだから、襲撃地点は変わらない。無理していると不自然に見えるから、堂々としていればいい)
ナナシがモニターを見ながら、エルフナインに“念話”でそう語り掛ける。それを聞いたエルフナインは、覚悟を決めて真っすぐモニターの方へ顔を向けた。
全員が注目するモニターには、数多くのポイントがマークされていた。その中でも、一か所だけ大きく目立つ場所があった。
「こんなにあるデスか!?」
「その中でも、一際目立っているのが…」
「『深淵の竜宮』…異端技術に関連した、危険物や未解析品を封印した、絶対禁区…秘匿レベルの高さから、我々にも詳細な情報が伏せられている、拠点中の拠点」
「っ!?」
弦十郎がそう言った瞬間、ほんの一瞬だけ、ナナシの顔が「やっべぇ!?」といった風に歪むが、幸いにも全員がモニターに注目していたため気づかれることはなかった。
「オートスコアラーがその位置を割り出していたのなら…」
「狙いはそこにある危険物」
「だったら話は簡単だ!先回りして迎え撃つだけの事!」
「だが、襲撃予測地点はもう一つある」
弦十郎がそう言って、モニターにもう一つの襲撃予測地点を表示させた。
「ここって!?」
「気になる出来事があったので、調査部で独自に動いてみました。報告によると、事故や事件による、神社や祠の損壊が頻発していまして、いずれも明治政府帝都構想で霊的防衛を支えていた龍脈…レイラインのコントロールを担っていた、要所になります」
「錬金術とレイライン、敵の計画の一環と見て、間違いないだろう」
「風鳴の屋敷には、要石がある。狙われる道理もあるという訳か…」
暗い顔をした翼が、呟くようにそう言った。
「検査入院で響君が欠いているが、打って出る好機かもしれないな」
「なら、あの変態人形共に、さっさと引導を渡してやろう!」
振り返って全員の顔を見ながら、ナナシが茶化すようにそう締めくくった。
「ここが?」
「風鳴八紘邸…翼さんの生家です」
「十年ぶり…まさか、こんな形で帰るとは思わなかったな…」
停車した車から降りた緒川、マリア、翼の三人が、目の前にある館…オートスコアラーの襲撃が予想される、風鳴八紘邸を眺めながらそんな会話をしていた。そして…
「へえ~、流石は非合法ギリギリのことをしているだけある!一体どんな悪いことをすれば、こんな立派な屋敷に住めるんだろうな?」
「このバカ!とんでもなく失礼な茶化し方をするんじゃない!」
三人に続いて、奏とナナシも車から降りてきた。
「ナナシ、貴様は雪音達と深淵の竜宮へ行った方が良かったのではないか?周囲が海で囲まれたあの場所にお前がいれば、万が一の場合でも対処できる…」
「あいつらには“血晶”を預けている。それも戦闘用と、ギアが解除された時用の二つ。格納状態だと“血晶”が機能しないことを逆手に取ったこの方法なら、よっぽどのことが無い限り大丈夫だ。後、八紘氏には別件で仕事の話がある。発案者が俺だから直接俺が説明するのが手っ取り早い。何より…いい加減一回くらい挨拶しといた方が良いだろ?一応は『風鳴』を名乗らせてもらってるんだからな。寧ろ遅過ぎるくらいだ」
「……」
ナナシがここに来ることには相応の理由があることを知り、翼はそれ以上何も言えなくなる。
「そして何より…今一番心配な奴から目を離せるか。誤魔化したいなら最低でもその仏頂面どうにかしろ」
「っ!?な、何を…」
動揺しながらそう問う翼の顔を真っ直ぐ見ながら、ナナシは言葉を紡いだ。
「俺の目を見て、お前が『信じろ』とはっきり言えるなら、今からでもクリス達の方へ行ってやる。どうする?SAKIMORI」
「……」
ナナシのその提案に、翼は何も言えず黙ってしまった。そうしている内に、緒川が本部との定期連絡を終えて八紘邸に入る準備を終えていた。
「クリスさん達も、まもなく深淵の竜宮に到着するそうです」
「…こちらも伏魔殿に飲み込まれないように気を付けたいものだ」
ナナシの説得を諦めて、翼が目の前で開いた門へと進む。それに奏、マリア、緒川が続き、最後にナナシが歩みを進めようとして…ふと、視線を遠く…深淵の竜宮がある方角へと向ける。
(あっちはあっちで気がかりだけど…まあ、クリスの事は、俺よりもあいつらの方が適任だ。今のあいつらなら、きっとクリスの力になれる。むしろ問題なのは…ま、まあ、大丈夫だろ?あいつ、凄くしぶとそうだし…一応、『保険』もあるし…)
一抹の不安を抱えながら、ナナシも八紘邸に足を踏み入れた。
門を潜り、八紘邸へと続く道を進む途中で、五人は庭に件の要石と思われる巨大な石を発見した。
「要石…」
「あれが…」
「翼さん」
要石に気を取られている翼達に、緒川が声を掛ける。翼達が前を向くと、前方から黒服の男達を引き連れた着物の男…翼の父、風鳴八紘が近づいてきた。
「お父様…」
「ご苦労だったな、慎次」
正面に立つ娘ではなく、八紘はまず緒川に労いの言葉を掛けて、次にマリアの方に視線を向けた。
「それにS.O.N.Gに編入した君の活躍も聞いている」
「は、はい…」
そして八紘は、今度は奏の方に視線を向けて、僅かに目を細めた。
「…我々の都合で、君には多大な負担を掛けてしまった。申し訳ない…それでも、君が我々の力になってくれていることに、深く感謝している」
「…あたしは、あたしのやりたいようにやらせてもらってるだけだ」
八紘の謝罪と感謝の言葉に、奏は複雑そうな顔でそう答えた。そして八紘は、今度はナナシの方へと視線を向けた。
「君が…」
「お初にお目に掛かります、風鳴八紘殿。ナナシと申します。弟君である風鳴弦十郎に保護して頂き、対外的に『風鳴』の名を名乗ることを許して頂きながら、今日までご挨拶が遅れたことを、心よりお詫び申し上げます」
そう言って、ナナシは八紘に対して深々と頭を下げた。
「…弦から、君の話は聞いている。これからも、アレの力になってくれると助かる」
「勿論です。これからも私に出来る全てで、力を尽くす所存です」
「…アーネンエルベの神秘学部門より、アルカノイズに関する報告書も届いている。後で、開示させよう」
それだけ言って、八紘は…目の前の翼に一声も掛けることなく背を向けて屋敷へと踵を返した。
「お父様!……沙汰もなく、申し訳ありませんでした」
思わず、翼が八紘をそう呼んで引き止める。何を言えば良いのか分からずに、声を詰まらせながら、何とか翼はこれまで連絡を取らなかったことを謝罪した。
「…お前がいなくとも、風鳴の家に揺るぎはない。務めを果たし次第、戦場に戻ればいいだろう」
そんな翼に対して、八紘は振り返ることすらせずに突き放す様な言葉を放った。そんな八紘の態度に我慢が出来なくなったマリアが、八紘に対して怒鳴り声を上げる。
「待ちなさい!あなた翼のパパさんでしょ!?だったらもっと他に…」
「マリア!いいんだ…」
「でも!?」
「いいんだ…」
翼本人が父親の態度を許容しているため、マリアはそれ以上何も言うことが出来ず、八紘もそんな翼達のやり取りを気にすることなく歩みを進めてしまっていた。
そんな様子を、奏はある程度予想していたため微妙な表情で眺めながら…チラリと、隣のナナシの様子を窺う。ナナシが八紘に対して、一体どんな心境なのかをその表情から予想しようとして…その顔が、とても奇妙なものを見るような顔であったことに疑問を覚えた。
奏がナナシに声を掛けようとした、その時…突然、緒川が銃を取り出して庭へと発砲した。銃声に全員が驚いていると、緒川が放った銃弾が突然発生した竜巻に弾かれて、竜巻の中心から今まで姿を消して翼達の様子を窺っていたオートスコアラー、ファラが現れた。
「野暮ね?親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに」
「あの時のオートスコアラー!」
突然のファラの出現に、翼とマリアが臨戦態勢を取り、八紘の護衛の黒服達が銃をファラに向ける。
「レイラインの解放、やらせていただきます…ッ!?」
「会いたかったぜ!キス魔人形!!」
ドォォォォン!!
…そして、ファラを確認した瞬間、ナナシは瞬時に腕に血液を纏わせて襲い掛かっていた。言葉の途中でファラが咄嗟に回避したため、血を纏って肥大化したナナシの腕が庭に当たり、地面に大穴が空く。
「てめえだけはこの手で粉々に破壊してやる!そのゴミが詰まって碌に聴こえない耳に槍を突き刺して右から左に貫通させてやるから覚悟しろゴラァアアア!!」
地面から腕を引き抜きながら物騒なセリフを口にするナナシに、人形であるはずのファラも若干表情が引き攣っているように見えた。
「お、おい、ナナシ…あんまり派手に暴れると周りに被害が…」
「あぁ?周りの人間と要石以外はどうでもいいだろ!!八紘殿!修繕と弁償はするから問題ないですよね!?何か壊されたら困る想い出の品があるならお早めに言ってください!!生憎ウチの歌姫達のストーカーに手加減する気はサラサラ無いので!!」
「…構わない!敵を打ち取るためなら、ある程度の被害は許容する!!」
ナナシの豹変ぶりに驚く八紘だったが、すぐに冷静さを取り戻してナナシの問いにそう返した。
「よっしゃ言質取った!!」
それを聞いたナナシは、本当に遠慮なく木々や灯篭をなぎ倒しながらファラを追い詰めていく。ファラは攻撃を回避しつつ、隙を見て周囲に水晶をばら撒いてアルカノイズを召喚した。
「Imyuteus amenohabakiri tron」
翼とマリアもシンフォギアを纏い、参戦する。マリアと共にアルカノイズを切り伏せながら、翼が八紘達へと声を掛けた。
「ここは私が!」
「うむ、務めを果たせ!」
八紘の事務的な返しに、一瞬だけ翼が暗い表情になるが…
「翼!負けるなよ!」
…八紘の後に続く奏が放った言葉を聞き、沈みかけた気持ちを持ち直して再び歌を奏でながら戦闘を再開する。翼は周囲のアルカノイズを殲滅しながら、ナナシとファラの方へと接近する。
「クッソ、ちょこまかと!!」
「さあ、捕まえてごらんなさい!」
自身の足元に竜巻を展開して飛行するファラを、ナナシが血液を操って攻撃していたが回避され続けていた。ファラは周囲に竜巻を点在させるように展開しており、“障壁”と“浮遊”による空中移動は竜巻の風で制御を失うリスクが高いため、ナナシはファラに接近出来ずに攻め切れないでいた。
翼はナナシを援護するため、空を舞うファラに対して斬撃を放った。
“蒼ノ一閃”
それに対してファラは、翼と同じように手にした大剣を振るって斬撃を飛ばし、相殺させた。だが、翼はファラが蒼ノ一閃に対応している間に上空へと跳躍、巨大な剣を展開して自身の脚部へと接続し、ブースターで加速させた強力な攻撃を仕掛けていた。
“天ノ逆鱗”
「フフッ、何かしら?」
迫り来る大技に、ファラは微笑みながら大剣を軽く前に突き出して…その切っ先で、翼の天ノ逆鱗を完全に受け止めてみせた。
「何!?」
翼の剣を受け止めたファラの大剣の刀身に模様が浮かび上がり、それと同時に翼の剣がまるで錆びて朽ちていくように赤黒く変色し始めた。
(剣が…砕かれていく!?)
翼の剣は徐々に罅割れ…衝撃と共に粉々に砕かれた。
「うあああっ!!」
「翼!」
「っ!!」
吹き飛ぶ翼を、ナナシが空中で受け止めて地面に降ろす。先ほどの衝撃で気絶してしまったようで、翼はピクリとも動かない。
「私のソードブレイカーは『剣』と定義される物であれば、硬度も強度も問わずにかみ砕く哲学兵装。さあ、いかがいたしますか?」
そう言って、ファラは余裕の笑みを浮かべながら大剣の切っ先を翼とナナシに向けて挑発してきた。
「強化型シンフォギアでも、敵わないのか!?」
「ぜああああ!!」
マリアが臆することなく、ファラに向けて無数の短剣を投擲する。
「無駄よ?」
ファラは大剣を一振りして斬撃を放ち、斬撃に触れたマリアの短剣が一瞬で砕け散る。斬撃はマリアに迫り、更にその先には要石があった。
「っ!?させるかぁぁぁ!!」
それを見たナナシが、一瞬の判断で要石の周囲に“障壁”を展開しながらマリアを突き飛ばす。マリアと位置が入れ替わったことで斬撃はナナシを切り裂き、ナナシの胴体が上下に分断された。
「ナナシ!!?」
「ナナシさん!?」
「ッ!?」
その結果にマリアと緒川が驚き、ファラが動揺する。ナナシは上半身だけで地面を転がりながら、何とか視線を要石の方へ向ける。
(あの剣の攻撃を体で受けた!これで、“障壁”が機能するはず…)
そう考えるナナシの前で、斬撃が要石を守る“障壁”へと迫り…
ズガァァァン!!
…斬撃は“障壁”を素通りして、要石を粉砕した。
「なっ!?何故だ!!?」
目の前の結果に、ナナシが驚愕する。逆に、ファラは安堵したように笑みを浮かべて口を開いた。
「嬉しい誤算でしたわ。アガートラームは『剣』と定義されているようですし…あなたの力では、ソードブレイカーの攻撃を防げないようですわね?」
「哲学兵装…概念に干渉する呪いやゲッシュに近いのか…?」
「っ!!?」
マリアの呟きで、ナナシは“障壁”が機能しなかった要因に思い当たった。
(哲学兵装…ソードブレイカー…剣殺しの呪い…“障壁”で防げなかったのは、『効果を発揮していない』からか!!)
剣ではないナナシの肉体ではその効果は発揮されず、“障壁”は未知の攻撃として先程の攻撃を防げなかったのだとナナシは理解した。
要石の破壊を確認したファラは、自身の周囲に竜巻を展開して姿を隠す。
『剣ちゃんに伝えてくれる?目が覚めたら改めてあなたの歌を聴きに伺いますって』
ファラがそう言い終わるのと同時に、竜巻が消失してファラも完全に姿を消してしまった。要石は壊され、敵に逃げられてしまった翼達に追い打ちをかける様に、庭に倒れ伏し、立ち尽くす一同に空から雨が降り注いだ。
海中を進むS.O.N.G.本部に、緒川からの通信が届いた。
『要石の防衛に失敗しました。申し訳ありません…』
「二点を同時に責められるとはな…」
『二点?…まさか!』
「ああ、深淵の竜宮にも侵入者だ。セキュリティが奴らを補足している」
弦十郎達が見ているモニターには、監視システムが捉えたレイアと、レイアと共に歩くキャロルの姿が映っていた。
「キャロル……」
「閻魔様に土下座して蘇ったのか?」
「奴らの策に乗るのは小癪だが、見過ごす訳にはいくまい。クリス君は、調君と切歌君と一緒に行ってくれ」
「応よ!」
キャロルが再び目の前に現れたことに驚きながらも、クリス、調、切歌の三人は弦十郎の指示で速やかに現場へと移動を開始した。そんな中で、エルフナインは不安そうな表情をしながら、自身の手首を…そこに填る“血晶”を握りしめる。
『もしそっちで何か問題があったら連絡してくれ。俺の裏切りがバレたらちゃんと俺が無理やりお前に指示したって口裏合わせなきゃいけないからな!』
本部を去る際、笑いながらそう言って“血晶”を渡してきたナナシのことを思い出しながら、エルフナインは思考を巡らせていた。
(やっぱり、出来ません…ボク達のために、ナナシさんのことを悪者にするなんて…そんなことをするくらいなら、ボクは…)
エルフナインが見つめるモニターの映像で、レイアが監視カメラにコインを放ってカメラを壊した。映像が途絶えたことでモニターに現れたスノーノイズは、まるで今のエルフナインの心境を映し出しているように思えた。