目を開くとそこは見知らぬ草原が広がっていた。
太陽は燦々と輝き涼しげな風が頬を撫でる。
「本当に異世界に来たんだ」
俺こと片村明(かたむらあきら)は転移者だ。
元々は日本の学生だったが高校の入学式に向かう途中で雷に打たれて死んだ。
死ぬ程勉強して合格したが、まさか一度も校舎に入る事無く死ぬとは思わなかった。
その後目を覚ましたら真っ白な空間に居て、訳が分からず放心していると。
「気が付いたかい?」
声をかけられ後ろを向くと一人の男が立っていた。
年は三十代ぐらいだろうか、優しそうな顔付きの美丈夫が申し訳なさそうに俺を見ている。
俺とは違い落ち着いた様子からするに、この状況について何か知っているのだろうと思い聞いてみる。
「え?えと、ここって何処ですか?あなたは?」
「ここは私が作り出した空間で君をここに呼ばせてもらったんだ」
「私は君たちの世界を管理をしている者だよ」
「え?神様…ですか?」
「厳密には違うけどそんな認識で大丈夫だよ」
「あ、すみません、全然状況がわからなくて、、、」
「謝罪は不要だよ、寧ろ逆なんだ、謝るべきは私で君は何も悪くない」
「え…?」
「君は今日命を落とした、本来死ぬ運命ではなかった所を私の誤りで死なせてしまったんだ」
「本当に申し訳ない」
男は謝りながら深く頭を下げる。
どうやら俺はこの人の間違いで死んだらしい。
憤慨してもおかしく無い様な理由だが、戸惑いが大き過ぎて怒りは沸いてこない。
いきなり世界の管理者だの死の運命だの言われても理解は追いつかない、寧ろ「それも含めて俺の運命では?」と、何処か他人事の様な考えさえ浮かんだ。
一人固まってる俺に男の人は話を続ける。
「ここに君を呼んだのは謝罪と君の願いを聞く為なんだ、生き返らせる事は出来ないけど私に出来る事なら叶えるよ」
生き返る事は出来ない、その事実を前にしても実感が無い俺は「あの勉強時間が全部無駄になったのか…」などと落ち込んでいた。
だが「生き返る以外に出来る事」には少し興味が湧いた。
「それってどんな事が出来るんですか?」
「別の世界に行く事や生まれ変わる事なら出来るよ、元々居た世界にも記憶を消すなら生まれ変われる」
「それを君の望む形で行うって感じかな」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中にあった不安や感じ始めた悲しみが吹き飛んだ。
間違いによる死亡、別の世界、望む形、この流れは知っている、良く知っている、そんな物語を読む度に憧れて居たのだから。
これは、行けるのか?異世界に?
死んでいる筈なのに胸の高鳴りを感じる、自分が死んだと言われれば「これは夢か?」と思うだろう、俺も今これは夢なんじゃ無いかと思っている。
だが俺は、これが夢なら覚めないで欲しい。
いくら憧れようと所詮は物語、目指す事すら出来ない、恥ずかしくて人には言えなかった密かな夢。
それが今叶おうとしている、友達や家族との別れは悲しくあるが俺はこの夢とこれからも生き続ける事が出来る。
俺は迷わず異世界転移を望んだ。
生まれ変わるよりも俺のままで生きたいからと転生は選ばなかった。
そして転移先の世界を選ぶと。
「かなり危険な世界だけど、転移先の世界は本当にこれで良いのかい?」
「大丈夫です!この世界でお願いします!」
転移先に選んだのは剣と魔法のファンタジー世界。
魔物と呼ばれる化け物が跋扈しており、エルフやドワーフも居る「王道の異世界」と言う感じの世界だ。
それから転移するにあたって簡単な説明を受けたが、俺の肉体は世界に順応した物に作り替えるも見た目や年齢などはほぼ変わらないらしい。
そして俺はこんな能力を持って転移したい、と憧れていた特殊能力を話した。
「うん、その能力なら大丈夫。危険な世界だし身を守る為にも必要だからね」
これで転移先の世界もチートスキルも完璧、俺はこの先の理想の異世界生活に胸を躍らせていた。
「ただ気を付けないといけないよ、強い能力を持っていても危険である事には変わりないのだから」
「特に君の行く世界は本当に危険が多いからね」
「が、頑張ります!」
「さて、授ける能力も決まったしこれで準備は全部終わったかな」
「今回は本当にすまなかったね」
男は再度申し訳なさそうな表情を浮かべ歩み寄り俺に手を翳した。
「次の世界で人生を謳歌出来るよう願っているよ」
男は優しげに微笑み、俺の体は光に包まれた。
そして冒頭へと戻る。
俺は新たな人生の始まりに今では言えなかった夢を叫んだ。
「俺は俺TUEEEEEがしたい!」