目の前には鬱蒼と茂る森、天気は良く晴れて居るのに森の中は薄暗く、ここからでは奥まで見通す事は出来ない。
俺達はある討伐クエストを受けて来た、内容は近隣の森に新しくグレーウルフの群れが住み着いてしまった為討伐して欲しいと言うものだ。
このクエストの結果次第でジーナの加入が決まる、ゴルドは大丈夫だと笑って居たが情け無い所を見せて失望される訳には行かない。
まぁ完全に新人なので実力はまだまだだがジーナが見るのは違う所だろう。
警戒しながらも森へ入ろうとするも待ったがかかる。
俺は待ったをかけた本人、ジーナの方を向くと。
「森の中探し回るより良い方法があんだよ、ほら」
そう言ったジーナは自分で自分の手を切りつけた、切られた手からは血が滴る。それをジーナは平然とした態度で行うが俺には意味が話からなった。
「え?何してんの⁈」
いきなり手を切りつける理由が分からず、慌てて説明を求める。ゴルドは意図が分かって居る様だが呆れた様子で俺に続いた。
「おいおい本気か?」
二人の困惑を他所にジーナは回復魔法を使い自分の手の治療をする、すると直ぐに傷は塞がった。傷の完治を確認するとこちらを向きニヤリと笑いながら答えた。
「この方が早いだろ?」
「ハッ!相変わらずだな。アキラ!気い付けろ、直ぐに来るぜ」
ゴルドは森の方を警戒し拳を構える、俺の問いの答えは酷く短かったが意図は何となく察する事が出来た、森に入らず魔物をこちらに誘き出そうと言う事なんだろう。
特に今回の標的は優れた嗅覚を持つ、森の近くで血の匂いがすれば飛び付いて来る可能性は高い。
今居る場所は森と草原の丁度境目辺り、辺りの視界は良く邪魔になる木なども無い為戦うのならば森よりも余程有利に戦える。
理屈はわかる、理屈はわかるが方法とその躊躇いの無さには驚愕を隠せずに居た。
急いで森に向き直り戦闘態勢に入る、森の中からは既に近づく足跡が無数に聞こえていた。
「それじゃお手並み拝見と行こうか」
ジーナは嬉しそうに笑い後ろへと下がる。
飛び出して来たのは今回の標的であるグレーウルフ、グレーウルフはその名の通り灰色の狼、特殊能力などは持たないが俊敏な動きに鋭利な牙や爪と侮れる相手では無い。
ゴルドが殴るたびに爆発音が響き狼の肉片が飛び散る、俺は俺で森から出て来た狼に片っ端から電撃の矢を放つ。
数が多く接近された時は雷を纏い蹴り飛ばし、とどめの電撃を浴びせる。
連携などは無い、ただお互いの邪魔にならない様目の前の敵を殺して行くだけ。
辺り一面が狼の死体で溢れるのに時間はかからなかった。
「何体やった?」
増援の気配は無くなり近くに居た狼は倒しきれた様だ、一息つく様にゴルドが話す。
「十体ぐらい?」
今の俺には戦闘中に倒した数を数える余裕は無い為正確では無いが大体それぐらいだろう。
「ハッ!まだまだだな」
「そう言うゴルドはどれくらい倒したんだ?」
「二十は行ってんじゃねーか?三十は無えと思うぜ」
辺りを見回しながら答えるゴルド、倒す速さで言えば圧倒的にゴルドの方が速い。一発殴れば相手は肉塊に変わるし戦闘技術も俺とは比べ物にならない。
俺としては無傷で十倒せただけ良い結果に思えた。
「後はボスだけか?」
「ああ、ボスと一緒に何体かは残ってるだろうが少ねえ筈だ」
グレーウルフは基本的に三十体程の群れを作る、俺とゴルドで群れはほぼ壊滅させた為残るはボスとその側近だけとなった。
縄張り意識が強く執念深い為これだけドンぱちやっていればその内向こうから現れるだろう。周囲を警戒しながらも少しは休憩出来た、ボス戦に備える様に森を見ていると後ろから声がかかる。
「お前らの戦いは充分見れたんだ、ボスは譲ってもらうよ」
そう答えるとジーナは剣を抜き前へ出る、大きなマチェットナイフの様な剣を両手に楽しそうに話を続ける。
「今度はアタシのスキルを見せてやるよ」
ジーナが持っているユニークスキルに付いては教えて貰えなかった、ゴルドは知っているが本人が見せた方が早いと言った為知らないまま。
前に出たジーナを見て俺とゴルドは下がる、一様周囲の警戒は怠らないがジーナの実力に少しわくわくしていた。
程なくして森から大きな足音が聞こえて来た、足音からしてかなり大きい魔物の様だがどうにもおかしい。
聞こえる足音は狼の様な俊敏さが感じられ無い、グレーウルフのボスは他の狼よりも大きいがこれ程の足音はたてないだろう。
警戒を高めて居ると森から巨大な熊が現れる。
体長は五メートルはあろうか、その体毛は黒く硬質化し鎧を着ている様にも見える。不気味な赤い瞳がこちらを見ていた。
「アーマーグリズリーか、また中々な奴が出て来たな」
隣のゴルドは何でも無い事の様に言う。
アーマーグリズリーはCランクの魔物だった筈、グレーウルフは単体でE、群れだとDだ。
これが普通のDランク冒険者が受けていれば即時撤退しか無かっただろう。
森の奥に居たのか偶然近くに居たのかは知らないが血の匂いと音で呼び出してしまったようだ。
「アッハッハッハッ!良いじゃねーか!グレーウルフじゃ満足出来るか心配してたんだ!」
「これで思い切り楽しめる」
アーマーグリズリーを見てジーナは心底嬉しそうな声を上げる。
こちらを獲物と認識したのかアーマーグリズリーは大きく吠え迫って来るが、ジーナは慌てる事もなく静かに呟いた。
「狂化」
その日、俺は『暴虐のジーナ』の意味を知った。