兵士の馬に乗せてもらい暫くすると街が見えて来た。
街は頑丈そうな石壁で囲われており、かなり大きそうだ。
「あれが俺達の街『クルト』だ、良い街だぜ」
そう誇らしげに話す兵士、俺はこの世界初めての都市に期待が膨らませていた。
兵士はそのまま門へと向かい、街に入る為の手続きを案内してくれた。
手続きと言っても禁止事項の説明、街に来た目的と過去に犯罪を犯してないから聞かれただけだった。
俺としては助かるがこんなに簡単に入れるのは以外だった。
「これだけかって思ってるだろ」
「え?あーこれで入って良いのかなって」
「良いんだよ、怪しい奴はもっと調べるが毎年毎年坊主みたいな冒険者志望が沢山来るからな。」
「文字書けない奴も多いし一々小難しい手続き何てやってられねえ、この街は入るのに金も取らないしな」
言われてみれば確かにそうか、日本と違って識字率も高く無い様だし情報の管理も紙が使われてると考えれば納得だった。
「そのかわり!問題起こせば直ぐに取っちめるけどな!」
「まぁ坊主ならその辺は大丈夫だろ、さっき会ったばかりだが坊主は悪人じゃなさそうだからな」
そう笑いながら俺の背を叩く兵士、やや気恥ずかしさも感じるがこの世界での最初の出会いには恵まれたなと感じた。
「冒険者になりたいならギルドで登録しないとだからな、ギルドは街の中央の方に迎えば見えてくる」
「またな坊主!冒険者でダメだったらここに来いよ!お前のスキルは兵士向きだからな」
兵士と別れの挨拶をし街の中へ。
(おお!これが異世界の街、まるで映画の中に入ったみたいだ!)
ヨーロッパ調の街並みに、道行く人々の古風な服装も相まって非現実的な光景を創り出していた。
街中を進めば活気溢れる市場では見たことも無い料理や魔道具と思われる不思議な品々が売られ、如何にも冒険者といった風貌の人も歩いている。
歩きながらも視線は落ち着き無く動く、周りから見たら完全にお上りさんなんだろうがこれは我慢出来なかった。
このまま街を探索したい気もあるが、先に冒険者ギルドに行かなければならない。冒険者ギルドにも非常に楽しみだ。
兵士の言う通り道を真っ直ぐ歩いていると大きなの建物が見えて来た。
無骨だがしっかりした作りで出入りするのは武装した人達、これが冒険者ギルドなのだろう。
俺はギルドに入ってからの立ち回りと絶対言いたいセリフを確認する。チートスキルで無双し俺TUEEEEEする準備は万端だ。
(いざ冒険者ギルドへ!)
木で出来た扉を開けるとそこは。
真昼間だからか少し閑散とした雰囲気ではあるが、酒を飲む者、一枚の紙を見ながら複数人で話し合っている者や仲間に武器を見せている者など様々な冒険者達が居た。どうやら中に酒場も併設されているらしい。
(凄い、イメージ通りの冒険者ギルドだ!)
物語の中でしか見た事ない光景を実際に見る事が出来更に気持ちは昂る。だがここでははしゃがずに冷静を装う。そして受付と思わしきカウンターに行くと。
「冒険者志望の方ですか?」
「はい、そうです」
「わかりました、ならこのまま手続きしますね」
受付のお姉さんは机から何かの用紙を取り出し進める。
名前や年齢を聞かれ答えると、次は何処からか水晶を持ち出して来た。
「ではこの水晶に手を翳してください」
「これはあなたの保有魔力を調べる物になります、魔力が無くても冒険者になれるので安心してくださいね」
魔力の計測器、ここが理想の異世界生活の第一歩だ。
この水晶を限界以上の魔力でぶっ壊して「何かしちゃいました?」って言えば第一目標達成。
(イメージは完璧、ここは自分の強さを自覚してない感じで行くぞ!)
俺は内心意気込み手を翳す、すると水晶が光り出した。
しかし水晶の中で大きく光ってはいるが中々壊れない。
「素晴らしいですね、新人の方でここまでの魔力を持つのは珍しいですよ」
受付のお姉さんはそう褒めてくれるが違う、予想していたのは「こんなの見た事ない!」とか「歴代でも上位の記録です!」とかそんな感じの評価だ。
「もう大丈夫ですよ、魔力を持っているので次は魔法適正を調べましょう」
「今度はこちらの水晶に手を翳してください」
お姉さんは淡々と進めていく、これはもう魔力量については諦めるしか無い様だ、だがまだまだ他にもチャンスはある。
次は魔法適正、ここは全属性とか幻の属性魔法の適正とか出せば成功だ。
再度意気込み新たに出された水晶に手を翳すも今度は何も反応しなかった。
「あら?魔法適正は無い?これだけ魔力があるのに…?」
(え?魔法の適正ないの?)
疑問を浮かべるも直ぐに思い付いたのはあの人への伝え忘れだった。チートスキルに頭がいっぱいで魔法については何も話していなかった。
あの人は体作り替えても殆どは同じと言っていた、元々魔法の無い世界に生まれた俺には魔法適正なんて有る訳も無く自衛の力は別で貰っている。
「魔法も使いたいです」と言えば適正も貰えたと思うが完全に抜けていた、折角魔法のある世界にこれたのに自分には使えない現実に落ち込むが直様頭を切り替える。
俺には最強のチートスキルある、それだけで充分だと思う様にした。
「魔法適正の無い魔力持ち…」
受付のお姉さんは悩み出してしまった、多分魔力が多いなら何かしらの適正はあるんだろう。俺の魔力はチートスキルと一緒にあの人に貰った物だろうし。
「君何か特別な事が出来るとかある?」
「これだけ魔力を持っているなら適正があるはずなんだけど君には適正が無いの、なら魔力を消費するタイプのユニークスキルがあるかも知れないわ」
「あ、出来ますよ。俺雷操れます」
「雷のユニークスキル⁈本当に?ちょっと見せて貰える?」
「わかりました」
俺は兵士に見せたのと同じ様に手に雷を発生させる。
「本当に使えるのね!凄いですよ、雷のユニークスキル何て初めて見ました!」
(おお!今日初めて求めてた結果になった)
良い調子だ、この調子でここから巻き返す為に気合いを入れる。
「なら次は教官を呼びますので実践能力を確認しましょう」
(来た!新人の戦闘試験!ここで教官倒して一目おかれる流れだ!)
これが最も重要なイベント、ここで教官を圧倒出来れば目標はほぼ達成したと言っても過言では無い。気を付けるべきは相手に大きな怪我をさせない事ぐらいだろう。
受付のお姉さんは一度離れ、俺は受付近くの柱に寄りかかり暫く待つと。
「あなたがユニークスキル持ちの冒険者志望?」
声をかけられ振り向くと、一人の女性が居た。
年は三十代ぐらいだろうか。髪は黒のショートカット、日本で見る様な整えられている訳では無く少し乱雑に切り揃えられており、服装は白いシャツの上に革製の胸当てを装備し下は黒っぽいパンツ。
纏う風格はベテラン冒険者と言った感じがした。
だが彼女の一番気になった所は腕だ、彼女の左腕は肘から先が無かった。
隻腕だが剣を持っているから剣士だろうか。
頭でそんな事を考えている内に彼女は話を続ける。
「私は教官のスーリ、このまま試験するから着いて来て」
教官はそう言ってすたすたと歩き出してしまった、俺は慌てて着いて行く。
しかし隻腕の女剣士は少しやりずらさを感じる、これは手加減に気をつけないと行けないかも知れない。
直ぐにギルドの裏にある訓練所へと着いた、と言っても広いスペースに木のカカシがある程度だが。
辺りには訓練中なのか剣を振る若い冒険者の他に俺の試験を見に来たのか数人の冒険者が居た。
「剣は使えるの?」
俺は首を横に振る。いずれは剣も使いたいけど今は使えないし、ここは雷だけで行く。それでも充分過ぎるだろうし。
「護身用ってとこかしら、まぁ良いわ好きに攻めてきなさい」
そう言って剣を構える教官。
イメージ含めて俺の準備は万端、ここで圧勝してまだ言えて無いセリフを言わせてもらう。
「行きます!」
俺は手に雷を発生させ人差し指を教官に向ける、ゴブリンに撃った時より威力はだいぶ下げたが。
「ショックガン!」
威力は下げても速度は変わらない、勝利を確信し電撃を放った。
だがその瞬間に俺の思考は止まった。
撃った瞬間に相手に当たるはずの電撃を意に返さず直進する教官。
そして驚く間も無く視点が変わる。
(空?)
続き体に衝撃を受け
「ぐはっ」
衝撃に体が力み息が漏れるが、理解出来ず頭は真っ白になった。
「今のが全力?」
声をかけられ気付いたが俺は倒されてた。
何が起きたのかわからず呆けていると
「おーい、聞こえてる?」
俺を見下ろす教官の声に顔を向ける。
「もう一度聞くよ、今のが全力?」
「い、いや、まだ行けます」
「そう、なら立ちな」
「あと、私が片腕だからって手加減は要らないよ。殺すつもりで来な」
そう言うと教官は最初の位置に戻る。
立ち上がり構え直す間もずっと考えるが状況の理解ができなかった、何をされたのか全くわからない、電撃による攻撃もどう防がれたのか。
剣士に見えるが魔法を使ったのか、相手の攻撃を無効化するスキルでも持っているのか、思考は回り続けるが答えには辿り着けない。
俺は焦る、このままでは不味いと。
瞬殺するつもりが訳もわからず瞬殺された、これでは俺の冒険者デビューが終わってしまう。
ここはもう言葉通り手加減無しで行かせてもらおう。
俺は再度手に雷を発生させ放った。
「サンダーアロー!」
今度は教官は動いていない。
当たった!そう思った瞬間に教官は剣を一閃。
俺の放った電撃は二つに割かれ霧散し、教官があり得ない速度で距離を詰める。
教官が視界から消えると同時に脹脛の辺りに衝撃が走る、どうやら足払いをかけられた様だ。
そしてまた俺は空を見上げた。
「ぐっ!」
そうか、さっきも雷切って距離詰めて転ばされたのか。
(は?え?雷だよ?切った??)
目の前で起きた事に納得出来ず、俺は愕然としていた。最強だと思っていた雷による攻撃を剣一本で防がれた、その事実を直ぐに受け入れる事は出来なかった。
「なるほどね、それがあなたのユニークスキル」
「試験は終わりだよ」
教官は何事も無い様に言う、試験は俺の完敗という形で終わったらしい。
「あ、あの!」
「なに?」
「何で切れたんですか?」
「ふふっ、そんな事?」
「あなたの攻撃は確かに早いし威力もある」
「けどそれだけ、溜めは長いし撃つ場所も丸わかり。そしてあなた自身は弱い、だから簡単に対処されてひっくり返されるんだよ」
「そんな…」
俺のチートスキルを簡単に対処か。
(冒険者強すぎない?)
「あー安心しなよ、これはこれは腕を見るためであってちゃんと冒険者にはなれるから」
まさか理想の異世界生活が初日で崩れるとは、俺の気分はギルドに入った時と正反対になっていた。
「ゴルド!見てたでしょ、あんたがこの子の面倒見な!」
「ほらあなたもさっさと立ちな、これからあなたの世話する奴を紹介するから」
チートが破られ失意の念に埋もれている俺を他所に話が進む。
ゴルドと呼ばれ向かってきたのは筋骨隆々なハゲたおっさんだった。
「ハハハッ坊主!派手にやられたな!」
豪快に笑うおっさん。
これが俺とゴルドの初めての出会いだった。