――リーンリーン。
無限に続くような雪景色の中、涼やかな鈴の音が鳴り響く。
それが物語のカーテンコールの合図。
――リーンリーン。
その音は、まるで迷子を捜しているように、何度も何度も鳴り響いていた。
鈴の音を鳴らしていたのは、一人の幼いウマ娘だった。
彼女の名前は『アオ』という。齢はようやく十二歳になった頃合いであろう。茶色い髪を肩まで伸ばし、凛々しく太い眉毛が特徴的だ。
アクアマリンのような瞳は、どこか儚げな雰囲気を醸し出している。
彼女は、雪の降り積もった景色をゆっくりと歩いていた。
彼女が住む牧場近くの山林……この雪景色の空間においては、雪の日には動物や某かが"迷子"になっている事が多い。
だから、こうして雪が降ると、アオはその迷子が道に迷わないように、決まっていつも一人で雪景色の中を探して回っている。
――リーンリーン。
今日も、その鈴の音に導かれて迷子の某かがアオの元へ辿り着いた。
「山林の中で迷子になってる動物、見つけた」
アオは自分の両親が経営している牧場にて、そこで働いているウマ娘にそう打ち明けた。
「ま、ま、また"あそこ"に行ったんですかぁ~?! もう、迷子になったら危ないからだめって何度も……」
相手のウマ娘の名はメイショウドトウ……少し昔に、トレセン学園でその名を馳せていたウマ娘の一人である。
ゆえあって、彼女は牧場で働いている。働き始めてそろそろ四年になろうか。
アオとドトウが出会ったのは、二年前の話だ。
二人が現在進行型で語っている山林でアオは"行方不明"になっていたが、『なんだかんだ』があってドトウが保護した事がきっかけである。
以後は、年の離れた姉妹のように牧場で一緒に暮らしている。ドトウにとってアオは放っておけない妹分であった。
今回も例によって、わざわざ雪の日に山林を散歩していたアオを、ドトウは心配して注意するが、当のアオはケロッとした表情でこう返した。
「だいじょうぶ。万が一あたし自身がまた迷子になっても、ドットさんがあたしの事を見つけてくれるでしょう?」
そう言って、いたずらっぽくにっこりと微笑むアオ。ドットさんは「むぐぐ……」と困った様子で押し黙った。
アオはまだ小学生でありながら、非常に聡明な子に育った。
書物を読む事を好み、知識も豊富で、両親やドトウが教えた事をスポンジの如く吸収していく。
その一方で、時折突拍子もない行動を取る事もある。わざわざ雪の日に、山林へ赴くのだ。
彼女は、その山林では雪の日に『素敵な出会い』が生じる事を知っている。
好奇心に任せてそんな無茶を繰り返していたからか、無限の広さに思える雪化粧の山林の中を、まるで自分の庭のように歩けるようになっていた。
そしてこの日もまた、アオは山林の中で迷子になった生き物を見つけると、無事に牧場へ連れ帰ってきたらしい。
「はぁ……まぁなんにしても見つかって良かったですねぇ……それで、どんな子なんですか?」
ため息交じりに、しかし安心したように、ドトウは訊ねた。アオはまるでサプライズを用意してきたといわんばかりの得意げな表情で、一旦外に出て行った。
ドトウは、苦笑を浮かべながら「ふぅ」と息を吐きながら一息つく。
「あの子は、本当に不思議な子ですねぇ……」
そう思いながら、ふと窓の外を見る。外は一面の銀世界だ。こういう日には、二年前に出会った『彼』との出来事を思い返す。
「……不思議な出会い、でした」
ドトウは彼への想いを馳せ、独り言ちる。彼にもう一度会いたいと願う事はあるけれど、それは彼を独り占めするみたいで無作法な事だと思って抑えている。
「どーしたんデスカ。ドトウ?」
同じく厩務員として働いているタイキシャトルが、不思議そうに訊ねてきた。
ドトウが「彼にもう一度会いたい」などと惚気れば、訝しげに腕を組んでじっと見つめてくるに違いない。そういう日は、一緒の布団で寝ないと許してくれなくなる。
「タイキさんと一緒にいられて幸せだな、と思って」
だから、誤魔化すためにそんな事を言ってみた。それでも、訝しげに腕を組んでいるタイキだったが、やがてふっと表情を緩めて抱き着いてきた。
「
相変わらず、お互いに男っ気もない生活が続いているからか。二人は憚られる事なく仲睦まじそうに身を寄せ合う。
時が互いを別つ時まで、二人はずっとこの関係でいる事に躊躇いはなかった。
そんな幸せを気づかせてくれた『彼』を思い出すように、窓の外を物思いに見やる。
…………なんか窓の外に『
「ドットさん! 見て見て! 写真で見せてくれたあの動物さんと同じような見た目の仔!!」
「へ……?」
アオが連れてきた迷子に、ドトウとタイキは思わず唖然として固まった。
……無理もないだろう。本来この世界にいるはずのない、"馬"と再び相まみえたのだから。