神速無敵の|幻想機竜《ファントムドラゴン》   作:晴月

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Episode2 朱の戦姫と最弱無敗

 

「それでは新王国第一王女リーズシャルテ、対旧帝国元第七皇子ルクスの機竜対抗試合を、これより執り行う!」

 

審判役の教官の声と同時に、舞台(ステージ)が歓声と熱気に包まれる。

 

学園敷地内にある、装甲機竜の演習場。見た目はコロッセオそのものであった。

 

その中央で、リーズシャルテとルクスは対峙していた。

 

観戦席には強靭な格子が張られ、更に生徒の機竜使い(ドラグナイト)数名が、常に障壁を展開して守っており、巻き添えの心配はない。

 

ルクスが周囲を見渡すと、相当な数の女生徒達、そして教官までもが、この私闘とも言うべき決闘を、見物しに来ているようだった。

 

「何でこんなに人が集まってるんだろう······」

 

大勢の学園関係者に見られて、ルクスは緊張する。

 

(ちょっとみんな暇過ぎない?勝手にすごい見世物にされてるんだけど······)

 

「理由を知りたいか?ルクス・アーカディア。私が何故、お前に戦いを挑んだのか」

 

ルクスのか目の前で、リーズシャルテが不敵に笑う。

 

まだお互いに装甲機竜は纏っていない。

 

装甲機竜を纏うのに適した『装衣』と呼ばれる身体にフィットする衣類を身に着け、リングの上に佇んでいた。

 

試合準備が整った後、機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜き、互いに装甲機竜を接続したと審判(ジャッジ)が確認すると同時に、決闘の合図が為される。

 

それは、王都のトーナメントで使用されているルールと、ほぼ同じものであった。

 

「―――――僕が旧帝国の皇子だから?」

 

目の前の姫に彼は問う。百年以上もの間圧政を敷き、男尊女卑の風潮と制度を押しつけていた、旧帝国。

 

その生き残りである没落王子を新王国の姫が叩きのめす。

 

男女と国。二つの因縁を孕んだ決闘···確かに傍から見れば、これ程人目を引く見世物もないかもしれない。そう思っていたが、

 

「それは、私に勝ったら教えてやる。」

 

少し言い淀んだが、そう言い切り、ルクスを睨む。

 

ルクスは気になった。本当に、ただそれだけなのか? と、

 

確かにリーズシャルテは好戦的な少女なのだろう。だが、何か違うとルクスは感じた。

 

「えっと···戦いの前に、確認してもいい?」

 

「何だ?怖気づいたのか?今更命乞いは見苦しいぞ。」

 

「命乞いって······、僕を殺す気だったの!?······じゃなくてさ、その···引き分けだったら、この勝負は無かったことにしてくれませんか?」

 

「············」

 

一瞬、沈黙が訪れる。

 

不意に、リーズシャルテの気配が変わる。

 

「ふっ、私の気の所為かな?」

 

ルクスの問いかけに、リーズシャルテは自身の前髪をかき上げ、微笑む。

 

「この期に及んで、寝言が聞こえたような気がするのだが?」

 

「寝言じゃなく、僕は本気で―――」

 

そう言いかけた時、

 

「そうか、なら···いいぞ?」

 

リーズシャルテが目を細め、機攻殻剣の柄に手をかける。

 

「私の正体(・・)に気付いて言っているのなら、それでもいい」

 

射抜くような視線にゾクリと背筋を撫でられる。

 

「ルクス選手、接続の準備を!」

 

同時に審判役の教官が、ルクスに促した。

 

「·········」

 

仕方なく、ルクスは機攻殻剣を抜く。二本の色違いの鞘の一つ、その白い鞘から、

 

「来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》」

 

(グリップ)にあるボタンを握りながら押し、声を上げる。

 

それは、機竜を目の前に転送するための詠唱符(パスコード)

 

契約者の声を認識した刀身の銀線が、青白い光を帯びた。

 

キィン···と、ルクスの前に光の粒子が集まり、蒼の機竜が姿を現す。

 

接続(コネクト)開始(オン)

 

更に呟くと、瞬時にその装甲が開かれ、ルクスの身体を覆う。

 

頭、両腕、肩、腰、両脚、そして翼、武装。

 

機竜と同じく遺跡(ルイン)より発掘された装衣は、幻創機核(フォース・コア)からのエネルギーを効率的に伝導させ、通常の障壁とは別に、その表面にも協力な障壁を発生させ、装着部位を守っている。

 

竜を模した機械の装甲は、ルクスと一体化するように装着され、本人の体型より二回りほど大きな、機竜使いとなった。

 

遺跡より発掘されし古代兵器。

 

多大な戦力を秘めたその威光はしかし、瞬時に対面の、巨大な威圧感に呑まれてしまう。

 

「そのもうひとつの剣は飾りか?ルクス・アーカディア」

 

「ッ······!?」

 

瞬間、ルクスは目を見張った。

 

リーズシャルテの身体が、見たことのない、赤い機竜に覆われていた。いわゆる汎用機竜と呼ばれる三種、飛翔機竜(ワイバーン)陸戦機竜(ワイアーム)特装機竜(ドレイク)とは、全く外見が異なる。

 

ルクスの《ワイバーン》より更に巨大な、赤の機竜がそこにあった。

 

「新王国の王族専用機。神装機竜―《ティアマト》.この機竜は、そこいらのものとはわけが違うぞ?」

 

「·········」

 

神装機竜。それは、世界でそれぞれ一種しか存在が確認されていない、希少種の装甲機竜。

 

その機体性能は、汎用機竜のそれを遥かに凌ぐ。

 

だが―――、同時に精神力と体力の消耗、操作難度も桁違いだ。

 

使用時の疲労で死ぬことも珍しくない神装機竜の所持は、新王国の法律で厳しく制限され、相応の実力を持つ者しか、使用を許可されていない。

 

つまり、この《ティアマト》を扱えること自体が、無二の才能と弛まぬ努力の証明だ。

 

しかし―――――、ルクスはその事実を認識しながらも、冷静だった。

 

(大丈夫。―――まだ、やれるはず)

 

ルクスの《ワイバーン》は基本こそ汎用機竜だが、その部品と武装は、防御特化に改造されている。

 

王都で、最多数の模擬戦をこなし、それでも試合では一敗も喫していない『無敗の最弱』と呼ばれた腕。

 

いくら神装機竜でも何とか持ち堪えられるはずだ。

 

賑やかに騒いでいた観客が、静まり返る。

 

ピリピリとした緊張の空気、それを破るように、甲高いベルの音が、リングに響いた。

 

模擬戦(バトル)開始(スタート)!」

 

審判の声と同時に、二機の装甲機竜が動き出す。

 

先に飛翔したのは、《ティアマト》を纏ったリーズシャルテだ。

 

遺跡より伝わる、女神の名を冠する朱の機竜は、上空へ飛び上がると同時に、右腕に持っていた機竜息砲(キャノン)―――機竜専用の武装である大砲を構える。

 

ルクスは機竜牙剣(ブレード)を抜き、同じく飛翔機能を持つ《ワイバーン》で、上空のリーズシャルテを追おうとしたが、その構えを見て、中空で動きを止めた。

 

「まさか、いきなり撃つ気か……?」

 

機竜息砲(キャノン)。いわゆる、竜の吐く、強烈な炎を想起(イメージ)させる主砲。

 

動力たる幻創機核(フォース・コア)からのエネルギーを充填して放つ、光熱と衝撃を秘めた一撃は、家屋一軒をゆうに吹き飛ばせる威力を持つ。

 

だが、発射までに『溜め』を要する分、回避行動までに十分な距離を空けられるか、防御の体制を取られてしまうことが弱点だ。

 

現に今のルクスも、十分に回避可能な間合いを取っている。

 

故に、一対一での開幕早々、狙っていくものではないはずだが―――――――――。

 

「フッ……!」

 

そんなルクスの思惑を読んだように、リーズシャルテが笑う。

 

そして、ルクスに合わせていたキャノンの照準を、すっと、その少し横に逸らし、

 

「……!?」

 

ドゥンッ!!

 

発射した。 うねりを帯びた高熱の光芒が、上空から地上のリングへ、直線に放たれる。

 

だが、当然ルクスを狙ったものではないため、動かなければ当たることはない。

 

威嚇か、肩慣らしのつもりなのか?

 

リーズシャルテの不可解な行動に、ルクスの身体が僅かに硬直する。

その刹那――――。

 

「はっ」

 

遥か上空にいるリーズシャルテが、ルクスを見下ろして、口元を孤に歪めた。

 

右手にはたった今発射したキャノン。

 

そして、左手は―――、機攻殻剣の柄に添えられていた。

 

機攻殻剣は、機竜とその武装を精神操作するための操縦桿のひとつ、つまり――――。

 

「―――ッ!?」

 

ふいに、大型の鎚を振り抜かれたような衝撃が、ルクスの横腹に走った。

 

《ワイバーン》ごと、側方に弾かれ、突き飛ばされる。

 

すなわち、リーズシャルテが敢えて照準を逸らして撃った、本来の砲撃。その軌道上へと、ルクスは押し出されたのだ。

 

「なッ……!?」

 

完全に虚を突かれた、回避不能のタイミング。

 

ルクスの《ワイバーン》の装甲が厚めにチューニングされているとはいえ、最大充填された主砲をまともに受ければ、一撃で終わる。

 

瞬時にルクスは、ブレードを斜めに構え、砲撃の盾にした。

 

幻創機核からエネルギーを全力で注ぎ込み、刃に纏わせる。本来、破壊力を増幅させるために行う能力だが、そうすることで砲撃の威力を逸らし、自らも砲撃の軌道上から、弾き飛ばされる。

 

「う、あっ……!」

 

吹き飛ばされ、空中を回転するルクス目掛けて、更に高速の何かが飛んでくる。

 

破損しかけたブレードを素早く振るい、4つの飛来物を弾き飛ばすと、その何かは、上空に佇む、リーズシャルテの周囲へ戻っていった。

 

「あれは――!」

 

「ふむ。思ったよりできるな」

 

《ティアマト》を纏ったリーズシャルテが、ルクスを見下ろし、不敵に微笑む。

 

その周囲を少し離れて、巨大な鏃型の物体が四つ、浮いていた。

 

「まさかあの体勢から、剣捌きだけでわたしの攻撃を躱すとはな…プライドが傷ついたよ。流石は『無敗の最弱』といったところか?」

 

「な、なんて真似を――――!?」

 

上空のリーズシャルテを見上げ、ルクスは汗をかく。

 

「どうした?わたしの特殊武装についても妹から聞いたのだろう?」

 

「そ、それは、そうだけど―――」

 

神装機竜のみが使える、専用の特殊武装。

 

《ティアマト》が持つ特殊武装《空挺要塞(レギオン)

 

それは、《ティアマト》が制御する、小型の流線型金属で、それ自体が推進力を持つ、遠隔投擲兵器だ。

 

平常時は四つほど機体に装備され、発射したユニットを自在に動かし、直接ぶつけて敵を破壊する。その厄介な性質故に、ルクスももちろん、警戒していたつもりだったが――。

 

「……くっ!

 

(でも、いくら何でも、あんな使い方――――)

 

開幕と同時に、リーズシャルテは飛翔しつつ、《空挺要塞》をルクスから隠して側方へ発射。更に機竜息砲をルクスへ向けたのだ。

 

汎用機竜を、出力、性能共に上回る神装機竜。

 

それにいきなり主砲を向けられれば、誰だって意識がそちらに向かう。

 

更に、側方へ照準を外して発射し、ルクスにとっての右側を意識させたところに、視界へ入らないよう迂回させた《空挺要塞》を左側からぶつけ、最大出力の主砲の、本来の軌道上へと押し込んで攻撃する。

 

一撃必殺の計略。一切の容赦もない、悪魔じみた戦術。

 

何より恐ろしかったのは、その一連の動作に、まるで淀みがなかったことだ。

 

どれほど優れた戦術でも、不自然な動きなら、その時点で察知できたし、避けられた。

 

だが、王都の模擬戦でも、ルクスはここまでの手合いと戦ったことは、殆どない。

 

本当に、新王国のお姫様なのか?この子は――――。

「旧帝国第七皇子、ルクス・アーカディアよ」

 

ルクスが体勢を立て直していると、リーズシャルテの声が降ってきた。

 

「正直見くびっていたが、撤回するよ。お前は中々やるな?ちょっとだけ感動したぞ。だから、今のうちに言っておいてやる。その壊れかけた《ワイバーン》を解除して、もう一本の機攻殻剣を使うがいい。」

 

今までより何処か優しい、親愛を込めた声色。

 

周囲の観客席から小さなどよめきが起こった。

「どんな装甲機竜かは知らないが、半壊したそいつよりはマシなはずだ。見せてみろ、お前の全力を」

 

「……えぇと、じゃあ…僕からももう一度、一言いいかな?」

 

リーズシャルテの言葉に、ルクスは上空を見上げる。

 

既に、ルクスの主力武器であるブレードは半壊、防御装甲も三分の一が削り取られ、十分な障壁も発生させられない。

 

残る《ワイバーン》の装甲は、弾幕射撃用の機竜息銃(ブレスガン)が一丁、近接戦闘及び投擲用の短剣、機竜爪刃(ダガー)が三本。それに中距離用の竜尾鋼線(ワイヤーテイル)が一本のみ。どれも《ティアマト》の防御障壁と、厚い装甲を貫ける装備じゃない。だが――――、

 

「悪いけど――――。こっちの剣は、使うわけにはいかないんだ。」それでも平然とした態度で、ルクスは言った。

 

「だから、このまま引き分けになったら。この件は手打ちにしてくれないかな?正直、他の仕事も立て込んでるし。お、お風呂のことは、ご、ごめん…謝るけど…」

 

リーズシャルテはルクスの言葉に、ひくりと眉を引き攣らせる。

 

そして、頬どころか顔全体を赤く染め、ぶるぶると機竜ごと全身を震わせた。

 

ルクスはもちろん、本気でそう言った。

 

だが、リーズシャルテは『舐められている』と、思ったのだろう。

 

「はっ!成る程、ただの馬鹿ではないらしいな…この大馬鹿者め!」

 

リーズシャルテは、即座に機攻殻剣を天に掲げ、叫んだ。

 

「《ティアマト》よ!本性を顕せ!」

 

声と同時に、周囲の観客席で大きなざわめきが波紋の様に広がっていく。

 

その直後、《ティアマト》の周囲にパシッと光が走り、何かが転送させれてくる。

 

普段は負担が大きいために使用を避けている付属武装(サイドウェポン)

 

先程構えていたキャノンよりも、更に二回りほど大きな主砲。

 

それが《ティアマト》の右肩と右腕部に連結―接続された。

 

「あれは――!」

 

7つの砲門を持つ、巨大な砲身。

 

女神ティアマトは、魔物の軍勢を生み従え、更に自身も7つ首のみ竜と化す。

 

7つの竜頭(セブンスヘッズ)》と呼ばれるその付属武装の名は、妹であるアイリから話を聞いていたが―――。

 

「踊りは得意か?ルクス・アーカディア」

 

絶対の自身と、威圧の笑みを浮かべるリーズシャルテ。

 

優雅な声を上げて、機攻殻剣を構える。

 

「私のダンスは少々荒っぽい…楽しませてくれよ、王子様」

 

その周囲には、先程まで4つほどしかなかった《空挺要塞》の数も増え、四倍――計十六機の投擲兵器が宙を舞っていた。

 

どうやらこちらの武装も、機攻殻剣によって追加転送されたらしい。

 

武装の数に比例して、負担や操作難度も倍増するはずだが、

 

「くっ……!」

 

対して、ルクスの装備はあまりにも貧弱。機体性能そのものも、やはり大きく劣っている。

 

圧倒的すぎる戦力差。

 

だからこそ――――、ルクスは勝機を感じ取る。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!リーズシャルテ姫!相手を殺す気ですか!?《ティアマト》の付属武装まで使ったら、いくら手加減をしても、模擬戦の域を超えてしまう!」

 

それを見た監視役の教官達が慌てて止めようとするが、

 

「だ、そうだが?負けを認めるか?」

 

上空に佇むリーズシャルテの問いにルクスは短く、ただ、はっきりと――――

 

「いえ――僕からは、まだ」

 

そう答えた。

 

「では、この場で果てろ!旧帝国の誇りと共にな!」

 

リーズシャルテが叫ぶと同時に、機攻殻剣を振るう。

 

瞬間、くるくると辺りを浮遊していた投擲兵器―――、計十六機の《空挺要塞》が、一斉に攻撃を開始した。

 

――――――――――――

 

「ルクスさん……」

 

リーズシャルテの猛攻が始まったその模擬戦を、ノクトは観客席で見守っていた。

 

「あっちゃー…もう無理だよ!先生に言って、止めさせないと――――!」

 

普段は軽い調子の少女 ティルファーも、さすがに慌てた様に言う。

 

「いや、大丈夫だろ?…確かに、ルクスが“勝利”を狙っているなら、この模擬戦はあの姫様の勝ちで決まり…だが今のルクスは、”引き分け“を狙っている…なら、ルクスにも勝機はある。」

 

「「!!」」

 

ティルファーの泣き言に反応したのは、先程までリーズシャルテと整備技術対決をして勝利を収めたライトであった。

 

「勝機はあるって…どういうこと?」

 

ライトの言葉に疑問を感じ、彼に尋ねるティルファー。

 

「言葉通りの意味だ。今のルクスは見るからに満身創痍…対して姫様はピンピンしてると来た…だけど、こういうときにこそ、油断が生じやすい上に集中力が散漫になりやすい。」

 

それに、と付け加えて一言。

 

「あいつの“目”は諦めてないからな。」

 

と、ルクスの”目“を見てそう答えた。

 

「よく見てるんですね…”兄“のこと。」

 

と、声が聞こえる。

 

「そういうんじゃないさ、ただ、一機竜使いとして使い手を観察する癖が身についたってだけさ…ん?…“兄”…?」

 

声がした方に振り向くと、そこにはルクスに似た一人の女生徒が此方を見ていた。

 

「あーもしかして、ルクスの妹さんか?」

 

ライトがそう尋ねると彼女は頷く。

 

「始めまして。ルクス・アーカディアの妹アイリ・アーカディアです。お見知りおきを。」

 

と、頭を下げて一礼する。

 

「これはご丁寧に、ライト・アイングラムだ。宜しく頼む。」

 

そんなアイリに一礼で返すライト。

 

「それで、そっちの娘は…」

 

チラッとノクトを見て、ノクトの反応を伺うライト。

 

「Yes.アイリのルームメイト、一年のノクト・リーフレットと申します。」

 

と、ノクトも挨拶する。

 

「…で、君は…」

 

次にティルファーを見て名前を伺う。

 

「わたしはティルファー、宜しくねライっち。」

 

「ラ、ライっち…?…ま、まぁ…宜しく。」

 

突然付けられたニックネームにライトは戸惑いつつも、自己紹介を終えて一呼吸置くと、直ぐに切り替えて演習場の方へと視線を戻す。

 

「さて、話を戻すけど…俺はルクスが負けるとは思ってない…寧ろ、ここから逆転できる筈だ。」

 

「…よくあれだけやられてるのに言い切れるね。」

 

と、返すのはティルファー。

 

「ま、勝負ってのは最後まで分からないから面白いんだ。」

 

それに、と付け加えて一言

 

「『無敗の最弱』が、ここで負けるとは思わないしな。」

 

――――――――――――――

 

演習場のリングの中で、激しい熱風が渦巻いていた。

 

発射された後、それ自身の推進力で攻撃を行う《空挺要塞》。

 

追加された付属武装を含め、計十六機からなるその一斉攻撃を、ルクスは全て―――紙一重でかわしていた。

 

「く……ッ!?」

 

機攻殻剣を左手で振るい、それを操るリーズシャルテの顔に焦燥が浮かぶ。

 

一方的な攻勢を仕掛けながらも、「何故だ!」という声を、必死に呑み込んでいた。

 

操る《空挺要塞》のユニットは、ただの一機も破壊されていない。

 

ルクスはただ躱し、弾いているだけだ。

 

半壊のブレード、ブレスガン、ワイヤーテイル。

 

どれも機竜の基本武装だが、それらを巧みに使い分け、全ての攻撃を防いでいる。

 

攻撃そのものが、ひとつも当たらない訳じゃない。

 

現にルクスの装甲も、徐々に剥がれ、展開している障壁の出力もあと僅かだ。

 

残っている武装も《空挺要塞》を弾く度に摩耗し、壊れつつある。

 

―――――――――――――

 

「以前俺は、トーナメント戦を何度も見てきた。そして、“あいつ”の事を知った…。ああやって、相手の攻撃を紙一重で回避しつつ防ぐ…そして制限時間まで逃げ続ける。それがあの、『無敗の最弱』ルクス・アーカディアの戦い方だ。」

 

―――――――――――――

 

(なのに――――倒しきれるイメージが全くない。 これが、『無敗の最弱』と呼ばれる所以か!)

 

リーズシャルテが全力を出してから、ほんの5分。

 

いや、もう5分だ。

 

神装機竜の全力を受け止めることなど、普通の汎用機竜では十数秒すら保たないはず。

 

その計算外の事実が、リーズシャルテの戦術思考を足止めしていた。ちらりと、学園の大時計の方へ視線をやり、針を確認する。

 

試合時間の残りは、あと3分ほど。

 

だが、このままでは時間切れを待たずしてリーズシャルテの体力が先に尽きる。

 

「リーズシャルテ様っ!?」

 

呆然としていた頭に、観客席の生徒から、声が届く。

 

「くっ……!?」

 

思考に気を取られた瞬間、ルクスの投げたダガーが迫っているのが見えた。

 

回避が―間に合わない。

 

「舐めるな!」

 

だが、リーズシャルテが機攻殻剣を振るい、眼前を指すと、ダガーは見えない力に弾かれた様に、軌道を変え、地面へと落下していく。

 

「…!?」

 

その不可解な現象に、ルクスが顔色を変えた瞬間、リーズシャルテは息を吸った。

 

「ふっ…いいだろう『無敗の最弱』!お前の腕に敬意を表し、拝ませてやる!我が《ティアマト》の神装をな!」

 

「……え?」

 

神装―。

 

その言葉を聞いた瞬間、ルクスはほんの一瞬、硬直する。

 

「神の名の下にひれ伏せ!《天声(スプレッシャー)》!」

 

高らかな声と同時に、リーズシャルテが再び、機攻殻剣でルクスを指す。

 

瞬間、今まで高速で宙を舞っていた《ワイバーン》が地面に落ちる。

 

咄嗟に踏みこたえた装甲脚が、その足場ごと沈み込んだ。

 

「これは――!?」

 

神装とは、神装機竜だけに秘められた、特殊能力のことだ。

 

その能力は神装機竜の種類だけ存在すると言われ、個々の正体は殆ど知られていない。

 

(アイリから聞いた情報にも、これは無かった…。)

 

装甲機竜と共に全身に掛かった強烈な負荷、そしてさっき止められたダガーの動きから察するに、《ティアマト》の神装は、重力を制御するようだ。

 

だが、気付いたところで、既に状況は詰んでいた。

 

ルクスの周囲を竜巻の様に、高速で《空挺要塞》が旋回し、逃げ場を奪う。そして、

 

「終わりだ、没落王子。」

 

《ティアマト》の付属武装、右肩と右腕に接続された巨砲。

 

《7つの竜頭》の照準が、ルクスを捉える。

 

(……神装まで使ってくるなんて…!…もう、僕もやるしかない…!)

 

ルクスが一瞬、とある覚悟を決めた―――その時。

 

「―――なっ!?」

 

ガクン!

 

 

という音と共に、《ティアマト》を纏ったリーズシャルテが、ぐらりと傾いた。

 

ほぼ同時に、ルクスと《ワイバーン》に掛かっていた重力も解除される。

 

リーズシャルテは、何が起こったのか把握しきれていない様子で、自分の身に纏った機竜を見つめている。

 

(まずい―――!)

 

実は神装機竜は汎用機竜と比較して、その操作難度と使い手の消耗が激しいだけでなく、もっと根本的な危険がある。

 

それは暴走だ。

 

装甲機竜の操作方法は、大別して二種類ある。

 

身体に纏った装甲を、自分の手足と力加減で動かす肉体操作と機攻殻剣を経由した思念で行う、精神操作。

 

その二種を巧みに使い分け、通常は操作を行っているのだが、極度の疲労や負担により、使い手のリズムが狂うと、機竜が想定外の行動を取ってしまう―――つまりは、暴走が始まる。

 

決着を急がなければ、お互いに危険だ。

 

それを見た瞬間、ルクスは《ワイバーン》の推進出力を最大にして、飛翔した。

 

「くっ……こんな、こんなことで……」

 

リーズシャルテの顔に、明らかな動揺と憔悴の色が浮かぶ。

 

だが、瞬時に切り替える。

 

リーズシャルテは素早く機攻殻剣を振るい、新たな思念を飛ばした。

 

ルクスの周囲を舞っていた計16機の《空挺要塞》が、一斉に出力を失い、落下する。

 

制御の切断。

 

他の武装へ分散していた意識と力を集中し、ただ1点の破壊力を選択した。

 

主砲、《七つの竜頭》に、全エネルギーを集束させる。

 

「私が負けるかぁぁああ!」

 

裂帛の叫びと同時に、《ティアマト》が制御下に戻った。

 

上昇して斬りかかるルクスと、眼下に狙いを定めるリーズシャルテ。

 

二人の戦いが最高潮に達した。その瞬間―――、

 

決して起きるはずのない、異変が起きた。

 

ギィエエエエエエエェェエェェエエアアアアアッ!

 

「……!?この声は―――!」

 

雲を縦に貫き、獣の絶叫が降りてくる。

 

演習場の高い空から、人ならざる闖入者が、突っ込んできた。

 

その瞬間、観客席にいたライトは、無意識であったが、腰部に帯刀していた自身の”専用機“である“白銀”の機攻殻剣に右手を掛けていた。

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