機竜使いが敵として警戒に値するのは、同じ機竜使いだけではない。
いや、それよりもよほど気をつけなくてはならない人の天敵が、今の世界にはいた。
それが
十余年前、機竜が発見された
その種類は無数にあり、見つけた人間や動物を見境なく襲うと言われている。
獣と違うのはその尋常ならざる強さと不可解な生態、そして特殊能力だ。
故に殆どの大国では、遺跡の近くに砦や関所、城塞都市を幾重にも置き、機竜使いを配備して不測の事態に備えている。
この
だが――――、
「きゃあああぁっ!?」
「な、何でこんなところに、いきなり幻神獣が――!」
「あれって…、本に載ってた…ガーゴイル型!?どうして、警報が鳴ってないのよ!?」
「落ち着け!
観客席の女生徒達から次々と悲鳴が上がる。
機竜使いの士官候補生とはいえ、実戦を経験した生徒は少ない
幻神獣は出現率こそ低いのだが、基本的に機竜使いの数倍の戦闘力を備えている。
しかも、本来は城塞都市から、数十
更に観客席という密集地帯で機竜を展開しようとすれば召喚までに手間取るのは目に見えている。
ふいに街中で猛獣と出くわした時、悠長に目の前で弾込めなどできるわけがない。
観客席の障壁を張るために配置されていた生徒の機竜使い8名ですら、この未曾有の出来事に、まるで身動きが取れずにいた。
(マズイな···)
このままではパニックとなり、とてもじゃないが即座に避難することが出来ないと判断したライトは、
「ティルファー、下級階層の生徒たちの避難誘導、頼める?」
と、ティルファーに話すと走っていく。
「ちょっと!?ライっちはどうするの!?」
と、言われて振り向き様に
「理事長を避難させる!」
と言って走っていった。
―――――――――――――
「理事長!」
「ライト君···!」
「此処は危険です···!今すぐに避難を」
急いで理事長のいる観客席へと辿り着くと、直ぐに避難誘導を行う。
「ええ、生徒たちを全員避難させたら私もそうするつもりよ。」
その時だった。
「···!」
「ライト君···?」
ライトは何者かの気配と同時に大量の幻神獣の声を耳にした。そして周囲を見回し、最悪の事態を想定する。
(今のは···まさか、幻神獣···!?マズイ···ここに来てイレギュラー発生かよ···!)
本来ならば、この学園に出現する幻神獣は先程闘技場に現れた一体のみであったが、ライトだけが察知した気配と幻神獣の声からして、現在学園の外に大量発生しているとライトは考察する。
(···仕方ない···!)
するとライトは、レリィに近付いて耳打ちをし、
「どうやら、この学園を囲むようにして幻神獣が大量発生しています。」
「!···そんな···」
なので、と付け足して一言
「”アレ“を使います。」
「!···いいの?ライト君、あんなに隠したがっていたのに···それに整備が終わってないんじゃ···」
「心配には及びません。もう完了しました···それに緊急事態です。四の五の言ってられないですから。」
それに、と付け加え
「このままだと被害が増える一方です。それに今動けるのは俺ぐらいですから。なので奴らは俺が倒します。」
「···分かったわ。気を付けてね。」
「···はい。」
レリィはライトに何か言いたげではあったが、ライト自身が決めたことであり、何よりも学園の危機ということもあり、これ以上追求するべきではないと判断した。そして、二人が会話を終えた直後···
「理事長!ご無事ですか!?」
警備担当の生徒達が理事長を避難させるために、特別観客席へと入ってきた。
「!···君は···!?」
「理事長を、お願いします。」
そう言いながら、彼女達の右側を走って、通り過ぎていく。
「待て!君も避難を···!」
「大丈夫よ。」
「理事長···!?大丈夫とは···?」
レリィの言葉に彼女達は戸惑う。
「言葉通りの意味よ···あの子は誰よりも状況を見て行動している。」
それに、と付け加えて、一言。
「もしも何かあっても何とか出来るわ···あの子は誰よりも強いのよ。それは、私が一番よく分かってるから。」
―――――――――――――――――
「此処でいいか。」
ライトは敷地内にある、人気のない森の中へと入っていた。
「さて、と始めるか。」
そう呟いて目を閉じると、白銀の機攻殻剣を構えた。
「
そして一呼吸置いてから一言
「顕現し、飛翔せよ···!“スターダスト・ドラゴン”···!!」
詠唱を終えると同時に、ライトの身体を覆う様にして神装機竜が展開される。
それは機攻殻剣の刀身と同様、白銀の装甲であり、所々に蒼いラインが入っている。頭部には前頭部を守るようにして頭頂部と両側頭部を覆う形でヘッドギアが取り付けられている。そこから目元を覆うようにバイザーが展開される。
両翼はまるで流星を想わせる生物的特徴を持った翼。そして胸部にはアメジストを連想させる紫色の水晶が覆われる形でスーツに取り付けられている。右手で剣を握り締め、フルスピードで天高く飛翔する。
そして直ぐ様バイザーから、ディスプレイ画面が目元を覆う形で展開される。
(数はおよそ数百体···やはり“原作には無い”イレギュラーだ···!)
原作には関係のない自分が、この世界に存在することで何かしらの
(だけど、この学園に来るまでに色々と対策は講じてきたからな···たかが数百体···俺の”スターダスト“で蹴散らしてやる···!)
(
一度翼を広げ、更に上空へと羽ばたくと、そのまま倒れ込むようにして加速し、幻神獣へと突っ込んでいく。
『!』
幻神獣達も此方へ向かってきたライトに気付いたようだったが時すでに遅し、気付いた時には既に数十体もの同胞が撃墜されていた。
(まだまだ···!)
直ぐに方向転換し、残りの幻神獣達を一匹、また一匹と片付けていく白銀の機竜。
漸く全て撃墜したと思われたが、
(···おかしい···どう数えても数が足りない···!)
自分が撃墜した幻神獣達が余りにも
そう感じたライト、嫌な予感が頭をよぎる。
(まさか···!)
嫌な気配を感じた方向に顔を向けると、其処には数十体もの幻神獣達がこちらに向けて砲撃を繰り出そうとしている。
(チャージ完了まであと少しって所か···それなら···!)
一度剣を鞘に戻すと両腕で抑え込むようにして魔力を胸部の紫水晶へと、一点集中させ始める。
(チャージ完了···!)
(·····!)
互いに魔力のチャージを完了させたと同時に砲撃として互いに向けて解き放つ···!
(······!)
(
数だけで言えば明らかに幻神獣達の方が有利に思える。しかし、ライトの扱う“スターダスト”は幻神獣達の放った砲撃から魔力の一部を吸収し、自身の魔力として還元することで幻神獣達の砲撃よりも更に強く、より質の高い一撃へと昇華させて解き放った。
『·····!』
こうなれば最早幻神獣達に叶う術など何もなく、そのまま砲撃に呑まれ、灰となり、散っていった。
(······周囲に奴らの反応、気配は感じられない。)
そう判断すると、バイザーがヘッドギアの中へと収納されていく。
「···ふぅ。」
そして、ため息を一度吐いてから一言、
「戻るか。」
そう呟いてアカデミーへと帰還する。
―――――――――――――――
「よっ、と。」
アカデミーへと帰還する際、誰にも見られないように最新の注意を払い、アカデミー領域の森へと降り立ち、機竜を解除してから演習場へと足早に走っていく。
すると直ぐ様演習場のある方角から大きな歓声が聞こえてきた。
「!···そうか、どうやらルクス達も幻神獣を撃退したみたいだな。」
聞こえてくる歓声からそう判断するのだった。
しかし、彼は気付いていなかった。否、大量の幻神獣を撃退したことで安堵し、失念していたのかもしれない。
「そう、彼があの“伝説の機竜”を···」
ライトを見ていた蒼髪の少女がいた事に、そして···
幻神獣達の襲撃がまだほんの序章に過ぎないということを·····