「···という訳で、明日からお前
「待て待て待て待て、ちょっと待て···!?」
演習場へと足早に戻った後、学園内の廊下を歩いていた所、突然リーズシャルテに呼び止められたライトは開口一番にそう言われていた。
「先ず話の脈絡が無さ過ぎるし、主語が無いから何を伝えたいのかが伝わってないんだけど···!?それに···
「ああ、そうだ。あいつもお前と同じ士官候補生の生徒として通ってもらうと伝えた。」
余りにも唐突に言われた言葉に対してライトは半分呆れた様子でため息を吐き出す。
「···まぁ、俺達二人に士官候補生の生徒としてアカデミーに通って欲しいってことだけは理解できたから良しとして···何故、整備士としてではなく学園の生徒として通って欲しいのか···その理由を教えてくれないか?」
と、ライトはリーズシャルテ自身がそうして欲しい理由を聞き出す事にした。
「おお!そう言えばそうだな。では、ちゃんと説明しよう。」
と、反省したリーズシャルテはもう一度、話を始めだした。
――――――――――――――――
「···成程。」
リーズシャルテの話を聞いたライトはそう呟く。
「簡潔に説明すると、『将来の共学化を検討しての試験入学』を行う為···と、そういうことだな?」
「あぁ、そうだ。」
リーズシャルテからの話を纏め、要約するとそういうことになる···ということは理解出来たが、それに対して疑問が浮かぶ。
(···何故、この
と思考を巡らせるが、幾つもの可能性が浮かんでは消えていく為、一度思考を切り替えることにした。
「というかこの話、理事長は了承してるのか?」
「勿論だ!二つ返事で許可が降りたぞ。」
(姉さん···)
自由奔放な義理の姉の行動に、呆れて再びため息を漏らす。
「···それで、教科書は?」
「······え?」
「いや、え?···じゃないだろ。明日から学生なら今から準備しないとだし、教科書は必要だろ?それに時間割表とかは用意してないのか?」
「え···〜と···その···だな···」
どうにも歯切れが悪い返答にライトは察した。
(あぁ、そういう事···要は何も用意しておらず、勢いだけで此処まで伝えに来た感じか···全く、
本日3度目のため息を吐くとライトは何処かへ向かって歩いていく
「あ、おい!何処へ行く!?」
リーズシャルテが呼び止めるとピタッとその場に止まってから振り向いて一言、
「職員室。明日の時間割表と教科書何処で貰えるか聞きに行くところ···何処ぞの姫様が勢いだけで此処まで来たからな。それに、筆記用具やノートも何冊か用意しないとだしな。」
「なっ···!?ぐっ····!」
流石にリーズシャルテも抗議の目をライトに向けたが、彼の言う通りの為、何も言えずに拳を握りしめてわなわなと震えるだけに留まった。
「じゃ、俺行くから。明日から宜しくな姫様。」
と、それだけ言い残して後ろ手に手を降って職員室へと歩いていくのだった。
―――――――――――――――
「――――――というわけで、彼らが今日からこの学園に通うことになった、ルクス・アーカディアとライト・アイングラムだ。皆、慣れない事も多々あるだろうが、宜しく頼む。」
翌日、ライトとルクスは学園の校舎二階、二年生の教室で、そのクラスの担任を勤める女教官 ライグリィ・バルハートの紹介を受け、ルクスはなんともいえない表情を作り、ライトは出来るだけ笑顔で愛嬌を振りまいた。
「えっと、ルクス・アーカディアです。よろしくお願いします。」
「ライト・アイングラムだ。宜しく頼む。」
ぎこちなく挨拶するルクスに対して軽い口調で挨拶するライト。 ハッキリ言って対極の二人であった。
小さなざわめきとヒソヒソ声が教室内に響く。
それはそうだろう。長年、男尊女卑体制を強いていた旧帝国の元王子と理事長であるレリィと同じアイングラム財閥出身となっている義弟といった組み合わせだ。こうならない方がおかしい。
そんな中、
「······あ。ルーちゃんとライくんだ。」
ルクスが涙目になっているとそんな声が聞こえてきた。
「――――え?」
「ん?」
教室の窓際の席にいた、桜色の髪を持つ少女。
ふわりとした髪は、二つのリボンで纏められ、少女のぼんやりとした雰囲気に、よく合っている。
そして、制服を大きく押し上げている豊かな胸が、何処か幼さの残る顔の少女に、不思議な魅力をもたらしていた。
「久しぶり、だね。ルーちゃん。」
柔らかな声で、少女はルクスに微笑みかける。
その間延びした喋り方と、独特の空気に、ルクスは覚えがあった。
「えっと、もしかして、フィルフィ······?」
「うん、そうだよ」
ルクスの問いに、少女は頷き、ルクスは確信する。
フィルフィ・アイングラム。
大商家、アイングラム財閥の次女にして、ルクスの幼馴染でもある少女。
更には、学園長―――レリィ・アイングラムの実妹であり、ライト・アイングラムとは義理の兄弟だ。
「なんだ、フィーもこのクラスだったのか。」
と、声をかけたのはライト。
「うん、そうだよ。」
と、返すフィルフィ。 フィーとはライトが彼女を呼ぶ時の愛称であり、フィルフィ本人もいたく気に入っているためそう呼んでいる。
「学園に通うんだ?嬉しいな。よろしくね、ルーちゃん。あとライくん。」
「あ、うん。こちらこそ、よろしく」
「俺の事はついで扱いかよ···」
あんまり嬉しくなさそうな棒読みでフィルフィはそう言う。
といっても、元々フィルフィは感情表現が苦手な女の子だということを、ルクスとライトは知っており、口数がそう多くない分、正直な性格だということも。だからこう見えて、本気で喜んでくれているのだろう。····ライトの事は兎も角として····
教官のライグリィは「よし、ルクス。お前の席はその子の隣だ」と指さした。
「先生、俺は?」
「何処か適当な席につきなさい。」
「先生ちょっと俺の扱い雑過ぎませんか?」
その後、ティルファーが自分の隣が開いてると自己申告してくれた為、何とか席を確保出来たライトだったが、後で抗議してやろうと思うのだった。それに対して、緊張しっぱなしだったルクスだが、幼馴染の隣に座って、初めてホッと息をつく。
(良かった。少しでも話し相手になってくれそうな友達がいた。)
そう思ったルクスは、昨日から色々と疲れていた為、漸く安心できると安堵に頬を緩ませつつ、隣に座る幼馴染の少女を見て――――。
(でも、僕たちも7年前とは歳も立場も違うんだし、しかも教室の中だし、ちょっとは気を遣うべきだよな?)
「えっと、フィルフィさん。って呼んだほうがいいかな?」
「·········」
ルクスがそう言った瞬間、プイッと、フィルフィは真顔のままそっぽを向いた。
「えっ······?」
その反応に、ルクスは困惑する。
(もしかして···何か失言をしたのだろうか······?でもフィルフィが怒ることって、滅多に無かった記憶が―――)
「フィーちゃん、でしょ?」
そう思っていると、フィルフィがそっぽを向いたまま、ぽつりと言った。
「······えっ?此処でその呼び方で呼ぶのっ!?」
「··········」
こくっと、フィルフィが頷いて肯定を示す。その時、ルクスは冷や汗と共に、思い出す。
(そ、そうだった······!フィルフィは、昔から気に入った相手に対しては、さっきのライトみたいに愛称で呼び、呼ばれる仲を求めてくるんだった·····!)
ルクスも、幼い頃はとても仲が良かったので、そうしていたのだが――――
「き、気持ちは嬉しいけど、流石に此処でそれはさ······。一応ほら、僕たちももう、いい歳なんだし、士官候補生なんだし、学園内だし······」
そんな事を言っているが、一番の理由は見知らぬ同級生たちの前でというのが、一番恥ずかしいという理由だからだ。
其の辺の事情を察してくれないかな。と、期待したルクスだったが―――。
「······」
プイッ。
言い訳するルクスを見て、フィルフィは再びそっぽを向く。
ざわざわ、とクラスメイトたちのどよめきが聞こえてくる。
「皆、騒ぐな。授業を始めるぞ」
教官の声で、教室は一旦落ち着きを取り戻す。ライトは前日までに教師から教科書をレンタルし、時間割表を貰っていた為、準備は万全にしてきているがルクスは急な編入でありかつ色々と疲れていた為準備が出来ていなかったので彼の手元には、まだ教科書が無かった。
「フィルフィさん。教科書、一緒に見せてくれない?」
「·········」
(無視されたんだけど···)
「フィ、フィルフィ。こ、これくらいでいいでしょ?ほ、ほら、今は授業中だしさ······」
「·········」
反応がない。
(どうしよう···泣きそう···)
「······ねぇ、フィーちゃんってば」
「何······?ルーちゃん」
ルクスがどうにか声を絞り出すと、フィルフィはルクスに顔を向けて、そう言った。
「きょ、教科書一緒に見せてもらってもいいかな······?」
「うん、いいよ」
その瞬間、くすくすと、教室内から笑い声が漏れる。
「かわいー」「フィーちゃんだって」 「あの二人、そういう仲だったんだ?」
(は、恥ずかし過ぎるっ······!何だよこれっ!?どんな状況だよっ!?)
「く、くくく······!」
遂には生真面目そうな教官まで、笑いを押し殺していた。
ルクスは今すぐ逃げ出したい衝動を堪えて、どうにか授業を受ける。
「······むう」
目を覚まして、その様子を不機嫌そうに見ているリーシャと、余りにも尊い光景に昇天しかけているライトと、もはやカオスとしか言いようがない光景であった。
そして、もう一人の女生徒が、ルクスとライトを見ていることに二人が気付くことは無かった。
―――――――――――――――――――
しかし、意外にもフィルフィとの恥ずかしいやり取りが功を奏したらしく、クラスメイトたちは一気にルクスへの警戒を解いたようだった。
「ねぇねぇ、フィルフィちゃんとルクスくんって、もしかして婚約者だったりするの?」
「『雑用王子』って、普段はどんなお仕事をしているんですの?」
「そういえば、何で
「男の人って、
と、こんな感じで授業の小休止の度に質問責めに合い、机の上に集まってくる女生徒の数が、まるで祭りでもしているかの如く増えてきた。
勿論、ライトも同じ様に質問責めに合い、主に装甲機竜の整備のやり方やどういった機竜を扱うのかと聞かれていたが、ライトは整備の方法については素人でもできる方法をレクチャーしたが、自身の機竜については言葉を濁した。
「ルクスくん。そういえば雑用のお仕事も、まだやってるんだよね?」
「えっと。はい、まぁ······、僕の義務ですから」
自席を囲む女生徒の一人に聞かれ、そう返事をすると、
「じゃ、私が頼めば、ルクスくんが此処で『お仕事』してくれるんだ。よーし、さっそく頼んじゃおうかな」
「あっ、ずるいずるい。私も頼みたかったのに!」
「ルクスさん。そんな事より、わたくしとお茶でもいかがですか?」
と、引っ張りだこになっていた。
「ルクスのやつ···人気者だな」
と、口を零したライトにも
「ねぇ、ライトくん」
「ん?何?」
「ライトくんにも『お仕事』頼んでもいい?」
(おっ、コレは稼ぐチャンス到来か···!)
「あぁ、いいよ。何して欲しいの?」
と、ライトが快く了承すると、先程のルクスと同様に女生徒達が集まりだして来て、
「あ!ずるい!私も頼みたい!」
「私も私も!」
と、このように引っ張りだこ状態になっていた。
「みんなー、依頼があったら私がまとめるよ?一度に言い寄っちゃ、ルクっちもライっちも大変でしょ?」
と、クラスメイトのティルファーがやってきて、皆を纏めだした。
(勝手に変なあだ名つけられてるし···)
(う〜ん、やっぱ原作通りに事が進むなぁ···)
学園でも有名な三人組―――
「ふぅ······」
「はいはーい。ルクっちとライっちへの依頼は、紙に書いてこの箱に入れてねー。うんそう。指定の日付も入れてさ。後で順番にやってもらお。」
「えぇぇぇえ!!!?」
ティルファーがそう言うと、二人の机の上に投書箱のような木箱を用意しだした。
(なんか、悪い意味で話がまとまってるし!)
「大丈夫だよ。みんなお金もちだから。これでルクっちの借金も早く返せるよ!」
「そういう事か···良かったじゃんルクス。俺もお前も儲かるチャンスだぞ。」
「ライトはちゃっかり流れに乗っただけでしょ?」
「ま、そうだけどさ。お前、どうせ低賃金で雑用やらされまくってたんだろ?」
「!」
「その反応···図星だな···?なら、喜んで受けるべきだと俺は思うけどな。」
と、ルクスにフォローを入れたが、
「·········」
「·········」
ティルファーの用意した木箱に、はみ出す程の依頼書がぶち込まれて行く様を見続けた二人はその前に倒れてしまいそうになる気がしていた。
――――――――――――
そして―――昼休みになり、精神的に疲れたルクスが机に突っ伏し、対称的に軽く伸びをするライト。
「···ふぅ、何とか終わったな」
「うん···というか、何でライトはそんなに普通の反応なの···?」
「俺は整備士としての激務に慣れてるから、これぐらいじゃなんともならないのさ」
「ず···ずるい···」
「こればっかりは慣れだからな···まぁその分デカく稼げたと思えばいいさ。」
「うん···そう思うことにする。」
と、少し会話をした所、
「あ、そうだルクスこの後――――」
と、会話を続けようとした所で
「お、おい。よかったら、一緒にメシでも食べに行かないか?ルクス」
「うわっ!?」
突然頭の上からリーシャに声を掛けられ、ルクスは飛び起きた。
彼女は授業中、半分近く寝っぱなしだった気がするが、いつの間にか起きてきたらしい。
「えっと、僕と二人で―――ですか?」
隣に座っているライトに気を使ってそうリーシャに返答するルクス。
「そ、そうだけど······わたしが一緒じゃ、ダメか?」
微かに頬を赤らめつつ、リーシャは目を逸らす。
ざわっ、と。
その瞬間、小さなどよめきが、教室に満ちる。
「そ、それとできれば―――お前はこれから、わたし専属の世話係になって欲しい。ちょうど従者がひとり欲しかったからな」
リーシャが胸の前で、指をもじもじと絡ませつつ、そう言うと、
「ええっ!?」
ルクスの叫びと共に、クラス全体が、再びざわめいた。
「え? どういう事かしら?」 「リーズシャルテ様って、人嫌いで侍女すらつけてなかったわよね?」
「それが、『男』の彼を、従者にするだなんて―――」
「まさか······」
クラスの女生徒達から、遠巻きにそんな声が聞こえる。
「そ、そんなこと――」
相手は新王国の姫であるため、大声で嫌がるわけにもいかないとルクスは困った様子。
「い、いいだろそれくらい。あのときわたしの裸まで、強引に見たんだし―――」
リーシャの言葉に、「きゃああっ」と、高い声が教室から上がる。
ルクスが風呂場に入ってしまった事は噂になっていたが、詳細までは知らない生徒もいたようだ。
「そ、それは―――その」
ルクスが困り果てていると、
「·········」
そっと、フィルフィがルクスに近づいてくる。
「フィーちゃん?」
焼きドーナツをもくもくと食べながら、向かい合っていたルクスとリーシャの真横に立っている。
相変わらず無表情だが、強烈な存在感を出している。
「ごっくん。ルーちゃんが困ってるよ。リーズシャルテ様」
ドーナツを呑み込んでから、フィルフィはルクスを庇う。
「何だ。誰かと思えば、アイングラム財閥の天然娘か···めんどくさいなー。よし、わたしのおやつをやるから大人しく下がっていろ」
リーシャは一瞬だけ眉をひそめてから、包みを懐から出し、フィルフィに命じる。
ほのかな甘い匂いと、包みから見える黄金色の光沢。
見るからに蜂蜜で味付けされたパンらしい。
「·········」
「別に、ルクス本人が助けを求めた訳じゃないだろ?幼馴染だかなんだか知らないが、むやみに首を突っ込んでくるものではないとわたしは忠告するぞ」
リーシャが諭すようにフィルフィにそう告げる。
そんなフィルフィは、パンを受け取ると、まるで小動物のようにもくもくと食べ始める。
「あ、それは食べるんだ······」
フィルフィは甘いものに目がなく、そしてマイペース。
昔と変わっていなくて、ルクスは少しホッとする。
「ルーちゃんが困ってるのくらい見ればわかるよ。だからやめてあげてお姫様。」
間延びした緩やかな口調であったが、はっきりとフィルフィはそう告げた。
普段はぼーっとしているが、こういうときは主張をはっきりと伝えるし、意外と頑ななタイプだ。 それをルクスとライトは知っている。その光景を見て、ライトは微笑む。
静かに白熱する二人のやり取り。所謂修羅場だ。
教室内のクラスメイト達は、その光景に目を輝かせ、大いに盛り上がり始める。
「一体どちらが勝つのかしら?」
「新王国のお姫様とアイングラム財閥の幼馴染だなんて······」
いたたまれなくなったルクスは、
「ちょ、ちょっと二人とも、落ち着いて―――」
と、声を上げたが、
「おっ修羅場だな。さて、ルクスは爆乳幼馴染と美乳の姫様どちらを選ぶんだ?」
「この状況で何言ってんの!?というか、胸···とか、そういうのは言わないでよ!?」
突然ライトがルクスを茶化す。
「誤魔化すなよ、要は胸が好きか否かって事じゃないのか?」
「違うよ!?そういう話じゃないからね!?」
と、分かっていないフリをして更にルクスをからかうライトと最早目茶苦茶になりそうな所で、
「――――忙しそうなところ悪いけど、いいかしら?」
「!」
凛とした響き。
透明感のある声が、教室の中から聞こえた。
妖精のように美しい相貌の少女に、ルクスとライトは見覚えがあった。
クルルシファー・エインフォルク。
北の大国 ユミル教国からの留学生であり、同じ士官候補生のクラスメイトの一人。
そして、一昨日、浴場に侵入してしまい、逃走したルクスを投げ飛ばして気絶させた少女であった。
「クルルシファーか、用なら後にしろ···わたしは今、大事な話が―――」
リーシャが頬を膨らませて抗議するが、
「ちょっと学園長から用事を頼まれたの。昼休みにその子を案内して欲しい場所があるって。だから借りていくわ。いいわね、ルクスくん?」
「えっと······、はい。」
案内という体で助け舟を出したのだとルクスは思い、彼女に付いていく。
「じゃあ、そういうことだから」
クルルシファーは、そう告げるとルクスの手をそっと掴み、リーシャとフィルフィの返事を待たずして、廊下へと引っ張っていった。
「!」
その時、ライトは見逃さなかった。クルルシファーが廊下へと出ていく際、ライトの方を見てウインクしたのを。
「······」
「――まさか、あの才女のクルルシファーさんまで、興味を抱かれるなんて」
「面白いことになってきたわ」
二人が出ていった後、クラスメイト達はキャッキャッと黄色い声を上げてはしゃぎだす。
「全く、ルクっちを巡って修羅場とは···面白い反面面倒くさいことになりそうだねライっち。」
と、戻ってきたティルファーがライトに声を掛けようとしたところ、
「あれ?ライっち?何処行ったの?」
何時もの席にライトは居らず、代わりに教室の後ろの扉が少し空いていたのだった。
―――――――――――――
教室から廊下へと出ていき、階段を登る。
無人の屋上まで辿り着くとクルルシファーは手すりに近付き、そっと眼下を見下ろした。
広い学園敷地内の景色が、一望できる場所だ。
鮮やかな緑の中庭と、大きな学舎。
少し離れた場所に、女子寮と機竜演習場、第四格納庫がある。
そして、まだ知らない建物が幾つか見えた。
「えっと、ありがとう。クルルシファーさん」
取り敢えず一息ついたルクスは、先ず彼女に礼を言った。
ルクスは彼女の事を妹であるアイリから少しだけ聞いていた。
勉学、体技、そして装甲機竜の扱いも、全てにおいて一流の腕を持つ異国の少女。
その常人離れした美貌も含め、学園中の人々に一目置かれている才女だという事を。
「助けてくれたん······だよね?多分」
「子供っぽい顔の割には意外と鋭いのね?」
「そ、それは「そうだな。ついでに言うならアッチの方も子供なんだ。なんなら君が大人にしてくれるのかい?」···って、そんな事言ってないんだけど!?」
声のした方に顔を向けると、ライトが屋上へとやってきていた。
「ライト!?」
「あら?あなたも来たの?」
と、ライトに対して白々しく惚けた様子のクルルシファーに対して
「白々しいな。俺も来るように誘導したくせに」
と、笑みを浮かべてクルルシファーに近寄る。
「あんた、さっき俺にアイコンタクトでここに来るように言ってたじゃないか······大方、俺にも用が有るんだろ?」
「···鋭いわね。ええ、そのとおりよ」
と、何処か嬉しそうなクルルシファー。
「君にも幾つかあるけども、先ずはルクスくんに聞きましょうか。」
そう言って今度はルクスに顔を向けた。
「どうして昨日――、あのとき倒してしまわなかったの?」
「·········それって、リーズシャルテ様の事?それとも、
「私は両方倒せたと思っているのだけど?あなたがその気になりさえすれば―――」
見透かすようなクルルシファーの視線に、ルクスは一瞬口ごもり、
·「······僕を、買い被り過ぎだよ」
数秒の間を開けて、そう答えた。
「確かに、僕は機竜使いの
(···まぁ、確かにルクスの言う通り公式模擬戦では一度も勝利していない。全て時間切れで引き分けに持っていってる····まぁ、その理由は、あいつが所持している”もう一つの機攻殻剣“が関係していることを知ってるが····黙ってた方がいいだろうな、絶対に。)
そう答えたルクスに対してライトはそう思った。
自分は原作を読んでいるため、ルクスの事情を全て理解している。だが、それを全て口にしてしまえば、今から築こうとしている信頼関係が作れなくなる可能性がある為、そうすべきだと判断した。
「安心して、言いたくないことまで無理に言えというつもりはないわ」
(し、信用されていない······!)
ルクスが項垂れると、クルルシファーはルクスの心の声を読んだように言う。
「あら、信用なんてできるはずがないでしょう?除き魔と下着ドロの王子様を」
「そして修羅場に乗じて幼馴染と姫様の胸をマジマジと見ていたムッツリだしな。」
「だからそれは誤解だって···って、誰がムッツリだ!僕は胸なんて見ていないからね!?」
「え···?じゃあ、尻?それとも脚か?」
「場所の問題じゃなくって!···あーもう!とにかく、僕は下着ドロなんてしてないし、覗きもしてないの!」
と、顔を真赤にしながら二人の勝手な言い分を否定する。
すると、クルルシファーはクスッと微笑んだ。
同い年の少女とは思えない程の気品のある笑みだった為、その表情にルクスは一瞬、ドキッとしてしまう。
「ちょっと、安心したわ」
「えっ······?」
「あなたが、思ったより無害そうな男の子だから。あまり帝国の貴族っぽくないし」
「······」
褒められているのか馬鹿にされているのかわからない口調だったが、でも少しだけ、彼女は楽しそうに見えた。
「仕方ないよ。だって僕は、第七皇子で、しかも――」
「童顔で背も低いし?」
「おまけにアッチも子供サイズだから?」
二人とも同じ方向に首を傾げてそう返す。
「違うよ!?というか、ライトは見てもないのにそういう事言わないで!」
「ん?見たら言ってもいいのか?なら、今から確認してやろうか?」
「僕へのセクハラは止めて!?」
「···まぁいいわ。私が貴方達に一番聞きたいことはね?」
と言ってライトとルクスを見据える。
「······ねぇ、『黒き英雄』と『白き幻』って、貴方達は知ってる?」
そう言って、二人に尋ねるクルルシファー。
「えっ······?」
「······!」
「『黒き英雄』は、たった一機の――正体不明の装甲機竜を使い、帝国の装甲機竜約千二百機のほぼ全てを破壊して、敗北へと追い込んだ怪物。所属も目的も不明···その使い手は、現在の新王国でもその姿は確認されていない。故に、旧帝国にとっては滅びの悪魔であり、新王国にとっては伝説の英雄として語り継がれている」
「····噂くらいなら、聞いたことはあるけど――」
「···俺も噂程度だな···それで、『白き幻』ってのは?」
と、ライトが尋ねるとクルルシファーは再び口を開く。
「『白き幻』は、その身を白銀に輝かせて災厄を滅ぼすとされている幻の機竜。私も見たことは無いのだけど···」と話している途中で彼女は口ごもった。
「···仮にだが、もしその『白き幻』と遭遇したら···あんたはどうするつもりだ?」
と、ライトが尋ねるとクルルシファーは胸に手を当てて一言、
「あの時、私を救ってくれた『白き幻』に感謝を伝える···ただ、それだけよ。」
「感謝···?」
「ええ。実はこの学園に留学してくる数年前、ユミル教国に旧帝国の残党が攻めてきた事があったの」
「!···旧帝国の···残党···!?」
ルクスはその事実に驚きを隠せなかった。
その反応を見て、クルルシファーは頷くと話を続けた。
「勿論、私も国を護るために戦場へ出向こうとした···あと少しで戦場へ到着するといったところで、『ソレ』は現れた。」
「···!」(あ···!)
その時、ライトは思い出した。
数年前、自身が改修し、パワーアップさせたスターダストの試運転としてユミル教国まで飛んでいった際、旧帝国の残党と思わしき部隊を偶々発見し、ユミル教国に被害を出す前に壊滅に追い込んだことを、
(確かあの時は、偶々発見して被害出す前に倒さないといけないと思ったからやっただけだしなぁ···)
と思ったが、敢えて口には出さなかった。
「私は加勢するわけでもなく、ただ『白き幻』の戦いに見惚れてしまって動けなかった······だから、私や軍の代わりに撃破してくれた“彼”に···一言、お礼が言いたいだけなの。」
「···クルルシファーさんが『白き幻』を探していることは分かったけど···それでどうして留学先である此処でその話を···?」
(まぁ、確かにな)
それはライトも気になっていた事だった為、ルクスが聞いてくれて少しだけ安堵する。
「実は、その『白き幻』は旧帝国軍を撃破した後、このクロスフィード方向に飛んで行くのを見たの」
「クロスフィードに···!?」
(そっか···そりゃ気になってる相手のことぐらい見てるわな···)
「だから私はこのクロスフィードへの留学を決めた。もう一度、”彼“に会ってお礼を言いたかったから。」
「······」
クルルシファーの純粋な思いにライト達は何も言えず、ただ黙って話の続きを待つ。
「私から貴方達に雑用の依頼があるわ」
「さっき話した二人の“英雄”についてか?」
ライトの確認するような返答に頷いて返すクルルシファー。
「『黒き英雄』と『白き幻』を探して。私はその人達に用があるの。」
「···分かった。できる限り尽力はさせてもらう。」
「ちょっ、ええっ!?」
ルクスの返答を待たずしてライトが代わりに答えた為、ルクスは戸惑ったが、クルルシファーは二人の総意だと認識したのか薄く微笑む。
「そう。それじゃあお願いするわ、宜しくね。雑用王子様と凄腕整備士くん」
そう言ってクルルシファーは立ち去っていった。
「···行ったか。そういや、大丈夫かルクス?」
「···なんかもう色々ありすぎて言いたい事も色々とあるんだけど···特に僕へのセクハラについてとか···」
「あぁ〜···まぁ、その···悪かった」
ライトはわざとらしくテヘペロするが、それが逆にルクスの怒りを増幅させる行為だと思わなかったのだろう。
ルクスはこめかみにどんどん熱が篭っていくのを感じ取っていた。
「大体、ライトが僕に対してセクハラ発言するとかどういうつもりなのさ!」
「お?まさかのガチギレ?」
「当たり前でしょうが!!!」
「悪かったって、俺なりの距離の詰め方なんだよ」
「寧ろ溝が深まる所だったんだけど!!?」
「落ち着けって、俺もお前に話があったから出来るだけ早く話を終わらそうとしただけなんだって。」
「···え?話···?一体、何の···?」
「急に落ち着くのか···まぁ、いいか」
そう言うとライトは右腕に付けた黒いバングルの液晶画面を操作する。
「何それ?」
「コレ?俺が作った
よし!と言うと、直ぐにライトの足元にバスケットとレジャーシートが現れた。
「え!?なにそれ!?」
「だから言ったろ?俺の作った試作品だって。機攻殻剣の転送システムを他で活かせないかと思って試しに作って見たんだよ。まぁ、と言っても出来るのはこういった持ち運びできる物限定なんだけどな。」
と言って笑うライトとあまりにも凄すぎる技術力に唖然としてしまうルクス。
「昼飯まだだったろ?一緒にどうだ?」
ライトの誘いにルクスはまだ昼食を食べていなかったことを思い出し、直ぐ様空腹を伝える音が自身の腹部から響いた事でルクスは、
「···いただきます。」
流れに身を任せるのだった。