「!···美味しい!」
「そうか、それは良かった。」
クルルシファーからの依頼を受けた(ルクスの承諾無し)後、ライトはルクスを誘ってランチタイムと洒落込んでいた。
現在ルクスは、唐揚げを一口食べて素直な感想を口にしていた。
「まさかとは思うけど、コレ全部ライトが作ったの?」
「あぁ、昨日の内に全部作って用意しておいた。ルクスと話がしたかったからな。」
「僕と話したかった···?」
サンドイッチを一つ口にしてからライトは話を続けた。
「昨日お前が使っていたワイバーン···随分と防御特化じゃないか?」
「え、うん。そういう風に改造してあるし···」
「
「えっ···?」
ライトの疑問に対してルクスは、彼が何を言いたいのか察したのか言葉に詰まってしまう。
「アレは機動力に優れた汎用機竜だ···防御面では其処までの能力を有していない···なら、近接戦特化で装甲の厚いワイアームでも良かったんじゃないのか?」
それとも、と続けて口にし、
「
「!」
ルクスがワイバーンを防御特化にしている理由に近付いていく。
「それ···は···」
顔を俯かせ、言葉を詰まらせてしまうルクスを見てライトは
「まぁ、言いたくないならそれでいい」
「え···?」
このまま言及されると思っていたルクスは、驚いた様子でライトを見る。
「これでも一応、整備工場で働いてた事あるんでな···使い手の事とかつい考えてしまってそういう考えに至っただけだ···気を悪くさせたなら申し訳ない。」
「いや、そんな···謝られる様な事は何も···」
「ならいいか····さてと、そろそろ昼休憩の時間も終わるだろうし、とっとと食べちまうか。」
「!···うん。」
その後、互いに言葉を発することなく二人はバスケットの中身をカラにしてから再び教室へと戻るのだった。
――――――――――――――
「あーもう、疲れたぁあぁあ······」
「ふぅ、まさかルクスが普段あれだけの激務をこなしていたとはな···1日同じことをして、苦労が身に沁みたな···」
「いやぁ···アレはかなり多い方だからね···」
その日の夜。
女子寮に併設された大浴場にて、一昨日の夜乱入した浴槽と床を磨くルクスと、その手伝いをしているライトは疲れ切っていた。
午後の授業を終えた後、ルクスとライトの手元に舞い込んだ『雑用』の依頼は、膨大な数に膨れ上がった。
初めてこの女学園に転入した男の一人であり、旧帝国の雑用王子であるルクス。方や、理事長であるレリィと同じアイングラム財閥の御曹司であるライトが珍しかったのか、それとも昨日の決闘と事件で色々と注目を浴びたのか、依頼は学園だけでなく生徒達からのものを含めると、今日だけでも数十件を超え、なおもその予約数は増え続けている。
ルクスは雑用で、ライトは機竜の整備でのハードスケジュールを普段からこなしていた為、そうでなければとっくに音を上げていたであろう仕事量であった。
「そういやさ、ルクスってちゃんと依頼で貰った報酬···ちゃんと計算してる?」
「うん。確か、依頼受ける前の借金が····」
ライトが尋ねるとルクスはズボンのポケットから手帳を取り出して確認する。
「で、今日受けた依頼全ての報酬を合わせて計算すると····」
鉛筆で今日の報酬全てを計算した金額を書き込むルクスの横から手帳を確認すると、
「おぉ、凄え額····これを継続すれば在学中に借金返済できるんじゃないか?」
「うん、僕もそう思うよ。」
「妹さんからも聞いたけど、お前ら兄妹どんだけ借金背負わされてんだよ···不憫に思えてくるんだけど···」
「まぁ、旧帝国が崩壊した後に新王国の恩赦でしなくちゃいけない事だし···」
「だけど、国家予算の5分の1は流石に酷くないか?」
「仕方ないよ···旧帝国がしてきたことを考えると···」
「はぁ···達観してるというかなんというか···」
ルクスの言い分にライトは、何も言えなくなってしまう。
「それで、どう思った?」
「ん?何が?」
「この学園に来て良かったこと。俺は、レリィ姉さんに誘拐紛いの形で連れてこられたけどさ···それでも機竜の整備をさせてくれるし何より現場では無かった出会いがありそうだし良いことづくめだと思ってる。」
「ライト···」
「ルクスはどうだ?以前よりもやらなきゃいけない雑用の数は多いかもしれないけどさ、悪くないだろ?こんな生活も」
ライトがウインクしてルクスに聞き返すとルクスは、
「······うん。」
と一言答え、
「確かに、以前よりも雑用の数は多いし周りの女の子達に振り回されて大変だと思う···それでも、天国みたいなところだと僕は思ってる。」
「···そうか。」
素直なルクスの気持ちが聞けたライトは少し微笑みを見せた。
でも、とルクスは続けた。
「僕なんかが、こんな所にいていいのかな?」
と、自嘲気味に言葉を吐き出す。
「なぁ、ルクス···それ、本気で言ってるのか?」
「え?···どういうこと?」
ルクスがライトを見ると、少し怒ったような悲しそうなそんな顔をしていた。
「確かに、此処は男子禁制の女学園だ。お前の言いたいことも、気持ちも、なんとなくだけど理解できる。」
でもな、と続けて一言
「俺達を呼んだのは他でもない、理事長であるレリィ姉さんだ。理事長が必要だからと呼んでくれたんだ···だったら、その期待には答えないといけないんじゃないのか?」
「ライト···」
「···まぁ、俺に関しては顔に布袋被せられて誘拐という形で連れてこられたんだけどな···」
と自虐する。
「プッ、アハハ···なにそれ···!」
するとライトの自虐ネタが面白かったのかルクスは吹き出す。
「漸く笑ったな。」
「えっ···?」
「今日一日、ずっと周りからの反応を伺いながら過ごしてて楽しくなさそうに見えたからさ···笑ってくれて良かった。」
と、ライトは顔を綻ばせてそう言った。
「うん、ありがとう···ライト。」
「これぐらいで良ければいつでも。」
「あっ、てことはクルルシファーさんに言ったアレも···?」
「いやアレ本音」
「だったらもう少しオブラートに包んで欲しかったなぁ!?」
二人がそんなやり取りをしていると不意にコンコン、と軽いノックの後に脱衣所への扉が開かれた。
「わ、わわっ!?ごめん!もうお風呂は終わってて、今はちょっと――――!?」
(しまった!?まさか、『掃除中』の掛札を掛け忘れてた!?)
そんな事を思いながら、ルクスは慌てて、弁明の声を上げると――、
「期待に添えなくてごめんなさい、兄さん。見たかったですか?私達の裸」
ルクスの妹であるアイリとその友人である
勿論、二人共ちゃんと服は着ていた。
「な、何言ってるんだよッ!?あ、ノクトさんも、こんばんは······」
「Yes.ですが、仕方ないかと。年頃の男性は、普段から何かと大変だと聞いています。肉親に対して欲情するのは、果たしていかがなものかと思いますが···」
「何で僕が裸を期待してたって前提になってるのさ!?」
「まぁ、いいですけど。唯一の家族同士、今度一緒にお風呂でも入りましょうか?兄さん」
「アイリ······。恥ずかしいから、人前でそういう冗談言わないでくれる?」
ルクスが頬を赤らめて抗議すると、アイリも少し恥ずかしかったのか、コホン、と咳払いして誤魔化した。
「それでお二人さん、俺達に何か用か?この風呂掃除が終わった後、ルクスはどうするか知らないが、俺は明日の準備をしないといけないから、手短に頼むよ。」
と、此処で漸くライトが口を挟み、それを聞いたアイリとノクトは顔を見合わせると一言、
「では、後で女子寮の大広間にまっすぐ来てください。寄り道禁止ですよ。それじゃあ」
アイリはそうサラッと告げると踵を返した。
「わかった。直ぐ行くよ」
「Yes.楽しみにしていてください」
そう答えたルクスにお辞儀すると、ノクトもアイリと一緒に浴場から出て行った。
「楽しみ······?」
「あ〜···そういう事···」
ルクスは首を傾げて疑問符を浮かべたがライトは分かったようで納得していた。
―――――――――――――――
日も完全に落ちた夜。
依頼主の寮母さんに掃除のチェックをしてもらった後、ルクスとライトは休憩を入れずにアイリ達に言われた大広間へと向かっていた。
(場違いだなぁ···)
そんな事を思っていたら、
「なぁルクス、もしかして自分は場違いだとか思ってないか?」
「えっ?何で分かるの···!?」
「なんとなく···つーか、それ言ったら俺の方が場違いだぞ。庶民の出だし、俺」
「え、でもレリィさんと同じアイングラム財閥の御曹司じゃ···」
「それはレリィ姉さんに拾われたからね俺、それまでは庶民だったし。」
「え、じゃあ何で···?」
「いや何、気付いたらこのクロスフィードに居たんだよ。ここに来るまでの記憶が無くてね、困ってた所をレリィ姉さんに拾われたんだよ。”面白そう“って理由でね。」
「レリィさん···」
でもまぁ、と一言口にしてから一言
「俺がやってみたいって言った機竜の整備をやらせてくれたし、他にも色々と経験を積ませてもらったから感謝してる。寧ろ、感謝してもしきれない位にはな···」
と、月を眺めてそう答えた。
「ライト···」
「なんかしんみりさせちゃったみたいだな···まぁ、それよりもだ。そろそろ行かないとな。待ってくれてるみたいだし」
「そういえば、ライトは分かったの、アイリが大広間に僕達を呼んだ理由。」
「そりゃあ勿論···というか、ルクスは分からなかったのか?」
「うん。」
「···そりゃそうか、楽しい事とは無縁の生活してきたもんな···」
と、悲しそうに口にしたが
「まぁ、行って見てからのお楽しみだな。」
そう言ってライトはルクスの手を引いていくと、階段を降りた広間にアイリの姿を発見する。
「お二人共、身だしなみは整えて来たようですね。見直しました兄さん」
「ぼ、僕だってそれくらいはするよ!」
「では、こちらへ来てください。みんながお待ちかねです」
ルクスの言葉を無視して、アイリがルクスの手を取ると、そのまま渡り廊下を挟んで食堂へ。
「あれ······?ここって、確か――」
「···やっぱりな···!」
食堂は閉まっていてもおかしくない時間なのに、と疑問符を浮かべるルクスと予想通りだと言わんばかりのライトは中に入っていくと、
『編入―――おめでとう』
少女達の声が、一斉に聞こえてきた。
「え······?」
ルクスが正面を見ると、大きなテーブルの上に、たくさんの料理が載っていた。
ソースのかかったミートパイに野菜などが挟まれた各種のサンドイッチ、植物のオイルで和えられたキノコのパスタ、スパイスで味付けされたチキンソテー、野菜を煮込んで甘みを引き出したスープ。更には赤いワインボトルと紅茶のポットまで用意されている。
「これって―――、まさか?」
ルクスの疑問にライトは無言で頷く。
「そう、君達の編入祝いだよ。ルクス君、ライト君」
ルクス達の反応を見て、三和音のシャリスが軽く微笑む。
見れば、小さなパーティ会場のように食堂がセッティングされており、何人もの生徒たちがそこに集まっていた。
リーズシャルテ、クルルシファー、フィルフィにシャリス、ティルファー、ノクトの三和音。
そして同じクラスの生徒数名にライグリィ教官までもが隅に座っていた。
その光景が、一瞬信じられなくて。まるで夢のようで、ルクスは少しだけぼうっとしてしまった。
「あの、もしかして―――僕達の為に?」
「······まぁ、私たちが寄り合って企画した簡易的なものだからね。元王子のルクス君と財閥の御曹司であるライト君をもてなすには、少し粗末かもしれないが、我慢してくれたまえ
」
三年生のシャリスがそう言うと、
「うんうん。料理はみんなの手作りだけど、私が作ったヤツの味は期待しないでね!すっごいヘタだから!」
と、満面の笑みを浮かべてティルファーが、
「No. それはこの場で言うべきではないかと思います」
それに、ノクトが冷静に相槌を打つ。
「ルーちゃん、ライくん。これから、いっしょだね」
「あなた達には期待しているわ。―――色々と、ね」
フィルフィとクルルシファーがそれぞれ二人に声を掛けた後、
「よっ。あー、その···何だ」
奥の椅子に座っていたリーシャが、軽く手を挙げて立ち上がる。
「そ、その――わたしははっきり言って、こういうパーティとか行事みたいなのが苦手なんだよ。だから、その、お前たちが喜ぶのかよくわからん。でも、一応やっといた方がいいかと思ってな······。お疲れ······いや、此度は大義であったな。ルクス・アーカディア、ライト・アイングラムよ。」
恥ずかしそうに、少し視線を逸らしながら、呟く。
「Yes. リーズシャルテ様は、『あなた達にお礼とお祝いをしたくて企画しました。少しでも楽しんでくれれば嬉しいです』と言いたいようです」
「ち、違うぞ!?勝手に意訳すんな!一年のくせに!」
二人のやり取りを見て他の生徒達が笑い出す。
「······」
あまりの驚きで暫く固まっていたルクスだったが、
ライトが、ルクスの左肩を軽く叩き、
「ルクス。」
と、呟くと
「うん。」
と、一言口にして
「――ありがとうございます。リーシャ様、嬉しいです」
「俺もだ、感謝する。リーズシャルテ姫」
ルクスは自然な笑顔で、ライトは微笑みを見せてそう感謝を述べた。
「い、いやっ······まぁ、その、なんだ。わたしも一品だけだが料理とかやってみたんでな。えっと······」
と、ライトを無視してルクスに向かい合うと頬を赤らめて慌て始めるリーシャ、
「姫様、俺こっち。」
そんなリーシャにライトが軽くツッコミを入れた所で、シャリスが軽く咳払いをする。
「では、そろそろ乾杯といこうか?」
その一言に皆がグラスにワインを注ぎ、掲げる。
賑やかな夜が更けていった。
――――――――――――――
翌日早朝、学園外に借りている貸家から制服姿のライトが出てくる。
「ふぁああぁ···」
大きな欠伸を一つ吐き出して学園へと歩いていく。
そして学園へと入ると先ずは寮へ向かい、フィルフィの部屋を探す。
すると、
「おっ、おはようライっち」
「あぁ、おはよう。ティルファー」
寮内でティルファーに出会い、挨拶を交わす。
「こんな所でどうしたのライっち、というか寮に住んでる訳じゃ無かったんだ。」
「あぁ、突然編入が決まったからな。寮の部屋が空いてなかったらしくて、俺は学園外の貸家に住んでるんだ。」
「へ〜···そういやさ、此処に何か用?」
「あぁ、フィルフィの部屋を探しててな。あいつ毎回遅刻してるらしくて、叩き起こしてくれって理事長に頼まれたからな」
「あ〜···言われてみればそうだね、いつも私が起こしてたんだけどそれでも遅刻してるらしくて···取り敢えず、フィルフィの部屋を案内するよ。」
「助かる。」
そうして、ライトはティルファーに案内される形でフィルフィの部屋へと向かっていく。
――――――――――――――
そして、到着して直ぐにライトはティルファーに、
「悪いが、先ずはティルファーから声を掛けてくれないか?···いくら兄妹でも、流石にびっくりされると思うし。」
「それはまぁ、構わないけど···」
そう言うとティルファーは部屋の扉をノックして、
「フィルフィ!もう朝だよー?早く起きないと遅刻しちゃうってば!ただでさえ遅刻が多いんだから、これ以上遅れると―――入っていい?」
すると直ぐに、
「いいよ。入って」
と、フィルフィから入室の許可が下りる。
「ちょ―――!?もしかして鍵掛けてないの、この部屋!?」
「ん?今の声、まさかルクスか?」
直ぐにティルファーが扉を開けて入り、それに続いてライトが入室するとそこには、
「······」
「······」
二段ベッドになっているはずのベッドの下の段に、ルクスとワイシャツ一枚を着ただけのフィルフィが一緒に同衾していた。
そして、ライトとティルファーは口をぽかんと開けて、ルクスフィルフィを交互に見た後、ライトと顔を見合わせて無言で頷くと、
パタン、と扉を締めた。
「お邪魔しましたー!」
「ごゆっくり···。」
「ちょっと!?違うから!その話広めないでッ!」
ルクスが慌てて逃げたティルファーとライトを追いかける。
その後、ライトは逃げおおせて先に教室へと入り、他の三人は、仲良く遅刻となったのだった。