前世のペットと邪神な私   作:囚人番号虚数番

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前世のペットと異世界の教祖

「ご主人様、撫でて撫でて!」

 

「う、うん」

 

「もっと!いつもみたいに激しく!」

 

え、えーと、自身をあの犬のめろんだと名乗る少女は私を押し倒した後体の匂いを嗅いだり執拗に撫でることを頼んできた。それは前世でのめろんの行動とよく似た行動であり寂しがり屋で甘えん坊の姿を想起する。かつて赤色だった毛皮はベージュのロングヘアーになってしまったけれど要素は十分にめろんであった。

 

「んんん……いいよ……いいかんじ……」

 

「(絵面が犯罪的だよ)」

 

しかしそれよりも重要なのはむしろ甘えた声の中にあった。

 

「ご主人が大学で会えなかったときもこーやって撫で撫でしてくれたよね」

 

「あー、あの時も玄関開けた途端に飛びついて来てたわね」

 

「でもあの時はご主人様ずっと暗い顔だったよね。これからはずっと一緒に元気でいよう!私がまた守るから」

 

彼女の口から出る言葉は紛れもなく私の過去の話である。態度といい雰囲気といい、一先ずは彼女が私の知るめろんと同一であると信じよう。それよりも今は彼女の毛皮とは別の意味でふわふわとした体に意識が向いていた。

 

だってさ、明らかに前世の私の全盛期より数段スタイルがいいんだよ?胸は大きいし必要な所は引き締まってる。顔も整っているしそれこそチート能力とかよりいい物をもってると思う。犬だった頃の可愛さには勝てないけれどこれはこれで……いいや、ここだけは前世の方が癒しかな?

 

こうして彼女とのスキンシップが段々楽しくなってきてしまい体感10分程お互いの感じ合いは続いた。そして一通り満足したたためか今度は自身についての興味が生じる。

 

「ねぇ、ここに鏡って無い?」

 

「鏡ですか?今持ってきます」

 

私がめろんに案内を頼むと彼女は張り切ってどこかへ向かった。その間少し手持ち無沙汰だったので教会の中を少し探索する。私が先程出てきた扉の他、ここの教会の正面口と思わしき大きな扉がある。窓はあるものの採光の為であるため屋外の空しか窓には映らない。あの向こうには何があるのか気になりそっと扉を開ける。

 

「ご主人、持ってきましたよ!」

 

あ、意外とすぐに見つかったのね。開ける前に手鏡を持って来てくれた。さて、ここで念願の私のお顔とご対面。

 

鏡に映る顔は死んだ顔の女とは無縁、まるで正反対の小中学生程度の少女である。髪色は白く短く、目は青い。童顔であどけなさの残る顔だ。顔意外も自身を観察すると服は薄い布一枚。下着は無い、そもそも肉体自体が未発達である。

 

うーむ、体が軽いと思ったら予想よりも数段若い体になっていた。未発達な分、身体機能は全体的に出力不足は否めないが節々の痛みも挙動のぎこちなさが無い分機動力自体は向上している。それどころか長年の不摂生のせいで落ちた諸部位の機能が復活した点が嬉しいことこの上ない。

 

「へえ……私、こんな幼い顔してたんだ」

 

「そうですよ。以前も魅力的でしたけれど今の小さくてカワイイご主人様もいいですね」

 

「か、可愛いって……」

 

可愛いだなんて何年振りに言われただろうか。長年人とのかかわりが無いせいで褒められるのに慣れていない。顔が思わず熱くなりめろんから目を背ける。しかしめろんは純粋に褒めているから不思議そうにしている。しかしすぐに何か納得できたようだ。

 

「ああ、そうですね。ご主人みたいに可愛いとこの街では困りごとも多いです。特にここはお世辞にも治安はいいとは言えません。特に今のご主人みたいに可愛い子は悪い人たちに連れていかれちゃいますから」

 

「そ、そうなの?」

 

「はい。心苦しいですが……はぁ」

 

ため息を付くめろんはどこか遠い目をしていた。まるで今語ったことが冗談ではあく本当のことように……え、本当に攫われたりするの!?

 

「しますよ?特に街のこの辺りは」

 

めろんは私が開けそびれた扉を開く。外は薄暗くここよりも酷く損傷した建物に囲まれていた。道は荒れ、微かに異臭を放っている。昼間なのに人通りも無く明らかに荒んでいる場所だと分かる。正面の店らしき建物も今はもぬけの殻だ。まるで教会があるらしい場所とは到底思えない。

 

もしかしたら私が始めに知り合いに出会えたのは予想以上に強いのかもしれない。チートは得られたとしても出会える人々の人柄までは選べない。環境についてはこの際何も言わない、素直にありがたいと思っておこう。

 

呆然と立ち尽くす私を見てかめろんは静かに扉を閉める。

 

「私がご主人様を待っていた理由を話さなければなりません。そうですね、復活直後で何も知らないと思うので簡単に話せる事からにしましょう」

 

めろんは私を長椅子に座らせると隣に彼女が着く。先ほどまでフリフリと尻尾が動いていたのにピッタリと静止してしまっている。犬の時とは違う理性的で初めての空気に思わず緊張する。そして彼女は低い声で語り出した。

 

「異世界というのは日本よりも遥かに危険です。街から出れば獣が闊歩して病気も酷い。差別もあります」

 

「漫画みたいに全ては上手く行かない、と」

 

「ええ、物語のようにパワーバランスは覆らない。不都合も多い、救いの手も気分屋で伸びるだけです」

 

「でもその恰好は明らかに神職だよね。まだ信じるに値する何かがあるの?」

 

彼女は視線を下に落とす。あっ、まずい。聞いちゃいけない事を聞いちゃったかな。耳が垂れて目に見えて落ち込んでいる。すぐに謝るけれどめろんは気にしていない、とこちらに気を使ってくれた。

 

「私が生まれ変わった先は司祭の家庭の一人娘でした。物心が着き私としての自我が目覚めた時にはどこかに嫁ぐか、あるいは神様に身を捧げる事に人生は半ば決定していました」

 

そうか、彼女は私よりもずっと長くこの世界を生きているのだ。話を聞いていて何となく考えてはいたが彼女は私が転生する以前にこの世界に来たらしい。その話しぶりから想像できる全盛はきっと辛い経験だったのだろう。

 

「しかし世界を知る過程で私はご主人様の存在を知り、決心しました」

 

顔を上げ、彼女は真剣な目で私を見る。

 

「この街の姿を見たでしょう。活気はなく寂れた、街の一角です。人々も街と同様に病、貧困、絶望に苦しめられています。ご主人も死の数年前から随分と思い悩んだ様子でしたよね」

 

それは人生色々あったから……というのもあるが人生が苦痛に満ちた物だというのは身をもって知っている。その中で私だけは転生で二回目の生を受けよく知る人物と出会い、まだ試していない貰い物のチート能力もある。

 

「思い当たる節があるようで。そこで提案があります。私と二人で人々の心の拠り所を作りませんか」

 

「私でいいの?」

 

「ご主人様でなければいけません。2人で力を合わせて平和の為にこの教会から世界を一つにします。ご主人様と私がまた仲良く過ごせる場所を作りたいんです」

 

彼女の並々ならない決意はこの短時間の会話だけ伝わった。心に響く彼女の言葉には大きな物を背負う重みが私にも分かる。かつて私が何度も救われたのだ、答えは一つだろう。

 

「分かった。協力する」

 

「えっ!?」

 

ほぼ二つ返事で請け負ったからかめろんの方が逆に驚き素っ頓狂な声に出た。尻尾がピンと伸び驚きようは相当らしい。だけど飼い主として最後までお世話できなかったこともあるししばらくはここでお世話にならないと私の生活がままならい。それを伝えると彼女は涙ぐみながらありがとうございます、と呟いた。

 

「ご主人様……ご主人様ー!ありがとうございます!」

 

と思ったらそこからノーモーションでいきなり私に抱き着いてきた。あまりの勢いに後ろに倒れ込み後頭部を打ち付ける。

 

「ちょ、ちょっと待って。痛いから……」

 

「我慢できませんよー!ずっと断られたらどうしようって不安だったんでしたから!ああ、もう大好きですよご主人様~!!」

 

「だから落ち着いてってば!」

 

その後めろんが落ち着くまで5分ほどかかることになった。

 

「ご主人様には神様をお願い!」

 

「いいよ……へ?」

 

聞き間違いだろうか。今、とんでもない単語が聞こえた気がするけど。

 

「はい、神です。神様です」

 

めろんは満面の笑みでそう言った。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「ええええええええええええええええ!?」

 

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