前世のペットと邪神な私   作:囚人番号虚数番

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明るい街と獣人の奴隷

異世界に転生して2週間が経過した。たった2週間だけれど教会での人々とのかかわりを通して世界の一部を知れた。文字はあの後子供たちの読み聞かせを一緒に聞いてみたりして少しづつ取得中。仕事に使うにはもう少し時間が必要だろう。

 

それとは別にお仕事は順調そのもの。段々と信者さんの信頼を得られてる気がする。結論として知れた全てがいいこととは限らないとも思うこの頃。お昼ご飯を作りながらここ最近を振り返る。

 

思えば異世界に来てから体だけでなく生活力も多少改善しているのかな。前世では料理なんてしなかったし掃除も毎日している。そういえばあの頃で最後に料理したのは大学での手抜き料理だったかな。

 

「めろんー、ニンジン切れたよ」

 

小さく切った野菜をめろんに渡し、次はイモの皮を剥く。が、いつも野菜を入れた袋がついに空となっていた。中をひっくり返してもイモは無く尋ねる。

 

「めろん。イモの在庫が切れてる」

 

「あれ、もうですか?いつもよりも早いような……あ、ご主人様の分か」

 

どうやら私が来てから食事の管理ペースが崩れたらしくついに不備が出たらしい。まあお昼ご飯が若干ボリュームが落ちるが仕方ない。午後に買い物なりで出かける必要があるだろう。

 

「いいですね。午後は街の中心地でお買い物ついでのお散歩に出かけましょう。ずっとボロボロの街からも気分転換がしたかったでしょう?」

 

「まーね、ここらは人はいいけど治安がね……綺麗な街も見てみたいってところ。いいね、行こう」

 

ー--

 

この街、いやこの世界は思ったよりも厳しい世界らしい。私が教会外に出たのはこの買い物と玄関先の掃除の片手で数えられる程度。住む者に外出を控えたくなる気分にする退廃的な貧民街を普段とは違う恰好で共に歩く。

 

両者共にオフモードであり私はめろんのおさがりの私服を着ている。少し大きいが気になる程でもない。めろんも尻尾を隠し深く帽子をかぶり、胸はサラシで潰して完全に別人だ。見方によっては男性にも見えなくもない。それとどことなく不満げだ。原因は分かってはいるけど……

 

「ねえ、まだ根に持ってるの?」

 

「根に持ってるというか、残念ですよ……久しぶりのお散歩なのに首輪が無いだなんて」

 

「いやいや、駄目だからね!?」

 

めろん、私は犬だったころのめろんも好きだったし何なら散歩も実はそこまで嫌じゃなかったよ。けれど人の体なんだよ!?めろんみたいな美人に白昼から首輪つけて歩くだなんて犯罪以上の何かだよ!?

 

しかし彼女はさっきから目に見えて落ち込んでるし雰囲気が暗い。何とかして気の利いた事が言えれば……

 

「私は首輪が無くても一緒に並んで歩ける方が嬉しいかなー、なんて」

 

とりあえず無難に慰めておく。すると暫く無言で考えたあとにぱぁ、と見るからに明るい顔になった。そしてリズムよく「おっさんぽ、おっさんぽ」と嬉しそうに呟いている。気分が良くなったのか彼女は私の手を握る。体格差からの歩行速度の違いから引っ張られぎみになるが必死について歩く。

 

物乞いや道の真ん中で寝る酔っ払いを横に汚れた裏通りを登る。ここまでは私が教会の窓から見えたような光景だ。しかし大通りから先の世界は私にとって初めてだ。

 

「街の中心ってどんなところ?」

 

「綺麗で人間の多い所です。住んでる人達も貧困街の人よりお金持ちばっかりで生活には便利なんです。私達は本来使えませんけどね」

 

「使えない?」

 

「……行けば分かります」

 

道が開け明るい大通りに入る。陰鬱とした裏通りと違い昼間から人通りが多く服装も綺麗な人が多い。前世でテーマパークで見たような赤い煉瓦造りの建物が立ち並び、遠くの空には見たこともない大きな鳥が空を舞う。何でもない光景も本当にいい絵になる。異世界に来て今一番感動した。

 

めろんに代わり今度は私の方がそわそわしだす。壁のように並ぶ店や家の数々がかつて夢見たようなまさにファンタジーであり興味をそそられるのだ。店の商品も見たことも無い不思議な物が陳列され、路上陳列される果物や工芸品をじっくりと眺めていたいものである。

 

「ご主人様!目的のお店は広場の向こうです。だから早く行きますよ!」

 

「うう……もうちょっと……」

 

めろんに引きずられつつ大通りから街の中心広場へと移動する。街の中心広場には中心に大きな噴水が置かれ大通り以上に人が集まっていた。人の多い噴水前で歌う吟遊詩人の歌を聞く人々や広場を囲むように立つ酒場で騒ぐ者、多種多様で様々に楽しみ騒いでいた。

 

が、どうにも私にはこの光景にどうにも拭いきれない違和感を感じていた。人々は皆幸せそうで、なのにどこか胸騒ぎがする。めろんにこの違和感について問おうと彼女の方を向くと彼女は広い広場の中でひときわ目立っていた人だかりを冷たい目で眺めていた。

 

「ご主人様、少し知っておいて欲しい物があります。ただし私がいいと指示するまで何も話さないで下さい。そしてどうか暫く心を殺しておいていただけませんか」

 

彼女に手を引かれ私達は人混みに紛れるように入り込む。強く握られた腕はめろんの腕力と食い込む爪により痛み、彼女からは強い憤りを感じた。人混みを構成する人物らは外側こそ野次馬であれど中心に近づくにつれて段々と身なりが良くなっていく。怒号と悲鳴、狂乱の声が入り混じり、人混みを抜けて私はようやくその意味を理解した。

 

「さあさあ続きましては狼種の獣人の親子!母と娘、片方でもよし両方を楽しんでよし!それではまずは母親の方から!」

 

移動式の檻の中に所せましと詰め込まれているのは老若男女問わない獣人。拘束がされた彼らは仮面の人物らにより見世物のようにされ、それを銀貨を持った者たちが列をなして見物している。彼らは商品として数字に合わせて合図を送り、周りは彼らがより高い値が付けられるのを期待していた。残酷かつ狂気に満ちた光景に声が出そうになるも唐突に強く手を後ろに引かれ、人混みから出たあとにめろんが耳打ちする。

 

「もう声を出して構いません。お見苦しい物を見せてごめんなさい」

 

「ねえ、アレって」

 

「奴隷市場です、専用の市場も常設でありますが一部娯楽目的も兼ねて人前にて販売されます」

 

……娯楽、群集の人を見るに娯楽というのは嘘ではない。人混みの周りを見ると競りの金額で賭けまでされていた。表にはただの競りでも見世物小屋を兼ねているのだろう。残酷だが、合理的だ。

 

「この国では戦争の捕虜や身寄りのない者の『人間』を除く多くは奴隷として売られます。特に個体数が多く頑強な獣人は奴隷に多く、一部の物好きを除き金で買われた後は過酷な労働を強いられます」

 

「一部……」

 

「物好きというのは単に庇護欲に飢えた一部の変態、あるいは生物としてすら……いいえ、やめましょう。一度離れます」

 

人混みを遡り群れる人から逃れる。何だか気分が悪い。買い物はいいから少し休みたい、私は無意識に適当な喫茶に足を進めるもこれもまためろんが静止する。

 

「心を休めたい気持ちは痛い位分かります。ですが私達獣人にあのお店は使うことが出来ません」

 

使えない、そこで私はこの広場の違和感に納得した。獣人があまりにも少ないのだ。人こそ多いものの「人間」ばかりで獣耳や尻尾は見当たらない。更に言えば全ての店には赤いバツで記された爪跡のマークがどこにでもある。そこに書かれた文は「人外禁止」と端的に描かれていた。つまりこの辺りの全ての店舗はどこも使用を禁止されている、という事だろう。

 

たしかに二人で入れないのなら意味はない。私達は早歩きでその場から立ち去る。

 

ー--

 

暗い裏通りの家に紛れた小さな店。看板もなく窓はカーテンで閉じられている。同時に獣人禁止のマークも存在しない。めろんは抵抗なくその店に一人で入ると時間も経たない内に再び出てきた。

 

「ご、ごめんなさいご主人様!その、大変申し訳ないですが店主の方が子供には入店を控えて欲しいと」

 

「ええっ!?何それ、私駄目なの!?」

 

「私も連絡はしたんですけど扱っている商品を子供に荒らされたくないと。普段からお世話になってる手前、本当にごめんなさい。確認不足でした」

 

という訳で結局私は一人で店先に放り出された。私の服や教会の道具もここで揃えたいと、買い物を終えるまでは一時間位だそう……グスン

 

あんまりにも、あんまりじゃない?今日。まあ、めろんも計算外だったみたいだし今はただ不運だったと割り切ろう。前世でもこれくらいの不運よくあったしメンタルは強く保とう。空いた時間を店周辺の散歩で暇つぶしだ。幸いここは綺麗側な街であるから治安はいい筈だ。

 

裏通りを一本抜けて大通り、ここの区画は店は小さく、私にも気になる所は無かった。もしカメラがあるのなら無限にいれたのに。前世への数少ない未練に思いをはせ空を見上げる。

 

すると黒の半円の紋章が目に入る。それはエスサイトスのシンボルであり、教会であった。私達の木造の小さな古教会と違いがっしりとした白い石造りの教会は見るからに上質で規模も大きい。地理や広場の事を踏まえると多分人間はここを使っているのだろう。

 

獣人禁止のマークは無い。つまりここならばめろんとも入っても良い所なのだろう。私の好奇心も相まって安心しきった私はふらふらと教会へと足を踏み入れた。

 

 

 

現在位置 環の教会

 

「綺麗……」

 

入ってまず一番に言葉はそれだった。荘厳で神性な教会はステンドグラス越しの光により色鮮やかに彩られ、神秘的な雰囲気を醸し出している。そして何より中央に鎮座する猫耳の女神像だ。慈愛に満ちた微笑みを浮かべた彼女はまるで生きているようで、今すぐにでも動き出しそうな程精巧に作られていた。

 

「君、お祈りに来たの?」

 

どこかから不意に声をかけられた事に驚き振り向く。そこには修道服を着込んだ女性が立っていた。年は恐らく高校生程度で顔つきにはまだあどけなさが残る。服装もめろんとは違い形こそ修道着に近いものの白と赤を基調とした神性で、どこか派手さのある服装をしていた。

 

「あ、いえ、はい」

 

「小さいのに偉いねー、最近は大人だって祭事以外には来ないのに君みたいな子は珍しいね」

 

彼女は親し気に私に声をかける。「ここに来るのは初めて?」と聞かれたので素直に首を縦に振る。

 

「それじゃあまずは自己紹介だね。私はハルニア、環の聖女って呼ばれてる」

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