前世のペットと邪神な私   作:囚人番号虚数番

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環と聖女

私は長椅子に腰を掛け両手を組んで祈る振りをする。毎日めろんの教会で信者さんと混じって祈っているはずなのに他人の教会となるとどうにも居づらい。綺麗すぎるというか、いい大人が若者に混じった子供のような場違い感が大きい。

 

その上聖女ハルニアと名乗る彼女がすぐ隣に座っている。人形のように整った美しい彼女はただそこにいるだけで神聖な雰囲気を醸し出す。

 

さて、ここで彼女の容姿について少し補足する。瞳は金色で髪は銀に近い白で背中まであるストレートヘア。若干の幼さの残る美人で身長は女性にしては高い。スタイルも良く、程よく引き締まっている。はっきり言って非の打ち所がない。

 

「どうしたの?私の顔に何かついてた?」

 

彼女に指摘されハッとして目を閉じて祈る。無意識のうちに私は彼女に見とれていたらしい。恥ずかしそうにする私を彼女は微笑んだ。小さい子供のような扱いをされるとそれはそれで私も恥ずかしい。

 

「面白い子だね。君、どこから来たの?」

 

不意に彼女は私に問う。私には過去の設定こそあれど決して強固なものではない。だから詳細なデータを要求されると今のように困り戸惑った。

 

「ええっと……遠くの国から来ました、1ヶ月前位に」

 

「外から来たんだ。珍しいね。ここがどんな神様を信仰してるか知ってる?」

 

どうやら彼女は納得してくれたらしい。それより彼女はこの教会で祀る神様についての話を始めた。一応私も同じ神を祀る教会の者だから概要はだいたい知っている。が、彼女の親切のためにも聞いてみた。

 

「ここはフィルド教の環の教会。エスサイトス様を信仰してるの」

 

「フィルド教、初耳です」

 

「エスサイトス様は黎明、夜明け前って意味の神様。終焉と誕生を司るすべての祖であり万物の末路の化身なんだ。この世界にもいたりいなかったりするらしいよ」

 

「いたりいなかったりって、どちらですか?」

 

「さあ、でもいるときはいるんだよ。だって私がいるんだから」

 

すると彼女は席を立ち壇上に上がる。壇の後ろには綺羅びやかな杖が安置され、彼女は当然のように手に取った。杖は赤い水晶が嵌め込まれた豪華な装飾がされている。

 

「それ使って本当に平気なんですか」

 

「一応私物だからセーフセーフ」

 

彼女は杖を持ち壇の裏側にしゃがみながら話を続ける。

 

「この世界には聖女って神様から力(チート)を貰った特別な人がいるの。男の人は勇者でどちらも含めて『能力者』とも言うかな」

 

能力者?神様の話と聖女までは知っている。しかし能力者というのは聞いたことがない。が、しかし続きを聞いて納得した。

 

「で、その能力者の中に『転生者』って人たちが皆口を揃えて神様に転生させてもらったんだって。あの人たちは面白いよ、私達とは別の世界から来た人達だから面白いお話をしてくれる」

 

「へ、へーそうなんだー。知らなかったなー」

 

「星詠みさん達からは噂だけで知識がないって残念がられてるけどね」

 

笑ってるけど思いっきり私のことじゃない!?確かに転生するときに誰かに話しかけられたのは覚えてるけど、というより私以外にも転生してる人っていっぱいいたのか……大体こういう転生する話だと転生者とかは少数って相場無い?特別感が薄れて残念だ。

 

と、一人考えていると彼女は透き通る水晶玉を持っていた。金属の細工が嵌め込まれ見るからに貴重品そのまま素手で触れている。うっかり落としたら割れてしまいそうだ。で、その水晶玉を私に見せて何をするつもりだろう。

 

「教会に来てくれたちょっとしたご褒美だよ。これに触れてみて」

 

「ありがとうございます(触るののがご褒美って、動物かな)」

 

疑いもなく冷たい水晶に触れる。すると透き通った水晶の中が暗く濁った。手を離すと濁りは消え、ただの水晶へと戻る。異世界に来てやっと異世界らしいものを見た私は感動を覚えた。が、驚いているのは私だけではないらしい。

 

「えっ……えっ!?」

 

というか、絶句。ぐうの音も出ない位にハルニアさんは動揺している。水晶とこちらを交互に見てくる。一応、人から驚かれる心当たりはあるのだけど……

 

困惑する私をよそに落ち着きを取り戻した彼女は笑顔で私の手を取ると大きな声で

 

「君、うちの教会においでよ!」

 

 

 

………?

 

「え、ええええ!?ななななんで!?私が何かしましたか!?」

 

「実はその水晶玉、どんな能力者の魔力からどんな人か分かる魔法の水晶なの。普通の人は触れてもないもないけれど……あっ、私が触ってた!」

 

彼女は水晶を机に置き、完全に誰の手にも触れていない状態となる。すると水晶は透明感を失い白く不透明な色へと変化する。

 

「私が触ると透明になるの。けど他の人のは初めて見た。君は黒くなる人なんだ」

 

知ってはいた事だけどいざ他人から指摘されると不思議なものだ。まだ能力は使えていないのだが私以外にも似た存在が確実にいるというのは証明された。

 

「最近この街も安全じゃなくなりつつあるの。獣人は怪しいカルトを信じてるし魔族の侵攻も進んでる。そろそろ街に直接の被害が出てもおかしくないの」

 

「(え、そうなの?結構危機的な状況……待って、そのカルト私達!?)」

 

「だから、もし良ければ私達でこの街を守ろうよ!」

 

まくし立てるように彼女は強引に誘ってくる。しかし私にはめろんのいる教会があるからこの誘いにはまず乗れない。というか聖女とかこれ以上に重荷背負いたくないんだけど!?と、取り敢えず私は言い訳を並べる。

 

「ま、待って!能力なんて今知ったし使い方なんて知らないですけど!?」

 

「あっ、そうだよね。ごめんごめん」

 

彼女は我に返ったようで落ち着きを取り戻す。時間もいいところだし話の途切れたスキにここでお暇させていただこう。

 

「と、とりあえず聖女とか難しい話はまた今度でいいですか?そろそろ帰らないと心配されちゃうので」

 

「いいよ。普通に生活していて能力が発現しないのはよくあるし、でも落ち着いたらまたお話したいな」

 

苦しい言い訳でこの場から逃げる口実を作り出口まで早歩きする。聖女についてはめろんに教えてもらわないと。私の知らない能力も教会に役立てたいし。

 

 

 

しかしドアを開けようとした瞬間、後ろから止められた。

 

「な、離し「静かに」

 

後から私の手を伸ばし、ノブに触れる寸での所でハルニアは私の手首を掴む。強引で真剣な様子で、ほんわかした雰囲気が無い。嫌でも私とは無関係に何か不味い事が起こったと感じた。そしてそれが事実だと示すかのように体に響く爆音がドアの向こうから体を揺らす。

 

「この距離、反響の仕方……何で誰も気が付かなかったの。君、外で空で普段見ないものを見た?」

 

普段見ないも何も街の中心部は初めてで何がなんだか分からないのだが。

 

「い、いえ。大きな鳥が飛んでる位でしたよ」

 

頭の片隅で今日見た物で適当に印象的で、尚且つそれらしい事を口走る。

 

「鳥……っまさか!」

 

しかし、案外最悪の事態というのはどうでもいい所に潜む。途端に彼女はその意味に険しい顔をする。直後に出ようとした扉が勢いよく開かれた。私達は反射的に身を反らし怪我はない。

 

「ハルニア様!街にドラゴンが侵攻してきました!詳細は不明、ですが見張りの観測により魔王領の方角より襲来です!」

 

伝令、というのだろうか。まだ慣れない異世界でその役割はまだ完全に把握しきれていない。だが彼が来た途端に明確にハルニアの雰囲気が真剣な物になった。つまり、ドラゴンというのは本当なのだろう。

 

……ドラゴンが来てる!?異世界については詳しくないけれど生態系の上位者じゃない!?で、それが私達の住む街に攻めて?あわわわわわわわ!

 

「私からも報告です。たった今街の周辺でも既に犠牲者が現れました。ファランは動きましたか?」

 

「そ、それが……既に出兵し主要部隊を送り出したものの苦戦、街の外周まで攻め込まれています」

 

「そうですか……仕方がありません。私が直々に出動します」

 

ハルニアは深刻そうな顔で俯く。

 

「分かりました。それと、その少女はどちらへ」

 

ハルニアは混乱する私の肩を掴んで引き寄せると、私の目をじっと見つめてくる。彼女の瞳は力強く優しく、私の乱れた精神を落ち着けた。

 

「今から私はドラゴンの討伐に向かいます。ですのであなたはこの教会で安全に避難していてください」

 

「あ、あの……私……」

 

「大丈夫。君は何があっても守り抜くから。あれくらい慣れてるし」

 

「……はい」

 

彼女なら本当に守ってくれるような気がして、つい返事をしてしまった。けど、正直不安でしかない。こんな非日常に巻き込まれた事なんて今まで無かったし、何よりもめろんが心配で仕方ない。もしかしたらめろんもドラゴンに気が付いて私を探しているかもしれないと思うと心が痛くなる。

 

「ごめんね。巻き込んじゃって」

 

申し訳なさそうな彼女を安心させるために笑顔を見せる。それを最後にハルニアは男と共に教会を立った。扉の向こうに見える教会の外の街は大騒ぎ。地獄絵図が広がっていた。

 

悲鳴を上げる人、泣き叫ぶ人、パニックになり逃げ惑う人。人、人、人。人だらけだ。しかしその中に一人、めろんが確かに紛れていた。

 

「めろん!」

 

ハルニアの忠告はあるが、それでも私は人混みをかき分けて彼女に気づいてもらおうとした。しかし、めろんはその声に気が付くと一瞬驚いた表情を見せた後に一目散に駆け寄ってきた。

 

「ご主人様!無事でよかった!」

 

彼女は必至に探していたのか涙目になって私の身体を抱きしめる。道の真ん中で人混みに揉まれながらも触れ合う感触にやっと自分が助かったんだと実感できた。

 

「ごめんね。心配かけちゃって」

 

「本当ですよ!勝手にいなくなって!ご主人様はもっと自分の身を大事にして下さい!」

 

「うん、反省する。一言残すべきだった」

 

「けど、こうしてまた会えたので許しましょう」

 

それから暫くお互いの安否を確認し合いながら抱き合った。しかし、そんな幸せな時間も長く続かない。突如として遠くから聞こえる爆発音や振動が現実に引き戻される。

 

「早くここから離れないと危ないですね。安全な場所に移動しましょ……う?」

 

突然めろんの視線が私の背後に移る。それはまるで幽霊でも見たような、信じられないという顔をしている。そして次の瞬間にはめろんは私の背中を押して教会内へと押し込む。

 

「っ!?」

 

「ご主人様はここに居てください。私が何とかしますから」

 

めろんは私の前に立つと……

 

「めろ―――」

 

「ご主人、ごめんなさい!」

 

彼女は私を突き飛ばした。そして、燃え盛る火柱が迫る。咄嵯に手を伸ばすも、届かない。

 

「嫌ぁああああ!!」

 

教会はめろんを巻き込んで炎に包まれた。奇跡的に焼かれずにいた私は呆然とし、私はその場で崩れ落ちる。力なく扉の先に視線を移すと燃える街といくつかの焼死体、それと巨大な影。

 

割れた屋根の穴から見上げれば赤く堅牢な甲殻と鱗に包まれた岩のような巨体がそびえたっていた。低く唸り口から炉の如く灼熱を吐き出す姿は正に「竜」と呼ぶに相応しい存在。

 

「…………め……ん」

 

私は……無力で何もできない。何も……できなかった。しかし何かをしなければ死ぬ。その考えだけが頭を過った。

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