それは、食堂にたまたまトレーナー同士集まっていた時のこと……。
「おはようございます」
私は近くに座る先輩トレーナーに挨拶をするが、その先輩はこちらを見るなり訝しげな表情を浮かべていた。
「おはようございま…す…?」
…まぁ驚くの無理はない。
何故なら、今の私は大人サイズのベビー服に加え、よだれ掛けやおしゃぶりまで装備しているのだから。
だが、誤解をされたままというのもいただけない。
流石に根も葉もない風評被害を被るのは誰しも御免というものだ。
私は未だ身構えた様子の先輩トレーナー方に何故この格好をしているのか説明をする。
「いえ、これはクリークが…」
「ああ…大変だな…」
「いつ来ても良いようにと思い、スタンバイしているだけなので、ご心配には及びません」
「自分からその格好を!?」
む、なにもそこまで驚くことも無かろうに。
それに私とて、そんな性癖に目覚めたつもりはない。
「いえ、私なりに考えあってのことでして…」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。実を言いますと…」
事の発端はつい先日のこと…。
「ほ〜らトレーナーさん♪お着替えちまちょうねぇ〜♪」
「いや待て、流石にそれは…」
ニコニコと邪気の無い笑顔でこちらににじり寄って来ているのは私の担当ママ娘…いや、ウマ娘スーパークリーク。
その手にはおしゃぶりやベビー服が握られており、当たり前のように私に着せようとして来たのだ。
かと言って、隙を見て走って逃げようにもウマ娘の健脚を前にしては人間が逃げ切れるわけもなく…。
「は〜い♪お昼寝のお時間でちゅよ〜♪」
抵抗空しく着替えさせられた私はそのまま仮眠室のベッドに寝かされ、布団をかけられる。
「いやしかし、私にはまだ仕事があるのだが…」
「だ〜め、また徹夜でお仕事したんでしょ〜?頑張るのはえらいですけど…無茶はメッ、ですよ?」
そう言うや、クリークは有無も言わさず子守唄を歌い始めたため、これ以上は何を言っても聞き入れてもらいないことを悟った私は、大人しく仮眠をとることとした。
「それでは…一時間したら…起こして…く…れ…」
その優しい声音のおかげか、五分とせず寝入ってしまった。
「………それで、今のその格好に何の関係が?」
「いえ、最近は私がスーツやジャージを着ていると何故か着替えさせようとしてくるので、それなら最初からこの格好をしていれば問題はないかと…」
「まぁまぁ〜♪」
背後から聞こえてくる聞き慣れた声。
しかし最早慌てるような私では無い。
「残念だったなクリーク。私はすでにこの格好…着替えさせることは出来んぞ」
「あら♪それなら手間が省けました〜♪」
うん?
「さぁさぁ、お客さんがお待ちですよ〜?」
ガシッと腕を掴まれ、抱っこの格好で運ばれていくと…。
「はいっタマちゃん♪こちらが私の自慢のトレーナーさんです♪」
………なぜか小柄な芦毛ウマ娘の前に連れて来られたのだった。
「いや、何で連れて来とんねん」
それは私が聞きたい。
「うふふ♪トレーナーさんの話題でお話ししてたら、つい連れて来たくなっちゃいまして〜」
「いや、困惑しとるやろ…」
「トレーナーさんは、いつも私に甘やかさせてくれて…」
「いや、人の話聞かんかいっ!!」
「うふふ♪」
幸せそうに語るクリーク。
いつも巻き込まれる側は少々骨が折れるが…。
「本当に、トレーナーさんは頑張り屋さんで…」
……だがまぁ、たまにはこういうのも悪くないだろう。
……これはこれで。
続く…かなぁ。