「先輩。これはどちらに運べば…」
「お〜うこっちだよ新人」
私は先輩に頼まれて荷物を運んでいた。
「悪いなぁ。オレが腕をやっちまってなきゃあ…」
「いえ…困った時はお互い様でしょう?」
「ホンットすまん。今度ラーメンでも寿司でも奢るからなぁ」
申し訳なさそうにギブスをしていない方の手で手を合わせる仕草を見せる先輩に、私は無難に返す。
頼るあても帰る家もない私がいたずらに人間関係を拗らせる訳にもいくまい。
そもそもトレーナーという職自体エリートの証と言っても過言ではない。
新参者で、ほぼ異例の抜擢をされた私は少しでもそれを埋める努力が必要だ。
頼まれごとや小さな気配り、そのひとつをとっても丁寧にして信用を築かなければならない。
…とは言え、クリークはそれらをめざとく見つけては甘やかして来るのだが。
私がトレーナーとしてトレセン学園に勤めるようになっておよそひと月。
最初は以前の記憶がなかったことへの漠然とした不安感や恐怖のようなものはあったものの、今となってはそれもかなり薄れている。
とは言え…それが完全に無くなったわけではない。
「私自身が何者なのか。どこから来て何を目的にしていたのか…まさか手がかりすらわからないとは…」
先の先輩トレーナーからの要件を済ませ、クリークのトレーニングに向かう。
「む?」
クリークが待っているターフに、何やら話している人影がある。
片方は私の担当ウマ娘であるジャージ姿のスーパークリーク。
そしてもう片方は……。
「だからなぁスーパークリーク。キミは新人が担当するには荷が重いと…」
「あらあらまぁまぁ…」
…確か、私が彼女を担当することに決まった際、なぜかゴネていたベテラントレーナーだ。
まぁ、彼女は言うなれば金の卵。
俗な話、自身が担当することで己の功績にできるのならそうしたいというのは当然と言えば当然か。
「何があったクリーク」
私は素知らぬ顔をしてクリークに話しかける。
「あらトレーナーさん」
「む…」
私が説明を求めると、彼女は困ったような表情を浮かべる。
「それがですねぇ〜…」
「…私はこれで失礼させてもらう」
クリークが何かを言い切る前にベテラントレーナーはサッサと帰っていってしまった。
その後、クリークから話を聞く。
曰く、彼は未だ彼女に未練がある様子であり、自身の担当ウマ娘と勝負をしてみないかとのこと。
「それは困ったな」
何せ我々は本当に基礎の基礎くらいしかしていない。
普通に考えればベテラントレーナーのいう勝負に勝ち目はないが…。
「そう言えば、勝負内容は聞いているのか?」
「え?いえ…せめてものハンデとして私たちの好きな勝負でいいと…」
「ふむ。そうか…」
そうかそうか。
それはちょうどいい。
「トレーナーさん?」
「いや、クリーク。心配はするな」
如何に私が新人とは言え、その担当に唾をつけようとは…。
コレは思い知ってもらわねばなるまい。