私がトレセン学園のトレーナーとなってそれなりの時が経過した。
仕事は忙しいは忙しいが、それでもなぜか以前よりも充実している気がする。
それと言うのも、同僚も先輩方も基本いい人だし、皆いい意味で気安く話しやすい。
困った時はお互い様と、忙しい合間を縫ってフォローを入れてくれる人も少なく無い。
何より、最近特に親しくなったのが…。
「あのっ…アズナブルトレーナー!!」
「む…?ああ、桐生院トレーナー。お疲れ様です」
こちらの桐生院葵トレーナー。
私と同時期にトレーナーとなった女性で、同期としてそれなりに相談したり、逆にされたりが日常となって来ている。
クリークだけでなく、他のウマ娘も見ることはトレーニングを考えるうえでいい刺激になるし、視野が広がる気分になれていい勉強にもなる。
とは言え、距離感はほどほどを保つのが基本。
彼女は大丈夫だろうが、万に一つでもこちらが不利になるような情報を渡しては元も子もない。
彼女自身善良な人物なのはひしひしと伝わってくるが、それはそれ。ライバルはライバルだ。
「クリークさん。今日も頑張ってましたね!!」
「そちらのミークさんもかなりの素養があるようにお見受けするが…」
「あはは…私がその素養をちゃんと引き出せてあげられてるのか…ちょっとだけ不安もありますけど…でも、お世辞でもそう言っていただけて嬉しいです」
照れくさそうにそう返してくる桐生院トレーナー。
その後も、互いのトレーニング方法や、その結果について意見を交わす。
素直なのはいいことだ。
家のことで色々とあるのだろうが、私から見た彼女は若さの割にしっかりと自分の足で立てているように思う。
まぁ、私自身もまだまだ若造だと言われればそれまでだが…。
この数ヶ月で担当ウマ娘とコミュニケーションがきちんと取れているようにも見受けられる。
「まだまだお互い足りない部分はありますが、頑張りましょう」
「っ、はい!!アズナブルトレーナー!!」
彼女はどこか気負っているところがあるように思う。
ともあれ…いつの世も、親が立派だと子が苦労するのやも…。
む?何故、私は懐かしさを覚えた…?
……まぁいいか。
ともあれ……。
「では、私はこれで」
「あ、はい。長々と引き止めてしまい…申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ、お話しできて楽しかったです」
桐生院トレーナーに背を向け、寮へと向かう。
夕方の涼やかな風が頬を撫でて吹き抜けていく。
「……さて、明日はタマモクロスとの並走トレーニングと、それから…」
その当たり前の光景に…何とも言えない充足感が私を満たしているのが、改めて分かったのだった。