だからこそ、この章は必要でした。
四章から始まった「対魔王軍編」における答えの一つです。
『あの魔王一族は異常だ。何せ世界を渡りうる力──輪廻機構である『門』の力を独占している。──故に、事がこの世界の中に留まっているうちに奴を仕留めなければならない』
塔が語る。
曰く、この事態はまだこの世界のうちで留まっているそうだ。
「この世界の中に留まってるうちに? だがあの異世界への門とやらは俺達の世界にも────」
「っ! ……ブラザー。そういえばあの魔王、キノコ王国には一度も現れてねぇ。むしろ俺達がこの世界に引き寄せられてから魔王と会ってる」
そして、確かに魔王はこの世界のうちに留まっていた。
『そうだ。魔王はまだ世界を渡れない。今代の魔王は、まだ門の力の制御をできていない。だが、あの姫の力を確保した今────奴は、他の世界に侵攻を始めかねない』
「それが、奴の目的なのか?」
「────」
ウルフリックは黙って慎重に事態を静観している。
彼から裏付けを取ることはできなさそうだ。
『魔王とは何か? 世界を滅ぼし、あらゆる有を無に帰す終末機構』
「──っ──」
『勇者とは何か? 世界を存続させ、既存の有を護る抑制機構』
「勇者……?」
『だが今の終末機構は壊れ、しぶとく生きている。故にこそ勇者を管理するこの塔こそが、代々の魔王の台頭と共に現れては一族を倒してきた』
「勇者を、管理?」
塔は語る。
聞いてもいないのに、ぺらぺらと語る。
その勢いに面食らい、思わず言葉を反芻する。
『特別な魔王に対抗するには、普通の勇者では不足だ。故に、我々が勇者の肉体を管理し、特別な勇者に仕立て上げるのだ。……今度こそ、終末機構を滅ぼすために!』
「っ!」
「ブラザー!」
そうしていると、塔の中から一つの思念が飛んできた。
思念の向かう先は、マリオだ。
『勇者の塔とは! 魔王に対抗する戦士を招き入れ、試練を乗り越えた勇者を新たな同胞として迎え入れるための機構!』
「新たな同胞──まさかブラザーを洗脳する気か!」
『人の身では、振るえる力に限度がある。だが我々はそのリミッターを外すことができる! ならばその肉体、我々が活用すべきだと思わんのかね?』
「てめぇ……!」
思念はマリオのうちに入り込み、その意識を奪おうとしてくる。
「──らぁ!」
『何──我々の思念を、弾いた?!』
が、マリオはその思念を軽々と弾く。
体は十分言うことを聞く。
「……長いこと冒険をしているとな、操られる経験も出てくる。──そりゃ、ある程度は弾く方法の傾向もわかる。今回は気迫だ」
「おいおい気迫って、ずいぶん強引だなブラザー」
「完全に操られる前だからこそできた芸当だがな。もし判断が遅れたら、いつかみたいに誰かの助けが必要だったかもな」
「ブラザー……」
スマブラの時なんかは、見事に不覚を取った形だ。
他の時だってそうだ。
だが今回はそういかない。
しっかりと己を再確認し、自らの足で相手と対峙する。
『────致し方ない。ならばまず、君を無力化しよう。気絶した状態なら、気迫も何もなかろう?』
「俺を無力化するって、どうするよ? さっきからうすうす感じてたが、お前には俺を倒すための肉体がないだろ?」
周りを見渡す。
この場に、マリオの敵となるものは存在しない。
『その通り。上層の手駒の殆どは君達が倒してしまった──故に、やはりこの場にある新たな肉体が必要だ!』
「まさか……ルイージ!」
「ッ!」
塔の思念がまた飛び出す。
その向かう先はルイージ────ではなく、ウルフリックだ。
「無事か?」
「……俺はな。だがこれは──」
ウルフリックの方を見やる。
そこには、頭を抱えて苦しむ彼の姿があった。
「グ、ウ──オノ、レ」
『ほう、魔物の分際で中々に強情だな? だがそこの彼ほどではない!』
「ッ!」
「ウルフリック! 気を強く持て!」
『無駄だ! 魔の本能を有する魔物にそれほどの精神力はない!』
「グ、ガァァァァアアアアア?!」
ウルフリックが叫ぶ。
雷に打たれたかのような、そんな絶叫がその場に響き渡る。
それを最後に、ウルフリックの意識がそこから消えていく。
塔の思念が、ウルフリックを支配する。
「ッ、ウ……ハヤク、退ケ。オレガ、オレデアルウチに……」
「ウルフリック!」
「……オレノ、部下を頼ム。マリオ、ブラザーズ────」
『──っ──!』
「……ゥ」
梯子をしていたウルフリックの部下達が遅れてその場に現れる。
が、塔の思念に操られるウルフリックに、かける言葉がない。
「っ……撤退するぞルイージ。俺達だけならともかく、奴の部下がいるこの状況は色々と不安定すぎる」
「だな。おい、そこのお前らもついてこい! ……自分のボスとはやりあいたくないだろ」
『──っ!』
「話は後だ! ウルフリックの意思を無駄にする気か!」
『っ────』
仕方なく、ウルフリックの部下達を連れてその場を撤退する。
今できるのは、それだけだった。
◆
ウルフリックの部下たちを連れてテント街に撤退。
するとそこはパニックになっていた。
なぜなら塔の中にいたスケルトンやゴーレムが暴走して冒険者達と戦っていたからだ。
とはいえ歴戦の戦士たちは、マリオ達が戻ってくるのと前後して勝利して、事態としてはひと段落していた。
思ったより頼もしい者達だ。
「……で、お前らはなんで頭を下げてんだ」
『────』
そうして事態が落ち着くや否や、ウルフリックの部下達がこちらに向けて土下座してきた。
言葉こそわからないが、言いたいことはなんとなくわかる。
塔の思念に乗っ取られたウルフリックのことだろう。
「アタシからもお願い」
「ローランドさん……」
「ここに、塔での稼ぎがある。これがアタシからの報酬。────あの子は、ここで終わっていい子じゃない。それは、貴方達もわかるでしょう?」
「まぁ……否定はしないけどさ」
ローランドをはじめ、多くの冒険者達が頭を下げてくる。
それほどまでに、彼は受け入れられていたということなのだろう。
「ルイージ」
「わかってる。俺も同意見だブラザー」
「ローランドさんの言う通り、あいつはこんなところで終わっていい奴じゃねぇ。本当は敵同士だけど──今回ぐらいは、助けてもいいかもな」
「じゃあ早速あいつを見つけて肉体を叩きのめしてしまおう。洗脳を解くならそれが一番だ」
◆
『おや、君達の方から来てくれるとは……我々の意を汲んでくれるというわけかな?』
「まさか。むしろ探してたのは俺達の方だ」
『抑制機構』ヒーロータワー。
その中に入り込み、しばらく進んで広い大部屋に差し掛かる。
するとそこに、ウルフリックがいた。
探す手間が省けて良い。
『ふむ、まさかこれを助けに? これは魔物だろう? 君達とは相容れない化け物だ』
「そんなんじゃねぇよ。ただな、どうにもこのまま五つ目の星石をかっぱらってとんざら……ってのが、気持ち悪くていけねぇ。ただそんだけだ」
「っ──」
『──っ』
まずはマリオが仕掛ける。
すると憑依ウルフリックはその手にある斧に炎を纏わせ、薙ぎ払おうとする。
「らぁっ!」
それに対してマリオは水属性ハンマーを振るってつばぜり合いを演じる。
と同時にルイージが肉薄する。
「ぐっ?!」
「ルイージ?! ……っづ?!」
が、憑依ウルフリックは、斧から手放した左手で裏拳を放ってルイージを一蹴。
さらには右手だけでハンマーごとマリオを吹っ飛ばす。
「つぅ────ったく、なんだこりゃ。何かはあるとは思ったが、それにしたってウルフリックの奴とは動きが段違いじゃねぇか」
「……人間は、どれだけ全力を出そうとしても脳がリミッターをかけていて力を出せない、だったか」
「ルイージ?」
「もしこのどっかで聞いたような理論がウルフリックにも適応されるなら……塔の思念とやらはウルフリックの本当の全力を引き出すことができているかもしれねぇ」
「さっきあいつがリミッターを外すとかどうとかってのは、そういうことか」
『っ────!』
憑依ウルフリックが仕掛けてくる。
とにかく以前とは比べ物にならない速度で炎の斧を振り下ろして、地面をたたき割る。
「おいおい、パワーも桁違いだな……多分一撃貰っただけでアウトだなこりゃ」
「言ってる場合じゃ──うぉ?!」
すると今度はその場で炎の斧を薙ぎ払い、その勢いで抉った瓦礫や炎を周囲にまき散らす。
それを、二人してジャンプして避ける。
が、どうにもペースを握れない。
攻撃を避けることができているのに、そこから反撃に繋げることができない。
「どうするルイージ? こいつは別の意味で厄介だぞ」
「こういう手合いはフィジカルが優勢な分、予想外の一撃に弱い。即興で新技か策を作って繰り出すか──今まであいつに見せてねぇ手札を使うかだ!」
『雷──この魔物は直接見ていない技か』
ルイージがサンダーハンドを展開し、憑依ウルフリックの注意を引く。
「なるほど……そりゃいい手だ!」
『っ! 舐めるな!』
「っ──!」
その隙をみてマリオが水属性ハンマーを振るう。
が、憑依ウルフリックは炎の斧でハンマーを弾き、素早く左手でマリオを殴り飛ばす。
「よそ見してる暇はねぇぜ」
『ぬ?!』
だがその代わりルイージのサンダーハンドが憑依ウルフリックに突き刺さり、ウルフリックに憑依した思念は肉体ごと隙を晒す。
「勝機!」
そしてすかさずルイージがファイア昇竜拳を繰り出す。
『ぬ、ぐぅぅぅううう……!』
「なっ……避けた?!」
が、憑依ウルフリックはその一撃を回避。
ルイージは大技を外し、致命的な隙を晒してしまう。
故にこそ、憑依ウルフリックは即座にルイージへ反撃を放とうとする。
「させるか!」
そこにマリオのファイアボールが刺さり、憑依ウルフリックの反撃が潰れる。
それと同時に、ルイージはその場から離脱できる。
「無事かルイージ」
「あぁ、助かった……けど、次はどうすりゃいい? まさかあそこまで機敏に対応してのけるだなんて……」
「いや、今のでいい消耗をさせられたかもしれねぇぞ」
『──っ──』
マリオが指摘すると、憑依ウルフリックは肩で息をしている様を晒す。
「無理やりリミッターを外した反動で息切れしてる。予想外の一撃と必殺の一撃を何が何でも避けようとして、ああして体にガタが来てる」
「じゃあもう一回同じようなのをやれば……」
「ああ、ケリがつく」
『グ、ウ……!』
先の攻防で、確実に憑依ウルフリックを追い詰めている。
いつまでもさっきのような動きができるわけじゃないということだ。
「けどブラザー。残りの魔力リソース的に、俺は後サンダーハンド一発とファイア昇竜拳一発の合計二発しか放てないぞ?」
「十分だ。俺にはファイアボール二発分が残ってるし、それに魔力が尽きてもまだ手札はある──勝てるぜ」
それに対してマリオ達にはまだ切っていない札がまだまだある。
この間のウルフリック戦よりはきつくとも、まだ余裕をもって戦える。
『ナ、メル、ナァァァアアア!』
次の瞬間、ウルフリックに塔のがれきや鎧が集まりだす。
それらはウルフリックを中心とした一つの生き物と化し、最終的な巨大なゴーレムと化した。
「おいおいここにきて本気モードってか」
「つまり奴さんも追い詰められているわけだ。このまま一気に仕留めるぞ!」
◆
巨大ゴーレムが拳を振り下ろす。
「うおおぉぉ──っ?!」
マリオはそれを避けて水属性ハンマーの一撃を繰り出す。
が、その巨体で弾かれ、ハンマーが遠くに吹っ飛んでしまう。
「ハンマーが……」
「まずいぞブラザー。この状態じゃ多分サンダーは効かねぇぞ」
「いくら雷が伝わりそうな金属製っぽい見た目だからって、あと一息何かはいるわなぁ。けど水属性ハンマーは向こうに飛んでったし────」
『──っ!』
再び巨大ゴーレムが仕掛けてくる。
今度は地面を薙ぎ払う一撃で、故に二人そろって跳躍させられる。
「────けどよ、予想外の一撃に弱いところは据え置きだろ」
「っ! ブラザー、それって……」
「なんかキャンプ街の露店に転がってたから買ってきた!」
その跳躍の間、マリオは懐から一つの武器を取り出す。
それは、サンシャインやスマブラの時にも使っていたポンプだ。
多分スーパーマントとかと一緒で、知らんうちに異世界トリップしてきたと思われる。
「なんかスマブラと一緒で無口になってやがるが、その機能に変わりはねぇ。水浸しだ!」
そのポンプから一気に大量の水を放ち、巨大ゴーレムに浴びせまくる。
ゴーレムに直接ダメージは入っていない様子だが、しかしこれで状況は変わった。
「今だ!」
「サンダーハンド!」
『っ?!』
ルイージのサンダーハンドが水浸しのゴーレムに突き刺さり、内から光が漏れ出てついには爆発する。
ただでさえ金属は雷に弱いところがあるのに、そこへ水浸しになっているのだ。
そこへルイージの魔力入りの雷が入れば、何かしら普通じゃない反応が起きて爆発の一つもするというわけだ。
『グ、ギ──っ』
「そんでもって、これでしまいだぁぁあああああ!」
『ガ、ァ──?!』
爆発四散した巨大ゴーレムから憑依ウルフリックが飛び出してきて、その着地地点をうまく陣取ったルイージ。
そのまま、容赦なくファイア昇竜拳を憑依ウルフリックにぶち当てた。
◆
『グ、ゴゴ──オノレ、どこまで抵抗する気だ──マモノ、風情が』
「っ! まさか、ウルフリックが……?」
決定打を食らった憑依ウルフリックの肉体が、輝く。
どうやら、ようやっと状況が好転したらしい。
『我々、は……使命がアル。……神と、それに準ずる王族のみに許された、世界超越の力……その力を悪用する、あの『門』の濫用を見過ごすわけにハ……』
「……あの、異世界への門のこと、か?」
『グ、グ、ク──グゥゥァアアアアアアアアアアアア!』
憑依ウルフリックから思念が飛び出し、ウルフリックの肉体がその場に倒れる。
「ウルフリック!」
「おい、大丈夫か!」
「ウ、ウ──お前ラ、ナゼ……」
「さっき言っただろ。このまま星石をかっぱらってとんずらは、気持ち悪いんだ」
「それに、お前さんの部下やキャンプ街の冒険者がお前を助けろってうるさくてなぁ。感謝なら、そいつらにしてやれ」
「…………かたじけなイ」
その後、塔が音を立てて崩れ出す。
なぜ今塔が崩れるかはともかく、こうなるとはなんとなく思っていた。
『なぜ……なぜ崩壊する……。今更経年劣化か? ……魔物どもを追うため、王族の贄を使い世界超越を繰り返した罰だとでも……?』
塔の声が響き渡る。
それと同時に、壁や天井に亀裂が走る。
『……まさか、もはや我らが不要だというのか? まだそこに、魔物がいるというのに?!』
「好き勝手いいやがる。魔物だって、精一杯生きてる奴もいる。……こいつとふもとのキャンプを見れば一目瞭然だろ」
『ふざけるな……。ふざけるなぁぁぁぁぁああああああぁぁ…………!』
塔の思念が絶叫をあげると、いよいよもって壁と天井が落ち始める。
そろそろ危険だ。
「……ブラザー」
「ああ。ウルフリックを連れて脱出だ」
「おーらい」
ともあれ、マリオ達は動じることなくウルフリックを連れて脱出。
今回使った入り口は閉まっておらず、来た道をそのまま戻ることであっさり崩れ行く塔から離脱できた。
「今回の件、感謝スル。……ダガ」
「安心しろ。勘違いなんてしてねぇよ。俺達とお前らは本来敵同士。だから次に決着をつける時までせいぜい元気にしてな」
「フン、お前ラこそ……気を付けることダ。オレの知らないところデ倒れていた、ナド……気持ち悪くて仕方ナイからナ……マリオ、ブラザーズ」
後は、ウルフリックをキャンプ街で待っていた部下達に引き渡して、そのまま別れた。
次こそ、気持ちよく決着をつけると約束をして。
「やってくれたわね、アタシ達の稼ぎ場を……」
「ローランドさん」
「……なんてね。きっとアタシ達が思っていた程、碌な場所じゃなかったんでしょ? 彼らの様子を見てたら、だいたい察しが付くわ」
塔の攻略に赴いていた冒険者達は、自分の稼ぎ場を一つ失ったことを嘆いていた。
が、わりかしすぐ立ち直って次の冒険に向かっていった。
「それじゃあ、機会があればまた会いましょう。アタシも次の冒険が待っているし……それに、ウルフリックにも話をしなきゃいけないしね」
ローランドもまた、それは同様だ。
だが、次の冒険へ向かう際にウルフリックと何かしら約束をするというのがどこか印象的だった。
「ともあれ、これで五つ目の星石を確保ってわけだ」
「後は、あいつに操られていただろうドッスン軍団か。どうせしぶとく生きてるだろうが、なんとかしないとな」
「それについてはスイッチでクッパに報告しといたよ。すぐに奴の軍団が回収するから、俺達はこのまま帰っていいってさ」
ウルフリックを彼の部下達に引き渡し、ローランド達とも別れたマリオブラザーズ。
二人は、今回入手した星石を携えてシン・クッパ城に戻っていく。
まだ、二人の冒険は終わらない。
これからも、やるべきことがあるのだから。
・次章について
→六章は「スーパーペーパーマリオ」を題材としたシナリオです。
→そのため、同作のネタバレがとても激しい内容となりますので予めご了承ください。
→というか、下手すれば「スーパーペーパーマリオ」の内容を知っていること前提っていう節すらあります。