夢を見た。
見たくもない、過去の時の夢だ。
「──ぅ」
かつて、少女は人間だった。
だが、村の掟でとある魔物の生贄になる運命だった。
それ自体はよい。
納得はしていた。
「ぅ──」
だが、いざ生贄として魔物に身をささげた時。
その悲劇が起きた。
「──う」
魔物が暴走した。
あるいは、融合してしまったというべきか。
「うぅ──」
いずれにしろその時から少女は魔物となり、魔の本能に飲まれた。
すなわち、滅びの衝動だ。
その衝動に飲まれ、魔物と化した少女は故郷を滅ぼしてしまった。
「──ぅぅ」
「ぉ────」
そうして、少女の長く苦しい旅が始まった。
どれだけ己の本性を抑えても、滅びの衝動はいずれ噴き出してしまう。
そうして、いくつもの街を滅ぼしてしまう。
──その力を封印するすべを持つ、魔王と出会うまで。
「──きて、────おきて!」
「んぁ……?」
目が覚めると、そこは人間の城だった。
魔物であるこの身を歓迎する、奇特な人間の住む城だ。
「どうしたの、うなされていたけど」
「────なんでも、ない」
────
「うおぉ……やっと、雪の街に着いた」
シオンの襲撃と雪なだれの強襲を凌ぎ切った後。
マリオブラザーズはやっとの思いで、雪の街にたどり着くことができた。
「すげぇな。滅茶苦茶綺麗だ」
「クリスマスでもやってんのかな?」
「異世界だからなぁ……まぁ似たような祭りかもしれないな」
正式名称は「エトワール」。
元来は光の街と呼ばれるが、ほぼ一年中雪に包まれているために「雪の街」という通称で馴染んでいるのだ。
そんな雪の街に入れば、雪をかぶった家々や雪色に輝く石畳みの景色がまず目に入った。
どうやら何らかの祭りなのか、それともただ単にそういう風習があるだけなのか、街頭や家に光を灯すキャンドルが飾られている。
薄暗い夕暮れ時ということも相まって、赤や青、緑色や紫色といったあらゆる色のキャンドルが強く鮮やかに輝いている。
さながら雪国の虹って感じがして、見事に雪の街の景色を彩ってくれている。
「教会の方を見ろ。あれ完全にクリスマスツリーだぞ」
「なんならめっちゃ光の粒子が舞い散ってるぜ。……あそこ、めっちゃ明るくて幻想的だなぁ」
「ピーチ姫を助けてさ、それでもし余裕があったらここに連れて行こうぜ。きっと喜ぶだろうなぁ」
「そうだなぁ。そういう穏やかな旅、この世界でもしてみたいもんだ。そういう機会があるといいけど」
奥の丘にある、大きな城。
街の中心にある、美しい光の粒子に包まれた教会広場。
広場から伸びる大通りに広がる、店や宿の活気と生活感がある照明。
実に、良い景色だった。
「ワ~ルワルワルワル。この街のこと、気に入ってくれたでワールか?」
「うん?」
「誰だ?」
「ワ~ルワルワル。いやはや、珍しい客が来ていると思ってなぁ。……その木箱から漂う気配も含めて、な?」
◆
不思議なことに、食事会に招かれた。
招いてくれたのは、この街の長であるルミエール伯爵だ。
さっき街の中から見上げた城の主でもあり、故にその城に入らせてもらったのだ。
「ワ~ルワルワルワル! 本来なら妻のエマも同席させたいところだが、色々あってな。今夜はヨのみの歓待で容赦してほしいでワール」
「いや、おかまいなく。こうして食べさせてもらえるだけでもありがたい」
「それより、なぜそんな笑い方なの?」
「あまり触れないであげてください。ルミエール伯爵様は、ああして箔をつける癖があるのです」
「アナスタシア。それは言わない約束でワール! ただでさえエマにも「ばかみたい」って笑われているのに!」
そう。
なんとなく誰かを思わせる笑い方をするこの男こそが、この街の長である。
ぶっちゃけ名前からして心当たりしかないし、その妻の名前も名前だ。
なんならメイド長って感じをしているこの女性も、なぜか誰かを思い出す。
「しかし、星石を集める旅でワールか……」
「そうだ。今回は六つ目を取りに来てな。明日、その遺跡に向かう予定だ」
この地方特有の赤いスープや、美味しいじゃがいも料理。
あるいはよくわからんけど色鮮やかなフルーツとかを堪能しつつ、これまでの旅をルミエール伯爵に話す。
ノワール伯爵とは違い、ルミエール伯爵には敵意はない。
彼とは違い世界を滅ぼすなんて考えがないし、妻と幸せな生活を楽しんでいる様子だから、当然というもの。
ぶっちゃけそれっぽい口調をしているだけの、気のいい兄ちゃんだ。
ちょっと事情を話すぐらいはしてもいいだろうと思って、遠慮なく話した。
「なるほど。しかし困ったな。……その遺跡への道は、雪なだれで埋まってしまっている」
「え?」
意外にも有益な情報を貰うこととなった。
ただし、その道がふさがれているという困った情報でもあるが。
「参ったな。何か迂回するルートとかないのか?」
「あるにはあるが……いや待て、今はわが友である「将軍」がいるのだったか。彼ならなんとかなる筈だ。後で取り次いでおくでワール」
だが、思いのほかすぐ解決しそうだった。
「それは有り難いが、いいのか?」
「構わん。楽しい話をしてもらったでワールし、それに星石については思うところもある。君達に役立ててもらえるならそれに越したことはない」
「星石について思うところ……?」
それはそれとしてルミエール伯爵について疑問が増えた。
が、そのタイミングで「キセツのオムレツです」と、メイドに新しい品を出されてそれどころじゃなくなった。
というのもそのメイドがなんでかすごくマネーラにそっくりなのだ。
その姿に、個人的にすごく衝撃を受けてしまったのである。
こちらの名前は確か「ミミ」だったか。
「どうしたでワール? 冷めてしまうぞ?」
「あ、あぁすまねぇ。早速頂こう」
「あむ、と……うまいな、確かに暖かいうちに食べないと損だわ」
◆
食事会が終わると、二人は今夜泊まる部屋に通してもらった。
晩飯だけでなく、今夜泊まるところも提供してくれるというのだから実に太っ腹だ。
だが城の中が迷路みたいになっているのはいただけない。
なんというか、壁や地面の色こそ異なるが暗黒城を思い出してしまった。
あの時と違って次元ワザを使わずに済んだのがせめてもの幸運だ。
覚えたのが昔過ぎて、今はもう使えないのだ。
「おーぅ。いい部屋だな」
「もちろんです。伯爵様が招いたお客様なのですから、最高のおもてなしをするのが礼儀というものです」
「いやほんと、助かったわ」
一方で、通してもらった部屋は実に豪勢だ。
高級感のある赤い絨毯が特徴のリビングはあるし、大きな暖炉があって暖かいし、それとは別に寝室が隣にあるし。
しかもリビングにあるテーブルやソファなどの調度品はどれも高そうで、寝室のベッドはかなりふかふかそうだ。
リビング横のベランダに行けば、色鮮やかに輝く街の景色も見下ろせるし、下手な高級宿よりも快適な部屋と言っていいだろう。
「それでは、朝になればお呼びいたします。おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
「おやすみなさい」
案内してくれたメイド長のアナスタシアが退室すると同時に、ハンマーや木箱などの荷物を下ろしてリラックスする。
ちょうどリビングのソファなんかが、落ち着くのにちょうどよかった。
「やれやれ、思ったよりはスムーズに行きそうで助かったわ」
「いや、そうとは限らんかもよ。シオンの奴がいるからな。後、魔王軍も」
「そうだった……まぁ、なるようになるだろうけどさ」
すでについている暖炉の火とソファのふかふかで一息ついてから、なんとなくベランダに出る。
ひゅうひゅうと吹く夜の風がちょっと寒いが、しかし景色がよいからいい癒しになる。
「それにしても……今日はどうにも、誰かと似ている面子と会うよな」
「ディメーンっぽいシオンに、ノワール伯爵っぽいルミエール伯爵。あと、あからさまにアンナっぽいエマ」
「それからナスタシアっぽいアナスタシアに、マネーラとそっくりなミミ──この調子じゃ、件の将軍はドドンタス似だろうなぁ」
「完全にあの時のメンバーが勢ぞろいじゃねぇか。ここにクッパとピーチ姫がいたら完璧だったな」
そんな美しい光の街の景色を見下ろしながら、思い出す。
基本的には白い建物がどこまでも続いていくが、それを赤や緑・青といった色の光が照らして街を彩っている。
さながら七色の扉が揃うハザマタワーのようで、だからこそ脳裏に響くのだ。
どうにも、ノワール伯爵と戦った時の旅の景色や場面がちらついて仕方なかった。
「……流石に、偶然かなぁ?」
「少なくともドドンタスとマネーラとナスタシアの三人は、今もハザマタウン辺りで元気にしてる筈だからな。多分似ているだけの別人だろ」
「生まれ変わりそのものじゃなくて、所謂因果って奴を受け継いでいるのかもな」
「……ルミエール伯爵とエマも?」
「さぁな……この二人は案外生まれ変わりかも。少なくとも、そう考えたらあの二人に救いがあるかもしれないだろ?」
「確かに。……幸せそうだったもんな、ルミエール伯爵」
だが同時に、どこか嬉しかった。
かつての旅の仲間と、その仲間との恋に生きた純粋な青年。
その二人の末路は、ちょっぴりほろ苦いものだった。
だがその生き写しともいえる程に似ているあの二人は、この地で幸せそうに暮らしている。
それだけで、とても嬉しかったのだ。
認識と解釈は人それぞれです。
上代わちきが認識/解釈する世界は、これでした。