ある日。
雪の街の外に出た。
あの人間が雪山地帯を見渡す丘に案内すると、そう連れ出されたのだ。
正直なところ、やめてほしかった。
丘で周りを見渡すのはともかく、街の外には魔王軍にすら従わぬ危険な魔物がうろついていることが多い。
同じ魔物である身ならともかく、人間である彼女は襲われる危険があるのだ。
「ほら、はやくいこう!」
だのに、人間はどんどん先に言っていく。
だから、そんな人間のお守りをさせられる気分だった。
「きゃあ!」
「全く……下がっておれ」
案の定、魔物が出てきた。
致し方なく、魔物としての力を出して追い払うことになった。
「いっ──!」
「っ! おい、大丈夫か人間!」
問題は、その人間が傷ついたところを見てしまった時に起きた。
傷そのものは、かなり軽いものだ。
つばでもつけとけば治りそうなもの。
だが、魔物の力により巻き添えにしてしまった事実が不味かった。
「違う……違うのだ。わらわは……そんなつもりじゃ」
「……だ、大丈夫? 私は、ちょっとした切り傷で済んでいるわよ?」
「違う! ……違う、ちがう、チガウ…………すまぬ、ゆるしてくれ……!」
謝罪にならない謝罪。
意味がないのだと、後から思えばそうだと気づいた。
だがその時は、そうして己の内にある『もの』を抑えるしかなかった。
「っ! 待って!」
「わらわは……わらわは…………ちがう、わらわは、わらわなのだ……! あの時とは、ちがう……ちがうはずなのだ……!」
魔物とは、破壊を繰り返し、殺戮をまき散らし、略奪で食っていくものだ。
その本能に飲まれるのが、恐ろしかった。
飲まれてしまえば、あの街なんてすぐに吹き飛んでしまう。
そんなこと、やりたくはなかった。
「待って……待ってぇ!」
「来るな! すぐに、街に戻ってその傷を医者に見せろ! ……わらわと一緒にいれば、さらに酷いことになる! そうなる前に!」
「だめ! ……待って!」
強引に、人間に別れる。
これ以上、共に在れば互いに不幸になる。
人間と魔物である以上、そうなるほかない。
故にその場から逃げ出したのだ。
……心のうちで泣き叫ぶ、そんなダレカの声を無視して。
「わらわは……わらわは、ハク! 魔王軍幹部が一、ハクである! ……決して、決してあの化け物などではない!」
────
「なんだありゃ?」
「刀だ……スマブラでセフィロスが使っていた奴と同じ奴だぜブラザー」
「流石にあっちよりは短いが……二振り、か」
魔王軍幹部が一、ハク。
彼女が取り出したのは、二振りの刀だった。
「うおっと!」
「シオンみたいに浮かび上がったかと思えば……」
「……スピードは一級品ってか!」
右手側の刀を水平に構えたかと思うと、残像を残すような勢いで弧を描く斬撃を繰り出してきた。
それを避けることができたのは、殆どカンだ。
しかもすぐ左手の刀で追撃し、そのまま乱舞に繋げる辺り、相応に技量があるらしい。
前回が前回だからわからなかったが、このハクもまた戦士の一員ということなのだろう。
「けど、手札を残しているのはこっちも同じだ。ブラザー、サンダーブロスだ!」
「おう!」
だがこちらには、ルイージがいる。
木箱を背負っていたさっきまでとは違い、彼は今存分に動くことができる。
早速マリオの体を踏み台にして大きくジャンプしながらサンダーハンドを構え、上空から電撃を解き放つ。
「甘いわ!」
そのサンダーに対し、ハクは左手の刀をしまいそこから電撃を放つことで相殺する。
なんとなくわかっていた。
以前の時点で、彼女は炎だけでなく電撃も使っていたのだから。
「これでもか?」
「っ?!」
だからいつかの時と同様、サンダーブロスの連携が終わると同時にハンマーホームランを叩きこむ。
もはや今となっては、新しいアドバンスコマンド連携として定着してしまった。
「っ!」
「よし、いいのが入ったぜ!」
「これで降参してくれると話がはやいんだがな……」
ともあれ、マリオのハンマーを食らったハクはそのまま遺跡の壁まで吹っ飛ぶ。
その際の衝撃で土埃が舞い上がる辺り、大きなダメージとなっていることが見て取れる。
「っ?!」
「っとと! まぁそりゃそうくるわな!」
が、その土埃の中から炎の弾が飛び出してくる。
土埃の中から放っているせいか狙いはまばらだが、顔の横を通り過ぎた時の熱さを考えると威力は馬鹿にならなさそうだ。
「────」
「気をつけろ、あいつ刀に炎を灯しやがった!」
「ウルフリックの術と似てるが……こりゃ面倒くさそうだ!」
それからほぼ時を置かず、その土埃がかきけされる。
するとその中から、二振りの刀に炎を灯すハクの姿があった。
ここから本番なのだろう。
「うぉぉぉ?!」
「一回薙ぎ払っただけでこの広範囲か……!」
地に足をつけ、むんずと踏み込みながら右手の刀を横なぎしてくる。
ただそれだけで、遺跡の大部屋全体を真っ二つにする炎の斬撃が飛び出してきた。
すかさずジャンプで避けたが、これが続くとジリ貧に追い込まれてしまいそうだ。
「炎の刀、ね。男としてはロマンを感じるが……こいつを食らいな!」
「ポンプ! ……なるほど、炎には水か!」
「──っ!」
そうなる前にポンプを構え、刀を燃やし続けるハクの方へ勢いよく水を発射。
その体を拭き飛ばす勢いで放たれた水は、ハクの体を水浸しにしてその炎の勢いを潰していく。
「ルイージ!」
「おうさ……サンダーハンド!」
「っ?!」
そうなれば、サンダーハンドがよく刺さるというもの。
容赦なくルイージのサンダーハンドを、水浸しのハクに叩きつけた。
「さぁ、ファイア昇竜拳ももらっていけ…………え?」
「どうしたルイージ?」
その刹那、ルイージはその場から大きく跳躍してハクと距離をとった。
なんとなくマリオもそれに続いて後方に跳躍し、それからルイージに「何があったんだ?」と問う。
「わからない……けど、なんか嫌な予感がしてな」
「嫌な予感? ハクとやらの何が──む?」
「……ぅ……」
なんとなく、戦闘どころではなくなった感じがする。
というのも、ハクが妙に苦しみ始めたのだ。
どうやらサンダーハンドのダメージによる苦しみではなさそうだ。
「ぬ、ぅ……なぜ、ここにきて……? ……まさか、あの時のことがわらわの心に残っているとでも……?!」
「お、おい……大丈夫かよ?」
「来るな! ……違う、わらわはこの力など望んでいない! わらわは、わらわはぁ……!」
「まずいぞブラザー!」
ハクの身から、赤く禍々しい妖気があふれ出す。
それと同時に、そのハク自身の身が『何か』変わりだす。
「よせ……やめろ……! わらわは星石さえ入手できればよいのじゃ! ……こんな、こんなことなど…………!」
「撤退だ。星石は入手したし……あの赤いもやもやのせいか、遺跡が崩れ出してる」
「オーケーだ。早速下がろう」
「う、ぉ…………ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
◆
遺跡の外に出る。
それと同時に遺跡の入り口が崩れ落ち、間一髪のところで生還できた事実を突きつけられる。
「無事かルイージ」
「ああ。とりあえずは大丈夫だ」
「じゃあ問題は、ハクの奴か……」
その次の瞬間、崩れた遺跡が上空に吹き飛ぶ。
轟音を伴うそれは、しかし舞い上がった雪の中に隠れている。
「おい、あれ……」
「まさか、ハク?!」
雪が晴れると、そこには山をも見下ろす巨大な化け物がいた。
どこか禍々しい白い毛並み。
赤い魔力が氾濫する悍ましい瞳。
そして、どこまでもどこまでも分裂する尾。
知る者がいれば、その姿に絶望を見るだろう。
『白面の獣』
すなわちは、東の国を滅ぼした大妖怪。
彼女こそ、その成れの果てである。
「お、おい嘘だろ……」
「でかすぎる……流石にこれと正面切っては無理だ!」
「くそ、逃げるしかねぇのか?」
その姿を見たマリオブラザーズは、即座に戦闘という選択を放棄した。
これは流石に、何の対策もなしに倒せる相手ではない。
「ちくしょう、今までこれを隠してやがったのか……!」
「使えるなら最初っから使って──いや、さっきの様子を見る限り──そういうのは酷か」
「あいつにも、あいつなりの都合があるってわけか……」
さっきの雰囲気から察するに、これは本意の力ではないのだろう。
が、その脅威は変わらない。
このままでは、あっさり潰されてしまう。
「いや、待て……あいつ、俺達の方を見てないぞ?」
「んあ? こんな目の前にいるのに、か? まさか気づいていない?」
だが、白面の獣はマリオブラザーズを眼中に入れていない。
それどころか、明後日の方向に動き出した。
「まさか……街に向かってる……?」
白面の獣が向かう方を見やれば、そこに街の城壁があった。
その街は、ルミエール伯爵の街。
ついさっきまで、世話になった街だ。
その街へ、白面の獣が向かっているのだ。
なんでかはわからないが、その事実だけは確実だった。
「ふざけるな!!!」
気が付けば、叫んでいた。
目的の星石を入手したかどうかなんて関係ない。
それがハクの本意だろうが不本意だろうが関係ない。
「冗談じゃねぇぞ……! あそこを、あの街を……あの二人の幸せを、壊すつもりかよ!!!」
あの街が、あの城が、あの二人が。
悲劇に飲まれてしまうところなんて、見たくない。
なんとしてでも、その殺戮だけは避けなければならないのだ。
「せめて……せめて、街の人達とあの二人だけは護るぞ!」
「ああ! 絶対に、あの化け物の好きにさせてたまるか!」