白面の獣。
ハクが暴走した末に、変異する形で顕現した怪物。
それの向かう先は、マリオブラザーズではなく雪の街だ。
「ヌ? お前らどうしたのだ?」
「将軍か……悪いが話している場合じゃねぇ! 伯爵はどこだ? 化け物が街に迫っている!」
「化け物とは、あの遠くにいるあれのことか……伯爵は城の方だ。住民達を城に集めておる」
「城で守り切れるような奴じゃねぇぞ……多分、その城まで全部壊しかねない!」
「……いずれにしろ、キサマらは城に迎え! その方が話が早そうだ」
「恩に着る!」
白面の獣は、山に阻まれ──あるいは頭を抱え苦しむような様子を見せて──思うように進んでいない。
その間に、ブレワイ式上昇気流とスーパーマントで一気に先回りして街に戻った。
その道中で、白面の足止め作戦の準備に追われていた将軍に「伯爵は城にいる」と教えられ、即座に城へ向かう。
「とりあえず、城に着いたらどうするんだ?」
「さっき将軍にも言ったが、あの化け物が城一つで対抗できるとは思えねぇ……むしろ城を囮にして、一人でも逃がす方がいいと俺はみる」
「やるせねぇ…………あれが、魔物って存在なのか」
あまり思い出したくないのだが、いつかどこかで誰かが叫んでいた魔の本能のことを思い出す。
その化身として相応しい形の一つが、きっとあれだ。
やはり、その本質は災厄のそれに等しいのだろう。
「如何にウルフリックの奴が強いのかよくわかるぜ……ありゃ、本気で不味い!」
「とにかく、とにかく伯爵だ! 伯爵を説得して、みんなで────」
「っ! ──避けろルイージ!」
狐の重い鳴き声がとどろく中、なんとか高台の広場に至る。
「祝福の鐘」という大きな鐘のチャペルがあるこの広場は、もうすぐそこに城があるという目印でもある。
そこに、トラップがあった。
「うおっと!」
ルイージが跳躍した途端、その地面に四角形の結界が展開される。
それはガラスのような質量を伴い、結界の内にあるものを閉じ込めるオリとして機能する。
結界のオリに閉じ込められた犠牲者は、爆発によるダメージを避けられない。
それは、ディメーンの技だ。
「やっぱり、お前か。ディメーンもどき──いや、シオン!」
◆
シオン。
この雪山地帯に入ってから、妙にこちらへ突っかかってくる自称次元魔法使い。
前回は六つ目の星石がある遺跡の前で襲われ、最終的にはハンマーでこの街の方に吹っ飛ばして終わった。
だからこいつがこの街にいること自体は、まぁ納得できる。
「何のつもりだ。今は、鍵やら勇者やら言っている場合じゃねぇぞ」
わからないのは街が存続の危機にあるほどの緊急事態の中で、何をしようとしているのか。
今までの言動で、こいつの目的がルイージが背負っていた鍵にあったことは推測できる。
その推測が当たっているかどうかはともかく、何らかの執着をしていたことは間違いない。
その過程で敵対していたわけだから、敵意があること自体はわからなくもない。
問題は、その敵意がこの緊急事態という現実を超えるほどのものか否かだ。
「状況はわかっているさ。……あれ、魔王軍の怪物なんだろ」
意外にも、シオンは状況そのものは冷静に把握しているらしい。
「知っているのか?」
むしろ、魔王軍云々のことまでわかっているとは思わなかった。
思わず目を丸くする。
「知ってるさ。魔物っていうのはなりふり構わず全部壊してくる怪物で、だから勇者は魔物を滅ぼす」
「それがわかってるなら──」
「──でも、ボクは納得できない」
「んあ?」
けれども、それとこれとは話が違うらしい。
まだ彼の仮面からは、強い敵意があふれ出ている。
「納得できないんだ! ……だからぁ!!!」
「くそ、また戦うしかねぇってか!」
その敵意は緑と紫が入り混じる魔力となって具現化し、周囲に充満していく。
雪と光の街が、幻想と次元の神殿へと至る。
それはさながら夢の中の世界のようで。
しかし、シオンの魔術を支えるフィールドになることに違いなかった。
どうやら、シオンとの戦いに決着をつけるほかないようだ。
「我が名は、ディマンシオン! 時空を超越する者なり!」
◆
シオンの両手に、電撃の弾が生成される。
だがそれは、今までとは異なる性質を持っていた。
「なんだ、ありゃ?」
「っ! 離れろ! 紙一重じゃやられる!」
それは、電気属性の爆弾だ。
シオンがそれを投げ、マリオブラザーズに程よく近づいたところで爆発するスパークボム。
故に直感でその性質に気づいたマリオ達、今までの電撃弾の時よりも大げさに距離をとってその一撃を避ける。
「おらぁ!」
「っ! 生憎ハンマーはないが、だからって攻撃を防げねぇわけじゃないぞ!」
そのスパークボムの陰からシオンが現れ、ルイージに電撃の刃を叩きこんでくる。
が、ルイージはうまくシオンの手元を掴む形で電撃の刃を受け止める。
「そんでもってハンマー!」
『────』
「……ってのは、やっぱり効かねぇか」
ルイージに掴まれて拘束されているシオンの背をハンマーで叩く。
が、やはりというべきかそのシオンはただの分身であり、見事にその一撃を避けられる形となる。
「また分身か」
「けど、今までより数が多いぞ……!」
「五、十、二十……まだ増えるのか」
シオンの分身がかき消えると同時に、上空にシオンの分身が次々と現れていく。
その数は、緑と紫に染まる空を覆いつくすようなほどのものだ。
とどのつまり、今回はこの大量分身を攻略することになる。
「ってことは……」
「……弾幕も倍増か!」
とにかく分身のシオンは、大量の電撃弾を繰り出してくる。
分身シオンの厄介なところは、分身そのものには本物と偽物の概念があるくせに、なぜか攻撃は全部本物だという点だ。
だから激増した分身の数に比例して、捌かなければならない電撃弾の数も激増する。
「流石にマントじゃ凌げねぇか……!」
「けど、どうするんだ?」
「あんまりやりたかねぇが、ハンマーだ!」
故に今回はハンマーを使ってリフレクトガードする。
要するにどこぞのDLC第二弾キャラが言ってた要領でハンマーを回し、回る柄の部分で電撃弾を次々と防いでいくのだ。
「けど、それ。跳ね返した球を相手に当てられねぇよな……」
「仕方ねぇさ……だがこのまま凌げば、そろそろ動きが出てくる筈だ」
「なるほど、相手を焦らす作戦か……!」
そうしていると、早速シオンの分身体たちが直接電撃の刃を振るってくる。
「悪いが、てめぇらの相手は俺だ!」
『っ?!』
その分身体達を、ルイージの地獄突きやチョップによって消していく。
「全部分身で、本体はいないか……!」
「この感じ……本物は上空で高みの見物を決め込んでやがるな」
「合理的っちゃ合理的だが、ずりー奴だ……!」
前回の戦いでなんとなく本物を見分けられるようになったマリオは、近づいてくるシオン達の中に本物の『風』がないことを悟る。
それと同時に、攻撃が届かない上空で電撃弾を撃つだけに徹しているシオンが一体だけいることに気づく。
その個体が、きっと本物だ。
「いや、それならそれで方法がある」
「……ブラザー?」
「ルイージ、ファイアボールをあいつに撃ってくれ!」
「おう!」
その個体に対して、ルイージのファイアボールが飛翔する。
「──!」
やはりというか、その個体はバリアを張ってファイアボールを防ぐ。
これで上空個体が本物であることは確実視してよさそうだ。
「おらぁ!」
「っ?!」
すかさず、ファイアボールがバリアと衝突する陰に合わせて懐のミドリコウラを蹴り飛ばす。
だいぶ前にルドラに対して使った時以来の切り札だ。
威力こそ通常の蹴りと同程度だが、しかし不意を突いたことが功を奏したのかシオンのバリアにヒビが入った。
術者の精神力で強度が変わるか、あるいは物理攻撃には弱いタイプのバリアと見た。
「二つ目ぇ!」
「ぐっ?!」
続けて、上空にまで跳躍したルイージのキックで、戻ってきたミドリコウラが再びシオンのバリアに衝突。
その衝撃で今度こそバリアが破壊され、シオンもまた地面にまで叩きつけられる。
「これで、終わりだぁああ!」
再びマリオのもとにまで戻ってきたミドリコウラ。
それを見据えて構えたハンマーに、炎の力を灯して炎属性の力を強化。
その強化ハンマーでミドリコウラを撃ち飛ばし、シオンの方へ叩きつける。
「っ、ぐぅぅぅうううう! ま、まだだ……!」
シオンは電撃の刃を構え、燃え上がるミドリコウラとつばぜり合いを演じる。
このままじゃ、押し切れそうにない。
「いいや、こいつで今度こそ終わりだ」
「っ、しまっ──?!」
だが、今はルイージがいる。
炎に包まれるミドリコウラで動けないシオンの背を陣取ったルイージが、決め手をかける。
「ファイア昇竜拳!!!」
◆
「う、ぉぉおおおおぉ……?!」
「……やったか?」
「フラグかよ……っていいたいが、今回はまともに入った。そう考えて良いぜ」
宙を舞い、そのまま地面に沈むシオン。
もう戦う気力はなさそうだ。
「……やっぱり、塔を壊した者は一味違うね…………」
「お前……わかっていたのか」
前回の冒険で、勇者の塔が崩壊したことを思い出す。
塔の思念は経年劣化だのなんだの言っていたが、はた目からすればそう見えるかもしれない。
「気づく奴は、誰だって気づくさ……ボクは、ずっとあの塔を追っていたんだから」
「だから、俺達に突っかかっていたのか」
いずれにしろ塔が崩壊するその場にいたことが、シオンが放つ敵意の大きな原因だったらしい。
「……本当は、さ。ボクが壊すつもりだったんだ。……『勇者』なんて、ろくでもない。そんなの必要ないって、直接叩きつけるつもりだったんだ…………!」
勇者の塔。
それこそが、シオンの動機だった。
「シオン……」
「っ! ルミエール伯爵!」
ルミエール伯爵が広場に現れる。
流石にあれだけの騒ぎを起こせば、気づくというものか。
「ルミエール、兄さん……」
「兄さん? あんたら、兄弟なのか?」
「血こそ繋がらないがな。だとしても、この絆は偽物ではないのだ」
だがそれよりも驚きなのは、二人が知り合い同士という点。
どうやら兄弟分のような関係らしい。
「気づいているだろうシオン。彼らこそが、我が父やおじさんの意思を継いだものだ。だからこそ、ワタシは彼らをあの遺跡への道に導いた」
「あいつらが父さんたちに何をしたのかわかってるのか! 勇者だなんて体のいい言い訳だ! その実態は、あいつらの都合のいい────」
「生贄、だろう」
「──ルミエール、兄さん?」
それどころか、相当に深い事情がある様子だ。
そのあまりの雰囲気で、マリオブラザーズは話に介入できなくなってしまった。
「わかっていたよ。あの日、あの時。ワタシやシオンの父がもう二度と帰ってこないことを。彼らも、承知の上だった」
「なら、なんで行かせた! なんで、勇者の塔へなんかに行かせたんだよぉ……」
「おじさんは……キミの父は、未来を望んでいた」
「……未来?」
「そうだ。……この街を生かし、ここの民を生かし、ワタシやキミを生かし、そして未来を護ったんだ」
「だからって。父さぁん……!」
ルミエール伯爵の言葉で、シオンがその場で泣き崩れる。
どうにも、その姿がディメーンのそれから剥離していく感じがする。
「そして今。ワタシは護らなければならない。わが父達が護ったこの街を、わが父達の敵の一員であろうあの魔物から」
「…………」
「だからシオン。力を貸してくれ。キミの力がいる」
その場にうずくまるシオンに、ルミエール伯爵が手を差し伸べる。
「…………。馬鹿だよ、ルミエール兄さん」
◆
「シオン?! 待て──」
ルミエール伯爵が、次元魔法の中に入り込む。
そこの空間に波紋だけが広がって、そうしてルミエール伯爵はどこかに消えていった。
「お、おい! お前!」
「安心しなよ。ボクお手製の次元空間──あえて言うならディメーンワールド──に飛ばしただけさ」
「ディメーン……?」
さっき剥離していた筈のディメーンの面影が、より不気味な形で戻ってきた。
正直、こいつのことが読めない。
「いや、ルミエール兄さんだけじゃない。何やら城の方が騒がしかったから、ついでに彼女も送っておいたよ。その方が兄さんも嬉しいだろう?」
「まさか、伯爵の妻だっていうエマも?」
「おい、お前。……何をやるつもりだ」
風がその場を通り過ぎる。
いっそ息苦しいほどに冷たく、雪を舞い上げるほどに強く。
「────君達。名前は?」
「……マリオ」
「ルイージ」
しれっとシオンの傷が元通りになってやがる。
魔法使いというのが嘘でなければ、あるいは治癒魔術にも通じているのかもしれない。
だとしたら実に厄介だ。
「……マリオ、ルイージ。まずは、今までの非礼を詫びよう。すまなかった」
「え」
とかなんとか思ってたら、シオンは頭を下げてきた。
目が点になった。
「ど、どうしたんだ? いきなり態度を変えて……」
「ボクは『納得』が欲しかった。もうすでに復讐が終わったという実感が欲しかったんだ」
「……復讐?」
「父さんを奪った勇者──あの忌々しい塔に対しての復讐さ。ボクの父さんは、魔物から世界を護るために『勇者』となり、塔の駒になったんだ」
さきほど遺跡の中で見つけた鎧を思い出す。
塔の駒とは、そういうことなのだろう。
「ボクはそれが許せなかった。一度は『勇者』が護ったこの世界を父さんに捧げることすら考えた」
「それは……」
父を奪われたシオンは、きっといつかノワール伯爵がやろうとしていたことと同じことをしようと考えたのだろう。
その言葉は、どこか危ういものを孕んでいた。
「でも、それを実行に移すには『しがらみ』が多すぎた」
こいつは妙にディメーンの面影がある。
ともすれば、かつてのノワール伯爵にも通ずるところすら感じられる。
だが、シオンとディメーン・ノワール伯爵とは決定的な違いがある。
その一端がさっきのルミエール伯爵との会話であり、今のこの状況そのものだろう。
「……それに、今にして思えば──ボクのやろうとしていたことは、ただのわがままでしかなかったんだ」
「シオン……」
シオンがその場で頭を下げた。
もうそこに、先程までの敵意は見受けられなかった。
「そのうえで。図々しいだろうが、頼みたい。……ボクと一緒に、街を護ってほしい。あの化け物から」
街の外を見やる。
怪物になり果てたハクが、もう街のすぐそこにまで迫ってきていた。
「じゃあ、さっき伯爵を魔法で飛ばしたのは……」
「ただの保険だよ。万が一ボクが仕損じてしまった場合……せめて、あの二人だけは生き延びていてほしいんだ」
「お前……」
「それに、ね。……兄さんはさ。ずっと探していたんだ──運命の人って奴。ただでさえ貴族の公務のせいで少なくなっていた自分の時間や寿命を、さらに削って」
「……」
「だから少しでも、二人にしてあげたい。これが酷いエゴなのはわかっているけど……でも、あの化け物に兄さんの時間と寿命を一秒でも使わせたくない」
ルミエール伯爵やエマを別次元に飛ばしたのは、あの白面の獣から二人を護るため。
そのためだけに、シオンは次元魔法を行使したのだ。
「そして。──さらにボクのエゴとわがままがまだ許されるなら。やっぱりこの街と皆も護って見せたい。……父さんが護った、この街を」
そのうえでこの街を護りたいと宣うのだから、とんだ強欲野郎だ。
やるべきこととやれることとやりたいことが、どうにも一致していない。
「──」
だけど、それを指摘するのはきっと酷だ。
そしてなにより、それはマリオブラザーズの役目ではない。
少なくとも、あの二人を無理やりにでも安全な場所に移そうとしていたのは、こちらも同じなのだから。
状況が許すのであればこの街を護りたいという意思も、だ。
「……わかった。とりあえず今までのことは水に流す」
「けど、具体的にどうする? 正直俺達は伯爵を説得して住民を街の外に避難させてもらおうとしただけで、あいつを倒す策はないぞ」
視点を現実に戻す。
とにかく、まずはあの怪物に対して何かしら対応せねばなるまい。
「ルミエール兄さんもああ見えて頑固で極端なところがある。特にこの状況じゃどういう話だろうと説得は難しいと思う。エマ姉さんのケガさえなければ話は違ったんだろうけどね……」
知っている。
というか、そういうところはノワール伯爵と一緒なんだな。
マリオ達は声には出さなかったが、内心同意する。
この状況でシオンがルミエール伯爵を別次元に飛ばしたのは、おそらくそういう側面もあるのかもしれない。
エマのケガとやらが気がかりだが、今は気にしている余裕はない。
「となると、今から街の人達を物理的に避難させるってのはきついか……?」
「じゃあいっそのこと街の人達全員伯爵のところに送るのはどうだ?」
「ごめん。……そこまでの力は、ボクにはない」
「おいおい──ってことは、マジであれを何とかしないといけねぇのかよ……?!」
だが状況は変わらない。
むしろ避難が現実的ではないことを突き付けられたことを考えると、むしろ悪化しているのかもしれない。
「いや、あいつを倒す方の策ならある。とびっきりの切り札が。ルイージ……君のその体に」
「……俺? ブラザーじゃなくて?」
すると、シオンがルイージの方を見やる。
「そうだ。むしろ君じゃないとだめだ。君だからこそ、絶大なエネルギーの器として機能する。……多分、一度きりだけどね」
「一度切り?」
「それが俺の体に……いったいどういう──?」
マリオブラザーズの疑問をよそに、シオンは顔を隠していた仮面を脱ぐ。
すると驚くべきことに、とてもきれいで可憐な『少女』の顔が仮面の中から飛び出してきた。
「え?! お前、おんなの────っ?!」
だがそれ以上の驚きが、ルイージを襲う。
少女の素顔を晒したシオンが、ルイージの体に近づいたかと思うとがばっと抱き着いて──
「な、ななななななな?! 何を──?!」
「いやまてルイージ! お前、体が!」
「え、あ、え? これは……?」
かと思えば、ルイージの体が輝きだして、その輝きの内から灰色の波動を放つハートが現れた。
それを見た瞬間、マリオはピンときた。
なぜならそれは、かつてノワール伯爵やディメーンとの戦いの時、嫌というほどその存在感を示して苦しませてきたものだからだ。
「『コントンのラブパワー』。かつてボクのご先祖が振るおうとした邪悪な力」
そのおぞましい波動を放つものの名は、コントンのラブパワー。
世界を、滅びに追い込む破滅を望む者の力。
それが、なぜここにあるのか。
そして、それ以上に驚きだったのが──
「ご先祖って、まさかディメーン?! あいつまで異世界トリップしてきたのか!」
シオン。
どことなくディメーンっぽい彼──ではなく彼女だったが、どうやらまさかそのディメーンの子孫であるらしい。
そりゃ、ディメーンっぽい技を使うわけだ。
「とっくの昔に大往生したけどね。当初こそろくでもない野望を秘めて色々してたみたいだけど。途中で阻まれたか、あるいは改心して諦めたか」
「あいつが……?」
暗黒城の一件で完全に消滅したかと思っていたが、運命のいたずらなのかこの世界に逃げ延びていたらしい。
それも驚きだが、この世界にトリップした後なんの悪事も為さなかった風なのも大概驚きだ。
無論その過程には並々ならぬ何かがあったような雰囲気だが、それを気にしていられる余裕はあんまりなさそうだ。
「ともかく、その際にご先祖は一冊の魔導書を残した。……主に、この世界に来る前に使っていたコントンのラブパワーについてのものだ」
重要なのは、シオンはディメーンの持つ知識を受け継いでいたという点。
「だからはじめてルイージのことを見た時は驚いたよ。この魔導書の中のミドリのオトコと全く同じ姿をしていたから……いや、それどころかまさかのご本人だ」
『……っ…………!』
「本当に、すごい。……こんなことなら強引に肉体だけ確保するだなんて考えず、最初から素直に頼ればよかった…………!」
「なぁおい、ルイージは今どうなってんだ?! いったい、何をしたんだ?」
「彼はコントンのラブパワーの器としてご先祖に利用され、だからこそその残滓が残っていた。ボクは、それを刺激しただけだ」
故に彼女はルイージこそがコントンのラブパワーの器であることを把握しており、そしてその残りかすがルイージの中に残っていたことを見抜いていた。
『ルイルイルイー!』
ルイージと、コントンのラブパワーが融合する。
その果てに至るは、巨大なルイージの頭とディメーンの胴体を組み合わせたような姿の怪物だ。
かつては『スーパーディメーン』と呼称されたものである。
「お、おい。これ暴走してんじゃないのか?」
「大丈夫」
『ルイルイルイルイルイル──イ?!』
シオンが飛び上がってスーパーディメーンと化したルイージと合体する。
その様子は、かつてディメーンがルイージの体を乗っ取った時とよく酷似している。
だが実際に彼女とルイージが合体してみると、ルイージの暴走が治まった。
「大丈夫かルイージ!」
『……ア、ああ。さっきまで苦しかったが、今は何とか動ける』
『コントンのラブパワーのせいだ。……けど、ボクが制御すれば暴走の危険はない』
ディメーンと同じ合体ではあれど、その本質は真逆のものらしい。
たちどころに、ルイージの意思が戻ってきた。
今ではもうスーパーディメーンと化したその体を自由に使えるらしい。
『それといい情報がもう一つ。一時的ではあるが、今のルイージには巨大化の恩恵だけでなくコントンのラブパワーの護りがある。その力があれば──』
「──あの化け物と、直接戦える!」
それはつまり、今回はあのスーパーディメーンの力とコントンのラブパワーが味方だということ。
かつてこれでもかと苦しめられてきただけに、とても頼もしい助っ人だった。
『──ブラザー!』
巨大化ルイージが、その場に大量の足場を展開する。
いつかの時にも見た、ディメーンの顔がついた動く足場だ。
それを見たマリオは、すぐその足場に飛び乗っていって上空を陣取る。
『ギャァァアアアアアアア!!!!!』
「ここからならよく見える……あの化け物が、いよいよ街に近づいてきているぜ!」
マリオが見据えるは、街の目前にまで迫る白面の獣。
そして、安全のためすぐ街の外に出て、迫る白面の獣の前に立ちふさがる巨大化ルイージの姿だ。
『今なら、まだ間に合う。絶対に、街を護るよ!』
『ああ──サイコーのショーを、あの化け物に見せてやるぜ!』